アストラネットの異星群像(アザースターズ)   作:青いくら

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開幕
開幕 太陽なき夜空に星々は燦然と


「……契約戦争の終結から十年。

 数百年の長きに渡って叡智と力を独占してきた旧王国は崩壊し、現界は″夜の時代″を迎えました」

 

 暗がりに立つ男が、唇を開いて語り出す。

 豪奢な金の髪が闇に躍り、深い蒼の瞳が光の矢を射る。

 男の言葉と視線は、通信網とスクリーンを隔てた不特定多数の聴衆へと向けられていた。

 

「ですが、それは必ずしも荒廃や衰退を意味しません。

 蒼天に座す太陽退かば、夜空に星々が輝くは必定。

 ご存知の通り、旧王国に代わって現界を治めているのは霊都議会です。しかし、新政府は未だ盤石ならず、力ある者が我を通す、混乱と競争の時代が到来したのです」

 

 男が黒曜石の一枚板じみた端末を手にすると、黒一色の空間に無数の光点が生じ、それらが互いに線を伸ばし合って結びつく。

 やがて光点は複雑な網の構造を織り成し、男の頭上に広がる空間へと押し上げられた。男が立つ仮想空間に描画されたのは、巨大なネットワークの構造図だった。

 その名をアストラネット。現界と霊界を結び、情報と霊素(ルーメ)を遍く伝達する、通信インフラにしてエネルギー供給ラインである。

 

「″ (ゲート)から(ネット)へ″。アストラネットの発見が旧王国の権力基盤を揺るがし、王政の廃止に繋がったことは周知の事実であります。

 今や我々はアストラネットを通じて星霊たちと自由に交信し、個人レベルで契約を結ぶことができます。SNS、求霊サイト、マッチングアプリ……霊契を求める場には事欠きません。

 かくして、かつて魔法と呼ばれた神秘の御業は、社会に広く普及する霊術へと形を変えました。

 生まれながらに持つ者が肥え太り、持たざる者は朽ち果てる閉塞と停滞の時代は終わりました。己の命と腕前一つで誰しもが頂に届き得る、可能性に満ちた挑戦の時代が幕を開けたのです!」

 

 男の声に熱が篭る。

 彼の周囲に次々とウインドウがポップアップし、画像ファイルを表示する。恐るべき魔物の爪と牙を。呪詛に汚染された不毛の大地を。違法回線(シャドウ・ネット)に隠された情報の迷宮を。

 そして、それら一切を踏破し、富と栄光を手にする冒険者(アドベンチャー)の勇姿を。

 

「一攫千金を夢見る冒険者たちは、昼夜を分かたず危険極まる探索に挑んでいます。ある者はアストラネットの未踏領域へ、またある者は人類生存圏の埒外たる霊障地帯へ。霊力(エーテル)結晶の鉱脈、失われた魔導具、大いなる星霊との契約、旧魔導師ギルドの遺構……死線を越えてそれらの獲得に成功した者は、莫大な財と栄誉を得るでしょう。

 あるいは、伝説に語られる五大神秘(ゴッド・レリック)のうち一つでも手にできたならば。───偉大なる伝説を踏破せし冒険者は現界に夜明けをもたらし、新たな王朝を開くことすらできるのです!」

 

 男の双眸には、今や爛々と蒼い炎が燃えていた。

 男は力強く片手を突き上げ、さらに声を高める。

 

「到来せし新時代に、既にあまた綺羅星が躍動を始めています。

 違法回線を闊歩する黒き剣のヴァンは絶技を振るい、保安局の紋章持ち(シギルホルダー)と切り結ぶ。白亜の戦鎚ゼウドナスは勢力を問わず戦霊領域(ヴァルハラ)の精兵を遣わし、力の時代の覇者たらん。再誕の教団(リバース・オーダー)は狭間の地に潜み、霊都を追われた旧王家の血統を探し求める。……そして、何を隠そう、新時代の霊契経済圏を牽引する、我が社ネオ・アストラもその一つ。

