君がカードを引いたなら   作:七紫ノごんべえ

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共通ルート 四

 ショップ大会に参加してから数日。

 部活動も本格的に始まり、先輩方との交流も深まり始めていた。

 この学校はそんなにアビカに力を入れている訳でもなく、顧問もあまりアビカをやっていたわけでは無いらしい。

 

 本人曰く、あくまで生徒の自主性を尊重しているとのことだったが、実態は幽霊部員ならぬ幽霊顧問と化していた。

 

 結局、部活には白栞より強い先輩はもちろん、ある程度やりあえるような人も居なかった。

 おそらく、白栞がちゃんと本気で相手をできるのは千夏くらいなものだろう。

 その結果……。

 

「久遠さん! ぜひ横でアドバイスを……!」

「いや、こっちを先に見てください! もう選抜戦が近くて……!」

「燎さんお願い! 練習付き合って!」

 

 先輩方が白栞と千夏に教えを乞う状況になってしまった。

 これは部活動としてどうなんだ? 

 

「白栞ちゃんも千夏ちゃんもすごいね」

「まあ、あの二人はなぁ……そりゃこうなるか」

 

 かく言う桂木さんも、信じられない成長曲線を描いている。

 復帰してからわずか十日程度で、既に部内でも半分くらいの人に勝っていた。

 

 流石にまだ白栞と千夏に勝ったことはないが、時折ハッとするプレイングを見せるらしく、白栞をしても今後が楽しみだと言わしめる逸材のようだ。

 ちなみに俺はつい三日前に桂木さんに負けていたりする。

 

 ……まだ勝ち越してるからセーフだ。

 

「すんません先輩方、アタシはちょっと桂木とやりたいっす」

 と、千夏は先輩方の誘いを断ってこっちに来た。

 千夏も最近は桂木さんとのバトルが楽しくなってきているようだ。

 

「千夏ちゃん、忙しいのにありがとう。今日はバッチリ千夏ちゃん対策もしてきたよ!」

「へえ、そりゃ楽しみだ。でも特定の相手だけ対策したデッキじゃ、他のヤツと戦った時に辛いぞ?」

「気をつけるよ。でも今回は、どこまで対策カードを削れるかの実験がしたいって感じかな」

 

 桂木さんはかなり論理的にデッキ構築やプレイングをしている印象だ。デッキの中身も毎日少しずつ変わっている。

 トライ&エラーを繰り返して、着実に成長するタイプだ。こういう人は大抵、アビカが強くなる。

 

 

 その後、千夏と桂木さんで何戦かやったが、結局千夏の全勝で終わった。と言っても、最後の試合はかなり惜しかったのだが。

「うあー、負けちゃった……。ありがとうございました」

 桂木さんが千夏対策で採用したカードを活用しようとしていたが、千夏もそこは流石で、上手く捌いて立ち回っていた。

 

 ただ、桂木さんはその後のプレイングが上手かった。

 対策カードが想定通りには機能しないと悟ると、それを囮に本命プランを通しにいくなど、とても復帰明けの初心者とは思えないプレイングを見せたのだ。

 結果としては、千夏が序盤から積極的に桂木さんのライフを削りにいっていたため、ギリギリで間に合わなかったが……。

 

「今のは自信あったんだけど……千夏ちゃんから見てどうだった?」

「……」

 桂木さんが問いかけるが、千夏から返事がない。

 

 ふと千夏を見ると、何やらノートにペンを走らせていた。

「千夏ちゃん? 千夏ちゃーん!」

「ん、ああ。ワリい、ちょっと今の対戦内容をメモってた」

 

 千夏は、対戦後やふとした時にメモをとる癖がある。どうやら試合内容の振り返りを都度纏めているらしい。

 時間があればその内容を検証して、構築やプレイに反映させ続けるなど、とにかく強くなるための熱量が尋常じゃない。

 正直、ここまで打ち込めるのは尊敬している。なんか恥ずかしいから、絶対言わないけど。

 

「えーっと……今の試合だよな? 五ターン目に対策カード見せてプレッシャーかけにいったのはかなり良かったと思うぜ。アタシが捌けなければテンポは完全に取れてたし、そこにリソースを割いた相手に対して本命を叩きつける流れはよかった。ただ、四ターン目までにあと二点はライフが残ってないと間に合わないから……」

 

 聞いてて思うが、千夏は戦況の分析が上手い。勝因や敗因を的確に理解し、それを学び続けることができている。

 

 これもアビカで強くなるのに必要な素養の一つだと思うが、勉強にも活かせばもうちょっと成績は上がるんじゃないだろうか。

 

「お前、今失礼なこと考えたろ」

「いや? 全然?」

 

 

 その後は俺も先輩方と対戦したり、白栞のアプローチを回避したり、秘蔵の新コンボデッキが全く回らずに桂木さんに連敗したりしていた。

 まだギリ勝ち越している。だから大丈夫だ……。

 

