雅が本当の兄の様に慕っていた分家の兄が、雅の母親を介錯した話。 作:ザワザワする人
というわけで、そろそろメインストーリー進めま~す。
こんな速度じゃいつまでだっても瞬光を出せませんわ。
名は何を表すか
『リンさん、頼んでいた映画はどうなりました?』
『ばっちりだよ~。いつでもOK!』
『その……お恥ずかしい話なんですけど映画を見るのって専用の機械がいりますよね?』
『もしかして……』
『………機械の貸し出しとかってしてます?』
『やってないけど……私の家で見れるよ!』
『お邪魔にならないですか?』
『全然!じゃあ、いつでも待ってるからね』
□
そしてある日の休日。
流雅は、Randomplayの扉を叩く。
「あ、こんにちは」
しかし真っ先に目に入ってきたのは、ショートカットの白髪の女性。
邪兎屋の従業員、アンビーデマラその人。
「ん……あなたも映画を借りに?」
「いえ。自分は再生機器が無いのでここでリンさんと見ようと来たんです」
「そう……」
そういってアンビーは、再び棚へと視線を戻す。
流雅は、店番をしていた18号ちゃんに声を掛けますがさすがに何を言っているか分からない。
すぐに、会話は途切れました。
(き、きまずい………)
アンビーと流雅の仲はいわば知り合いの知り合い。
互いにニコという共通の知り合いがいるだけに過ぎない。
故にこの気まずさは必然。
ですが流雅とて大人。こういう時の会話パターンはいくつか持っている。
「あ、アンビーさんは映画をよく見るんですか?」
「えぇ」
「よ、よくハンバーガーを食べてますよね。好きなんですか?」
「えぇ」
「に、ニコは元気ですか?」
「……えぇ」
だがアンビーはまさしく鉄壁。断崖絶壁。難攻不落。
いくら話題を提供しようとも全ては一つの頷きによって終着する。
アンビーは映画のパッケージ裏のイントロダクションを読み,興奮しているので返事が適当なだけなのだが流雅がそれを知るはずがない。
(話題!!!何か!!!話題!!!!)
高速で回転した流雅の頭には、一つが天啓の様に降ってきた。
「あぁそうだ。お見舞い来てくれたんですよね。ありがとうございました」
しかしこれはアンビーにとって特大地雷に過ぎない。
あの日からアンビーは封をしていた過去を呼び戻され、今に至るまで己の過去に苦悩している。
流雅は別にそこまで悪いことはしていないのだが、アンビーには関係ない。
よってアンビーの選択は必然的に。
「………………」
無視!!
これにはさすがの流雅にも大ダメージ
「今度お礼を持っていきます。何がいいですかね」
というわけでもない!!
ほぼ無視同然の行動を繰り返され、流雅は極地へとたどり着く。
それすなわち、無視の無視!!!
「………………」
「ニコといえどさすがに現金そのままは礼儀に欠けますよね」
「………………」
「でも高価なものを持って行ってもすぐに売りそうです」
「………………」
「だからやっぱり食べ物とかですかね」
「………………」
「それよりアンビーさん知ってました?最近宝石が気になって調べてみたんですよ」
「………………」
「
一瞬見開いた自分の目を、アンビーはすぐに戻します。ですが腕の震えが、抑えられません。
彼女の頭には、過去の背景がフラッシュバックします。
目の前で死していった自分と瓜二つの何人もの姉妹たち。
「…………好きにしたら」
アンビーは棚に映画を戻し、店から出ようとします。
しかしその前に外から扉が開きました。
「あれ、アンビーじゃん!!それに流雅さんも!」
「…久しぶりプロキシ先生」
「うん。久しぶり!アンビーは何で来たの?」
「あぁ……えと、その………」
「あぁそうだ!アンビーも流雅さんと映画見ない?」
「ぷ、プロキシ先生。ありがたいけれど、私は」
ここで、アンビーに電流走る。
(……彼の考え方を把握していた方が、これから彼を回避するのに使えるかも。それに映画も見れる。まさに一石二鳥)
「えぇ、お願いするわ」
□
リンに案内され、流雅とアンビーは店の二階の小さな部屋に通された。
Randomplayの簡易
