雅が本当の兄の様に慕っていた分家の兄が、雅の母親を介錯した話。   作:ザワザワする人

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実は作者は、瞬光に脳を焼かれました。
いずれは雅と瞬光でオリ主君を取り合ってもらいます。


序章:星流れ、神鳴の奔るが如く
夢と現


炎が辺り一帯でごうごうとその力を表している。

 

バキバキと木の柱が崩れていく。

 

人々の甲高い叫び声はボクの鼓膜を刺激しているはずだった。

 

はぁ……はぁ……はぁ……

 

しかし、目の前の母上様の荒い息使いしか聞こえない。

 

涙が、ボクの頬を撫でる。

 

震え続ける両手で刀を握る。

 

「母上……ダメです……出来ません……僕に……こんなこと」

 

母上は雅を泣きやますようにいつも通り、優しくボクの両手を握る。

 

「……これは……最後の……修行……です……」

「流雅……」

「雅を……お願いね」

 

母上はボクの手を引き、刀を自分に刺した。

 

肉を裂いた感触が確かに、俺の手に残る。

 

母上は最後の最後にボクの頬を撫でて、こう告げる。

 

「愛してるわ……流雅」

 

目の前が真っ暗になっていく。

 

呼吸もままならない。

 

自分の鼓動が、頭にただ響く。

 

けれどそこで、気を失いかけた自分をとどまらせる声が響いた。

 

「……なん………で」

 

横を見ると、母上様に似た黒髪が美しい狐のシリオン──雅がいた。

 

「………兄上……母上……」

 

雅は状況を上手く飲み込めていないようだった。

 

唯一の変化は母上の体から溢れ出し続ける血だった。

 

刀が血の真紅に染まっていく。

 

雅はそれを見た。

 

故に、雅からの視点は自明だった。

 

「なんで……!なんで!!母上を殺したの!?…返して!!………母上を返して!!

 

違う、違うんだ雅。

 

ボクは介錯を頼まれて。

 

思っても言葉には出ない。

 

辺りの炎のせいだろうか、喉が異常に乾いて、声すら発せれない。

 

何も言わないボクを見て、雅は大泣きしながら叫ぶ。

 

「人殺し!!!」

 

そこで、ボクの意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

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「ちゅんちゅん」

 

折り紙で作られた雀が肩の上で踊っていた。

 

(……夢か)

 

いつの間にか、寝てしまっていたようだ。

 

「りゅうにぃ!お昼寝なんて珍しいね!」

 

青い肌の色をした鬼のシリオン──蒼角が覗き込んでくる。

 

「課長の代わりに働きすぎなんじゃないですかぁ?」

「なら、浅羽隊員が働いてくれてもいいんですよ?」

「う!きゅ、急に胸が!副課長、休暇申請を!」

「ダメです」

「なんで!」

 

いつも通りの、風景だ。

ただ一つを除けば。

 

「課長は?」

 

眠い目を擦りながら、柳に聞く。

 

「いつもの修行です。あなたが眠りに入った後、すぐに」

 

「……そうですか」

 

私は蒼角の頭を撫でながら、立ち上がる。

 

「回収には誰が行きます?」

 

悠真が椅子の後ろで腕を組みながら聞く。

 

「課長会議は30分後です。いつも通り私が行きますよ……と言いたい所ですがいきなり仕事が舞い込んできまして……」

 

(悠真じゃ雅を止められないし、蒼角は一緒に遊んじゃいそうだな……)

 

「………私が行きます」

 

「…………任せます」

 

「了解、副課長」

 

何かを一瞬、逡巡したようだが頼ってくれた。

 

六課の服を羽織り、正面玄関から出る。

 

 

 

 

 

 

 

「………詳しくは全然知りませんけど、大丈夫なんですか?一人で行かせて。本当は仕事なんてないんでしょ?」

 

「?」

 

蒼角はキョトンと首を傾げる。

 

「彼が自分で決めた事です。彼の意志を尊重しますよ」

 

「?」

 

「それが副課長の命令なら僕は何も言いませんけどね。意思なら、僕は反対しますよ。少なくとも、まだ二人きりにしない方が良いと思いますけど」

「………これは課長の意思です」

「ま、マジですか」

「彼と会話の機会を作るようにと、命令を受けています」

「じゃ、じゃあまさか課長会議も」

「それは本当です」

「ズコーッ!」

「ふたりが何言ってるか全然分かんないんよ!」

「………分かんなくていいよ、蒼角ちゃん」

 

悠真は蒼角の口にお菓子を突っ込みながら説明を諦めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さぁて………どうしましょうか)

 

仕方がないとは言え、自分が雅を連れて帰って来なければいけなくなった。

 

雅の回収は今までずっと柳に任せてきた。

 

ずっとずっと、逃げ続けていた。

 

けれど、未だに覚悟は出来ていない。

 

いや、そもそも、私に覚悟は必要ない。

 

このままで良いんだ。

 

ずっと分かり合えなくていい。

 

分かり合いたいだなんて、思ってはいけない。

 

雅に与えた傷は、私がただ一人自分で、背負わなくてはいけないのだから。

 

心当たりもないまま、ただ適当に歩いていた。

 

気づいたら、どこかの草原にいた。

 

花は咲き誇らずに、ただ草緑があった。

 

何処までも続く草原がただそこにはあった。

 

けれど、1本だけ大木があった。

 

桜だ。

 

かつては満開の桜を誇っていたはずの桜がそこにはあった。

 

けれど、そこにかつての面影などなかった。

 

灰色の根が、出来る限り地下からの栄養を吸い上げるように伸びている。

 

