ポケモン最強トレーナー・サトシ、バレンタインで好感度が限界突破している件 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
テラリウムドーム、コーストエリア。
どこまでも続く青い海と、真っ白な砂浜。
この景色は、アローラで過ごしたあの熱い日々を思い出させる。
オレは砂浜に座り込んで、打ち寄せる波をじっと眺めていた。
ポケットの中には、小さな箱が入っている。指先で触れるたびに、スイレンの穏やかな、でも時折見せるいたずらっぽい笑顔が頭に浮かんでくる。
「……スイレン」
名前を呼ぶだけで、胸の奥がギュッとなる。
アローラのスクールで一緒に過ごしていた頃は、釣りを楽しんだり、冗談を言い合ったりするのが当たり前だった。
でも、今は違う。あの日、スイレンから受け取った想いに、オレは自分の「全力」で応えなきゃいけないんだ。
(……でも、いざとなると、なんて言えばいいのか……)
バトルなら迷わず突っ込んでいけるのに、この気持ちを伝える言葉だけが、どうしても見つからない。
「――情けない顔をするな、サトシ!」
背後から、燃えるような熱気を孕んだ声が響いた。
振り返ると、そこには腕を組み、仁王立ちでオレを睨みつけるカキの姿があった。
「カキ……お前、いつからそこに!」
「お前が海を前にして、煮え切らない態度で座り込んでいる時からだ。……サトシ! お前がアローラの初代チャンピオンだというのなら、その覚悟も『ゼンリョク』で示してみせろ!」
カキは一歩踏み出し、交わした約束を思い起こさせるような、真剣な眼差しでオレを見据えた。
「スイレンは、静かな海のように深い心を持っている。だが、その奥底に秘めた情熱は、俺たちのZワザにも負けないくらい熱いものだ。……あの子を不安にさせるな。お前が選んだ答えが真実なら、その火を消さずに、真っ直ぐにぶつけてこい!」
カキはそう言うと、オレの背中を、熱い衝撃が走るほど強く叩いた。
「……っ! 痛ってぇな……。けど、目が覚めたぜ」
オレは立ち上がり、肩を回してカキに向き合った。
「サンキュー、カキ! オレ、逃げたりしない。スイレンに、オレの本当の気持ちを全部伝えてくる!」
「フン、その意気だ。……行ってこい!」
カキの激励を受け、オレは波打ち際を走り出した。
目指すのは、スイレンがよく釣りをしているという、エリアの端にある静かな入り江だ。
しばらく走ると、岩場に腰掛けて、長い釣り竿を海に垂らしているスイレンの背中が見えてきた。
風に揺れる短い青髪。 その背中は小さく見えるけれど、オレにとっては世界中の誰よりも大きく、大切な存在。
「スイレン……!」
オレは、彼女の隣まで一気に駆け寄った。
スイレンは驚いたように顔を上げ、それからいつものように、ふわりと微笑んだ。
「……サトシ。待ってたよ。今日は大物が釣れる予感がしてたんだ」
その言葉が、ただの釣りの話じゃないことは分かっていた。
スイレンの瞳は、静かな海のように澄んでいるけれど、その奥にはオレの言葉を待つ「覚悟」が宿っている。
オレは震える手で、ポケットからあの箱を取り出した。
「スイレン、これ……バレンタインのお返しだ。受け取ってくれ!」
夕陽が海に溶け始め、コーストエリアを幻想的な蒼とオレンジに染めていく。
二人の間に、潮騒だけが響く熱い時間が流れ始めた。