「じゃあ再生するね~」
リンが端末を操作すると、部屋の灯りが少し落ちる。
リンは椅子を持ってきて、ソファの隣に座る。
アンビーは腕を組んだまま、ソファの端に腰を下ろした。
流雅はその反対側へと座る。
二人の間には、妙に広い空間があった。
(…… 気まずい)
流雅は画面を見るしかなかった。
映画が始まる。
荒れたホロウ。
警告音。
調査員の怒号。
そして、子供の心拍を示すモニターアプリの機械音。
ピッ。
ピッ。
ピッ。
母親は必死に走る。
調査員の制止も聞かず、ただ我が子の鼓動を追って。
やがて、心拍は少しずつ弱くなる。
ピ……
…… ピ……
その音が、静かな部屋にやけに響いた。
流雅は、気付かないうちに拳を握りしめる。
アンビーは、表情を変えていない。
けれど流雅にはほんの僅かに、指先に力を込めているのが分かった。
映画は終盤へ向かう。
母親はついに子供を見つける。
瓦礫の奥。
埃まみれの小さな体。
けれど、モニターの波は。
…… ピーーーーーー
そこで画面は暗転し、スタッフロールが流れ始める。
しばらく誰も喋らなかったが、最初に口を開いたのは流雅だった。
「……助からなかったんですね」
「えぇ」
アンビーは短く答える。
流雅は少し考えてから言う。
「でも、あのお母さんは後悔はしてなかった」
アンビーの視線が、少しだけ動く。
「……どうしてそう思うの」
「最後、抱きしめてたじゃないですか」
流雅はまっすぐスクリーンを見たまま言う。
「間に合わなかったけど……見つけられた。それだけでもきっと救いになった」
アンビーは沈黙したが、すぐに言葉を紡ぐ。
「……甘いわ。救えなかったなら意味なんてない」
流雅は少し笑った。
「アンビーさんらしいですね」
「……どういう意味」
「合理的だなって」
流雅は肩をすくめる。
「郊外で会ったあの時も、邪兎屋の中で唯一あなただけが猫又さんを捨てる判断
言い当てられた事に対するアンビーの怒りはない。
「悪い事じゃないです。あの場では猫又さんを捨てる事がニコを助ける最善だった」
「冷酷に見える一面は、誰かにとっては温かく見えるかもしれない」
「救えなかったという真実は、逆説的に助けようとした人がどれだけその人を大切に思っていたかの証明になる」
アンビーの目が、少し細くなる。
「……きれいごとよ」
「そうですね」
流雅はあっさりと頷く。
「でも、放っておけないんですよ」
その言葉に、アンビーの視線が止まる。
流雅は続ける。
「自分も、そうすると思います」
「助からないって分かってても?」
「えぇ」
「……その方が後悔しない気がするので」
アンビーは、何も言わない。
だがその沈黙は、さっきの店内のものとは少し違った。
アンビーがぽつりと呟く。
「……あなた」
流雅を流し目で見る。
「映画の感想、変わってるわね」
「………そうですかね?」
アンビーは少しだけ考える。
そして。
「もう一本見る?」
流雅は少し驚いた顔をする。
アンビーは視線を外し、言う。
「映画の感想は、その人の考え方を教えてくれる」
「たった一本だとあなたの考え方は分からない」
流雅は少し笑った。
「なるほど」
「僕の研究ですか」
「そう」
アンビーは小さく頷く。
「…… 研究」
だがその声は、ほんの少しだけ柔らかかった。
□
「プロキシ先生、次はこれをお願い」
「うん?あぁ~これね。ちょっと重いお話だけど大丈夫?」
「えぇ。問題ないわ。あなたもいいでしょう?」
「アンビーさんのおすすめならなんでもいいですよ」
「おっけ~じゃあ再生するよ~。私は品出しに行ってくるから!お二人で楽しんで~」
先ほどと同じようにリンは機器を操作し、映画を再生する。
再生させられたのは、とある軍の映画だった。
軍は戦争の為に、大量の兵士を有していた。
しかし半ば違法な手段で集められた兵士達の中には、孤児であるが故に名すら持たぬ者達がいた。
そんな少年達のお話であった。
少年達は、正当な訓練兵ではなかった。
銃を持たされようとも撃ち方すら知らない。
刀を持たされようとも振るい方すら知らない。
