ACTOR   作:あっとP

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第1話

それは、何も変わらぬ街の一角での出来事。車を運転する男。カフェで新聞を読みながらコーヒーを嗜む老人。通学途中の女子学生。何も変わらない日常の一幕。

男が肩の辺りから生えたもう2つの腕を使って運転しているのも。コーヒーがカップごとひとりでに動き老人の口まで運ばれるのも。女子学生の上空の光が屈折し、彼女の歩く場所だけが日陰になっているのも。

全て、当たり前の出来事。

 

2050年、日本。

”異能”により発達した技術と、地上の7割を超える都市部、そして地下区域での大規模な1次、2次産業。以上により人口は現在5億を超え、あらゆる面で他国を凌駕する大国となった。

 

技術革新の要となった、異能の力。この力は現在世界人口の半数以上の人間が所持していると言われ、人々の生活に深く根付いている。

だが、力がもたらすのは、発展だけでは無い。”当たり前”は、平穏な日常のみに使われる言葉では無いのだ。

 

 

 

日本、G地区。またの名を旧東京。その中でも、商業施設の立ち並ぶ区域。だが、もう時刻は0時を過ぎ、街を照らす光は街灯のちっぽけな光だけ。昼間は賑わう街のど真ん中も、今いるのは俺一人だけだ。

建物の壁に貼ってある、幾つものポスターにふと目が止まる。異能免許、異能犯罪防止、他にも色々……まあ要するに、異能を使った犯罪はやめましょう、って感じのことが言いたいんだろう。

「くだらねぇ。」

俺はそのポスターどもを鼻で笑ってやった。そんなことを言ったとこで、”やるしかないやつ”の心は変わらねえんだ。

そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか俺の家に着いていた。そこは、建物と建物の隙間、つまり路地裏だ。人一人分ぐらいの広さしかないその道を歩くと、やがて行き止まりにたどり着く。そこにあるのは白の壁に、赤い扉。幅は建物に隠れて見えないから知らねえが、高さは俺より少し高いくらい。俺の身長が185cmだったから、2mくらいか?まあ、んなことはともかく、これが俺の家だ。

扉を開けて中に入る。広さはそこら辺の多目的トイレよりは広い、ってくらい。中にあるのは靴置き用のマットと布団代わりの布、あと来週出す予定のごみ袋。ここは一室だけでキッチンも流し台もシャワーも無い。というか電気も水もガスも無いし、ついでに鍵も付いていない。相変わらずクソみてえな家だが、知り合いに月1000円で住まわせてもらってる立場である以上は、文句も言えない。

暗闇の中、俺は帰りにコンビニで買ってきたサラダチキンを二口で胃に流し込む。そしてごみ袋に投げ入れ、布の上に転がりそのまま寝た。

 

俺は病室にいた。身長が低い。体も軽い。周りには、医者がいる。両親がいる。そして、俺の弟がいる。

すぐに理解した。これは夢だ。

それも、5歳頃の、いちばん思い出したくない出来事の夢。

「どうか落ち着いて、聞いてください。朝霧 悠真くん。朝霧 遥斗くん。2人は、白脳病を、患っています。」

朝霧悠真は俺の名前。遥斗は弟の名前だ。

「白脳病って、あの……!?」

俺の母親が聞き返す。

 

白脳病。それは、異能を持つ人間のみがかかる、死の病。致死率は100%、その上最初にこの病気が発見されてから今現在に至るまでの30年間、治療方法が見つからず、完治したケースは存在しない。白脳病での病死者は全国で100万人を超える。

 

両親が取り乱しており、それを医者が宥めている。この頃の俺は5歳。読み書きも普通に出来る年齢だ。

だが、この時の俺は、話がよくわかっていなかった。それは単に俺の頭が良くなかっただけなのか、それとも現実逃避したかったのか。

今となっては、もう分からない話だ。

 

そこで目が覚めた。結局、そこから色々なことがあって、今じゃこんな暮らしをしている。

だけど、それも長くは続かないだろう。白脳病にかかってから死ぬまでの期間は、最短で1年ほどだが、最長で20年はある。俺が白脳病にかかったのが5歳で、今は17歳。仮に20年生きられたとしても、もう半分以上は経っている。俺に残された時間は多くない。だからこそ、”やらないといけない”。