細々しく頼りない枝は、枯葉を残し、ただ風に吹き荒らされる。

 

(あぁ……ここは)

 

昔、母上様と雅と共に遊びに来ていた。

 

あの木の下で、三人で笑いあった日もあった。

 

雅が、花冠を作ってくれたりもした。

 

母上様の膝枕で、二人で寝たりもした。

 

(今考えると………与えられてばかり……)

 

無意識にここに来た以上、過去の輝きに縋っているのだろうか。

 

(甘えすぎてたな………私は……)

 

「今日は柳ではなく、お前だったか」

 

木の前に立ち尽くしていた雅がこちらを振り向き、語りかけてきた。

 

「お前ならば、ここに来ると思っていた」

 

「………副課長が探していたらどうするつもりだったんですか?」

 

「お前が来る確信があった」

 

「流石です。課長」

 

「………そう畏まらないでくれ。昔のように話し」

 

雅の話を遮る。

 

「課長会議は12分後です。早めに戻るべきです」

 

「私ならまだ余裕があるだろう。それと、話を勝手に遮るな」

 

(雅が……私とよりを戻そうとしているのは分かる。けれど、それは適切な状態じゃない)

 

(なぜ雅は私との仲を戻そうとするのか、その理由なんて考える必要はない)

 

(私は、私を許せない)

 

(それだけで、充分すぎる)

 

「警告はしましたので、先に私は帰ります」

 

「待て!」

 

帰ろうとしたら、雅の凛々しいけれどどこか弱弱しい声に止められた。

 

「なぜだ………なぜ………」

 

虚狩りと言えど、雅は最年少の虚狩りだ。

 

一介の少女に過ぎないのだ。

 

今の思いを、言葉にする術がないのだろう。

 

本当に昔からどこまでも不器用だ。

 

「…………無理に関わろうとしなくて結構です。それでは」

 

一人の少女を残し、私はその場を去った。

 

雅が一人で課長会議に遅刻しなかったのは今回が初めてだった。

 

 

 

 

 

 

「このトラックに乗るのが任務ですか〜?」

 

私達は、H.A.N.Dの前に停められていたトラックを見上げていた。

 

「これはただの移動手段です。目的地は郊外です」

「市政選挙の日になんでわざわざ郊外に?」

 

(……悠真は遠慮ってのがないな…。私は任務の内容聞いてますけど)

 

「行けば分かりますよ」

「ハイハイ、そうですか。副課長が言うんならそうなんでしょうね〜っと」

 

悠真がそう言いながら荷台に乗り込む。

 

「わ〜い!みんなでドライブだ!」

 

蒼角は嬉しそうだ。

 

「課長、助手席は1つですので課長が行ってくださいね」

「……分かった」

 

雅は渋々、助手席へと向かった。

私も、後ろの荷台に乗り込むために、後ろへと歩く。

すれ違いざま、雅がこちらを振り向いたがすぐに助手席へと向かった。

 

(………それでいい)

 

私は後ろから荷台に乗り込み、悠真の隣に腰掛けた。

 

「流雅さん……ずっと前から思ってたんですけど……」

 

やけに神妙な顔をしていたので、真面目に聞き入ってしまう。

 

「ど、どうした?」

 

(雅との関係には触れないで欲しいが……)

 

悠真はゆっくりと口を開いた。

 

「耳触っていいですか」

 

「へ?」

 

思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「浅羽隊員、移動中と言え、これは任務の一環です。決して気を抜かないよう」

 

「副課長も触りたいって言ってたくせに〜」

 

「え?」

 

私が柳の方を見ると、顔を真っ赤にしながら俯いていた。

 

「この前、流雅さんが課長を探しに行った時あったでしょ?

あの時、課長と流雅さんの耳の話になってですね」

 

「蒼角はどっちも触りたい!」

 

「……どっちの耳の方を触りたいかという話になりまして」

 

「わ、私は課長の耳の方が……」

 

「何言ってるんです。流雅さんの方がちっちゃくて可愛いですよねって言ってたじゃないですか」

 

「いや、あれは言葉の綾というものであって……」

 

「…………可愛い…………」

 

懐かしい。

 

「え!?ちょ、ちょっと!流雅さん何泣いてるんです!?ちょっと副課長謝って下さいよ!」

 

 

 

 

 

私の耳は雅の耳と違って垂れ耳だ。

 

星見家では、垂れ耳は忌み子と呼ばれている。理由はよく知らないし、別に今となっては知りたくも無い。

 

それは分家であっても変わらない。

 

プライドの高かった私の父は、私を失敗作だと罵り、他の家に引き取らせた。

 

様々な家や施設にたらい回しされ、最後にたどり着いたのはまさかの本家である雅の血筋だった。

 

ここが最後の家だと、前の家の人には言われていた。

 

半ば嫌がらせのようなものだったのだろう。

 

みんなが、私は見捨てられるのだと思っていた。

 

私も例外ではなく、また失望されるのだと、罵られるのだと、それとばかり思っていた。

 

私を引き取った分家の親が、母上様とお話している間、私と雅はそれぞれの親の傍に控えていた。

 

雅がずっと、その深紅の赤い目で見てきたのを覚えている。

 

「ご覧の通り、垂れ耳でしてね。引き取って貰える場所などないと思っていたのです」

 

びくりと私の体が震えた。

 

「………そうですね、確かに垂れ耳です」

 

母上様はそう言った。

 

あぁ、この人も変わらないのだと、そう思ったのは早計だった。

 

「そんなの関係ありますか?」

 

暗闇に閉ざされた道が月光に照らせれた。

 

「垂れ耳は忌み子であるとか、そんなの関係ありますかね?」

 

