ポケモン最強トレーナー・サトシ、バレンタインで好感度が限界突破している件 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
テラリウムドーム、ポーラエリア。
鋭く冷たい空気が肺を焼き、吐き出す息が真っ白に凍る。この厳しくも美しい景色は、アローラでリーリエと一緒に雪山を越えた、あの決死の冒険を思い出させる。
オレは、ポケットの中で冷え切った小さな箱を握りしめていた。
中身は、リーリエの真っ直ぐな瞳のように透き通った、氷の結晶を象ったネックレスだ。
(……リーリエ)
頭の中に浮かぶのは、ポケモンに触れることさえ怖がっていたリーリエが、今や自分の足で立ち、大切なものを守るために戦う強いトレーナーへと成長した姿だ。
学園で再会してからの毎日。
リーリエはいつも丁寧な言葉でオレを励まし、隣で優しく微笑んでくれる。
その淑やかな仕草や、時折見せる芯の強さに触れるたび、オレの胸の奥には、これまでに感じたことのない深い情熱が積もっていったんだ。
「……ッ」
氷の洞窟を抜ける風が、頬を叩く。
いざリーリエに自分の本心をぶつけようと思うと、寒さのせいじゃない震えが指先に走る。
その時だった。
「――待て、サトシ」
鋭く、そしてどこか孤独を孕んだ声が、氷壁に反響した。
振り返ると、銀髪を風になびかせ、鋭い眼差しでオレを射抜くグラジオが立っていた。
かつての宿敵(ライバル)であり、リーリエを誰よりも愛する兄。
「グラジオ……。リーリエは、どこだ?」
「この先の星降るテラスにいる。……だが、その前に答えろ」
グラジオは一歩踏み出し、「男の約束」を今一度問いかけるように、拳を握りしめた。
「サトシ。リーリエは、この学園に来てからも、お前の背中をずっと追い続けてきた。お前が世界チャンピオンになろうとも、あの子の中では『サトシ』という一人の男が、何よりも大きな光なんだ」
グラジオがさらに一歩近づき、低く、重みのある声で告げる。
「……リーリエを泣かせるような真似は、例えお前であっても、この俺が許さない。お前の覚悟は、あの子の人生を丸ごと背負うほどに重いものか? 遊び半分なら、今すぐ引き返せ。だが……」
グラジオの瞳に、兄としての、そして一人の男としての信頼が宿る。
「もしお前が本気で、生涯をかけてリーリエを守り抜くと誓うなら……俺は何も言わん。行け、サトシ。お前の『ゼンリョク』を、妹に見せてやってくれ」
グラジオの言葉は、氷のように冷たく、けれど炎のように熱い激励だった。
「……言われなくても分かってるよ、グラジオ」
オレはグラジオの拳に、自分の拳を力強くぶつけた。
「オレは、リーリエを世界で一番幸せにする。あの子が二度と不安にならないように、オレが一生かけて隣にいるって決めたんだ。グラジオ……安心しろ、リーリエは絶対にオレが守り抜く!」
「……フッ、ならいい」
グラジオは静かに身を引き、道を開けた。
「サンキューな、グラジオ!」
オレは氷の道を走り出した。
凍った地面を力強く蹴り、真っ白な世界を突き進む。
洞窟を抜けた先、オーロラがカーテンのように揺れるテラスに、白いドレスのようなコートを纏ったリーリエが、静かに夜空を見上げている姿が見えた。
「リーリエーーーッ!!」
声を限りに叫ぶ。
リーリエが驚いたように振り返る。
その瞬間、二人の世界に、静寂と熱い鼓動だけが満ち溢れた。