異邦の地にて開いてしまった、地獄の釜の底の底。
都市西部の建築様式を想起させる王座の間で、一匹の獣と私こと黒猫は対峙する。
最初の一服。
煙草を一喫み、吐いた紫煙が不機嫌に燻る。
さぁ、一仕事始めようか。
煙草を口に咥えたまま、私は呟く。
「【アベトロ】、基幹システムとの相互リンク開始」
呼び声と共に三尾の鎖刃を繋ぐ筋繊維複合神経糸が勢いよく伸び、隠れていた尾骶骨の根本に存在するコネクタが解放。
尾骶骨のコネクタに【アベトロ】と鎖刃が入れ換わる様に接続されると右斜め掛けから横に転回、さながら近未来のジャンプパックの如く、コネクタに接続された裁縫箱から三対六本の腕が迫り出す。
それと同時に私は一本の骨の柄、尻尾における部位の一つである血道弓を取り出し、眼前の怪物に向け片手で構える。
構えた血道弓の両端に、針の糸を通す様に糸が繋がり、結ばれたかせ糸が柄頭を作り出し、解き放たれた鎖刃とそれらを繋ぐ糸が次々ともつれ、複雑怪奇に、されど規則正しく絡み合いながら形を成していく。
血、肉、骨。その中でも骨を中心として一つに纏まり、身体の旋律を奏でながら出来上がるのは、骨と筋繊維糸、そしてそれらを繋ぐ骨化腱が複雑に噛み合う巨大な大剣。
作品名【コクスィクス】。
外郭の獣、恐竜とも呼ばれた怪物の巨大な背骨。
黒猫が自ら狩り、摘出した尾椎を東部独自の製法で一週間に渡って磨き上げ、各派閥のマエストロ達の視線によって、自らの身体を削りながら常軌を逸する方法にて焼き入れと焼き戻しを行い、その果てに完成した野獣派と身体派のコラボレーション。
身体派の傑作に倣って造られた学習型擬似生命式技術模倣可変武装、人間にかつて存在していた筈の退化した純粋な尻尾を復元という形で再現した初めての秀作。
「
120節の尾椎と43本の骨化腱が収縮弛緩を繰り返し、【コクスィクス】が可変する。
一本の骨の大剣から生え揃う鎌の様な三本爪。
ギチギチと腱に引っ張られ緩やかに反りの入った切先。
暴悪的な野獣の鎖刃が残虐的な身体の大剣へと姿を変えていく様は生物の進化の過程を思わせる光景だった。
「──【アーキタイプ・ディノニクス】」
眼前に見据えるは黒い獣の成れの果て。
自らの師の教えを受けて完成したかつて狩った恐竜の名を取る自らの秀作と、全ての骨腕を展開したその姿は、もしもこの場に情感豊かな人間が居るならば、さながら獲物を定め、幾度目の狩りを始めんとする、独り立ちしたばかりの蜘蛛の子の様だとその者は答えただろう。
anomaly states User Interface convert.
LC-observation User Interface online.
時代遅れのUIが最適化され、何時もの見慣れたHUDとシステムログが義眼の視界の端をよぎる。
Target Core Sec-Level: [INPUT_REQUIRED]
Protocol Bypass Mode:[AWAITING_DESIGNATION]
Injection Code: [LOAD_READY]
インストールした覚えの無いプログラムが走っているようだが、基本的なシステムは全て起動した筈だ。
今すぐ精査したいが、そうもいかない。
「ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!!!!!!」
獣が絶叫し、両触腕をその場で乱雑に叩きつける。
駄々をこねる子供が気に入らない玩具を壊そうと、下半身の肉の触手が迫り来る破綻となって、まるで波が家々を攫っていく様に押し寄せて来る。
「チッ……」
押し寄せる触手の幾つかを軽く身を捩って回避しながら、避けきれない物のみを【コクスィクス】で左右に斬り払い、【アベトロ】内部の筋繊維糸のリソースを確認していく。
──bobbin2[100/100%]──
──bobbin3[100/100%]──
──bobbin4[100/100%]──
──bobbin5[100/100%]──
