ポケモン最強トレーナー・サトシ、バレンタインで好感度が限界突破している件 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
差し出した袋を、ヒカリは胸元でぎゅっと受け止めた。
その指先には、はっきりと力が入っている。
ヒカリがこの瞬間を、静かに、けれど熱く待っていたことが、痛いほど伝わってきた。
「……ありがと」
ヒカリは袋を大事そうに抱えたまま、顔を上げる。
「サトシなら来てくれるって、分かってたよ」
自信に満ちた笑顔。
それは、コンテストステージで優勝を決めた時と同じ、まっすぐで強い笑顔だった。
毎日、学園の教室や食堂で当たり前に顔を合わせている。
隣に座って、同じ課題に頭を悩ませて、バトルで張り合って――それが日常。
でも、今日渡すお返しには、いつもの「じゃあね」や「また明日」とは違う重みがあった。
二人とも、それを言葉にしなくても理解している。
少し離れた場所で、ポッチャマが足踏みしながらこちらを見ていた。
ちらちらとこちらを気にしているのが、いかにもヒカリの相棒らしい。
「ヒカリ」
氷を踏む靴底が、きゅっと小さく鳴る。
さっき、シンジに突かれた背中の感触が、まだ残っている。
――逃げるな。
――決めたなら、言え。
その熱を、確かな決意に変えて、オレは言葉を続けた。
「お返しだけじゃなくて……ちゃんと言葉でも伝えたいんだ」
一瞬、ポーラエリアの静寂が、さらに深くなった気がした。
「……。……うん、聞かせて」
ヒカリは逸らすことなく、真っ直ぐにオレを見つめる。
その瞳には、迷いも不安もない。
ただ、オレの言葉を受け止める覚悟があった。
シンオウを旅していた頃から、ヒカリはいつだって前向きだった。
負けても、落ち込んでも、「だいじょうぶ!」と自分に言い聞かせて、次へ進む。
「一ヶ月前……」
オレは、あの日を思い出しながら言葉を選ぶ。
「想いを受け取った時、改めて気づいたんだ」
白い息が、言葉と一緒に宙へ溶けていく。
「ヒカリは最高のパートナーだ。バトルでも、学園でも……ずっと背中を預けてきた。でも、それだけじゃ足りないって思ったんだ。これから先も、勝っても負けても、迷っても……ずっと一番近くにいてほしいって」
オレは、一番伝えたかった言葉を、逃げずに、はっきりと口にした。
「ヒカリ。オレは、ヒカリが好きだ。パートナーとしてだけじゃなく、恋人として……これからも、オレの隣にいてくれ!」
「っ……!」
ヒカリの瞳が、一瞬だけ潤んで揺れた。
それでも彼女は、泣く代わりに、こぼれそうな感情を押し込めるように笑う。
ヒカリは勢いよく、一歩踏み出した。
そして、そのままオレの胸に飛び込んでくる。
「……当たり前でしょ!」
厚手の制服越しでも分かる、確かな体温。
「私たちなら、これからも一緒なのが――『大丈夫!』なんだから!」
弾む声は、ヒカリそのものだった。
冷たいポーラエリアの空気の中で、その言葉だけが、ひどく温かい。
オレは、迷わずヒカリを抱きしめ返した。
腕の中の感触が、現実だと何度も確かめるみたいに。
遠くで氷がきしむ音。夕陽に染まった雪原が、二人の影を長く伸ばしていく。
毎日会っている日常の続き。
明日からは、昨日までとは少しだけ違う。
最高のパートナーであることに変わりはないけれど、その先へ進んだ、もっと特別な毎日。
「……なあ、ヒカリ」
オレが小さく呼ぶと、彼女は腕の中で顔を上げた。
「なに?」 その笑顔を見て、胸の奥がまた熱くなる。
「これからもよろしくな。オレの……恋人」
一瞬きょとんとしたあと、ヒカリは照れたように、でも誇らしげに笑った。
「うん! まかせて!」
ポーラエリアの夕陽が、完全に雪原の向こうへ沈みきる少し前。
オレたちは、名残惜しそうにゆっくりと体を離した。
「……へへ」
ヒカリは少し照れたように笑うと、急に一歩下がった。
「なにって――決まってるでしょ」
そう言って、ヒカリはぐっと拳を握り、オレの前に突き出した。
「これからも一緒に頑張るんだからさ。パートナーで、恋人で……それでもやっぱり、私たちらしく!」
一瞬で分かった。
シンオウを旅していた頃から、何度も何度もやってきた、あの合図だ。
「……ああ、そうだな!」
オレも拳を作り、ヒカリの手に合わせる。
「最高のパートナーから、その先へ――だ!」
「うん!」
二人同時に、手を振り上げる。
「「ハイタッチ!」」
パチン!
澄んだ音が、ポーラエリアの静寂に心地よく響いた。
氷原の中で交わした誓いと、重なった体温と、いつも通りのハイタッチ。
全部ひっくるめて――これが、オレたちの答えだった。