「……………」

 

私の引き取り親は酷く困惑している様子だった。

 

無理もないだろう。

 

目の前の人間は、星見家が代々継いできた伝統を無視しているのだから。

 

しかもその相手は本家の人間である。

 

「雅はどう思う?」

 

母上様が、雅に返事を促した。

 

「可愛い!!」

 

今では見ることの出来ない、満面の笑みで雅はそう言ったのだった。

 

 

 

 

「……ごめん、ほんとになんでもない」

 

「いやいや!僕たちが悪かったですって!そう気を落とさないでくださいよ!」

 

「そうだよ!泣かしちゃった悠真が悪いんだよ!」

 

私が涙を拭っていると、前から声が聞こえた。

 

「しっかり捕まってろよ〜」

 

トラック内にエンジン音が響いた。

 

(この音やばい気が……)

 

「いやァァァァァァ!!!!」

 

悠真の声が荷台に響き渡った。

 

 

 

 

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「ふふ」

 

「ん?どうしたんでい?」

 

隣に座っている運転手が聞いてきた。

 

「いや何、少し昔の夢を見てな」

 

「楽しそうな声だな〜いい夢だったか〜?」

 

「あぁ、良い夢を見た」

 

(本当に…兄上の耳は可愛い)

 

(また………触りたいものだ)

 

私の小さな独白は、荒れるエンジン音にかき消された。

 

 

 

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「やっと…………着いたんですか…………」

 

「だ、大丈夫、悠真?」

 

「いや……ちょっとこれは………」

 

「ほ、ほら袋あるから」

 

「あ………ありがとうございます」

 

そう言うと、悠真はあっという間に木の影まで走っていった。

 

(………戦闘時より速い気が……)

 

(とりあえず、私は私の任務をしないとな)

 

蒼角の介護をしている柳に視線を送り、目が合った後に一本の刀を置いて、荷台を降りる。

 

私の今回の役目は、交渉失敗の時に人質を作り出す役。

 

理由は私の武器に関係する。

 

私の二つの刀、"月影"と"星彩"は物理的に互いに引き合う。

 

互いの刀に特殊な仕掛けが施されており、どれ程の距離であっても片方の刀は片方に引かれる。

 

私が片方の刀を持ち、もう片方へと飛んでいくことも出来る。

 

これがまぁ、速い。

 

多分、雅の最高速度は超えている。

 

誰も反応出来るはずが無いので、私は今回は緊急時の懐刀となった。

 

(……ここが郊外)

 

いい雰囲気の町だ。

 

どこか懐かしみの感じる、のどかな場所。

 

私は、建物の外装を見て回り、ある建物の上に上った。

 

(視界がいい)

 

郊外全体を見渡せる高さがあった。

 

雅や柳がトラックから出てきた。

 

(あの立ち姿……ニコ・デマラか)

 

(六課の力を借りたい人物からの依頼と聞いてたけど………まさか邪兎屋の人達とは)

 

(で、あれが件のパールマンか)

 

背が低く、白髪で肥満症の男だ。

 

(あれが黒幕……いささか納得には至りませんね)

 

雅達が、ニコ達と交渉を始めたようだ。

 

無線から声が聞こえてくる。

 

『それで、どうかしら?ヴィジョンの背後に黒幕がいて、それが何を隠そう、あのブリンガー次期総監なのよ!』

 

(……まぁ妥当だな。朱鳶が聞いたらどんな顔をするか……)

 

『貴方が提供した情報から、判断出来るのは現時点で他に主犯がいるということのみです。』

 

『あ〜ら、専門的なご高説をどうもありがと、学級委員長さん。でも、あんたの説明じゃ何が言いたいのかさっぱり分かんないわよ』

 

『へん!どうせあんた、学校で友達一人もいなかったでしょ?』

 

ニコの後ろからなんかちっこい奴が顔を出した。

 

(……事前情報に無かった人物)

 

『ははは!分かるなぁ〜。副課長って絶対、先生に贔屓されるタイプの委員長だったって』

 

『そこまでよ』

 

(………ん?)

 

『おっと……こちらのお嬢さんは、委員長タイプが好みで?

それは気に触ったよね〜』

 

『私はそれ以上、前に進むなと言ったの』

 

『12時、9時、6時、あなた達は明らかに私たちを包囲するように移動してる……そういうの気に入らないわ』

 

『何も意図がないなら、私の死角に入る真似はしないで』

 

(素人が気づける技術じゃない……何者でしょうか)

 

『へぇ〜、鋭いんだね〜。ひょっとして、メカチックな彼がホルスターに手をかけてるのも……偶然じゃない感じかな?』

 

『……委員長の姉ちゃんが、その伸び縮みする柄を離したら……俺も手を離すぜ』

 

『ちょっと!みんなどうしちゃったわけ!?ちょっとお武家狐あんた何企んじゃってるわけ?』

 

『先程、述べたようにヴィジョン事件の背後については踏み込んだ調査が必要だろう。そして……我々が連行すべき証人は、パールマンだけではない』

 

『そこにいる、プロキシだ』

 

『いや、ちょっとちょっと!こいつはヴィジョンの件とは無関係でしょ?』

 

『私達の調査には件の不祥事には全て、とあるプロキシの介入があったと、分かっています』

 

『そして、郊外……郊外は確か伝統にまつわる重要な催事を行ったそうですね。それはホロウを使うとか。プロキシ様がここにいらっしゃるのは単なる偶然でしょうか?』

 

『偶然に決まってるでしょ!?こいつと邪兎屋は昔馴染みのお得意様なのよ!』

 