俺は扉を開けた。今日は晴天だ。だが、朝日は建物に阻まれ俺の元まで届かなかった。

 

俺には毎日のルーティンがある。家から10km先の河川敷まで走り、そこで筋トレをする。メニューは腹筋や腕立てなど基本的なことが多かったり、1日1時間程度しかやらなかったりと、地味ではあるが、何年も続けていれば筋肉もつく。

今日も筋トレを終え、川の水で顔を洗う。

そこに映るのは自分。ろくに洗わないうえに自分で切ってるせいでぐちゃぐちゃでボサボサな黒髪。服の上からでも分かるほど発達した筋肉。さっきから目が合っている黒い瞳。何も変わらない、いつもの自分。

だが、それも今日で終わりだ。

 

わざわざ毎日河川敷まで行く理由は、3つある。ひとつは、単純に広いから。もうひとつは、無料で水分を確保出来る場所だから。そして、最後のひとつは、”ここ”に近いから。

俺がやってきたのはとある建物。3階建てで赤い壁のその建物の玄関口には、川島医院と書かれた古びた看板が掛けられている。

俺はその建物に入った。

「おーう、先生。来たぜー。」

俺は慣れた足取りで診察室まで行き、部屋の中のオッサンに挨拶してやる。

川島先生。この病院の院長(つーか1人だけだけど)を務めている男だ。俺よりもボサボサな白髪とシワまみれの白衣には、清潔感のせの字もない。

「おう悠真。昨日は助かったぜ?アンタもウチの仕事が板に付いてきたなぁ!」

ガッハッハと豪快に笑う。このオッサンとももう長い付き合いだ。オッサンと出会ったのは、5年も前のことだ。

 

 

当時12歳だった俺は、ある噂を耳にした。それは、白脳病を治す方法が無いというのはあくまで”表”の話。裏社会では、白脳病を治すことのできる医者がいるという噂。

俺はその噂を調査し、ある裏社会の組織の傘下であるこの病院を突き止めた。

 

「おい、オッサン。」

「なんだ、クソガキ。ここはガキの遊び場じゃないぞ。」

俺は、病院に入ろうとしたオッサンを呼び止めた。それもかなり高圧的な態度で。

「白脳病を治せるってのは、本当か?」

「……へぇ?なーんでガキがんなこと知ってんだ?」

「適当なやつボコって吐かせた。」

これは本当のことだ。あの頃の俺は適当な裏社会と繋がりがありそうって思ったやつを全員ボコって脅してた。今思えば結構な自殺行為だ。

それを聞いたオッサンは一呼吸置き、そして笑いだした。

「いやぁ、まさかこんなガキが裏の人間をシバキ回るなんてなぁ!いい時代になったもんだ!」

「いいぜガキ!教えてやる!来な!」

そう言って俺を院内に案内する。

俺たちは診察室の中で、向かい合って座っていた。

「まず、俺は別に白脳病を治せる凄腕ドクターってワケじゃねぇ。あー勘違いすんなよ?治すことが出来ないってワケでもねぇ。」

「んじゃどういうことだよ。」

「薬だよ、薬。白脳病は薬で治せる。俺はあくまてま薬の作り方を知ってる人間ってことだ。」

「そ、それなら」

「だから待てって。確かに薬は作れるが、かなり高ぇんだ、これが。」

「……いくらだ。」

「これがなぁ、人の脳だったり希少な金属だったり、材料のほとんどが高額だったり違法だったりで大変でなぁ。ま、こんくらいはかかる。」

オッサンは紙に値段を書いて見せてくる。

 

10000000000。100億円と、確かに書いてあった。

 