──bobbin6[100/100%]──
──Grapple Strings Available.──
全ボビンフル充填済み、骨腕内部の射出機能正常、バレットフィーダーとサプライユニットは…さっき使ったから問題無しか。
「ギャァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!!!」
切断した触手にも神経が通っていたのだろうか。
その場で痛みにのたうち回り、獣の意思に反する様に触腕が解けながら王座の間に破壊の痕跡を残していく。
どうやら本体の赤子と両腕と下半身を形成する触手は一個体ではなく、2つの生命が互いを互いに寄生し合った結果、あの姿になっているようだ。
少なくとも共生関係にあるとは思えない。
ひとしきり暴れた獣が体勢を整え、感情の読み取れない黄色く濁った、あのカッコウの眼が忙しなく動き回る。
血溜まりに映る憤怒を激らせた赤い隻眼と、此方を捉えギョロリと睨め付ける黄色い瞳。
互いの視線が交錯する。獣が触手を振り乱しながら飛びかかって来る。
押し潰さんとする巨躯を大きく横に跳躍して回避。
同時に第六骨腕が駆動し、束ねられた赤い糸が柱に向かって射出される。
吐き出された糸は柱にぶつかった瞬間先端が解けて絡み付いた。
余程の荷重でも掛けない限り、剥がれる事は無いだろう。
跳躍の勢いに乗ったまま、絡み付いた糸が裁縫箱に巻き取られ、柱に向かって高速で身体が引き寄せられていく。
そのまま柱に取り付き、向こうを見遣れば、獲物を取り逃がし、そのまま大理石の床を捲り上げながら這いずる獣が反転し猛進してくる。
既に切り落とした触手の何本かは不完全ながらも再生し、再び此方に向かって襲いかかって来た。
動じる事なく、糸を骨腕で保持して柱に張り付いたまま、無造作に大剣を振り払い、襲い掛かる触手を一息で切り落とす。
ウロボロスを組み込んだ事で再生能力を会得こそすれどやはり所詮は失敗作、斬撃一つで切断可能な程柔い。
やはり驚異的なのはその肥大化した図体と鳥鴶人の寄生虫じみた特殊な繁殖能力。
十中八九ウロボロスの感染力も組み込まれているだろうこの個体の対処を誤った場合、その被害係数は計り知れない物になるだろう。
「…燃やすしか無いか」
答えてくれる者も居ないまま一人ごちる。
文字通り一片の灰すら残らず。
彼のいた痕跡は今度こそ跡形も無くなるだろう。
その事実を頭で認識し、遅れて心が理解する過程で、胸の奥に表現しようの無いざわつきが走り、罪悪感から来る傲慢さが思考を蝕む。
燃やせ。
あの図体を一発で燃やし切れるとは思えないが、どうにかして燃やす以外道は無い。
アレは獣だ。人じゃない。
人じゃないなら、こうするのが正しいに決まっている。
──いや、駄目だ。
無情な迄に冷徹な評価を下す傲慢な感情に、他でも無い自分自身が待ったをかける。
今の状態で全て燃やし切るしかないなら、燃やすべき部位のみ選り分けて解体して燃やせば良い。
人間の部位と浸食を受けた部位の境目をピンポイントで削る事さえ出来ればウロボロスと黒獣の部位のみを焼いて人間の部位を残す事が出来るかもしれない。
そうすれば、遺体の検分も可能。薬と丸の使用量や成分の配合比率といった諸々の情報も掴める。
そこから遡って行けば、丸の流通ルートや薬の出所も辿れる筈だろう。
見知った顔の、よりにもよって息子を二度手にかける罪悪感に押し潰されそうな、自らの思考が露理整然とそうするべきではない理由とその場合の利益を目を背ける様に並べ立てていく。
心につけ入る囁きが、これ以上染み入って隙間を埋めてしまわない様に。
その間にも此方を喰らい貪ろうと獣は、触腕を振り回し、触手を飛ばして撃ち落とそうと躍起になっている。
糸を飛ばす。柱を渡る。触手を斬り払う…。
四度目の高速移動。第一骨椀から糸を射出し、獣の身体を背中からなめる様にスイングバイした時だった。
攻防の中、あの獣の恐ろしい全貌を捉えたのは。