 申し遅れました。私はネオ・アストラCEO、カイン・アストレイアと申します」

 

 男……カイン・アストレイアは、スクリーンの向こうの聴衆に向けて一礼する。

 彼を敵視する者にすら息を呑ませずにはおかない、完璧な所作であった。

 

「蒼天の王が失墜し、唯一絶対の太陽が失われた夜の時代。弊社は光なき夜空に燦然と輝く異星たち(アザースターズ)を歓迎します。我こそは新時代の一等星たらんとする者よ。ネオ・アストラは貴方をお待ちしています」

 

 シークバーが右端に到達し、動画はそこで途切れた。

 それは夢見る者たちを命を賭けた冒険へと駆り立てる、開拓王カインの扇動であった。

 

◇◇◇◇◇

 

 フランベが指先で空中のウインドウを弾くと、一礼した姿勢のままで静止したカイン・アストレイアの姿が最小化し、空へと消え去った。

 高揚に拳を握りしめる若者の首に紅玉じみた鱗の蛇が絡みつき、目線を合わせてその顔をじっと覗き込む。よく飽きもせずに、とでも言いたげな視線に、フランベは鼻の下を擦りながら笑ってみせる。

 

「初心忘れるべからず、って言うだろ。いよいよ初の任務なんだぜ。お前と俺とで勝ち取った栄光の舞台だ、ルージュ」

 

 紅い蛇ははにかむように微笑み、首をもたげてフランベに頬擦りした。

 ルージュは肉の体を持つ生物ではなく、霊界に存在する情報生命体───星霊(アストラル)である。現界における彼女の姿は、契約者であるフランベのみが視認できる幻像に過ぎない。

 フランベにとって先程のプロモーション映像の視聴は欠くべからざる習慣であった。映えあるネオ・アストラ調査隊の一員として星界(ステラ)の未踏を闊歩し、比類なき富と名声を手中に収める。それがフランベ、そして彼のパートナーたるルージュにとって長年の夢だった。而して、この人間と星霊のバディはネオ・アストラへの入社を果たし、己の夢を現実のものとしたのだ。

 

 フランベのモノリス端末がバイブレーションと共にアラームを響かせる。若き冒険者は休憩室のソファーから跳ね起き、隊長から任務についての説明を受けた後、アストラネットにログインすべく未来的なデザインのカプセル内部に身を横たえた。

 

「良い時代だ」

 

 フランベは胸を躍らせながら独りごちた。それは折に触れて発する彼の口癖だった。

 彼らの総帥たるカインは言った。可能性に満ちた挑戦の時代が幕を開けた、と。然り。旧王国の治世においては社会階層の硬直著しく、辺境に生まれた貧民が立身出世を望むなど夢のまた夢だった。しかし、ほんの十年で情勢は一変した。フランベは王家直属の魔導師ギルドなどには属してはおらず、ルージュは矮小なる3等級の炎霊(サラマンダー)に過ぎない。だが、彼らはこうしてチャンスを掴んだ。かつてはどこにも行けなかった二名(ふたり)の前には、遍く希望と可能性の地平が広がっているのだ。

 

魂印(ソウル・シグネチャ)認証成功。霊素(ルーメ)アバター構築開始。霊界への意識投射実行。……全工程完了。

 ログインが完了しました。ようこそ、アストラネットへ』

 

 カプセルが駆動し、フランベの視界を霊素の光が満たしていく。奈落の底に突き落とされるような感覚の後、彼の意識は物理肉体の引力を振り切って飛翔する。カプセルの天蓋を突き抜けて上方へと。空一面に毛細血管じみて張り巡らされ、無数の星々が行き交う霊子のネットワークへと。

 

 星々と見えるのはアストラネットを通じて送受信される情報、あるいは情報の大海を揺蕩うアカウントの数々である。ある者は遠隔地の家族や友人と言葉を交わし、ある者は物品や金銭、あるいはサービスをやり取りし、ある者は新天地を求めて幽体(たましい)の旅に身を投じる。時空を隔てた異なる星ではガラス繊維のケーブルや電波の網に乗せて運ばれるそれらを、この星界(ステラ)においては霊的な経路を通じて彼方へと送り出す。

