ポケモン最強トレーナー・サトシ、バレンタインで好感度が限界突破している件 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
テラリウムドーム、ジャングルエリア。
生い茂る巨大なシダの葉の間から、湿り気を帯びた熱風が吹き抜ける。
頭上を飛び交うポケモンたちの鳴き声が、かつてハルカと一緒に旅をしたホウエン地方の深い森を思い出させる。
オレは、ポケットの中にある小さな箱を握りしめていた。
中身は、ハルカに似合うと思って選んだ、情熱的な赤色に輝くリボン型のブローチだ。
(……ハルカ)
頭の中に浮かぶのは、コンテストのステージで華麗に舞うハルカの姿。
出会った頃は「ポケモンなんてあんまり……」なんて言っていた彼女が、今や「ホウエンの舞姫」と呼ばれるほど立派なコーディネーターになった。
そんなハルカと、学園で再会してから今日まで、何度も一緒にバトルをして、何度も美味いものを食い歩いてきた。
「サトシ、見て見て! このフルーツ、すっごく美味しいよ!」って笑うハルカの横顔を見るたびに、胸の奥が熱くなる。
でも、今日伝えようとしているのは、ただの「旅の仲間」としての言葉じゃない。
「……ッ」
足が止まる。 いざ目の前にハルカがいると思うと、バトルの時とは違う種類のプレッシャーがオレを襲う。
その時だった。
「――何を立ち止まっているんだい、サトシ」
聞き覚えのある、少し背伸びをしたような声。
振り返ると、眼鏡の奥で鋭い光を放つマサトが立っていた。
かつては小さかったマサトも、今では一人前のトレーナーとして、大人びた雰囲気を纏ってそこに立っている。
「マサト……。ハルカは?」
「姉さんなら、この先の『生命の広場』で、アゲハントと新しい演技の練習中だよ」 マサトは腕を組み、「男の約束」を試すようにオレを真っ直ぐに見据えた。
「サトシ。姉ちゃんは、君が来るのをずっと待っている。口では言わないけど、君がホワイトデーにどんな『答え』を持ってくるか、期待と不安でいっぱいなんだ」
マサトが数歩近づき、低い声で続けた。
「……姉ちゃんは、一度決めたら曲げない強さを持っている。でも、大好きな人の前では、誰よりも繊細なんだ。サトシ。君が姉さんを幸せにする覚悟がないなら、今すぐ引き返してくれ。でも、もし本気なら……僕に『この人なら姉さんを任せられる』って思わせてくれよ」
マサトの言葉は、弟として、そして一人の男としての真剣な喝だった。
その想いが、オレの胸に熱く突き刺さる。
「……当たり前だろ、マサト」
オレはマサトの肩をガシッと掴んだ。
「オレはもう決めたんだ。ハルカを、世界一幸せにするって。お前が心配する必要なんてないくらい、真っ直ぐに想いをぶつけてくる!」
「……ふん。期待してるよ、サトシ」
マサトは少しだけ照れくさそうに笑い、静かに道を譲った。
「サンキュー、マサト!」
オレは熱気に満ちた森を走り出した。
シダの葉を掻き分け、極彩色に咲き誇る花々の間を抜けていく。
視界が開けた先、広場の中央でアゲハントと優雅に舞うハルカの姿が見えた。
「ハルカーーーッ!!」
声を限りに叫ぶ。
ハルカが驚いたように振り返る。
その瞬間、オレたちの視線が交差した。
もう、迷いはない。オレの「全力」を、今ここでハルカに届けるんだ。