ポケモン最強トレーナー・サトシ、バレンタインで好感度が限界突破している件 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ブルーベリー学園のカフェテリア。
夕食前の時間は人影もまばらで、窓の外では夕焼けが群青色の夜に溶け込み始めていた。
オレは窓際の席で、冷めきった水を見つめていた。
「ピカピ……」
膝の上で丸くなるピカチュウに、オレは小さく微笑みかける。
一人ひとりの想いと向き合うたびに、心は削られていく。
けれど、正面からぶつかることこそが、相手がくれた勇気への唯一の恩返しだと、オレは自分に言い聞かせていた。
扉が開き、オレンジ色のバンダナを揺らしてハルカがやってきた。
「ごめん! サトシ! 待たせちゃったかな」
明るく振る舞おうとしているが、ハルカの肩はわずかに強張っている。
オレは彼女を向かいの席に促し、その瞳をじっと見つめた。
「ハルカ。……悪い。気持ちには、応えることができない」
叫ぶのではなく、一文字ずつ噛みしめるように、オレは本音を口にした。
「……そっか。そうだよね」
ハルカは顔を覆うこともせず、テーブルに置いた手を固く握りしめた。
「サトシが、そうやって真っ直ぐに答えてくれるって、どこかで信じてたよ。だから……ちゃんと聞けてよかった」
ハルカは無理に笑おうとしていたが、その瞳には既に涙がにじんでいる。
「ハルカは、最初は何となく旅を始めたはずなのに、いつの間にか自分だけの夢を見つけて、誰よりも輝くコーディネーターになった。……その情熱は、
本当に凄いと思ってる。でも、オレの心には、生涯を懸けて守りたいと決めた大切な約束があるんだ」
(……そうだ。ずっと胸に秘めてきた、あの笑顔がある。その存在に背中を押されて、オレはここまで来られた。ここで中途半端な自分を見せるわけにはいかない)
決意を胸に、オレは言葉を続けた。
「ハルカが目指す最高の舞台は、誰かの隣にあるものじゃない。ハルカ自身が、その明るさと強さで掴み取るものだ。……オレは、ポケモンマスターを目指す。別の場所からだけど、夢を誰よりも応援してる」
「ずるいよ、サトシ……。それじゃ、もっともっと強くなって、見返してやるしかなくなるじゃない」
ハルカは涙を拭おうともせず、凛とした表情でオレを見つめ返した。
「わかったわ。サトシ! いつか、私がグランドフェスティバルの頂点に立ったら、特等席に招待してあげる。その時、私を振ったことを後悔するくらい、世界一のコーディネーターになってるんだから!」
ハルカはそう叫ぶと、溢れ出した涙を隠すように、勢いよく席を立って駆け出していった。
その後ろ姿を見送った後、オレはカフェテリアの入り口に立っていたマサトに気づいた。
マサトは姉を追いかけるのを一瞬堪え、オレに向かって静かに頭を下げた。
その表情には、姉を泣かせた相手への恨みではなく、交わした「男の約束」……姉を一人のトレーナーとして真っ向から扱ったオレへの、静かな敬意が宿っていた。
マサトは一度だけ強く頷き、姉を追って夜の廊下へと消えていった。
一人残されたテーブルで、オレはハルカが残した涙の跡を見つめていた。
(ハルカ、ありがとう。……その光に負けないくらい、オレも、決断の先にある未来へ突き進むぜ)