ポケモン最強トレーナー・サトシ、バレンタインで好感度が限界突破している件 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
バレンタインデー当日の午後。オレはテラリウムドーム内のキャニオンエリアで、切り立った岩場を登る修行を終え、地面に飛び降りた。
昨夜、シゲルたちから受けた言葉がずっと胸に響いている。
誰かがオレに想いを伝えてくれるなら、オレもそれに相応しい自分でありたい。
そう思うと、体を動かさずにはいられなかったんだ。
「……ふぅ。よし、このくらいかな」
汗を拭ったその時、岩場の陰からアイリスが姿を現した。
いつもの快活な様子とは違う。口を真一文字に結び、顔を真っ赤にして、手に小さな袋をぎゅっと握りしめている。
「アイリス! どうしたんだ、こんなところで」
「……サトシ。特訓、終わったの?」
アイリスは一歩、オレの前に踏み出した。
いつものように「子供ね」とからかう余裕はなさそうで、その瞳は見たこともないほど真剣にオレを射抜いている。
「サトシ、よく聞きいて。ずっと『子供ね』って言ってきたけど……それは、誰よりも真っ直ぐで、危なっかしくて、目が離せないからよ」
アイリスの声は、少しだけ震えていた。
「私はドラゴンマスターを目指して、どんどん高みへ行くわ。でも……その最高に輝く場所で、私の隣にいてほしいのは、サトシ…しかいないんだから!」
アイリスは手に持っていた袋を、オレの胸元に突き出した。
「だから、お願い! サトシ……大好きよ! 私はサトシの特別になりたいし、サトシにも私の特別になってほしいの!」
(アイリス……。あの『子供ね』って言葉に、そんな想いが詰まってたのか!)
突き出された袋を通じて、アイリスの熱い鼓動が伝わってくる。
喧嘩して、競い合って、一緒に旅をした最高のライバル。
そのアイリスが、オレという人間を全部受け止めた上で、これからの未来を一緒に歩もうと、魂をぶつけてくれている。
「……アイリス。ありがとう。お前のその真っ直ぐな気持ち、本気で受け止めたぜ」
オレは袋を大切に受け取り、彼女の目をじっと見つめた。
「でも……正直に言う。今のオレには、すぐに返事をすることはできない。お前が勇気を出して伝えてくれた想いに、オレも一番カッコいい答えを用意したいんだ」
「返事はどうなのよ! って言いたいけど……」
アイリスは少し唇を噛んだが、オレの目を見て、ふっと優しく微笑んだ。
「そうやって真剣な顔をしてる時は、逃げないって知ってるわ。……そういうところも、本当に真っ直ぐなんだから」
オレは頷き、言葉を続けた。
「ホワイトデーまで、時間をくれないか。必ず、お前に相応しい『最高の答え』を出す。約束だ!」
アイリスは少し照れくさそうに、満足そうに鼻を鳴らした。
「……わかったわ。約束よ、サトシ。期待させて裏切ったりしたら、それこそ本当に『子供』なんだからね!」
アイリスはそう言い捨てると、最後に一度だけオレを振り返り、疾風のように岩場の向こうへ去っていった。
一人残されたエリアに、アイリスの言葉の余熱が漂っている。
ドラゴンマスターを目指す彼女の隣に立つために、オレももっと強く、誠実にならなきゃいけない。
岩場を吹き抜ける風が、いつもより熱く感じられた。