「結翔くん、白栞ちゃんがすごく暇そうだよ?」

 対戦が終わり、次の準備をしている桂木さんに言われて見ると、白栞はアビカをせずにスマホで動画を見ているようだった。

「まあ、ここで白栞が得るものも無いんだろ。残念ながら俺じゃ相手になれないしな」

「私はいつでも結翔とバトルしたいんだけど⁉」

 気持ちは嬉しいが、俺じゃ白栞を満たすようなバトルはできない。本人は気にしなくても、こっちが気になってしまう。

 白栞が強くなるためには、レベルの近い相手が必要なのだが……。

 

「千夏ちゃんだったら、白栞ちゃんと良い勝負ができるんじゃない?」

 

 この部内で白栞の次に強いのは間違いなく千夏だ。それは誰が見ても明らかだし、当然そういった意見が出るのも分かっていた。

 だが、この二人はもう七年近くアビカで戦ってない。

 

 その理由は、詳しい所までは俺には分からない。毎日三人で変わるがわるに対戦していたのが、ある日を境にピタリと無くなった。

 

 当然俺としては気になったので聞いたことはある。だが、二人にどれだけ聞いたところで、その理由は答えてくれなかった。

 

「そうだよ千夏ー。そろそろ私と戦ってくれてもいいんじゃない?」

「はいはい、そのうちな。あとバトル中に話しかけんなよ」

 別に、二人の仲が悪くなったという事もない。

 こうして軽口を叩いて笑い合う仲だし、アビカ以外の事なら一緒に遊んだり競ったりする事がある。

 

 二人の実力には、そんなに大きな差はないんじゃないかと個人的に思う。

 もし今、白栞と千夏が戦ったらどうなるのだろう。

 そんな妄想は何の意味も無いと分かっていても、考えずにはいられなかった。

 

 

「さて、最終下校時刻三十分前だ! 各自現在行っているバトルを最後にして遅れないように!」

 部長の一声で、少しずつ片付けが始まる。

 

 そんな中でも千夏はノートにメモと取り続けていた。

「千夏、そろそろ下校だぞ」

「……ん、サンキュー結翔。もうそんな時間かよ」

 声をかけると、千夏も片付けを始めた。

 

「千夏ちゃんは本当に集中力がすごいねー」

「集中しすぎて電車を乗り過ごしたり、電柱にぶつかるのは勘弁してほしいけどな」

「何それ、可愛い」

 可愛いのか? 女子の感性はどうにも分からないが……。

 まあ、客観的に見て、見た目は可愛いとは思うが。多分そういうことじゃないんだろうな。

 

 

 ──千夏side──

 

 部活を終えて自宅に戻ると、今日書いたノートを取り出す。

 簡単なメモは書いているが、忘れないうちに清書したいのだ。

 

「六試合目の部長とのバトル、結果的にミスは無かったと思うけど……ミッドレンジタイプのデッキとの対戦を想定してない構築だとこの環境は厳しそうだな。勝つためには、四ターン目までに七点のダメージを与えている必要がある。てことは……」

 

 ノートを頼りに、今日あった試合を振り返る。

 毎日何十戦もやる以上、全てを覚えておくのは不可能だ。その場でのメモにも限度がある。

 だから、家に帰ったらこうして新しいノートに試合展開をまとめ直し、過程から検討するようにしている。

 

「八試合目の桂木は……正直ちょっとやばかったよな」

 とても初心者とは思えないプレイングだ。飲み込みが早いと言っても、ここまでの速度で伸びるとは。

「負けてらんねーな」

 アタシにできるのは沢山バトルをして、良いところも悪いところも振り返って、改善していくことだけだ。

 

 それを続ければ、いつかは。

 

「……っと、これで今日のバトルは全部まとまったかな」

 小さく息をついてからノートを閉じる。そういや、メモに使ってるノートはもういっぱいになってたっけ。新しいノートと入れ替えておかなきゃな。

 クローゼットから新品のノートを取り出し、古いノートをしまう。もう何冊目になっているのか、積み上がっているノートを数えたことはないが、平積みの山がいくつも出来上がっている。

 

 場所は取るし、管理の面でも読み返す時でも、きっと電子でメモしてた方が楽だろうとは思う。

 あんまりデジタルに得意じゃないというのもあるが……この積みあがったノートが、アタシの努力を可視化できているようで安心できるのだ。

 だからアタシは、今日もノートに書き留める。

 

「……いつかきっと、戦ってやるさ」

 

 今はまだ、きっと届いていない。まだ、アタシのプライドも、大事なものも取り返せないだろう。

 それでも、努力が才能を凌駕できる日が来ると信じてる。

 

 この積み上げられた経験の山が、あいつに届く足場になったその日こそ。

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