「ひ、100億!?テメェ!ふざけて……!」

「ねぇよ、クソガキ。悪いがこれが市場価格だ。値下げして欲しいなら頑張って他を探すこったな。」

「…………。」

俺は思わず黙り込む。100億なんて払えないし、今から別の人間を探すのもどれ程時間がかかるのか……。

「どうすればいいって感じの顔だな。……なぁ、ガキ。ウチで働かないか?」

「え?」

「ウチも人手不足でなぁ、腕っ節の強い奴は大歓迎だ。」

「……働けば100億が稼げるのか?」

「それはアンタの働き次第だ。」

「分かった。やってやるよ。」

それから俺はオッサンから仕事を引き受けるようになった(ついでにあの家も貸して貰った)。仕事内容は薬物の運搬から敵対組織の人間の襲撃まで、グレーなことも完全にアウトなことも、兎に角多くのことをした。昨日も、組織から金を借りてる奴に取り立てをした。

 

 

「ほらよ、こいつが昨日の報酬だ。10万から色々と引いて、まあこんなもんだな。」

そう言って俺に1000円札を1枚手渡す。これで1週間はもつ。

「んじゃ、俺はもう行くわ。それと先生、今日中に数億くらい金が入ると思うから、楽しみにしとけ。」

俺が帰り際にそう言うと、オッサンは静かに笑った。

「へぇ?そりゃあ楽しみだ。一体、何をしでかすんだろうなぁ。」

「さあな。」

オッサンの質問には答えず、診察室から出ていく。……その直前。

「なあ、悠真。アンタは、なんでそんな生きたがるんだ。友人も、なんなら家族もいない。趣味も無けりゃ仕事はこんなん。ぶっちゃけ生きる意味とかねぇだろ、アンタ。」

そう、聞いてきた。俺はその問いに、

「家族はまだいる。1人だけな。」

とだけ返し部屋を出た。もう、笑い声が聞こえることは無かった。

 

オッサンと出会ってから5年。こなした仕事の数は200超え。稼いだ金は1億と少し。

俺には、時間が無かった。

 

 

俺は、銀行の前に来ていた。

 

”銀行強盗”

 

俺にはもう、これしかない。しょうがない。そう。しょうがないんだ。

 

だから、許してくれ。遥斗───。

 

 

1度立ち止まり、空を見上げる。雲ひとつない快晴だ。

大丈夫。中に入ったら俺の異能で脅して金を出させる。そしたら持ってきたレジ袋に金を詰めて即逃げる。サツが来るまでに終わらせりゃいいだけの話だ。俺なら出来る。

俺は覚悟を決め、銀行内に足を踏み入れた。

「ふー……。おい!金を」

「全員両手を上げて動くなぁ!いいかよく聞け!俺たちゃ強盗だ!動いたら撃ち殺すぞ!」

その瞬間、俺の言葉は、謎の男の声と銃声によってかき消された。

 

その強盗達は、5人組で全員が男。最初に喋っていた男がリーダー格だろうか。男たちは誰も銃を持っておらず、そのリーダーの男が親指と人差し指を立て、銃の形を作っている。ふざけている訳ではなく、実際、そこから銃声が鳴り、銃声の後には床や天井に銃痕が残った。まあ指の銃が本当に銃になるとか、そういう異能なのだろう。

だが重要なのは異能ではない。圧倒的な手際の良さだ。最初の1発で従業員の方を負傷させ、全員が状況を理解。その後はパニックになる客や他の従業員を誰一人として逃がさず、全員を1箇所にまとめて縄で縛り貴重品を回収。そして誰も通報できない状況にする。そのあとは自力で金庫を解除し、そのまま逃走。ここまでにかかった時間は10分以下。

俺はというと、大人しくあいつらに従っていた。正直奇跡みたいな出来事が起きて困惑してたというのもあるが、ここまで完璧にこなしてくれたのなら、それを利用した方が楽だからだ。

奴らが銀行から逃げたことを確認し、俺は異能を発動する。縄は一瞬で解ける。周りのヤツらがザワつくがそれは無視し、俺は強盗を追った。

 

