雅が本当の兄の様に慕っていた分家の兄が、雅の母親を介錯した話。 作:ザワザワする人
『課長?聞いてますか?』
「っ…ごめんごめん。聞いてるよ。何の話だったっけ?」
『やっぱり聞いてないじゃないですか。皆が担当していたホロウ調査は終了しました。次の命令を』
「もう終わったの?凄いね皆。じゃあ……今日は休みでいいよ」
『はい?』
「…?だから、休みでいいよ」
『……分かりました。皆にはそう伝えますけど、多分訓練しだしますよ、全員』
「え?いやそんな事ないでしょ。皆休みたいはずだって。それじゃあね」
『ちょっと待ってください。課長は何を』
(危なかった~……)
流雅は自身の一連の行動を、部下には伝えていない。
無論、部下を呼べば彼の負担は減るだろう。アストラの安全もより堅牢になるのは自明である。
だが、狙われているのはアストラだけではない。
間接的に、流雅が要因となりイヴリンもまた命を狙われている。
また、流雅は自分が特別執行課の課長として狙われているのではない可能性の方が高いと踏んだ。
それ故に、課の皆には伝えずに単独で流雅は護衛を行っている。
この状況を招き、また自分の命が狙われている理由はもちろん自分にある。
彼の責任感が、この状況を招いている。
そしてそれが、彼の首を絞め続けているのは言うまでもない。
□
護衛二日目。
前日の夜にアストラに呼び出された流雅は、明るく振舞っていたアストラでさえも恐怖を抱いている事を知った。
これによって、彼の感じていた責任、覚悟、決意は一段と堅牢になる。
彼はアストラと共に屋上から帰った後、
アストラの寝室の扉の前に椅子を置き、座っていた。
何かを考えている訳でもなく。ただ全神経を暗殺者の探知へ注ぎ込んだ。
太陽が昇り、アストラの活動に流雅ももちろんついて行った。
二日目に、暗殺者は一名たりとも来なかった。
□
護衛三日目。
また流雅は
前日に、襲撃が無かった事により彼の敵へと警戒心はさらに強まった。
そして再び、特別執行課の部下は流雅と連絡を取った。
流雅は、次に他の課へと応援を命令した。
彼らは、課長に対する心配を露わにしながらそれに従った。
三日目に、暗殺者は来なかった。
□
護衛四日目。
流雅は、
イヴリンが、流雅に無理をしない様に注意した。
君もまた狙われている。私が夜を見張るから君は寝ろと、彼女は言った。
アストラもまた、それに加勢した。
だが彼女らのそれも無意味だった。
イヴリンの実力を、彼はまったく疑っていない。
初日に捕まえた暗殺者の言葉が真実であるならば奴以上の敵はコンサートまで来ない。
イヴリンの実力であれば、それらに対処可能である事も流雅は分かっている。
けれども、それは出来ない。彼が、星見流雅であるが故に。
暗殺者は、来なかった。
□
護衛五日目。
流雅の五感が鈍り始めた。
四日目からはマトモな食事を取っていなかったのも要因かもしれない。
だが幸か不幸か、コンサートは明日に迫っていた。
流雅は、一睡もしなかった。
だが針が12を回った頃に、イヴリンと流雅は会話をした。
流雅の正常に稼働していない脳に、その記憶は残っていない。
ただ、彼女の何か大切な物を傷つけた。そんな予感が、流雅の心で眠りについた。
□
コンサート当日。
待ちきれない様子のお兄ちゃんを、連れて行ってスターループに向かった。
私が運転してあげたのはお兄ちゃんが興奮しすぎて事故ってしまいそうだったから。
代わりにお兄ちゃんに一週間の店番を押しつけれたのはラッキー。
「「お〜!!」」
スターループの豪華さに思わず声を漏らした。
イアスもどこか楽しそう。
「リン、そしてアキラだな。君達の事は、アストラお嬢様から聞いている」