手で触れられる距離まで近づいたおかげか、義眼の性能でよりはっきりと見えた。
二つの生命。子供が黒獣丸によって変異し母体がウロボロスの浸食を受けた、互いの生命が絡み合った歪な形態。
だが実態は違った。変異していたのも浸食を受けていたのも母体。
何より凝視の際に見た、あの黒い糸。
間違いない、アレは子供の生かし続ける臍の緒ではなく、生命エネルギーを吸い上げる為に繋がっている吸入口だ。
あの両腕と下半身を形成していたのは母体から形成されているウロボロスの触手。
見てくれで判断した浸食度合いでもとうの昔に浸食されていたのは間違いない。
これ以上の事は解剖でもしなければ分からないだろうが……。
あの女は生きている。
他ならぬ子供の命におぶさって甘い蜜だけを啜る完全なる寄生という形で。
子供とあの女はまだ糸で繋がっていて、奴から出るウロボロスの触手が二人羽織の要領で子供の手足と触腕を浸食し、全てコントロールしている。
その証拠に、あの獣の攻撃には子供の意思は一つとして介在しておらず、ほぼ全ての行動が触手によって行われていた。
赤い隻眼が激情のままに激しく輝き、通った跡に煙草の紫煙と赤眼、二条の軌跡がちらちらと灼きつく。
ただ、これだけは言える。
「あのクソアマ…! 何処まで行っても子供は親の道具とでも言いたげだな…!」
答えは決まった。残すのは子供だけ。
あのクソアマだけは絶対に完全に燃やし尽くして殺し切る。
柱を蹴り飛ばし五度目の跳躍。
加速のついた自分の身体は獣に向かって急接近していく。
迫る私を今度こそ撃ち落とさんと、獣の触手が目前に迫る。
触手を引っ掴み、時に巳の様に取り付き、また足場にして疾走しながら触手を逆に利用して接近していく。
流れて行く視界の端。頬を掠めていく温い触手。
正面に迫る触手を斬り飛ばす。
切り飛ばした断面から噴き出る汚血が前面を濡らし、ほんの僅か、口に入り込んだ。
暖かく、生臭い。鉄と、命と、そして病の味。
下処理の甘かった鰻に残ったヌタのように、ソレは舌の上でしつこくまとわりつき、不快な粘つきを口内に広げていった。
普通の人間なら血を誤飲した時点でもう助からないだろうが、黒獣であり同じ同類でもある私には感染の心配は無い。
「──シィッ!!!」
糸を操り、獣の右脇の下を中空でくぐり抜けながら触腕と赤子の腕の境界線を狙って【コクスィクス】を全力で振り下ろす。
獣の絶叫。間髪入れずに第五骨腕から獣の胴体に向けて糸を射出。
取り付くように二度目のスイングバイ。
返す刀で切り上げ、左側の境界を断つ。
両腕の境界線は寸分狂う事なく断ち切られ、上半身が自由になった赤子が母体の揺籠からずり落ちてゆく。
もう数える事もうんざりする何度目かの絶叫。
口が無いのに本当によく鳴くものだこの女は。
両足が地に着いた瞬間を見計らって左足を軸に素早くターンピック。
ターンの勢いを乗せて真横に斬り払い、子供の浸食された下半身を切り離す。
スイングの慣性に身を預け、床に爪痕を刻みながら獣と大きく距離を取る。
第一、第二骨腕、天井に向けて糸射出。下準備していた蜘蛛の巣に糸が繋がる。
第一、第二骨腕とほぼ同時に第三、第四骨腕も糸を射出。此方は張り付く糸で母体ごと蜘蛛の巣の真下まで引っ張りながら赤子を引っぺがす。
赤子を引き剥がされ、今迄以上に狂乱する獣。
その狂乱は、子供を取られる事に怒りを抱いたのか、はたまた自分の所有物に対する執着か。
すぐさま第三、第四骨腕の糸を回収し、汚れた赤子を抱き抱えながら、義眼に表示されるショートカットから裏口機能をアイドリング状態に移行。
私は動じる事なく、【コクスィクス】を持ったままの左手の薬指に第一、第二骨腕から伸びる赤い神経糸を引っ掛け、ぐいと手繰り寄せた。
瞬間──。
天井の下準備が待ってましたと言わんばかりに獣の全身を絡め取り、その身体を無理矢理仰け反らせてゆく。
背中は反り返り、かつて顔が存在していた部位が天井を仰ぎ見る。その格好はまるで磔にされた罪人。
「back door piratage」