先程の強盗達は従業員用の出入口から逃げ、そのまま路地裏を通って全速力で逃走中だ。

「いや、すげーよタケちゃん!セキュリティシステムと金庫のハッキングまで、マジで全部一人でやっちまうなんて!」

1人がそう叫ぶ。こいつがタケちゃんと呼ぶのは、例のリーダーの男。今は金を詰めたバッグを持っている。

「あんたらのお陰だっつーの!とにかく、これで俺らは大金持ちだ!」

タケもまた叫ぶ。それぞれが高笑いしたり歓喜の声を上げたりと、強盗とは思えないようなテンションだ。

だが、かなり仲が良さそうなのはいいことだ。そういうやつらは扱い易い。

「ほらほら!早く行こうぜタケちゃん!」

一人がそう言って足を速めた。もうあと少しで路地裏を抜けそうだ。丁度いい。俺は一人で先走る馬鹿を使うことにした。

「よっしゃー!俺たち人生勝ちぐ」

その馬鹿はなんか言ってたが、俺の拳のせいで最後まで言えなかったみたいだ。

通りに出てきたところを死角から顔面に拳を一発。あーあ、これだけで伸びちまった。

「よーう。タケちゃん?だっけ。そのバッグ置いてきな。じゃないとこいつみてえになるぞ。」

4人は立ち止まり、円弧状に並び俺の前に立ち塞がる。タケは指で銃を作り構えようとしている……ので、俺は足元でぶっ倒れてる馬鹿の首根っこを掴んで起き上がらせ、そのまま盾にする。

「なっ、テメェ!カズヤを離せ!」

「ふーん、コイツカズヤっつうんか。まあ返してやってもいいが、金と交換だ。」

「くっ、卑怯だぞこのクソ野郎!」

「強盗よりはマシだろ。」

「ど、どーすんだよ、タケちゃん!」

あいつらは俺を非難したりなんだりで大混乱だ。……このままじゃあ時間がかかりそうだ。

「いいぜ。やっぱ返してやるよ。」

「あ?」

俺はカズヤを掴んでた手を離すと、そのまま思いっきり前方に突き飛ばしてやった。それを真ん中にいたタケともう1人が慌ててキャッチする。手が空いてるのは両端の2人。まずはこいつらからだ。

俺は突き飛ばすと同時に走り出しており、カズヤが受け止められるころにはすぐ側まで接近できていた。油断していたのか全く動かない両端の2人に対して攻撃を仕掛ける。

まずは左の男の腹に左脚での蹴りを一発。腹に深々と足が突き刺さったところで、そのまま腹を蹴って半回転し、右側の男に狙いを定める。左足を踏み込み、低い姿勢からの右手でのアッパーで顎を殴り飛ばす。またまた反対を向くと、左側の男は両手で腹を押さえて呻いている。相当いい所に当たったらしい。そんなキツイならさっさと意識を飛ばしてやろう。

俺は左手で男の頭を鷲掴みにし、壁に叩きつける。そのまま空いた右手と壁でこいつの顔をサンドイッチにしてやる。これだけでもう3人もぶっ飛んだ。

残りはというと、ようやくカズヤをどかして地面に寝かせ終わったところらしい。

「はい追加入りまーす!」

俺はノロマ共に追加男を投げ飛ばしてやる。だが、流石に2度同じ手に引っかかるほど馬鹿でもないようだ。タケは横に飛んで避けつつ、銃を構える。そんで余った方が今投げたやつを受け止める。

「死ね。クソ野郎。」

静かな路地裏に、銃声が鳴り響いた。指先は確実に俺の頭部を狙っていた。つまり、避けることは不可能だった。

銃声の次になった音は、銃弾が地面に落ちる音。

そう、俺が倒れる音ではなかった。

 

指先と俺の顔面の間に、壁ができていた。

「っと、流石に調子乗りすぎたか。異能が無かったら当たってたな。」

俺の手首から先。本来あるべきである手は存在せず、代わりに手首から先が黒く変色し、三本の”爪”が生えていた。俺の上半身ほどはある長い爪。それが銃弾を弾いたのだ。

「チッ、お前も異能者かよ!」

タケはもう一度俺を撃とうと銃を構え直す。頭部への攻撃は爪によって阻まれるため、今度は胴体に狙いを定める。実際、俺は銃弾を見切れるわけでは無いため、胴体を撃たれれば防げないかもしれない。

だが、タケが銃を構えるまでの時間で、俺も準備を終えていた。俺は右手を下ろし、姿勢を低くする。すると、爪は地面のアスファルトに深々と突き刺さった。

(こいつ、何をして……。)