 

 あまた瞬く星々の大半は無名。しかし、フランベの霊的な視界はその中に抜きん出た輝きを放つ巨星の数々を仰ぎ見る。カインが「開拓王」の異名を持つように、太陽なき夜の時代を牽引する名付きの一等星たちを。

 

「行こうぜ、ルージュ。俺たちはまだ名無しの星屑。───けど、いつか。いつの日か」

 

 ルージュの長躯が実体と温度を帯び、燃え上がるマフラーのごとくフランベの首元を覆う。彼らは逆しまに奔る流れ星となって天を貫き、アストラネットの大海へと身を躍らせた。

 

 かくして彼らにとって初めての冒険が幕を開けた。高揚。期待。緊張。不安。あらゆる感情を孕んだ眩い旅立ちのひと時は、

 

───惨憺たる敗北の味によって報われることとなる。

 

◇◇◇◇◇

 

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……!」

 

 闇が充満する遺跡じみた通路に、乱れた呼吸音と不規則な靴音が鳴り響く。

 一心不乱に遁走するフランベの脇腹は深く抉れ、アバターを構成する霊素が漏出していた。首元のルージュが必死の形相で索敵を続ける中、彼は任務開始前に隊長から受けた説明の内容を反芻する。

 

(我が社が営む事業のうち最たるものとは何か。言うまでもなく()()()()である。アストラネットの未踏領域を探索、整備し、霊都議会の認可を受けた公的ネットワークへと組み入れる。未開の霊的フロンティアを開拓し、人類が安全かつ安定して利用できる回線を確保する。新時代の根幹たる事業の第一人者たればこそ、CEOは「開拓王」の異名をとっているのだ)

 

 柱の影に転がり込み、負傷箇所を押さえて蹲る。夥しい出血が霊素の塵となって蒸発してゆく。このままでは失血死は免れない。アストラネットに投射した霊体が死ねば、現界に残してきた物理肉体もまた重篤なダメージを負うことになる。

 頼む、とルージュに目で訴える。ルージュは逡巡する。フランベは躊躇う彼女に無理を強いた。炎が傷口を灼き、強引に出血を食い止める。フランベは痛覚のパラメータを下限まで引き下げ、耐えた。

 

(我々の任務は新たに発見された未踏領域の探索ならびに安全の確保だ。解析班のスキャンによれば危険性の高いオブジェクトや強力な生体反応は見受けられないとのことだが、探索に不測の事態は付き物。心して任務に当たってほしい)

 

 歯をギリギリと食い縛る。熱痛を堪えつつ息を殺し、接近してくる足音に対して意識を研ぎ澄ます。足音が曲がり角を通過し、フランベが身を隠す通路へと進入する。

 襤褸布を被った赤紫の巨人が四つん這いの姿勢で迫り来る。頭があるべき位置には顔が存在せず、のっぺりとした闇に石臼のような歯が並んでいる。ソウルイーターと呼ばれる魔物である。虚無に堕ちた星霊の成れの果てだとか、アストラネットに深入りしすぎた人間の末路だとか、さまざまな言説がある。

 しかし、魔物の出自など今のフランベにとって重要ではない。重要なのはこの魔物が人間・星霊を問わず霊体を好んで喰らう捕食者であり、本来は上位(ハイクラス)の隊員が複数人がかりで対処せねばならない深刻な脅威であるということだ。

 

 暗がりから染み出すように現れたソウルイーターの奇襲によって、フランベの部隊は壊滅した。約半数が喰われ、約半数が離脱した。

 怒りで戦慄を塗り潰し、異形の怪物を睨め付ける。首元のルージュが危機感に満ちた鳴き声を発する。今すぐ逃げるべきだと警告しているのだ。しかし、フランベは翻意しなかった。

 

(───殺ってやる。そうすりゃ手柄は独り占めだ。初っ端から躓いてたまるかよ)

 