『新エリー都は、今、極めて重要な時期にある。何か起きた暁には、都市運営の根幹が揺らぐだろう』

 

『もちろん、分かってるわよ!だからあんた達を呼んで、黒幕探しを手伝ってもらおうとしたんじゃないの!どうして無関係な人間を巻き込まなきゃいけないわけ!?』

 

『お前が、我らに見せたのは如何様にも形をとる陰謀の断片…

そしてお前の主張する真相とは、その1パターンに過ぎない』

 

『都市の潜在的脅威はなんであれ、徹底的に排除する。

それが私達の流儀だ。』

 

『でも!こいつは本当に…脅威でも悪人でもないんだってば!!』

 

(……良いボスですね、けれど)

 

『「除悪務本」』

 

私と雅の声が重なった。

 

『「悪たるを定めるは我らを置いて他になし」』

 

『我ら対ホロウ六課の支援が欲しくば、こちらに協力する事だ。邪兎屋のニコ』

 

雅の視線、声、雰囲気、全てにとてつもない威圧感が点っている。

 

(……これは、私の仕事無さそうですけれど)

 

邪兎屋のニコは逡巡している様子を見せた。

 

けれど。

 

『……考えが変わったわ。今回はあたしの勘違いだった。だから、あんた達の助けもいらない……なんて言ったら、回れ右してくれるかしら?往復分の交通費位は持ったげるわよ』

 

(驚いた………まさかここまでとは)

 

『……ニコ、私はもはや、H.A.N.Dに入りたての青二才ではないのだぞ』

 

『ちっ……ものの分別がついてない頃のあんたは、そりゃあ可愛げがあったわよ』

 

『ジ、ジジ』

 

無線内に雑音が響く。

 

(半音1回、続いて二回連続、副課長からの合図ですね)

 

私は腰に掛けた鞘から刀をするりと抜く。

 

「月影よ。夜を巡る星々に、我を導きたまへ」

 

視界がすぐに横流れになる。

 

柳に持たせた星彩は、柳に投擲され、すでに邪兎屋の前に位置している。

 

一瞬で、眼前まで迫る。

 

この速度にも慣れたものだ。

 

『「「猫又!!」」』

 

無線からと直接聞こえる声が頭に響く。

 

この速度にかろうじてでも、反応できるとは。

 

本当に、この白髪の女性と、機械人は何者だろうか。

 

私は空中で月影を持った手で星彩を掴み、もう片方の手で、ニコの後ろに隠れていた猫のシリオンを掴んだ。

 

慣性力のまま、私と猫のシリオンは、数メートル後方に飛ばされる。

 

月影を地面に突き刺し、ブレーキ。

 

すぐさま、空いた片手で、星彩を鞘に納め、月影をシリオンの首に突きつける。

 

「邪兎屋!一瞬でも動けば命は保証しません、大人しくしてください」

 

「おいおい、速すぎんだろぉ!」

 

「猫又!」

 

「流雅さん……」

 

「プロキシに、名を知ってもらえているとは光栄ですね。大人しく、私たちに着いてきてください」

 

「ニコ!私はいいから!早く、プロキシを!」

 

「…………っ、あんた、そんなことするやつだったかしら?」

 

「邪兎屋のニコ、時間を稼ぎたいのら、もう少し上手くやるといいでしょう。交渉は、貴方の得意分野では無かったのですか?」

 

「っ……アンタが治安官だった時も、こうやってゴリ押しで、お武家狐の刀を取りに来たんだっけ?あん時のあんたの顔と来たら、もう傑作だったわね!」

 

「……………従業員の命が惜しくないようで」

 

私は、1ミリほど、猫又と呼ばれるシリオンに刀を刺す。

 

当然のように、血が垂れる。

 

(私がこうしても、あなたは必ず、プロキシを逃そうとするでしょうね……あなたはそういう人物です)

 

沈黙を破った人間は、私の想像通りの反応をした

 

「プロキシ!早く逃げて!」

 

パン─!パン─!パン─!

 

ニコ・デマラが叫んだ瞬間、銃弾が降り注ぎ、粉塵が舞う。

 

「「「伏せて!!」」」

 

「のわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「銃撃?制圧射撃のリズムだな…包囲するつもりだ!三方向から!」

 

(身元不明の第三者の軍……そしてこのタイミング……やはり、パールマンの裏にいたサラという女性ですかね……)

 

私が、考えを巡らせていると前方から、邪兎屋とプロキシを銃撃から守るようにトラックが立ち塞がった。

 

「パイパー!車出して!今がチャンスだよ!」

 

トラックによって、私と六課のメンバーは視覚的に断絶されている。

 

「猫又を離して」

 

白髪の女性は、トラックに乗り込む前に語りかけてくる。

 

「分かりました」

 

交渉が決裂した以上、もう無意味だと考え、解放した。

 

「にゃあ!意外と素直なんだな……」

 

「猫又さん、ニコ・デマラに伝えてください。あなた達のトラックが出てから、15秒、私は追いません。これで、貸し借りなしだと」

 

「なんかよく分かんないけど分かったぞ!」

 

「それと………」

 

「まだ何かあるのか?」

 

「あなたの命を軽重に扱ったことに謝罪を。申し訳ございませんでした」

 

「………へっ、気色悪いやつ。なんでそんなこと言うの」

 

「たとえ、そこにどれだけの理由が有ろうとも命を道具として扱うような行為は誰にも認められていません。それが初対面であり、相手が犯罪者であったとしても」

 

「……あっそ」

 

猫又は、車に乗りくみ、トラックは出発した。

 

(嘘を着くようで悪いが……)

 

私は月影を投擲し、トラックの荷台に突き刺した。

 