武器を持ったまま器用に放ったフィンガースナップと共に音声認識でアイドリングしていた【裏口】技術を起動。
張り巡らされた拙い蜘蛛の巣が独りでに縒り合わさってゆき、誰もがよく知る蜘蛛の巣の形へと姿を変えてゆく。
蜘蛛の巣が一つ、また一つと形を成してゆく度、出来上がるポータルから黒い小樽の様な容器が獣へ向かってぼろぼろと落下し、獣にぶつかる衝撃でその中身を全身にぶち撒けていった。
黒い油、13区燃料高粘度タイプ。へばりつく油が余す所無く獣の表面をコーティングしてゆく。
最後の悪あがきだろうか。油で滑った触手が一本、苦し紛れに此方に襲いかかってくる。
「……フゥーッ……ペッッ」
紫煙を吐き出し、迫り来る触手に向かって煙草を吐き捨てる。
吐き捨てた煙草は静かに宙を舞い、燃え残った灰と火の粉が散りながら軌跡として空中に取り残されていった。
ジュッ。
煙草の燃え口が触手の表面に触れた。
マッチよりもか細く、今にも消えてしまいそうな、たった一本の煙草の火。
充分だった。火は怒りに準えられる事もあり、怒りもまた、小さな切掛で噴き上がるものであるが故に。
煙草が触れた触手の先端から火の手が上がり、瞬く間に全身へと燃え広がってゆく。
触手がのたうちまわり、火から逃れんと糸を引き千切ろうと触腕をばたつかせるが…。
糸は切れない。ああ見えて、あの赤い糸は耐火性が非常に強い製法に変えてある。
以前、耐火性能を重視しなかったせいて散々な目にあった教訓の賜物だ。
蜘蛛の糸に囚われた獣の全てが灰になるまで終わらない灼熱の地獄はクライマックスを迎える。
冷徹な迄に区別しない業火が凄まじい勢いで獣の全身を骨まで焼き尽くし、燃え盛る焔の赫が王座の間を煌々と照らす。
「……」
ぱちぱちと燃え盛る炎が時折爆ぜる。
自らその悪行のツケを、自ら炎に焼かれる事で払う1人の魔女の終焉を、私はただ黙って一瞥し、手に抱えた赤子を見た。
「ルージュには見せられんな…この子の姿は」
……無頭児だった。
始めから、あの事件で殺される為だけに『流れ』によって生かされていたであろう、賢王オルトクレイもとい、ルージュの息子シゼル。
毒殺という1度目の悪徳的な死を経験させられ、実質托卵じみたやり口と、赤の他人の胎の中で今度は黒獣丸の汚染による暴悪的な2度目の生は私自身の手によって解体され、彼の人生は親の元へ一歩も歩み寄れないまま、今度こそ終わりを迎えた。
……少なくとも、あの悪女の傀儡になって終わらない苦痛と搾取による悲鳴を上げずに済んだ事は救いだと思いたい。
悲鳴を聴くのは大好物だが、聴きたいのは悪党の見苦しい命乞いを拷問しながら踏み躙った時に出る絶望の断末魔や、被害認知から来る他責を良識や正論で殴り返して発狂する救いようの無い弱者の悲鳴であって、子供や罪の無い善人が不幸や喪失、暴力によって哭き叫ぶ悲鳴は御免被る。
シゼルの亡骸を子供をあやす親の様に優しく抱きかかえると、不意に妹分と共に母から剣を学んだ記憶が頭をよぎる。
「愚図が。腕はもっと真っ直ぐ伸ばせって。何度…いったい何度言えば分かりやがるんだ?」
「みっともない真似はやめて、もう一度剣を握れ。真っ直ぐ引け。そうだ。やればできるじゃないか。」
母は黎明の太陽の様に気高い人だった、同時に暴言と暴力が絶えない人でもあった。
ただ、確かにそこに深い愛はあった。
死ぬ程不器用で気紛れな愛。
充分だった。その気紛れな愛すら第一の故郷で与えられる事は一度たりとて無かった私には。
思考を過去から現在に戻そう。
再び抱きかかえたシゼルに視線を落とす。
ルージュには申し訳ないが、変わり果てた自分の息子と対面させるのは今の彼には余りにも惨すぎる。
……私の手で秘密裏に王家の墓に埋葬しておこう。
そうして燃え尽きた獣を尻目に遺体を次元収納に納めようとした所で──
「娘の給食費ィィィィィィィィ!!??!?!」
「きゃぁぁあぁぁ!!!??!?!」
──私は教会のベッドの上でコッテコテの叫びを上げながら目を覚まし、その声に驚いた教会のシスターが椅子から転げ落ちてひっくり返った。レースの白だった。