タケはそれを見て、一瞬迷いが生じた。その一瞬を、俺は見逃さなかった。

俺は右手を思い切り前に振り上げた。俺の爪は、アスファルトを粉々に砕きながら地中からその姿を現した。そして、砕かれた破片たちは、タケ目掛けて飛び上がった。

眼前に迫る破片たちを前に、タケは思わず両手で顔を覆ってガードしてしまった。

そんなことをしてしまえば、俺を止めることはもう出来なくなる。顔を覆った状態のタケに近づき、むき出しの顎を蹴り上げる。タケは宙に浮き上がり、そのままノックアウト。

それを見た俺は異能を解除。

「うおぉぉぉぉぉ!」

その直後、すぐ後ろから雄叫びが聞こえた……ので、振り向きざまの肘打ちで後ろにいた男の顔面を攻撃。そいつは強盗の最後のひとりで、ちょうど俺の後頭部を殴ろうとしているところだった。俺がタケと戦っている隙に背後に回り込んだんだろうが、普通に気づいてたしあんな叫んだらもし俺が気づいてなくても反撃できる。

「ふぅ、こんなもんか……。」

強盗犯ってことで少しは期待してたが、蓋を開けてみれば喧嘩慣れしてない連中の集まり。ま、それはそれで楽に金が手に入ったから有難い。

「んじゃ、これは貰ってくわ。どーもな。」

俺はしゃがみ、戦いの影響で地面に転がった状態のバッグに手を伸ばした。

 

「おい、止まれ。こっちを向いて両手を上げろ。」

何者かが俺を呼び止めた。若い声だ。恐らくは10代後半から20代前半くらい。

正体を確かめるために、俺は声の方向を見た。そこに居たのは、学生。身長は俺よりも小さくて、筋肉も全然付いていない。それと、きちんと分けられた黒髪とメガネに、学生服。いかにも真面目くんって感じのやつだ。

「ああ?んだよただのガキじゃねえか。」

バッグを手に取り、立ち上がる。見られた以上、警察を呼ばれても面倒だ。こいつもボコそう。

「俺はバッグを取れとは言ってないはずだが?頭だけでなく耳も弱そうだな。」

「へぇ?おいクソガキ。テメェ状況分かってんのか?」

「そこに倒れてるのが例の銀行強盗。お前はこいつらを襲って金を奪って逃げようとしている。違うか?」

全部あっている。つまりこんなガキでも事態がわかる程度には情報が広まってるってことか?なら、そろそろ警察も来るかもしれない。

「当たり。それで、テメェはどうするんだ?まさか俺を止めるとでも言うつもりか?」

「止める?違うな。俺はEXEの執行官だ。お前を確保する。勿論、そこの強盗どももだ。」

「EXE?んだそりゃ。」

「……マジか。おい、EXEは一般常識だ。覚えておけ。」

「へぇ、そいつァどーも。生憎だが、俺は義務教育もまともに受けてねぇんでな!」

「確かに、そんな感じの顔をしている。」

「そうかよ!」

俺はそのガキの元まで走る。いちいち癪に障る。決めた。こいつは骨を2、3本くらい折ってそのまま放置する。俺を散々煽ったんだ。それくらいはされる覚悟があるってことでいいよなぁ!

「はぁ……。これだから低脳は嫌いなんだ。」

クソガキはポケットに手を入れたと思ったら、そこから何かを取り出した。

それは、石だった。何も変なところはない。ただの石。やはり、このクソガキは癪に障る。そんなんで俺に勝とうなんて、随分な自信じゃねえか。

俺は拳に力を入れる。もう距離は1mくらい。あと数歩もすれば俺の拳の届く距離だ。と、その時。突然、クソガキが石を投げてきた。急だったからちょっと驚く……が、それだけだった。手首だけの力で投げたもんだから当然速くもない。本当にただの投石だった。俺は横に飛んで石を回避。やっぱ所詮こんなもんだ。俺は溜め込んでたイライラをぶちまける。

「はっ!ほらどうした!簡単に避けちm」

その途中。突如、横から何かに突き飛ばされ、俺は壁に叩きつけられた。俺はすぐに体勢を直そうとするが、常に顔に何かが押し付けられており、動くことができない。

「んだ、これ……!?」

俺は手を動かし、顔を押さえるその何かを掴む。形と触感ですぐに分かった。石だ。石が空中で静止しており、どれだけ押しても引っ張っても動かすことが出来ない。

だが、これは一体どこから来たんだ?あのクソガキは1つしか石を投げていない。その石も避けた。それと、今のこの動かない石は異能によるものだろう。だが、どういう異能だ?