(約束は、15秒追わないだけですから)

 

「待て!逃がすか!」

 

雅は、そのままトラックを追いにいってしまった。

 

「ちょっと課長待っ!流雅さん!課長を追ってください!」

 

「ここは、大丈夫ですか?」

 

周囲をぐるりと見ると、屋根上に見える人数でも20を超えている。

 

「課長に追いつけるの流雅さんしかいないんですから!ここは、僕に任せてくださいよ!」

 

「りゅうにぃ、蒼角に任せて!」

 

珍しく、悠真はほんのちょっと本気のようだった。

 

ちょうど、15秒が経った。

 

「了解」

 

短く告げて、私は刀を抜き、宙を飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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雅さんは、通信装置を点検している私を静かな眼差しで見ている。

 

「どうだ、修復できそうか?」

 

「もしもし?もしもし!お兄ちゃん、fairy?聞こえる?」

 

帰ってくるのは沈黙だけだった。

 

「う〜ん、ダメみたい。横転した時、どっかの回路が切れちゃったかな〜。メインの機能が使えないなら、連絡は絶望的だね……」

 

「………そうか」

 

(………き、気まずい!)

 

「あの……雅………さんは、どう?隊員の人と連絡はついた?」

 

「応答はない。私は、私以外の隊員がお前達の車に追いついたのを視認していない。まだ、外部の襲撃者と戦っていて、ホロウには入っていないのかもしれない」

 

「じゃ……じゃあ……雅さん?私の手、離してくれないかな……

ちょっと汗とか拭きたくって……」

 

「この手は放さない。ホロウの中で、奇跡的にもお前を見つけたのだ。星見家として、同じ過ちを三度繰り返す訳にはいかないのでな」

 

「二度と繰り返さないなら分かるけど………

まぁ私は逃げたりしないから、そもそもキャロットもないから道がわかんないし……迷子になるだけだよ」

 

「ならば座れ。私の仲間は必ず救援にくる。ただ待ちさえすればいい」

 

(う〜ん、私はエーテル適性が高くないから、早く出たいんだよね……)

 

「雅さんは、それでいいの?」

 

「それで、とはなんだ?

都市が重大な局面を迎えており、外で危うげな謎が進行しており、仲間たちが敵と交戦中でもある中、一人、指を咥えてホロウで待機するということか?」

 

「否、このままでいいとは思っていない。だが、他に方法がない。まぁ落ち着け。もう本当にすぐ、到着する」

 

「?誰が?」

 

「……私の兄上が、だ」

 

ドォォォォーン!

 

私たちから少し離れた所で、何かとてつもなく大きなものが着地したような音がした。

 

「え!なになに!?」

 

「安心しろ、プロキシ。兄上だ」

 

私が雅さんの後ろに隠れると、ぬらりと人が歩いてきた。

 

「…………まさか、ホロウにいるとは思いませんでしたよ、課長」

 

「そうか、申し訳なかった」

 

「謝らないでください。けれど、どうしましょうか。キャロットも持ってきてないですし………その後ろで、プルプルしてるの、プロキシですか?」

 

「ご、ごめんなさい!大きい音がして、びっくりしちゃって!」

 

「こちらこそ、プロキシを怖がらせて申し訳ございません。

最高速度で向かっていたものでして」

 

「わ、私の事は、リンでいいよ。プロキシじゃあ……なんか生々しいしね」

 

「では……リンさん。貴方に謝罪を申し上げます。あなたの仲間であった、猫又さんを目的の為とは言え、命を軽く扱ったこと。誠に申し訳ございません」

 

「いやまぁ……流雅さんの立場だったらしょうがないと思うし……」

 

「そういう話ではございません。命は皆、平等に扱われるべきで、それぞれの人が人生で初めて貰う宝物ですから」

 

(威圧感がすごい……)

 

「そ、そっか。あ、じゃあさ!ちょっと雅さん説得するの手伝ってよ!」

 

「課長を?」

 

「うん、私はプロキシだから、このホロウのデータを見れたら脱出できるんだけど、雅さんがここに留まるべきだって言ってさ」

 

「…………課長、ここは協力すべきでしょう」

 

「お前が言うなら、分かった。プロキシに協力しよう」

 

(いや、あっさり!)

 

 

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「ではデータスタンドを見つけに行きましょうか」

 

「流雅さんはデータスタンドとか知ってるんだね?」

 

「昔、少しだけこのような仕事をしたことがあります」

 

「へぇ〜、流石、六課の懐刀!」

 

「………その名前はちょっと恥ずかしいです」

 

「私は良いと思うぞ?」

 

「課長も、からかわないでください」

 

(2人共、仲良しだなぁ〜。やっぱ兄妹なんだね。ていうか、流雅さんは、課長って呼ぶんだ。やっぱ妹より、上司っていうのが関係あるのかな?)