ただ唯一、彼らが知っている軍の行動があった。
逃走だった。
ただ己の命を守ろうとするために、走ること。
少年達は最初の敵軍との衝突で、軍から逃走。
逆に自らの軍からは脱走兵として、指名手配されることになった。
名すら持たぬ彼らは、逃走時の暗号としてそれぞれに果物の名を与えあった。
彼らはそれをひどく気に入った。
そして物語は終幕へと向かい始める。
自国の軍からの容赦のない、銃弾の嵐。
彼らが見よう見まねで築いたバリケードも、なんの意味すら持たずに破壊されていく。
残った数名で、彼らはバラバラに夜の森へ入った。
時折、響き渡る仲間の叫び声にとある二人組は目を閉じ、耳を抑えた。
程なくしてその二人組も、軍隊に見つかった。
その二人は、彼らの中でのリーダーのような存在だった。
名を付けようと言い出したのも、この二人だった。
軍は二人の指揮系統を大きく買い、どちらか一方を残すことにした。
「どちらが死ぬか。話し合って決めるといい」
二人の前に投げ捨てられたナイフ。
さび付いており、刃毀れも見ていられない程の物。
一人が、ゆっくりと歩み寄りそれを手に取った。
「お前が生きろ。エスポワール」
一人は自らの喉に短剣を突き刺す前に言い放ちました。
それは残された一人の名では、ありません。彼が付けられた名前は、グレープだった筈でした。
プレゼントしたのです。
仲間たちの死を決して無意味なものにしてはいけないと。
半ば呪いじみたその言葉の意味は
『名は何を表すか』
□
「アンビーさんは、名前を誰につけてもらいました?」
映画のエンドロールの最中、唐突に流雅は質問した。
「………私は孤児だったから。あまり覚えてないわ。もしかしたら……姉妹からだったかも」
アンビーの問いに軽く頷いた後に、流雅は過去を呼び覚ました。
「僕は、ある年齢まで名がありませんでした」
「星見家最大の失敗作と謳われた僕に、わざわざ名を付けるなんて汚点を誰も残そうとはしなかった」
『雅の字を入れて……こんな名前なんでどう?きっとあなたに似合うわ』
「名は何を表すか」
軽く溜まった空気を吐いた後に、流雅は言葉を綴る。
「僕は全てだと思います」
一瞬ためらったあと、アンビーは質問する。
「…どうして?」
「その人が残した偉業」
「その人が誰かの為に何かをしてあげた事」
「その人がどうやって人生を歩んできたか」
「それら遍く全ては、名前を媒介として存在できる」
スタッフロールは、静かに流れていた。
黒い画面の上を、白い文字がゆっくりと昇っていく。
部屋の中には厳かな音楽だけが残り、二人の影がテレビの光に照らされ、壁にぼんやりと揺れていた。
流雅は背もたれに体を預けたまま、スクリーンを見ている。
アンビーは腕を組み、同じように画面へ視線を向けていた。
その後しばらく、どちらも口を開かなかった。
映画の余韻は重く、静かで。それを壊すには少し時間が必要だった。
やがてアンビーが小さく息を吐く。
「……合理的ではないわね」
その声は低く、落ち着いていた。
流雅はわずかに視線を向ける。
「最後の二人の事ですか?」
「えぇ」
アンビーは頷き、どこか沈んだ表情で語りだす。
「彼は状況を理解していた」
「囲まれていたし、武器もない」
「生き残る確率は低い」
アンビーは腕を軽く組みながら続ける。
「でも、それでも死ぬ必要はなかった」
流雅は黙って聞いている。
アンビーの声は、淡々としていた。
だがそれは冷たいというよりも、戦場を分析する兵士の声に近い。
「二人で抵抗すれば、少なくとも一人は倒せたかもしれない」
「夜の森だった。逃げられる可能性もゼロじゃない」
「それなのに、最初から死を選んだ」
アンビーはほんの少しの間を挟む。
「……無駄な行動ね」
流雅は少しだけ考えて、ふっと笑った。
そして、ふっと笑った。
「やっぱり、映画の感想はその人をよく表しますね」
アンビーがちらりと見る。
「どういう意味?」
「話は戻りますけど、アンビーさんは郊外で最後まで猫又さんを切り捨てる判断を残してた」
「でも同時に、