 これまで泥にまみれてきたのは何のためだ。貧しさの中ルージュの火で寒さをしのぎ、時には野盗まがいの行いに手を染めてまで這い上がったのは何のためだ。緒戦から無様に敗北し、みっともなく物陰で縮こまっているためだったか。違う。断じて違う。

 

「良い時代だ」

 

 日頃の口癖をあえて発し、己を鼓舞する。然り。良い時代だ。ピンチはチャンス。仲間の助け無しに奴を仕留めれば、絶大なインセンティブを独占できる。持たざる者が己の命と腕前一つでゴミ溜めのような人生を覆せる。これを良い時代と言わずして何と言おう。

 捨て鉢な闘志に薪を焚べ、フランベは手を伸ばした。星座盤じみたタッチパネルが現れ、フランベの指先が複数の光点をなぞる。そして結びつける。剣のごとき図形(パターン)として。

 

霊刃(エッジ)

 

 無機質なシステム音声と共にタッチパネルが光り輝き、粒子となって霧散する。そして集まり、形を変える。霊素によって編まれた剣へと。

 古き魔導師(メイガス)は詠唱や印、あるいは魔法陣によって星霊と交信した。新しき霊術士(ウィザード)はデバイスとソフトウェアによって霊素を制御する。謂わばそれは時代の変遷に合わせて最適化され、姿を変えたデジタルの魔法陣であった。

 

「………ラァァァァッ!」

 

 雄叫びと共に柱の影を飛び出し、ソウルイーターの首めがけて飛びかかる。契約の糸を通じて炎霊ルージュの力が流れ込み、フランベの刀身を波打つ紅炎と化す。燃え盛る湾曲剣をソウルイーターの頸動脈に突き立てようとした時、既にフランベの顔は絶望の色に染まっていた。

 

「がっ……!」

 

 ひどく不健康な色の掌が行く手を遮った。ソウルイーターの巨大な手が無造作にフランベを鷲掴みにした。ルージュ諸共。もがく。振り解けない。全身の骨がメキメキと嫌な音を立てる。ルージュが指に喰らいつく。分厚い皮膚はちっぽけな蛇の牙なぞ物ともしない。

 

(こ、こん、な、はず、じゃ)

 

 後悔がフランベを苛む。熱に浮いていた思考回路が水を打ったように冷え切り、恐怖と絶望が肺腑を侵蝕する。ルージュは退却を促していた。駆け出しのルーキーが勝てる相手ではなかった。だというのに己は強行した。血気に逸った未熟さと、掛け替えのない相棒を軽んじた愚かしさが、彼らを何一つ獲得できない無為な終焉へと直行させた。

 

(いやだ。いやだ、いやだ、いや、だ)

 

 胸郭が圧迫され、断末魔の叫びすら上げられない。ごめんなさい、ゆるして、たすけてください。せめて、せめてルージュだけは。声にならない命乞いを無貌の魂食いが聞き入れることはない。ソウルイーターは迂闊な自殺志願者と哀れな同行者を持ち上げ、大口を開けた。そして、まずは絶望の涙を流すフランベを頭から、

 

「………え?」

 

 フランベは呆気に取られた。彼はルージュと共に空中に放り出されていた。宙を舞う赤紫の指の向こうには、首から上が消失したソウルイーターの骸。

 彼は辛うじて視界に捉えていた。通路の端から端までを薙ぎ払った漆黒の光、にわかには信じ難い長大な霊刃(エッジ)の一振りを。そして認識した。斬撃の軌道上にいたにもかかわらず、()()()()()()()()()()()()()を。

 

 不自然にゆっくりと流れていく視界に映ったのは、理外の斬撃を放った張本人たる黒い外套の男。振り抜かれた両手に握られているのは、身の丈を上回るほどの巨大な両刃剣。その刀身は靄がかった漆黒の闇を纏い、グリッチノイズじみて輪郭を絶えず流動させている。

