ポケモン最強トレーナー・サトシ、バレンタインで好感度が限界突破している件 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
オレの呼びかけに、アゲハントと舞っていたハルカがピタリと動きを止めた。
極彩色の花々に囲まれた広場で、ハルカは少し肩を揺らしながら、ゆっくりとオレの方を向く。
「……サトシ。来てくれたんだね」
その声は、ジャングルの熱気に溶けてしまいそうなほど、震えていた。
オレは迷わずハルカに歩み寄り、ポケットから紅色のリボンがあしらわれたブローチを取り出した。
「ハルカ、これ……バレンタインのお返しだ。受け取ってくれ!」
「……っ。これ、私に?」
ハルカは両手で包みを受け取ると、愛おしそうに指先でリボンをなぞった。
「ああ。……ホウエンで初めて出会った時、お前の自転車を壊しちゃってさ。そこから始まった旅だったけど、気づけばオレは、ハルカの頑張る姿に何度も勇気をもらってきたんだ」
ステージの上で、誰よりも輝こうと必死に汗を流すハルカ。
時には悩み、涙を流しながらも、自分の力で「舞姫」と呼ばれるまでになったその強さ。
「学園で再会して、また毎日一緒に過ごすようになって……。オレ、分かったんだ。オレの隣にいて一番しっくりくるのは、ハルカだって。お前と食べる飯は最高に美味いし、お前と話してると、どこまでも飛んでいけそうな気がするんだ」
オレは一歩、ハルカのすぐ目の前まで踏み込んだ。
ハルカの潤んだ瞳が、真っ直ぐにオレを射抜く。
「ハルカ。……オレ、お前が好きだ。ただの旅仲間じゃなくて、一人の女の子として……誰よりも、お前のことが愛おしい。これからもずっと、オレの隣で笑っていてほしい。……オレの、恋人になってくれ!」
「サトシ……っ!」
ハルカが泣き出しそうな笑顔で、オレの胸に勢いよく飛び込んできた。
「……嬉しい! 本当に、本当に嬉しい……! サトシがホワイトデーに、そんなに真っ直ぐな想いをくれるなんて……信じて待ってて、本当によかった……っ!」
オレは、ハルカの細い体を力いっぱい抱きしめ返した。
腕の中に伝わるハルカの体温が、ジャングルの熱気よりもずっと熱くて、心地いい。
「これからは、二度とお前を離さない。これから先の冒険も、人生も……全部ハルカと一緒に歩んでいきたいんだ」
「……うん! 私も……私もサトシのことが、世界で一番大好きだよ!」
ジャングルの木々の間から差し込む光が、抱き合う二人を優しく照らし出す。
離れた場所で、マサトがそっと眼鏡を拭いながら、アゲハントと一緒に静かに立ち去っていくのが見えた。
「……なあ、ハルカ」
オレは少しだけ体を離し、真っ赤になったハルカの顔を見つめた。
「これからも、美味いもんいっぱい食べて、最高の景色、一緒に見に行こうな」
「もちろん! ……あ、でも、私のスイーツを横取りするのは禁止だよ?」
ハルカがいつもの元気な調子で笑い、オレの鼻をツンと突いた。
「へへ、それは……バトルの結果次第かな!」
オレたちは顔を見合わせ、幸せを噛みしめるように笑い合った。
だけど、ハルカはふっと笑みを和らげると、繋いでいたオレの手をぐっと自分の胸元に引き寄せた。
「……もう、サトシったら。そういうところは、昔からちっとも変わらないんだから」
そう言って見上げてくるハルカの瞳には、ジャングルの極彩色の花々も霞むくらい、深くて熱い愛情が宿っていた。 そのあまりに綺麗な表情に、オレは思わず生唾を飲み込む。
「……ハルカ」
「でも、そんなサトシだから……私はずっと、目が離せなかったんだよ」
ハルカは少し背伸びをすると、オレの頬に柔らかく、羽が触れるようなキスをした。
一瞬の出来事に、オレの全身が火を吹いたみたいに熱くなる。
「ハ、ハルカ……っ!?」
「あはは! サトシの顔、真っ赤! バトルじゃ負けないけど、こういうのは私の勝ちかな?」
いたずらっぽく笑って駆け出すハルカ。
その赤いバンダナが、ジャングルの緑の中で鮮やかに揺れている。
「――待て、ハルカ! 今のは反則だぞ!」
オレは照れ隠しに声を上げながら、愛おしくてたまらない背中を追いかけて走り出した。
かつて「遥かなる風」に乗って旅をした二人は、今、新しい「恋人」という絆で、さらに高い空を目指して羽ばたき始めたんだ。