「そうじゃなきゃ、あの場から逃げるときに猫又さんを置いて行った方がいいですからね」
「アンビーさんは最後までどんなに可能性が低くても、諦めない」
「きっと…いえ、絶対に。アンビーさんは優しいですよ」
アンビーは小さく首を振る。
「違う」
「ただ、死ぬのは簡単だから」
流雅は黙り、アンビーはスクリーンを見たまま続けた。
「生きる方が、難しい」
その言葉は短く、静かだった。
アンビーはそこで腕をほどき、軽く立ち上がる。
「……いい映画だったわ」
それが彼女の最後の感想だった。
部屋の照明がゆっくりと戻る。
古びれたテレビの液晶は再び漆黒へと戻り、映画の時間は終わった。
アンビーは部屋の出口の方へ歩き出す。
その時、流雅がふと思い出したように口を開いた。
「……あ、そうだ」
アンビーが振り返る。
「何?」
流雅は少しだけ首をかきながら言った。
「前から気になってたんですけど」
その言い方は、本当にただの雑談の続きのようだった。
「アンビーさんって」
「昔、二刀流でしたよね」
アンビーの足が、わずかに止まる。
流雅は特に深い意味もなく続ける。
「郊外で会った時から思ってたんです」
「構え方とか、あとエーテルの動きとかで分かるんですけど」
「今は一本ですけど、前は二本だった」
アンビーは振り返らずに、ただその場に立ち尽くす。
窓の外では、夕方の光が少しずつ色を変え始めている。
やがてアンビーは静かに言った。
「……よく見てるのね」
それだけだった。
けれどその声には、ほんのわずかに過去の影が混じっていた。
それ以上は語らない。
流雅も、それ以上は追及しなかった。
しかしそれは、さっき店内で感じた気まずい沈黙とは違っていた。
言葉がなくても、別に困らない。
そんな種類の静けさだった。
その空気を破ったのは、階段の方から聞こえてきた足音だった。
「二人とも終わったー?」
ドアが開き、リンが顔を出す。
「感想会してた?」
アンビーは軽く頷く。
「えぇ。いい映画だったわ」
「でしょ!」
リンは満足そうに笑う。
「結構好きなんだよね、あれ」
流雅はソファから立ち上がる。
「今日はありがとうございました」
「いやいや、全然!」
リンは手を振る。
「また来てよ、映画いくらでもあるし」
その言葉に、アンビーが少しだけ反応した。
ほんの一瞬だけ考えてから口にする。
「……そうね。また来るかも」
リンはにやりと笑う。
「お、いいね~!その時はまた一緒に見よっか?」
アンビーは流雅の方をちらりと見る。
「……えぇ」
そして、小さく頷いた。
流雅は少し驚いた顔をする。
アンビーは特に気にした様子もなく、淡々と言う。
「映画の感想は、その人の考え方が出る」
「まだ、あなたの考え方を全部理解したわけじゃない」
「研究はまだ続けるんですね」
「えぇ、二本だけでは足りないわ」
「なにそれ、流雅さんはモルモット?」
「らしいです」
アンビーは特に否定せずに、まじめな顔のまま続けた。
「だから」
ほんのわずかに言葉を選んでから。
「……今度、時間があるなら」
「また映画を見ましょう」
「ここでもいいし」
「外でもいいわ」
リンがすぐに口を挟む。
「外なら映画館とか?」
「それでもいい」
「分かりました」
「じゃあ、次は僕が選びますよ」
「えぇ」
ほんのわずかに、アンビーの声が柔らかくなる。
「楽しみにしてるわ」
リンが嬉しそうに手を叩いた。
「いいねー!」
「じゃあ今度は映画デートだ!」
アンビーは無言でリンを見る。
その視線は、いつもよりほんの少し冷たい。
リンは慌てて笑う。
「ごめんごめん、普通の映画ね!」
流雅は苦笑し、アンビーは小さく息を吐いた。
けれど完全には否定しなかった。
Randomplayの窓の外では、夕方がゆっくりと夜へ変わり始めていた。
映画の余韻と。
一つの、約束を残して。
評価、感想、お気に入りありがとうございます。
このお話からパソコンで、打ち始めたんですがやっぱり慣れてないと遅いですね~。
えっ?言い訳だろって?
そうです。言い訳です。許してください。できるだけ頑張りますから。