「親愛なるゲストとして、歓迎しよう。パエトーン」
イアスを眺めていると、後ろから凛として声が聞こえてきた。
「パ、パ、パエトーン??ちょっとなんて言ってるか分かんないな~……?」
「安心してくれ。誰かが君の正体を漏らした訳ではないからな」
「そうだ。自己紹介がまだだったな。私の名前は………」
その後、途中で乱入してきたアストラさんと一緒にディレクターさんから逃げ回った。
この後起こる事を何も知らない私は意外にも、楽しかった。
□
リンがイヴリンに出会う数分前。
(落ち着け……。深呼吸しろ………)
流雅は、自らの体調と戦っていた。
柱に寄りかかり、ディレクターとアストラの会話を視界の端で捉えている。
だが突然、アストラがどこかへ行ってしまった。
流雅はそれを自然と追おうとするが、追えなかった。
入場ゲートで、ほとんどの危険物、あるいは殺傷を可能にする道具は帝高の従業員が預かっている。
しかし流雅は万全を期すために、早朝からスターループに入り、いわゆるファイアウィールのような術法を
今、その対象に反した者を術法が捉えたのである。
一瞬の逡巡の後に流雅はアストラではなく、おそらく侵入者と思われる方を追う事にした。
(いない……!!)
術法が捉えた場所に辿り着いても、その場には誰もいなかった。
(………は?)
そして、違和感が流雅を襲う。
幾度も自分の五感を、そしてエーテル探知能力を窺った。
だがそれでもぬぐい切れぬ何かが、そこにはあった。
(ここのエーテルは……濃ゆすぎる)
□
「皆に、魔法をかけてあげるわね!!」
そのままライブは開幕した。
イヴリンはすぐに流雅から件の場所の報告を受けていた。
流雅はあくまでアストラを勝手に護衛してるだけの存在に過ぎないが為に、帝高の人員を動かす事は出来ない。
しかしイヴリンであれば、話は別。
イヴリンはすぐにホブソン専務に連絡を取り、落ち合う事にした。
「今回の騒動の大元は君ではないのかね?イヴリン・シェヴァリエ」
「………何を根拠に言っている。それよりもだ。流雅から連絡が入った。今までで最も危険な刺客が、もう既に入り込んでいる。すぐに手配を」
イヴリンの言葉を遮り、ホブソンはあくまで冷静に淡々と読み上げる。
「イヴリン・シェヴァリエ。『ラッキー・エリー』のプロデューサーを務め、その後パルカファクトリー・フィルムズに三年間、助監督として在籍。二年前モニカ君の推薦を受けて、わが社でのキャリアを始めた」
「まったくすばらしい経歴だな!!本当ならどれほどよかったか」
「なぁ?シェーレ・グリーン」
「………………」
イヴリンは少し下を向く。
「諜報組織きっての精鋭が、わが社の最も重要な
まったく由々しき事態だな」
「絢爛な宝を汚そうとする蛾は、とっとと駆除するに限る。そうは思わないか?」
イヴリンは視線を戻し、問いかける。
「それは、アストラお嬢様の意向でしょうか。それとも……
「どちらでもないとは言っておこう。それが大した問題か?」
「私にとっては、そうだ」
「ほう?昨夜に
イヴリンは驚嘆の後、すぐに目の前の男を睨みつけた。
「貴様……聞いていたのか」
「あのような大声で話していてはな、私が君に疑念を持ったのもそれからだ。急ピッチで調べ上げたが、うまくいって心の底から安心している」
「彼には感謝しなければならないな。急に、そして勝手にアストラの護衛をするなどと言い出した時は、驚いたが。今となっては、感謝の限りを尽くさなければ」
ホブソンが言ったその瞬間、イヴリンの眼が大きく開かれる。
「は………?今……なんと言った?」
「ん?だから、彼には感謝しなければならないと「違う」……一体全体なんだ」
イヴリンの額には僅かに冷や汗が浮かんでいた。
