君がカードを引いたなら   作:七紫ノごんべえ

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共通ルート 五

 

 今日も今日とて部活に勤しむ俺たちだが、連戦続きで疲れてきた。

 今は白栞と千夏、桂木さんと部室の隅で休憩中だ。

 雑談に興じていたが、桂木さんがふと

「みんなはいつからアビカをやってたの?」

 なんて、何気なく俺たちに聞いてきた。

 

 正直、当時のことは思い出したくないのだが……。

 

「十年前とかだよね、多分」

「まあ、それぐらいになるな……」

 

 そもそも、このメンバーでアビカを一番最初に始めたのは俺だった。

 元々俺たちは、親同士のご近所付き合いや公園でのコミュニケーションから始まった付き合いだったらしい。三歳くらいからの仲だし、もう出会いなんて覚えてないが。

 気付いた頃には一緒にいたし、こいつらと過ごさない日は無いと言っても過言ではないくらい、いつでもどこでも一緒だった。

 

 何をするにも白栞に勝てずにいつも悔しい思いをしていたのだが、ある日俺はついに白栞に勝てるものができた。

 それがアビカだった。

 

 従兄弟の兄ちゃんに勧められて始めたそれを、俺は白栞と千夏に布教したのだ。

 初めの数日は、白栞にも千夏にも負けなかった。

 かけっこでもゲームでも、とにかく何でも勝てなかった白栞に唯一勝てるものができたという事実。それは幼かった俺の粉々になったプライドを蘇らせてくれた。

 クラスでもアビカをやってる奴がそれなりにいたが、俺はその誰にも負けることは無かったのだ。

 今思うと随分とちっぽけなプライドだったが、とにかく俺は自分のプライドを守るのに必死になっていた。

 

 だが、なけなしのプライドは長くは続かなかった。

 白栞がスターターデッキを手に入れてから、俺は全然勝てなくなってしまった。

 そもそも俺が白栞に勝てていたのは、白栞が使っていたデッキが、俺が渡した余りのカードと適当に剥いたパックから出たカードだけで構成されていた紙束だったからだ。

 対して、俺が使っていたのは曲がりなりにもカード同士のシナジーが意識して組まれたスターターデッキ。カードパワーが圧倒的に違っていた。

 当時の俺はそんなことにも気付けず、アビカなら白栞にだって勝てるのだと思い込んでいた。

 このままチャンピオンにだってなれると、信じて疑わなかった。

 

 それからは白栞にはまるで勝てなくなった。

 俺にとっては、今に至るまで引きずっている苦い思い出だ。

 

「まあ、小学生の頃から今まで、頻度の差はあれどずっと遊んでるよな」

「そうだねぇ。でも、そういう子って結構多いよね。そのまま大人になって、子どもと一緒に遊んでるって人もいるくらいだし」

 

 もはや生涯ホビーなんて言われるくらい、プレイヤーの年齢層も広いからな。割と親子プレイヤーも目にするし、祖父母と思わしき参加者を目にすることもある。

 初めは付き添いだけだったのに、孫にせがまれていつの間にかプレイヤーに……なんて話も珍しくは無いのだ。

 三十年以上現役なプレイヤーなどは、その経験もあって相当上手い。

 そういう人たちは小さい頃からずっと続けてプレイしてるわけで、純粋に潜ってきた修羅場の数が違うと感じることもある。

 俺たちもいつかそうなるのだろうか。

 

「楓ちゃんの周りにも、小学生くらいからずっとアビカやってる人って割といるんじゃない?」

「うーん。言われてみればそうかも。あんまり意識してなかったから、ちょっと分からないけど」

「アタシみたいに毎日やってるやつもいれば、いくつかある趣味の一つとしてってやつもいるから、継続してやってても結構差はあるけどな」

 千夏の言うように、歴=強さではない。どれくらいの頻度でどう向き合ってきたかの方が大きい。

 

 俺は後者寄りで、FPSゲームやラノベを読んだりする時間と比べるとアビカを触る時間はかなり短い。一週間全く触らないってこともあるしな。

 細く続けている趣味とはいえ、一応プレイ歴は今年で十年ってことになるか。そう考えると長いような気がするな。

 

「十年くらいの差があっても、桂木さんなら追いつけそうだけどな」

 これは本心だ。それだけこの子の成長速度は著しい。

「あはは、ありがとう。今はまだカードの効果を覚えていくので精一杯だけど、みんなのおかげで毎日新しいことが知れて楽しいからね。次にショップバトルに出る時は勝ち越せるようになりたいな」

