ポケモン最強トレーナー・サトシ、バレンタインで好感度が限界突破している件 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ブルーベリー学園、ユニオンルーム。
生徒たちの喧騒が消えた多目的ステージの上で、オレは一人、スポットライトの残像を見つめていた。
ここはパフォーマーやコーディネーターが自分を表現する場所。
セレナをここに呼び出したのは、セレナがカロスで手に入れた「自分の足で歩く強さ」を、オレが誰よりも認めているからだ。
「ピカチュウ、もう少しだけ……。見守っててくれ」
「ピカ……」
肩の上で、ピカチュウが優しく寄り添う。
かつて、カロスで別れる時、オレに、最高の「勇気」をくれた。
その勇気に答えを出すために、オレは今日、ここに立っている。
「サトシ。……やっぱり、ここにいたんですね」
暗がりから、眼鏡を光らせたシトロンが歩み寄ってきた。
「シトロン。……悪い、邪魔したか?」
「いえ。発明の調整をしていただけですから。……サトシ。セレナさんは、あの別れの日からずっと、サトシを追いかけるだけでなく、自分だけの光を見つけるために旅をしてきました。今のセレナは、もう守られるだけの女の子じゃありません。一人のパフォーマーとして、正面から向き合ってあげてください」
シトロンは静かに一礼すると、親友としての配慮を見せるように、廊下の奥へと消えていった。
直後、扉が開く。 そこにいたのは、落ち着いた、でもどこか華やかな空気を纏ったセレナだった。
瞳は、オレを真っ直ぐに捉えている。
その視線だけで、今日この日のために、どれほどの覚悟を積んできたかが分かった。
「サトシ。呼んでくれて、ありがとう」
セレナはステージの前まで歩み寄り、静かに足を止めた。
「ホワイトデーの、返事……。聞かせてくれるかな」
オレは、逃げずにセレナの瞳を見つめた。
「ああ。セレナの気持ち、本当に嬉しかった。あのアスカナ駅でくれた勇気、今でも忘れてない。……でも、オレは、想いに応えることはできない。ゴメン!!」
一瞬の静寂。
セレナは目を伏せることもなく、ただ微かに肩を揺らした。
「……そっか。うん。そうよね。サトシなら、そう言うって、どこかで分かってた気がする」
小さく、でも凛とした声で言った。
「オレの言葉を支えにしてくれたって言ったけど、オレの方こそ、セレナが頑張る姿に何度も勇気をもらったんだ。だからこそ、オレは『サトシを追いかけるセレナ』のままでいさせたくない。世界一のパフォーマーを目指すセレナは、誰かの隣にいるためじゃなく、自分の夢を叶えるために輝くべきなんだ」
セレナの瞳に、ゆっくりと涙が溜まっていく。
「……残酷だよ、サトシ。私が好きになったのは、そういう……自分の夢にも、他人の夢にも、絶対に嘘をつかない真っ直ぐなところだったのに」
一粒の涙を指で拭うと、最高に美しい笑顔を作って見せた。
「わかったわ、サトシ。私、決めた。私を振ったこと、世界で一番後悔させてあげる! サトシがポケモンマスターになった時、私がその頂点で、一番眩しい光になって祝福してみせるから。それが、私の新しい『約束』よ」
セレナは、カロスでのあの時と同じように、強く、気高く微笑んだ。
そして、今度は一度も立ち止まることなく、自分の未来へ向かって、真っ直ぐにユニオンルームを去っていった。
一人残されたステージで、オレはセレナが去った扉を見つめていた。
恋愛という形では、手を取ることはできなかった。けれど、セレナがくれた「勇気」は、今、お互いの夢を高め合うための「誓い」に変わった。
「ピカチュウ。……オレも、もっと高い場所へ行かなきゃな」
夜の闇が降りたユニオンルームで、オレは静かに、でも確かな足取りで一歩を踏み出した。