ポケモン最強トレーナー・サトシ、バレンタインで好感度が限界突破している件   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

40 / 53
最高のパートナーから、その先へ(1/8の可能性・前編)

テラリウムドーム、ポーラエリア。

 

放課後の静まり返った雪原に、オレの吐き出す白い息がゆっくりと溶けていく。

人工雪が淡く光を反射し、どこまでも白い世界が広がっていた。

 

寒さは嫌いじゃない。

シンオウを旅していた頃、雪の中を何度も進んできたからな。

 

――それでも。

 

ポケットの中にある小さな袋が、歩くたびにカサリと音を立てる。

その音が鳴るたびに、心臓が一拍、早く跳ねた。

 

(……落ち着け、オレ)

 

バトル前なら、こんな風に足が止まることはない。

なのに今日は、前に進むだけなのに、やけに勇気がいる。

 

「……ッ」

 

少し先に、見覚えのある後ろ姿があった。

 

白銀の景色を背に、ポッチャマと並んで雪原を眺めているヒカリ。

肩まで伸びた髪の先が、冷たい風に揺れている。

 

学園では、毎日顔を合わせている。

同じ授業を受けて、食堂で並んで、バトルでも組む――

 

それが当たり前の日常。

さっきの授業だって、一緒だった。

 

「今日、寒いねー」

なんて、いつも通り笑って話したばかりだ。

 

……それなのに。

いざ「お返し」を渡そうと思うと、足が前に出ない。

 

(最高のパートナー、だからか)

 

隣にいるのが当たり前になりすぎて、その関係を変える一歩が、怖い。

その時だった。

 

「――相変わらず、ぬるいな」

 

背後から響いた、低く、氷のように澄んだ声。振り返らなくても分かった。

 

「……シンジ」

 

この学園に交換留学生として来ている、かつての宿敵。今も変わらず、鋭い気配をまとってそこに立っていた。シンジは腕を組んだまま、感情の読めない瞳でオレを射抜く。

 

「何を立ち止まっている。そんな無意味な時間を費やすのが、今の貴様の全力か」

 

「そんなんじゃねえよ。オレは……」

言いかけて、言葉に詰まる。

 

シンジは、ほんの一瞬だけ目を細めた。

「迷うなら、やめておけ。だが……」

 

シンジは一歩近づき、低い声で続けた。

「ヒカリを待たせるな。貴様が選んだ答えが、ただの『思い出作り』ではないのなら、その覚悟を証明してこい」

 

それだけ言うと、シンジはすれ違いざまに、オレの肩をドンッと強く突き放すように叩いた。

不意の衝撃に、足が雪を蹴る。

 

「……っ、分かってるよ!」

反射的に声が出た。

 

「サンキュー、シンジ!」

振り返ると、シンジは一度もこちらを見ることなく、吹雪の向こうへと歩いていくところだった。

 

(……あいつなりの、喝だな)

 

昔から、余計なことは言わない。

でも、核心だけは外さない。胸の奥が、じんわりと熱くなる。

 

「よし……!」

オレは、そのまま真っ直ぐに走り出した。

 

雪を踏みしめる音が、静かなポーラエリアに響く。

その音に気づいて、ヒカリがゆっくりと振り返った。

 

「あ、サトシ」

 

予想していたみたいに、穏やかに笑う。

「やっぱり、ここに来た」

 

白いニット帽の端を、指先でいじりながら。

少しだけ、照れくさそうに。

 

(……分かってたのか)

 

ポッチャマもこちらに気づき、「ポチャ?」と小さく鳴いたあと、空気を読んだみたいに少しだけ距離を取る。

 

「ヒカリ」

 

オレは、ヒカリの前で足を止めた。

息を整える暇も惜しくて、ポケットに手を伸ばす。

 

「……これ」

袋を取り出し、まっすぐ差し出す。

 

「バレンタインのお返しだ。受け取ってくれ!」

 

「……っ」

 

ヒカリの瞳が、はっきりと揺れた。

毎日会っている「最高のパートナー」としての日常が、その一瞬で、別の色に塗り替えられる。

 

ヒカリは一度、袋とオレの顔を見比べてから、震える手で、ゆっくりと――でも、逃げずに受け取った。

 

「……ありがと、サトシ」

胸元で袋を抱きしめる。

 

「信じてたよ」

顔を上げ、まっすぐに笑う。

 

「……『大丈夫!』ってね」

いつもの口癖。

 

でも、その声は微かに震えていて、潤んだ瞳には、隠しきれない想いが溢れていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。