ポケモン最強トレーナー・サトシ、バレンタインで好感度が限界突破している件   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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竜の心と、重なる鼓動(1/8の可能性・前編)

オレは今、テラリウムドームのジャングルエリアを歩いている。

午前中の明るい陽射しが木々の間から差し込んで、葉っぱの露がキラキラ光っている。

 

いつもなら「すっげー! 最高の気分だ!」って走り出すところだけど……今のオレは、ポケットの中にある小さな袋を握りしめたまま、さっきから同じ場所をぐるぐる回っている気がする。

 

昨日、デントに「今日の君はいつもと違う香りがするね」なんて言われた時は「何言ってんだよ」って笑い飛ばした。

けど、いざアイリスに会ってお返しを渡そうと思うと、急に足がすくむ。

 

アイリスは、イッシュ地方で一緒に旅をした大事な仲間だ。

何度も「子どもね!」ってからかわれて、そのたびに言い返してきた。

 

けど、マスターズトーナメントでアイリスの全力のバトルを見た時、オレはアイリスの中に、今まで気づかなかった「強さ」と……それから、なんだかうまく言えないけど、すごく綺麗なものを見た気がしたんだ。

 

(もし、これを受け取ったアイリスが、いつものみたいに笑わなかったら……。アイリスが、見たこともないような女の子らしい顔をしたら、オレ……どうすればいいんだ?)

 

そう思うだけで、心臓がバクバクして、バトルの時よりずっと息が苦しくなる。

 

「……ピカ?」

肩の上のピカチュウが、心配そうにオレの顔を覗き込んできた。

 

「大丈夫だって、ピカチュウ。……よし、行くぞ!」

オレが自分に言い聞かせるように一歩踏み出した、その時だった。

 

「サトシ。そのステップ……今の君は、かつてないほど繊細で、情熱的なフレーバーを纏っているね」

 

木陰からデントが静かに姿を現した。

彼は茶化すような雰囲気ではなく、二人の間に流れる真剣な空気を尊重するように、穏やかな眼差しを向けている。

 

「デント……」

 

「僕が口を挟むまでもないだろう。君はもう、最高の『答え』という名のレシピを完成させている。アイリスは……ドラゴンマスターを目指す彼女は、嘘偽りのない真っ直ぐな想いだけを、正面から受け止めるはずだよ。さあ、テイスティングの時間は今だ」

 

デントは優雅に一礼すると、それ以上は何も言わず、サトシが通るべき道を空けるように身を引いた。

その静かな後押しに、オレの背中がスッと軽くなった。

 

(アイリス、どこにいるんだ……)

 

「――なーに、サトシ。さっきから行ったり来たりして。……相変わらず、子どもね」

 

頭の上から聞こえてきた声に、心臓が跳ねた。

見上げると、アイリスがツタを掴んでスルスルと降りてくるところだった。

 

アイリスはいつものように不敵に笑っている。

……けど、何か違う。

 

いつもならそのまま飛び降りてくるはずなのに、今日はツタにぶら下がったまま、少し離れた位置で止まった。

 

「アイリス……。あ、あのさ」

 

「……う、うん」

 

アイリスがじっとオレを見つめる。

その瞳は、バトルの時の鋭さとは違う、何かを確かめるような熱を持って潤んでいるように見えた。

 

(そうだ。アイリスは、待ってるんだ。オレの答えを……)

 

そう自覚した瞬間、ポケットの中の袋が急に熱を持ったみたいに感じられた。

沈黙が流れる。ジャングルのポケモンたちの鳴き声が遠くに聞こえる。

 

「サトシ。……今日は、何の日か忘れてないよね?」

 

アイリスの声が少しだけ震えていた。

強気な言葉とは裏腹に、彼女の手がツタをギュッと握りしめている。

 

アイリスは知っているんだ。

オレが今日、ここに来た意味を。

 

「忘れるわけないだろ。オレ、お前に……」

 

オレは一歩、アイリスの方へ踏み出した。

「アイリス!」

 

「……っ」

アイリスが肩を震わせる。

 

オレはポケットから袋を取り出し、まっすぐに彼女に差し出した。

「これ、バレンタインのお返しだ。……受け取ってくれ!」

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