ポケモン最強トレーナー・サトシ、バレンタインで好感度が限界突破している件 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
テラリウムドーム、サバンナエリア。
人工の空から降り注ぐ夕陽は、どこまでも深く、オレたちの周囲を焼き尽くすような橙色に染め上げていた。
ポケットの中に突っ込んだ右手のひらには、セレナへと渡す小さな箱の感触が、オレの体温を吸い込んでじりじりと熱く伝わってくる。
マサラタウンの森で迷子になって泣いていた、あの小さな女の子。
カロスを一緒に旅して、最後、あのエスカレーターを駆け上がってオレに「答え」をくれたあの日。
そして、ミナモシティの埠頭で、少しだけ大人びた姿で再会したセレナ。
かつての「幼馴染」や「旅の仲間」っていう言葉じゃ、もう説明がつかない。
一人の魅力的な人として、真っ直ぐにオレを射抜いたセレナの瞳。
その残像が、あれからずっとオレの胸の奥で、消えることのない熱い火を灯し続けていたんだ。
「……サトシ。やはり、ここにいましたか」
後ろから声をかけられて、オレはハッとして振り返った。
そこに立っていたのは、眼鏡を夕陽に反射させたシトロンだった。
「シトロン……。ああ、今からセレナのところへ行くよ」
オレは隠さずに、シトロンにだけは今の本音を吐き出した。
「オレさ……セレナとミナモシティで再会した時、一瞬だったけど、別れた後、船が見えなくなるまでずっと、喉の奥が焼けるみたいに熱かったんだ。もっとセレナと話したかった、もっと隣にいたかった……って。そんなことばかり考えて、船を追いかけそうになってたんだぜ」
自分でも驚くほど、声が低く、熱を帯びているのが分かった。
シトロンは少しだけ目を見開いた後、誇らしげに、そして親友としての温かい眼差しでオレを見た。
「今のサトシには、これまで見たことがないほどの強い『熱量』を感じます。セレナも、あなたのその『熱』に溶かされるのを、ずっとここで待っていました。……サトシ。あなたのその真っ直ぐな愛情で、彼女を世界一の幸せ者にしてあげてください」
「ああ、分かってる……。サンキュー、シトロン。行ってくる!」
オレはもう、一歩ずつ歩いていくなんて我慢できなかった。
サバンナの乾いた風を突き破るように、愛おしいセレナが待つ、あの大きな一本の木へと走り出した。
遠くに、夕陽を背にして立っているセレナのシルエットが見える。
風になびく長い髪。細い肩。
セレナを見つけた瞬間、オレの心臓は爆発したみたいに激しく高鳴って、全身の血が熱く逆流するような感覚に襲われた。
「セレナ……! セレナッ!!」
声を限りに名前を呼ぶ。
セレナがゆっくりと振り返った。
その瞳には、再会してからずっと、オレの特別になりたいと願い続けてきた、切ないほどに純粋な恋心が溢れていた。
「サトシ……。……来てくれたんだね。本当に、来てくれたんだね」
震える声で呟くセレナ。
オレは荒い息を整える間も惜しくて、華奢な両肩を、二度と逃がさないっていう誓いを込めて、がっしりと掴んだ。
「……約束、果たしに来たぞ。セレナ」
オレはポケットから、自分の熱を帯びた小箱を差し出した。
いつもなら迷わないはずの指先が、愛おしさでわずかに震えている。
「これ、バレンタインのお返しだ。……ずっと渡したかったんだ。世界中で、セレナにだけ……受け取ってほしい」
オレの視線と、差し出したプレゼント。
二人の間に流れる空気は、夕陽よりも熱く、そしてとろけるような甘い沈黙に包まれる。