いや、というかこんな事を考えてる暇はない。早く脱出しねえと……。

「あ……。」

クソガキがポケットからもうひとつ石を取り出した。俺はもがくがどうしても石が顔を壁に押し付けたまま動かない。異能を発動し、石を切断しようとしてみる。が、それでも石はビクともしない。この爪は鉄すら切り裂くんだぞ!?一体どんな素材で出来て……。

「異能持ちか。なら、尚更ここで仕留めておかないとだな。」

クソガキは石を天高く放り投げた。すると、石は空中で停止した。……と思いきや、突如軌道を変え、俺の額目掛けて一直線に飛んできた。それも、瞬きする間に俺の目の前まで迫るほどの超スピードで。

その瞬間、理解した。これがこいつの異能。さっきの石は、俺が避けたと同時に軌道を変えて直角に曲がり、急加速しながら俺にぶつかってきた。そんで今俺の顔の真横で静止してるのも……いや、

 

今更そんなことに気づいても、もう遅いか。

 

石が激突する。頭が、脳が揺れる。その瞬間、俺の脳裏に浮かんだのは、過去の景色。

 

 

俺と遥斗が白脳病にかかってから、両親の言い争う声が聞こえることが多くなった。昔から白脳病への偏見は多く、白脳病患者というだけで差別されることも多い。両親からしても、俺らは厄介者だったのだろう。

そして、1ヶ月後。父親が姿を消した。そこから母親が消えるまでも、そう長くはなかった。家に残ったのは俺と遥斗だけ。俺たちは家に残った残飯を漁って命を食いつないだ。ただでさえ少ない飯を分け合う時も、寒い日の夜も、ずっと遥斗と一緒だった。

その時から、遥斗だけが俺の家族だった。

だから、だからこそ。俺は世界で唯一の家族を、助けたかった。

 

 

 

偶然にも、意識は手放さずにいた。だが、額から流れる血とぼやけた視界により、前もろくに見えやしない。そのうえ頭も回らないし、体も動かせない。

「まだ意識があるのか。しぶといな。」

ゆっくりと、足音が近づいている。

視界がぼやけているとはいっても、目隠しされているわけではないため、目の前にいれば気づく。

クソガキがもう目の前に来ていた。この距離なら思う存分殴れる。……元気ならな。

クソガキが拳を固める。女みてぇな小さい手だったのは覚えてるが、今の俺ならそんなのに殴られただけで意識がトぶだろう。

俺はもうどうすることも出来なかった。

 

クソ……こんなところで終わる、訳には……。

 

「あ、おーい!やーっと見つけた。僕を置いていくなんて、酷いじゃーん!」

え?誰……。

「チッ、面倒なのに見つかった。」

次の瞬間、クソガキに殴られたことで俺は意識を失った。

 

 

 

目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。俺はベッドで寝ており、部屋を見渡してみれば、いつもの汚部屋ではなく、ごみ袋のひとつも無い清潔な部屋だ。更に照明も椅子も机もある。

「どこだここ……。」

一先ず起き上がろうとしたその時、部屋の扉が開けられた。

そこにいたのは白髪の男。男はかなり整った顔で、爽やかな笑顔でこちらを見ている。

「誰だよ、あんた。」

男は部屋の椅子に腰掛ける。

「初めまして。僕は白露 志戸。ぶっ倒れてた君を保護して、ここに連れてきた。」

「はぁ……。」

「君をここに連れてきたのは、ひとつ提案があってね。」

「提案?」

「そう。僕はEXEっていう異能を使った犯罪者を捕まえる組織で働いてるんだ。」

「そこでね、朝霧 悠真くん。」

「っなんで俺の名前を……!」

白露は俺を無視し、話を続ける。

 

「君も、ウチで働かないかい?」

 

「……は?」

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