ポケモン最強トレーナー・サトシ、バレンタインで好感度が限界突破している件 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
展望デッキで四人のライバルたちから「王者の責任」を突きつけられたオレは、少しだけ重くなった足取りで自室に戻った。
ドアを開けると、そこには夜食の準備を整えたタケシと、パソコンを閉じてオレを待っていたゴウがいた。
「おかえり、サトシ。……少し、冷えたんじゃないか?」
タケシが、湯気の立つ特製スープを差し出してきた。
「サンキュー、タケシ。……なんだか、今日は色んな奴に色んなことを言われてさ」
オレが展望デッキでの出来事を話す。
ゴウは少しだけ苦笑いして、自分のベッドに腰掛けた。
「……あいつららしいな。でもサトシ、あいつらがわざわざ四人で現れたのは、お前ならその重さに耐えられると信じているからだよ」
「重さ、か……」
スープを一口すすると、タケシの優しさが体に染み渡るようだった。
「サトシ。お前はこれまで、ポケモンドクターを目指す俺や、全てのポケモンをゲットしたいと願うゴウの夢を、誰よりも真っ直ぐに応援してくれた。……それは、お前自身の心に迷いがないからだ」
タケシが、鍋を片付けながら静かに語りかける。
「けどな、人の『好意』に向き合うのは、バトルの戦術を練るのとは少し違う。それは相手の人生を半分背負うようなものだ。お前がこれまで無意識に避けてきた……あるいは気づかないフリをしてきた『答え』を、明日は出さなきゃならない」
「相手の人生を、背負う……」
オレの脳裏に、これまでの旅で出会ったヒロインたちの笑顔や、時折見せる寂しそうな表情が次々と浮かんできた。
「俺もさ、コハルに自分の気持ちを伝えた時、怖かったよ」
ゴウが、少し照れくさそうに、でも誇らしげに言った。
「でも、伝えたからこそ、今は前よりもずっと高い場所を目指せる気がしてるんだ。サトシ。お前は世界最強のトレーナーだろ? だったら、仲間の想いを受け止めることくらい、楽勝なはずだよ」
「ゴウ……」
「ピカピ……」
ピカチュウも、ゴウの言葉に同意するようにオレの膝を叩いた。
オレは、スープの入った器をギュッと握りしめた。
「……オレ、怖がってたのかもしれないな。関係が変わっちゃうのが、バトルのように明確な勝ち負けがないのが。……でも、みんながオレを信じて想いをぶつけてくれるなら、オレも『最強』の誠実さで返したい」
「ああ、それでこそサトシだ」
タケシが満足そうに頷き、オレの肩を強く叩いた。
「さあ、明日は早いぞ。しっかり寝て、万全のコンディションで『嵐の一日』を乗り越えろ!」
「おう! ありがとな、タケシ、ゴウ!」
消灯した部屋の中、窓の外には学園のテラリウムが静かに輝いている。
隣のベッドから聞こえる二人の寝息が、オレの心を不思議と落ち着かせてくれた。
友情、ライバル心、そしてまだ名前の付けられない大切な想い。
それら全てを背負って、オレは明日、新しい「日常」の扉を開ける。
ポケモンマスターへの道は、バトルの先だけにあるんじゃない。
この胸の鼓動の先にも、きっと続いているんだ。