 

そんな事を話していると、最初のデータスタンドを発見した。

 

「お、あったあった」

 

「リンさんは、データの読み取りに集中してください。

敵は私が受け持ちましょう」

 

「私も戦おう」

 

「………課長、私が課長の異変に気が付かないとでも?」

 

「…………」

 

「無尾が震えていますよ、こんな事は私の確認してきた以上、初めての事態です。今は安静が適切かと」

 

「……分かった、任せる」

 

「了解」

 

(なんか、急に雰囲気悪いけど大丈夫かな……)

 

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「とりあえず、このデータスタンドは解読できたけど、まだデータ量が足りないや。次のデータスタンドに行こ」

 

「了解しました」

 

「分かった」

 

 

 

 

「雅さん、大丈夫?」

 

「何がだ」

 

「いや、さっき流雅さんが刀が震えてるって」

 

「こんな些事に気を取られるな、お前はお前の仕事に集中するといい」

 

「些事では無いと思いますが」

 

隣から、流雅さんが会話に入ってきた。

 

「………今は、ホロウからの脱出が主目的だ。

それに、私だけでは戦わなければならなかったかもしれないが、今はお前がいる。お前は私とプロキシを守ってくれるだろう?」

 

「……無論です」

 

「ならば、少しも問題はない。プロキシ、早く向かうぞ」

 

「わ、わかった!」

 

(エーテル濃度も上がってる……早くしないと)

 

私達は急いで、次のデータスタンドに辿り着いた。

 

「これは……エーテルストリーム吸収タワーを制御してるみたい」

 

「すると……吸収されたエーテルが溢れ出し、周りのエーテリアスが寄ってきますね」

 

「ほんとに流雅さんは物知りだね」

 

「あまり褒めないでください。課長、リンさんが危険になった時の場合のみ、抜刀を許します。それ以外では絶対に抜刀しないでください」

 

「承知した、プロキシ、解析を始めてくれ」

 

「雅さんの刀、ほんとに大丈夫?

必要なら、電子部品をチェック出来るよ?」

 

「問題ない、これは正常だ。早く始めろ」

 

「分かった!」

 

そして、私は解析を始めた。

 

後ろの方から、エーテリアスが倒れる音が連続して響く。

 

(流雅さん、やっぱめちゃくちゃ強い………)

 

(ってやばいやばい、集中しなきゃ)

 

「リンさん!」

 

後ろから、エーテリアスの打った弾が近づいてきていた。

 

(やっば!)

 

私が目をつぶり、被弾を覚悟して構えるのは徒労に終わった。

 

「プロキシ、怪我はないか?」

 

「雅さん!私は大丈夫!」

 

「私が守ってやる、お前は集中しろ」

 

「ありがと、雅さん!」

 

私は急いで、解析を終わらせた。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「さっすが、星見家の人達……」

 

後ろからリンさんの声が聞こえる。

 

(星見家………か)

 

時々、というより、よく自分は星見の名を背負っていいのだろうかという悩みに襲われる。

 

星見の本家の母上様を殺した自分は、星見として正しい人間なのだろうか。

 

「プロキシ、出口は?」

 

「大まかな場所は掴めたよ、最寄りは……」

 

リンさんが言い切る前に、変化は起こった。

 

雅が納刀しようとした瞬間、赤いい炎が無尾を覆った。

 

「これは………一体………」

 

「な、なに!?これ………!?」

 

「無尾が……抗って……?」

 

雅の声が微かに聞こえた。

 

斬れ………

 

斬れば楽になる………

 

刀を慰めよ……

 

(この声は、何処から……)

 

斬れ!

 

奴らを斬れ!

 

一層、大きな声が響いた瞬間、雅の周りに鮮血のような赤い炎の嵐が吹き荒れる。

 

「課長!私の声が聞こえますか!?」

 

返事は、帰ってこなかった。

 

(クッッッッソ……!!)

 

私のせいだ。

 

私がエーテリアスの弾を弾き漏らしたから。

 

(何をする……!今、私に出来ることは!)

 

妙手が思い浮かぶ事は無く、私は赤い嵐の中に突っ込んだ。

 

その中心には、両手で無尾の柄を握っていた雅がいた。

 

「課長!!体に異常が!?」

 

「……体じゃない……刀だ……」

 

話すのもいっぱいいっぱいのようだ。

 

「私を斬ってください!!!」

 

今、何も自主的に自分に出来ることが無い以上、この謎の声であっても従うしかないだろう。

 

「何………を言って……」

 

「手遅れになります!早く!」

 

私は、雅に近づき、刃先を私に押し当てる。

 

(あなたは、私を憎んでいるでしょう)

 

(私は、ずるいヤツです)

 

(これで、ほんの少しでも、罪を償った気になろうとしているのですから)

 

「課長、お願いします」

 

「…………私は………そんな事を……」

 

斬れ!!

 

また、あの声が響いた。

 

そして、その声と同時に、少女の声も響いた。

 

「雅さん……!流雅さん!鞘をもってきたんだけど……どうすればいい!?」

 

「リンさん……」

 

あなたは何故……。

 

頭がクリアになっていく気がした。

 

この赤い領域に入ってから、ズキズキと頭の中で声が響いていた。

 

斬られろ。

 

償え。

 

(また……私は甘えていたのか……)

 

後悔は、後でしろ。

 

「リンさん!課長!鞘に刀を納めます!両方向から押し込んでください!」

 

「分かった!」

 

雅が刀を構え直し、私とリンさんで鞘を押していく。

 

(何故、ここまでの力が……)

 

3人がかりで納めようとしても、なかなか刀は進まなかった。

 

だけれども、少しずつ少しずつ刀は進んでいった。

 

もう少し───!!

