ポケモン最強トレーナー・サトシ、バレンタインで好感度が限界突破している件 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
コーストエリアの白い砂浜に、エメラルドグリーンの波が何度も寄せては返している。
空はいつの間にか、燃えるようなオレンジ色に染まり始めていた。
オレは、手のひらの中で温まっていた小さな包みを、指先に力を込めて取り出した。
「……待たせたな、カスミ。これ、バレンタインのお返しだ」
差し出したのは、カスミの瞳の色をそのまま閉じ込めたような、深く澄んだブルーの宝石をあしらったペンダントだ。
この石を見つけた瞬間、オレの頭にはカスミの顔しか浮かばなかった。
カスミは一瞬、息を呑んで立ち尽くした。
それから、まるですごく壊れやすい宝物を扱うみたいに、そっと、震える手でそれを受け取った。
「サトシ……。本当に、ちゃんと考えてくれてたんだ」
「当たり前だろ。約束を忘れるわけないだろ」
オレは一歩、砂を蹴ってカスミに近づいた。
潮風に乱れるカスミのオレンジ色の髪が、オレの頬をかすめる。
オレはその細い肩に、自然と手を置いていた。
「カスミ。……お前と出会ったあの日のこと、今でもはっきり覚えてる。ピカチュウを助けるために、お前の自転車をめちゃくちゃにして、そこから始まったオレたちの旅。あの時は、お前のことを口うるさい奴だなって思ってたけど……」
オレの言葉に、カスミが少しだけ、懐かしそうに目を細める。
「喧嘩も数えきれないくらいしたし、お前には何度も耳を引っ張られた。でも、振り返ってみればいつだって、オレの真ん中にはカスミがいたんだ。カスミがいない旅は、どこか色が欠けてるみたいで……。ハナダジムでカスミがマントを羽織って、ジムリーダーとして立派にやってる姿を見たとき、誇らしいと思ったのと同時に、本当はすごく寂しかったんだぜ」
オレは肩に置いていた手を、そのままカスミの頬へと滑らせた。
夕陽の熱のせいか、それともオレの体温のせいか、カスミの肌は驚くほど熱くなっている。
「あの時くれた『カスミスペシャル』。あのルアーを見るたびに、オレはカスミがそばにいて応援してくれてる気がしてた。でも、もう物越しに繋がってるだけじゃ満足できない。……カスミを誰にも渡したくないんだ。これからも、オレの隣で一緒に怒って、笑って、一番近くでお前を感じていたい」
オレはカスミの大きな瞳を真っ直ぐに見つめ、声を低く、全身の想いを込めて響かせた。
「カスミ、好きだ。……ただの幼馴染や腐れ縁なんて、もう終わりにする。オレだけのものになってくれ。オレと……一生、一緒にいてほしい!」
「っ……!」
カスミの瞳に、みるみるうちに涙が溜まって、夕陽を反射してキラキラと溢れ出した。
それは悲しみなんかじゃなくて、あまりの幸福に溢れた涙だってことが、伝わってくる。
カスミはペンダントを胸に強く抱きしめたまま、オレの胸に自分から飛び込んできた。
「……ありがとう、サトシ! 私も……私もずっと、この言葉を待ってた。サトシが私を選んでくれる日を、ずっと、ずっと夢見てたんだから……!」
カスミはオレの背中に腕を回し、その温もりを独り占めするように、オレの服がシワになるほど強く抱きしめ返してきた。
オレもその背中に手を回し、壊さないように、でも二度と離さないように強く引き寄せる。
「……もう、絶対に離さないから。いいわね、サトシ! どこかに行こうとしたら、また釣竿で釣り上げちゃうんだから!」
「ああ。……今度は、オレからお前を釣り上げる番だぜ。もう一生、離さない」
潮騒が心地よく響く中、夕陽に照らされたコーストエリアの岬で、オレたちは重なり合った鼓動をいつまでも確かめ合っていた。
この熱量こそが、オレがずっと探し求めていた、たった一つの「答え」なんだと確信しながら。