 正直、トーナメント制のショップバトルじゃなければ今でももう勝ち越せそうだけどな。かなりセンスいいし、飲み込みも早いし。

 アビカに限らず、元々要領がいいんだろう。まだ短い付き合いだが、毎日それなりに話してれば分かる。

 

「久遠さん、良ければこっちに来て検討に混ざってくれないか」

 白栞に対して、部長から声がかかった。どうやら先輩方の対戦を振り返って検討会を行っているようだ。

 すっかり部内のヒエラルキーが書き変わってしまっているが、これでいいんだろうか。

 

「結翔が一緒なら良いですよ!」

「いや、俺がいたって力になれないだろ」

「じゃあ行かない」

 即断かよ。まあこうなるとは思ってたが……。

 

 部長を見ると、俺に向かって手を合わせていた。仕方がない。

「よし、白栞は検討会に参加する。俺は桂木さんにもうちょっとアビカを教える」

「えー。じゃあ私も一緒に教えるー」

 だろうな。だが、部長の頼みも無下にはできない。

 仕方なく、俺は伝家の宝刀を抜くことにした。

「まあ聞け。お前がちゃんと検討会に貢献してきた暁には、次の俺の週末はお前にやろう」

「ほら部長さん何やってるの? さっさと検討会始めるよ?」

 いや、チョロすぎるだろ。あまりにも早い掌返しに、部長も千夏も呆れていた。

 

 

 ──白栞side──

 

「だから、先輩のこの一手はこのターンだけ見れば有効に見えますが、相手のリソースを削れていないので以降の相手のプランが通りやすくなるわけです。結果的に相手が楽になってしまい、終盤の優位性を損なってるわけですね」

「な、なるほど……分かりやすい。さすがだね……」

 

 結翔とのデート権を獲得すべく、検討会に付き合うことになった私は、先輩方の試合を再現しつつ解説を行っていた。

 何が検討会だ。ほとんど私しか発言してないじゃないか。

「で、部長の返しのプレイですが、前のターンで相手が余分なリソースを残せなかったのだから、フィニッシャーの着地を狙っても良かったんです。ところが下手に堅実な盤面を作ろうとして、結果としては強い盤面が作れていません。お互いのキルターンが伸びただけで、どちらも優位性を放棄してゲームが進行しています」

「確かに……。いや、気付かなかったが、言われてみればそうだ……」

 

 この程度ですら言われないと気付けない人材の集まり。期待外れもいいところだ。

 まあ、別にあまり期待していたわけではないけど、想像以上に部内には強いプレイヤーがいなかった。

 おそらくあと一ヶ月もすれば、楓ちゃんの方がここにいる人より強くなるだろう。

 

 あの子はうまく育てれば、結翔の踏み台になれるかもしれない。

 とはいえ、注意も必要だ。下手に結翔との距離が近くなられても困る。

「ありがとう、凄く助かったよ。この調子で今後も頼みたいんだが……」

「結翔が一緒ならいいですよ」

「だよねぇ……」

 先輩方を育てたところでメリットは無いだろう。

 一応、部活のレベルが上がることで結翔のモチベーション向上に役立つかを考えてみるけど……うん、効果は無さそう。

 それなら楓ちゃんを育ててチームメイトにした方が、よほど結翔のためになる。

 

 私の夢。結翔の夢。世界一の最強チーム。

 私は今でも覚えている。あの時の約束を。結翔と私の目標を。

 

 今の結翔はあまり乗り気じゃないみたいだけど、夢の実現が現実的になれば、きっとあの頃の情熱を取り戻してくれるはずだ。

 その時までに、もっと強くなっておかなければならない。私も、チームも。

「もういいですよね。結翔にはちゃんと、ちゃーんと。私が貢献したことを伝えてくださいね!」

「あ、ああ……分かった」

 

 部室の片隅に目を向けると、結翔が楓ちゃんにティーチングを行っていた。

 楓ちゃんが強くなることは、夢の実現に利がある。私も合流してサポートするとしよう。

 

「結翔ー! 終わったよー!」

「うおおお急に抱きつくんじゃねえええ!」

 ちょっと前から、私が抱きついたり腕を絡めると照れるようになった結翔。可愛いったらありゃしない。

 これでコロッと落ちてくれるなら色仕掛けでも何でもするが、恐らく結翔が惚れてくれるためには、そういった邪道はむしろ逆効果だろう。

 適度に用いて女として意識してもらうのが効果的かな? 

 

 一番大事なのは、私がアビカの強さを誇示し続けること。そして、結翔に必要不可欠だと気付いてもらうことだ。

 

 大好きな結翔。きっと私があなたの夢を叶えてみせるからね。

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