 

パチン

 

と心地よい音がなり、周りの赤い嵐も消えた。

 

「リンさん!大丈夫ですか!?」

 

リンさんが倒れ込んでいた。

 

「だ、大丈夫……運動してないから………疲れただけ……」

 

ホッと胸を下ろした。

 

「全く……心配させないでくださいよ」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

(雅が息切れするとは……)

 

「プロキシ、何故お前は、狐火の中に突っ込んできた。

出口の方向が算出出来ていたのならば、私を置いていけば良かっただろう。流雅が私を助けにきている間に逃げれば、お前の後を追えたやつはいないだろうに」

 

(一理ある……けど、それは彼女に当てはまらないだろう。だって彼女は)

 

「私は今、二人のプロキシだよ!?置いていけるわけないって!」

 

「…………!」

 

雅には、その言葉はいささか心に響いたのだろう。

 

「この刀は、星見家に代々伝わってきた刀だ。

歴代の当主のように、勧善懲悪を成してきた」

 

「今まで、父上が鞘を誂えてくださってから、今までこのような暴走は無かった」

 

「父上なら何か知っているかもしれないがホロウを出る必要があるし、今頃市長と会っているだろう。せっせか、自分のコップのワインをジュースに変えるのに必死だろう。どのみちだな」

 

「じゃあ雅さん、刀をちょっと見せてくれない?私の目の中にあるやつはね、ちょっとした電子機器なら直せるんだ〜。見た感じ、鞘に機械が付いてるみたいだから」

 

何か考えているように押し黙り、手に持つ刀を目の前の"仲間"に差し出した。

 

「さ、鞘だけだぞ」

 

「うん、分かった!」

 

プロキシが、無尾の鞘を確認している間に、雅が私の目の前まで来た。

 

「どうされました?課長」

 

「先程の事だ」

 

「私が……斬るように促したことですね」

 

「そうだ」

 

雅は自分の手を血が出るほど握りしめ怒気を含んだ声で言った。

 

「二度と、あのようなことを言うな。次、刀が暴走した時でもだ」

 

それには有無を言わせぬ威圧感があった。

 

「申し訳ございませんでした。私もパニックになっていました」

 

「分かっているならいい。私たちの警護を頼むぞ」

 

「了解」

 

「2人共、鞘を治すにはデータスタンドの力を借りないとダメかも……そこまで行ける?」

 

「それは、こちらのセリフですね。リンさん、貴方は十分なエーテル適応体質ではないでしょう。いささか、長居しすぎました。急ぎましょう」

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

私たちは、小走りでデータスタンドに向かっていた。

 

「リンさん、大丈夫ですか?」

 

「はぁ……はぁ……だい……じょうぶ」

 

(流石に、厳しいか)

 

「課長、私の刀を持っていてくださいますか?」

 

「?別に構わないが」

 

「リンさん、失礼しますよ」

 

「え?」

 

リンさんの体に手を回し、ひょいと持ち上げる。

 

「うわァ〜!流雅さんすご!」

 

いわゆるお姫様抱っこの形になる。

 

「休んでいて構いません。方向だけ言ってもらえれば」

 

「おっけ〜!すごい、なんかお姫様みたい!」

 

「はは、気に入ったなら何よりです」

 

「…………………ずるい」

 

「?何か言いましたか?課長?」

 

「なんでもない、早く行くぞ」

 

「ちょっ!ちょっと、雅さん!そっちはさっき行ったところだから!」

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「ゴホッ!ゴホッ……ここがデータスタンドがある所だね」

 

「リンさん、少し休んだ方が良いです。このままではあなたが倒れてしまいます」

 

「だいじょぶだいじょぶ!これで、雅さんの刀も治るはずたがら!」

 

「すまないな、プロキシ。私のせいで」

 

「ううん!雅さんのせいじゃないよ」

 

「静かに」

 

私は、建物の陰から覗き見る。

 

「………エーテリアスですね。私が引き付けている間に、裏から回ってください。課長、何かあれば私を呼んでください」

 

「分かった、行くぞプロキシ」

 

リンさんと雅が裏に回ったのを確認してから、エーテリアスの前に姿を表す。

 

「全員こちらを向け」

 

大量のエーテリアスが一瞬でこちらへと振り向いた。

 

エーテリアスの咆哮が響き渡る。

 

(対多数は得意じゃないんですけど…)

 

月影と星彩は外の光に反射し、薄暗い室内での光になっている。

 

まるで、夜を照らすように。

 

それがほんの少し、勇気に変わった気がした。

 

「頑張りましょうか」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「そう言えばさ、雅さんは流雅さんの事、本人の前で兄上って呼ばないの?」

 

私は、雅さんとデータスタンドに向かいながら話す。

 

「……何故急にそんなことを聞く」

 

「私にもお兄ちゃんがいるんだけどね〜。私はお兄ちゃんって呼ぶんだけど、雅さんは流雅って名前で呼んでるでしょ?なんか変だな〜って」

 

「小さい頃は、兄上と呼んでいた」

 

「へぇ〜そうなんだ〜。やっぱり隊の中だと兄上って呼びにくい?」

 

「……お前ならば情報を漏らさないと思うので言うが、私と兄上は本当の兄妹ではない」

 

「え、え〜〜!!!」

 

「静かにしろ。化け物達に気づかれるぞ」

 

「ご、ごめん。でも二人が兄妹じゃないなんて……。星見家って大きい家系って聞くし、分家の人って事?」

 

「あぁ。兄上は分家から、私が生まれた母上の本家に引き取られた」

 

「分家から本家にいくなんて、優秀なんだね〜」

 

「あぁ、兄上は私よりも遥かに優秀だった。

だが、兄上が引き取られたのは優秀だからではない。

そもそも兄上は様々な分家に引き取られは捨てられ、巡り巡って本家にやってきた」

 

「?どうゆうこと?」

 

「兄上の耳が垂れ耳なのは知っているだろう?」

 

「あ〜、そうだね。ネットでも結構有名だよ?星見兄妹の耳、どっちを触りたいか選手権!ってね」

 

「そのような事が行われているのか………兄上は喜びそうだ。

話が逸れたな。

星見家の当主は代々、皆、私のような立て耳だった。

いつしか、星見家では垂れ耳は忌み子と呼ばれるようになった。

……後は想像できるだろうか」

 