 そして、黒衣の剣士の傍らにはもう一人、否、もう一柱(ひとり)。露出度の高いドレスのような衣に身を包んだ、黒い髪と血のように紅い瞳の少女。男の剣が纏う闇は少女の内から漏れ出たものだった。彼女は人間ではなく、ヒト型の星霊(アストラル)であった。

 

 フランベは強かに尻餅をつき、もはや立ち上がれなかった。ルージュが力を振り絞って地面を這いずり、得体の知れない二名(ふたり)連れからフランベを庇うように立ち塞がった。しかし、黒衣の剣士は彼らに目もくれなかった。星霊の少女の紅い瞳が威嚇の声を発するルージュを一瞥したが、それだけだった。

 

「黒き……剣」

 

 フランベは呆然と呟いた。聞いたことがある。開拓王カインが件のプロモーション映像で言及していた凄腕の冒険者。霊都議会の認可を受けず、属さず、まつろわず、己の意志の赴くままに星界を旅する無法者(アウトロー)。「黒き剣」の異名をとる名付きの星。

 そして、その契約星霊。曰く、彼女と契約を交わしてしまった者は、一人残らず、例外なく───……。

 

「……ひっ!」

 

 フランベは我に返り、悲鳴を上げた。通路の各所にどす黒い染みが生じ、その中から不健康な赤紫の腕が生えてきた。一匹、二匹……次々とソウルイーターが出現し、生者の魂を嗅ぎつけて舌舐めずりする。

 腰を抜かしたフランベの横を通り過ぎ、黒衣の剣士は両刃剣を胸の前で上向きに固定した。そして、柄を握る手をそれぞれ反対方向にスライドさせると、剣が二つに分かれた。すなわち、片刃の二刀へと。

 

「消えろ」

 

 黒衣の剣士は端的に言い捨てた。肝を潰したフランベはルージュを首元に呼び寄せ、生きた心地もなく這うようにして逃げ去った。

 彼は一度だけ振り向いた。剣士が両腕から放つ漆黒の剣閃が、黒い嵐となって複数体のソウルイーターを解体していく。一匹だけで己の部隊を壊滅させた怪物の群れを、鎧袖一触に薙いでゆく黒き剣。その凄まじき光景に、フランベは数刻前の己を呪った。名付きの星に? 俺が? 身の程を知らない新米の何と愚かしく、何と滑稽であったことか。()()の輝きに網膜を灼かれ、既に彼の心は折れていた。

 

「無理だ……最初から無理だったんだ、俺なんかには……痛ッ!?」

 

 耳朶に走った鋭い痛みがフランベの泣き言を中断させた。首元に巻きついたルージュが首をもたげ、鳴き声を発する。フランベにはそれが彼女の叱咤だと理解できた。彼は猛省し、涙ながらにルージュに詫びた。

 

「……ごめん。ごめんなぁ、ルージュ……!」

 

 ルージュの言葉に耳を貸さずに失敗し、成功も失敗も己ゆえと思い込んで絶望に暮れた。己の蒙昧さにほとほと嫌気が差す。フランベがこれまで積み上げてきたすべては、彼女と共にあったというのに。

 

「これからだ。俺たちはこれからなんだ、ルージュ。今は無理だ、どうやっても歯が立たない。でもいつか、いつの日か」

 

 フランベは叫んだ。ルージュに誓約するように、そして己に言い聞かせるように。誰もが初めから成功者であったものか。冒険を重ね、死線を潜り、その先でようやく栄光の扉が開くのだ。───今はまだ名無しの星屑。けれど、いつか。いつの日か。

 

◇◇◇◇◇

 

 星界(ステラ)に到来するは、太陽なき夜の時代。

 絶対なる権勢を誇った旧王国は斃れ、あまたの星々が我こそは夜空の一等星たらんと名乗りを上げる可能性の時代。

 太陽に取って代らんとする異星が集い、その光が交錯する時、新たな物語が幕を開けるのだ。

 

 

『アストラネットの異星群像(アザースターズ)

 

 

 ───第一の幕を開くのは、運命(さだめ)を呪う黒き剣と、凶星(まがつぼし)の魔女の出逢いであった。

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