「おい!?ここは私!?何処は誰なんだ!?」
「貴方は何を言ってるんですか!!?!?」
ベッドの上からシスターに問い掛ける。
遺体を収納するまでの記憶ははっきりと覚えてる。
──そこから先の記憶が無い。
いや、正確には部分的に存在する。
突然手術台の如く展開し、私を拘束した【アベトロ】。
目の前で他でも無い自分の相棒によってバラバラに解体されるシゼルの遺体。
頭巾を引き裂かれたかと思えば、何の前触れも無く左半分が真っ暗になる視界と、目元と首の後ろの付け根から肉を切開され、義眼と骨か神経のどちらかを毟り取られるおぞましい激痛。
そして──。
「ディアスゥゥゥッッ!!!! 貴様ァァァァァァァァ!!!!!!!!」
──残った右半分の視界にモニタリングされる、憤怒に歪んだ私の顔ととある文字。
もう薄々勘付いている奴もいるだろう。
これは一応、【盾の勇者の成り上がり】の物語ではある。
性根の腐った悪女の奸計で全てを失った盾の勇者が自身の尊厳を取り戻し、剣、弓、そして槍の勇者とその仲間達と共に世界を救う物語。
その物語の台本を握っているのは神を騙る者達でも無く、性根の腐った女神でも無く、ましてや神を狩るあの精霊達でも無く──。
数多の人間の人生を趣味の一環で弄びながら未だ尚、真の目的を一切明かさないあの新興企業の代表。
人亜戦争によって齎された【特異点】。物語の始まる前から【翼】と呼ばれる大企業と根付いてしまった【羽】達が。
裏路地と呼ばれる無法地帯を牛耳る【都市の星】。都市最大の非合法組織、五本指が。
そして──。
「……なれるよ。貴方の望んだ通りの姿に。」
この世界に流れ続けている都市の光が。
或いは実験場に。或いは搾取の為の畜産施設に。
ただひたすらに、それぞれの利益の追求の為に。
この異世界を使い潰そうとしている。
まだ、勇者達は気付いていない。
自分達が潜り抜けたのは夢と希望の異世界への扉ではなく。
そう刻まれた、罪悪と狂気と暴力に満ちた地獄への門だという事実に。
苦痛の洗礼を受けて、私の物語は。
「カポIII テオドール、報告しろ」
「畏まりました、ボス。黒猫が枝の回収に成功致しました」
「そうか、所でペットの躾は…順調か」
「はい。牙と角をへし折って以降アオタツ種はメリシェンを始めとして此方に恭順の意を示しております。礼儀のなっていないハクコ種はほぼ族滅させた今、シルトヴェルトのスザク種とゲンム種も直に我々に礼を尽くす様になるでしょう」
「そうか、コンシリエーレ。フォーブレイのソルダート達に通達してくれ。武器と弾薬の調達を急ぐようにと」
「畏まりました、ボス」
「(ビープ音)あ〜…遂に来ちゃったかぁ…この時が」
「神託が降りたのか?」
「降りたけどさぁ…猫の刃を人知れず研ぎ直せって…無理でしょ、これ」
「うっへぇ…あの人数キロ圏内なら最高品質の【帳簿】ですら見破って来ますし、一瞥するだけで私たちの指令内容全部看破してくるんですけど、どうしろってんでしょうねぇ…」
「アイツが見て見ぬふりしてくれる事を祈ろう…」
『っつうワケで長妹サディナの捜索に手ェ貸してくれるアテが出来たから出稼ぎがてらもう暫くメルロマルクに留まる事になった』
「はーい、おつかれぇ。怨恨稼ぎに精が出るねぇ♪」
「ホーント、メルロマルクにはロクな女が居ないんだねぇ。まぁウチらには良いカモだから良いんだけどさぁ♪」
「「ね〜♪♪」」
『そういや何でウーゲンとサーゲンが電話に出てんだ?ソレ、姉貴のスマホだろ?』
「「姉貴は今クラブの女の子達と三股かけてたのがバレてその娘達とパニャータパーティーの真っ最中でーす♪」」
『うっわぁ…もううわぁって言葉しか出てこねぇな…』
「ところでさぁ〜、手貸してくれるって奴は何者なのぉ? ちょい気になる〜」
『【黒猫】っつう兄貴が探すの手伝ってくれるってよ』
「「えっ」」
貴方が一番大切にしてる物は?
-
礼
-
信
-
義
-
智
-
仁