「ごめんね、辛いこと言わせちゃったかな」

 

「構わない」

 

「うん?それで雅さんが兄上って呼ばない理由になるの?」

 

「……私の母上は優しかった。忌み子と呼ばれ、苛まれてきた兄上を優しく迎えた。私にも異論はなかった。私は一人っ子だったし、優秀だけれど歳の近い兄はまるでヒーローのように見えた」

 

「そして、私たちは幸せに過ごしてきた。血族の関係で兄上は当主になれずに私が当主になる予定となったが、兄上はそれを潔く受け入れ、私の従者のようなものになった」

 

「私は幼くても、分家に顔を出すように言われていた。その間は、兄上と母上とは離れ離れになっていた」

 

「ある日、私がいつものように分家の家に行った時、急にホロウの活性化が今迄にない速度で高まっていると、言われた」

 

「そのホロウは、本家の家の近くだった」

 

「もしかしてそれって……」

 

「あぁ、旧都陥落だ」

 

一層、雅さんの声が低くなった。

 

「私は急いで、家へと戻った。二人の無事を祈りながらな」

 

「慣れ親しんだ家を駆け抜けたが、二人は見つからずに私は最後にいつも三人で居た居間に向かった」

 

「そこで私は………兄上が母上に刃を突き立てているのを見た」

 

「嘘………」

 

「母上は、侵食に犯されていた。あのまま完全に侵食されていたら、母上は兄上を殺していただろう」

 

「母上は、兄上に介錯を頼んだだけに過ぎない。後々、考えればすぐに分かることだった」

 

「だが私は、感情的になり、そのままの感情を兄上にぶつけてしまった」

 

「………怖かったんだ。仲の良かった兄上が何か、恐ろしい事をしているのではないかと」

 

「私の未熟さのせいだ。ただ、私の言葉が、兄上に深淵のごとき傷をつけたのだ。兄上は私から逃げるように、何処かに行ってしまった」

 

「旧都陥落から数年が経った後に、久しぶりに兄上に会った。旧都陥落の後に、私が兄上を恨んでいなかったと言えば嘘だ。たが、長い年月は、私の恨みを風化させた。」

 

「兄上も、きっと同じだと信じていたんだ。また、昔のように私がした事を褒めてくれると。だが、全てが違った」

 

「兄上の目は、雰囲気は、何もかも昔から変わっていた」

 

「私は気づけば、兄上の事を名前で呼んでいた」

 

「………これが理由だ。納得のいくものだったか?」

 

信じられなかった。

 

汗が止まらなかった。

 

雅さんと流雅さん達にここまで暗い過去があっただなんて。

 

何も言えなかった。私みたいな一般人が口を挟める問題じゃない。

 

けれど、これだけは。

 

これだけは、言える気がした。

 

「…………雅さんは………それでいいの?」

 

「何?」

 

「流雅さんの事………好きなんでしょ?」

 

「……そうかもしれないな」

 

「じゃあ……仲直りしないとでしょ……」

 

「………私は……したいのだと思う」

 

「じゃあ……なんで……」

 

「兄上は……自分を責め続けている。それを変えれるのは兄上しかいない」

 

「………それは……逃げてるだけでしょ」

 

「なんだと?」

 

「雅さんが……流雅さんから逃げてるんでしょ……!

ていうか……どっちも逃げてるでしょ……」

 

「…私が!……私達が!……どれ程の思いで!」

 

雅さんに胸ぐらを掴まれる。

 

先程から、呼吸が苦しい。侵蝕が進んでいるのかもしれない。

 

けれど、これだけは伝えなければいけないと思った。

 

「お母さんを殺したり……殺されたりした事がどれだけ辛いのかなんて私には……分かんないよ!

けど!大切な人を失う事が……どれだけ辛いかは分かってるつもり!!」

 

「私達は、亡くなった人達の思いを背負って歩かなきゃいけないんじゃないの!?雅さんと……流雅さんは……ずっと………立ち止まってるだ………け…………」

 

(………あれ?意識が……)

 

「………はっ…!プロキシ!おい、プロキシ!」

 

雅さんが、こちらに手を伸ばしてくる。

 

(ごめん……雅さん………言いすぎちゃった………)

 

最後に、流れ星のような光が、私の視界に映った気がした。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

私はエーテリアスを掃討した後、雅とリンさんの方に向かっていた。

 

二つの人影が見えた。

 

何か、言い争っているようだ。

 

(喧嘩してるんですかね……)

 

私は止めるように、二人の間に入ろうとする。

 

すると、突然リンさんが倒れた。

 

「リンさん!」

 

私は、リンさんに駆け寄り、呼吸を確認する。

 

(呼吸は、ある)

 

片手には、少し文字と地図が書いてあった。

 

(これは……脱出の地図か)

 

(流石、プロキシです)

 

「課長!外への地図をリンさんは残しました!急いで、リンさんを連れてホロウの外………へ……」

 

「……あ……あぁ………あ」

 

ダメだ。

 

その表情は。

 

分かってる。

 

リンさんの状態が、トラウマを呼び起こすことを。

 

そして、さらにそれが私のトラウマを呼ぶことを。

 

(んっ!!)

 

舌を噛み、自分の意識をギリギリで留める。

 

汗が、止まらない。

 

「雅!!」

 

「……はっ……」

 

「外に出ます!動けますね!私に着いてきてください!柳に連絡を!」

 

「わ、分かった」

 

私と雅は出来うる限りの速度を出して、ホロウの外へと向かった。

 

 

 

 

 




流雅さんの身長は165です。

雅の身長(耳を含む)よりちっちゃいですね。
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