「さぁ実験を始めようか」
『ラビット!ドラゴン!……Are you ready?』
「ビルドアップ!」
『ベストマッチ!』
「「勝利の法則は決まった!」」
全く持って想定外の事態だ。まさか、取り込んだはずの万丈が、ここに来てまた邪魔してくれるとはな。先程の攻撃で俺はもう限界に近い。ビルドも弱体化しているとはいえ、この状態でボルティックアタックを受け止める事は不可能だろう。
『Ready go!』
『Ready go! Fever flow!』
互いにドライバーのレバーを回し、必殺技発動状態へと入る。ビルドが高く飛び上がると、空中に放物線グラフを出現させ、ボルティックアタックを発動。
こちらも負けじと残りの力を振り絞る。ブラックホールブレイクを発動し、右腕にエネルギーを込め、一か八か迎撃を狙う。
『ボルティックアタック!』
『ブラックホールブレイク!』
だが、遅かった。
こちらの拳が届く寸前、ビルドの強力なキックが直撃し、加速と共に自身の身体を地面へと押し込まれていく。
「これで最後だ!」
抵抗も虚しく、自身に対して敗北という現実が徐々に迫まる。俺が殺したライダーや、あの滑稽な人間たちのように、俺も負けるのか、と怒りとも悲しみともつかない感情が渦巻く。
この感覚、まるで俺も人間になっちまったみたいだ。
「この俺が負けるだと!?そんな事があってたまるか!人間どもがぁああああ!」
ビルドの強力な一撃で起こった衝撃と共に、視界は強烈な光に包まれる。
様々な感情が渦巻き、今まで見てきた景色が走馬灯の様にフラッシュバックする。今まで多くの者と戦ってきたが、完全な敗北はこれで三度目か。やはり葛城巧はあの時ちゃんと殺しておくべきだったな……。
……突如、真っ暗闇に光が差し、徐々に視界が鮮明になる。
周囲を見渡すも白く、何も無い。ここが地獄だとしても、想像とは程遠い無だ。何はともあれ、先の戦いが事実である以上、俺が死んだ事に変わりは無いのだろう。地獄とやらはこうも虚無なのか、と少し肩透かしを食らった気分だ。
そんな事を考えている刹那、目の前に一人の少女が現れる。いや、現れたというより、既にいたのだろう。
歳は八歳ぐらい。まさか地獄の閻魔様もこんなガキだったとはな。そんな考えを理解したか、少女はこちらの考えを察したような顔を一瞬見せたが、すぐにすまし顔に戻り、こちらに歩み寄ってくる。
「やぁエボルトくん。私は閻魔でも餓鬼でもないよ」
少女は少しの間をおいて、胸を張る。
「…そう、”女神”と呼んでくれたまえ」
その発言に堪えきれず、笑いが噴き出す。
「ふははははは!お前が女神だと?馬鹿を言え」
「なんだと!?何がそんなにおかしいんだ!」
「はぁ……。その発言が本当ならな、ここが天国って事か?ありえねぇなぁ」
少女の誇らしげに胸を張るその姿と、その見た目に合わないような口調。まるで大人の真似事をする子供その者ではないか。
「それにお前を見る限り、信仰されるような女神様だとも思えないんだよ」
「……でも私本当に女神だもん!」
少女は腕を組み、頬を膨らましている。こちらの考えを見透かしている以上、女神である事は確からしいが、その歳相応な態度がどうにもおかしく、また笑いが込み上げる。だが何とか笑いを抑えて話を続けた。
「大体その話が本当ならな、なんで俺は今ここにいるんだ?」
「……感覚も生きていた時とまるで同じ。死んだはずだが、死んだ様には思えないな」
すると女神は「あぁそう言えば」と言いたそうな表情になり、話の続きを語り始める。
「そう言えばまだ説明してなかったね。それはね、君が死ぬ直前、私が呼び出したのだよ」
想定外だ。死んだもんだと思っていたが、あの瞬間に俺を呼び出していたとは。だが俺の傷は治っている。女神と言うだけあって治癒も可能だろうが、にわかには信じ難いな。
少し真剣な表情になり、俺は彼女に問いかける。
「とはいえ俺は確かにあの瞬間、ビルドの攻撃を喰らって爆散した」
「傷すらも無いわけだが、そんな奇跡があるのか?」
女神は想定内の質問だったのか、ニヤリと笑う。
「そりゃいくら私でも肉体の転移は不可能さ。私が呼んだのは君の魂だよ」
「……魂だと?」
「そう、君の身体はあの瞬間に消し飛んでる。だから、私はまだ無事だった君の魂を呼び寄せた、ってわけ」
なるほど、だとすれば辻褄は合う。ただ、あまりにも奇跡とやらで片づけてばかりなのを除いてだが。
「そうか。ならなぜ、俺を呼んだんだ?」
「質問が多いなぁ、き、み、は~」
女神は足が疲れたのか、何処からともなく現れた椅子に腰掛ける。そして神妙な面持ちになったかと思えば、再び口を開く。
「……お前には世界を救って欲しいのだ」
【追記】
プロローグ続きます。