ポケモン最強トレーナー・サトシ、バレンタインで好感度が限界突破している件   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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約束の青い石、腐れ縁を卒業する日(1/8の可能性・前編)

オレの相棒とも言えるカスミとタケシ、テラリウムドーム、コーストエリア。

人工の太陽が容赦なく照りつけ、足元の白い砂浜を熱く焦がしている。

 

エメラルドグリーンの波が打ち寄せるたびに、潮の香りが鼻をくすぐる。

オレは波打ち際で立ち止まり、小さな箱を握りしめた。

 

「……カスミ」

 

カスミの顔を思い浮かべると、自然と口元が緩む。

と同時に、言いようのない緊張が胃の奥をチリチリと焼いた。

 

カスミとは、誰よりも長い時間を一緒に過ごしてきた。

 

マサラタウンを出て、右も左も分からなかったあの頃。

ピカチュウを助けるために、カスミの大切な自転車をめちゃくちゃにして……。

 

そこから始まったカントー、オレンジ諸島、そしてジョウトの旅。

オレがワールドチャンピオンになった後も、ずっとその存在は隣にあった。

 

数えきれないほどの喧嘩をした。

「このおてんば人魚!」って何度言い返したか分からない。

けれど、オレが落ち込んでいる時、一番厳しく、けれど誰よりも温かく背中を叩いてくれたのも、いつだってカスミだった。

 

「腐れ縁……か」

 

そんな便利な言葉で片付けられない想いが、今、オレの中で爆発しそうになっている。

いざ、カスミの前に立って、ホワイトデーのお返しなんていう「特別な想い」を伝える。その照れ臭さは、これまでのどんなジム戦よりも、世界大会の決勝戦よりも、オレの心臓を激しく揺さぶっていた。

 

「おいおい、そんな顔をしてたら、せっかくの綺麗な海が泣いちまうぜ、サトシ」

 

聞き馴染みのある、あの落ち着いた声が背後から響いた。

振り返ると、そこには腕を組み、海風に吹かれるタケシの姿があった。

 

ニビジムを出てから、オレたちの旅を一番近くで見守り、支えてくれた、最高の仲間だ。

 

「タケシ! いつからそこに……」

 

「ついさっきだ。お前がその箱を睨みつけながら、初恋の少年のように悩んでる姿を見かけたもんでな」

 

タケシは少しだけ悪戯っぽく目を細め、ゆっくりとオレに歩み寄ると、その大きな手をオレの肩に置いた。その手の温かさが、オレの強張った肩を少しだけほぐしてくれる。

 

「サトシ。お前とカスミのことは、ニビジムを出たあの日からずっと見てきた。お前たちが言葉にしなくても分かり合っていることも……、あまりに近すぎて、一番大切な言葉を飲み込み合っていることも、全部な」

 

タケシの言葉が、オレの胸に深く突き刺さる。

そうだ、オレたちはいつも「当たり前」のように一緒にいすぎて、一番大事なことを後回しにしてきたのかもしれない。

 

「カスミは今、あそこの岬で海を見ているぞ。……いいか、サトシ。カスミはジムリーダーとして立派にハナダジムを守る、強い女性だ。だけどな、好きな男の前では、ただの年相応の女の子なんだ。お前が真っ直ぐ正面からぶつかれば、カスミも必ず真っ直ぐにお前を受け止めてくれる。……お前の『全力』、見せてやれ」

 

「……タケシ。ああ、分かってる。オレ、カスミを世界一幸せにするって決めたんだ。サンキューな、タケシ!」

 

オレの瞳に、迷いのない光が宿る。

タケシの激励を受け、オレは砂を蹴って岬へと走り出した。

 

背中越しに、「頑張れよ、サトシ」というタケシの優しい呟きが聞こえた気がした。

 

岬の先端。 潮風にオレンジ色の髪をなびかせ、水平線をじっと見つめているカスミの後ろ姿が見えてきた。

 

かつてより少しだけ大人びたその背中。

でも、あの日から変わらない、オレの大切な、たった一人のカスミ。

 

「カスミーーー!!」

 

オレは声を限りに名前を呼んだ。

カスミが驚いたように肩を跳ねさせ、バッとこちらを振り返る。

 

「……ちょっと、サトシ!? 急に大声出さないでよ、びっくりして海に落ちるかと思ったじゃない!」

 

いつもの勝気な口調。

腰に手を当ててオレを睨みつける、いつものポーズ。

 

けれど、夕陽のせいだけじゃない。

カスミの頬が、リンゴみたいに赤らんでいるのを、オレは見逃さなかった。

 

オレは一歩、また一歩と、砂を踏みしめてカスミの目の前まで歩み寄る。

波音さえも遠ざかるような、二人の熱い沈黙が始まった。

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