「その後だ。彼が……
「あぁそうだとも。彼は自らの権限を使って、勝手に、アストラの護衛を始めた」
男の言葉を、イヴリンはゆっくりと咀嚼していく。
(彼は……上からの命令で護衛してるんじゃなかったのか…)
『君も私も同じだろう!!上からの命令で動いているだけの駒に過ぎない!』
イヴリンの頭に浮かんだのは、昨夜の自分の言葉。
自らがほとんど自暴自棄で流雅に言い放った、昨夜の言葉。
(私は……彼になんて事を………)
「まぁいい。お前が何を思っているのかは心底どうでもいいが、もう、用はない」
「お前達、やれ!!」
ホブソンは背後に用意させていた部下に指示を出し、イヴリンへの攻撃を開始した。
「っっ!!ホブソン!!脅威が迫っているんだ!!」
「なんだ?急に鞍替えか?私はそれを考えるほど暇じゃない」
イヴリンは、帝高の人員を自らの糸でさばきながら大声で叫ぶ。
「ほんとうだ!!流雅が言っていたんだ!!」
「ふっ……そもそもの話だが、彼は果たして本当に
「なにを言っている!!君も見ただろう!彼が来た初日に、彼はアストラを庇ったじゃないか!!」
「その暗殺者が、彼の仲間であった可能性は?」
「………は?」
「初日以降、暗殺者は来ていない。彼が自作自演で、アストラを守ったふりをした可能性は低くはない」
イヴリンは、自らが思っているよりも激怒していた。
アストラが危険にさらされている可能性に、対処していない事。
それよりも。
遥かに。
流雅の心を、正義心を、懐疑された事。
過去にそれに救われたイヴリンだからこそ、怒りが彼女の脳を支配する。
「あいつだ!!あの金髪の女を殺せ!!」
イヴリンの背後からは組織からの刺客が。前方からは、ホブソンからの命令を受けた帝高の人間が。
挟み撃ちされている状況に、イヴリンは少しの焦りも覚えなかった。
ただ冷静に。
「……殺す」
事実を述べた。
□
「そこだ!!殺せ!!」
「挟み撃ちだ!!」
流雅は現在、組織のエージェントとの連戦を強いられている。
コンサートが開始し、すぐ後に出現した大量の人の気配を流雅は術法によって探知。
すぐにそちらに向かったが、数名を取り逃がしアストラへと向かわせてしまった。
(先にこっちの全員を戦闘不能にする)
数日の睡眠時間はゼロ。
まともな食事もほとんど摂っていない。
コンディションは最悪といって差し支えない。
「く、来るな………」
「ゆっくり眠ってていいですよ」
しかし、それでは決して埋まらない差が彼らにはあった。
その差が、組織のエージェント三十七名を一分に満たず気絶させることを可能にした。
(次は………アストラさんの方だよね)
彼は、再び歩みを進める。
□
流雅が向かい始めた時、ステージ上。
幕間で全ての証明が消え、暗闇に没していく中でアストラは一人、あらゆる場所へ連絡を取ろうとしていた。
「ディレクター?制御室?…イヴ?流雅?聞こえてる?」
「壊れちゃったのかしら?……まずいわね、次の曲が始まっちゃう。
ああもう!!裾が40mもあるドレスじゃ踊れないっての!!」
「かくなるうえはっ…!」
ぱさっ
ガサゴソッ………
ぱっ!!
証明が付く一秒前、アストラは舞台袖にあった別衣装の早着替えに成功した。
流雅が暗闇の中で既に到着している事を知らずに。
「………あ、アストラ……さん。………無事ですか?」
流雅とて男である。
雅以外の裸を見たら、照れもする。
アストラはそれを知る由もないのだが。
「あ、流雅!!来てくれたのね!!」
「は………はい」
(なんか流雅の様子が変だけど………気のせいよね)
「私の無線機が壊れちゃったの。流雅のももしかしてそう?」
「い、いや。多分違います。僕もどことも連絡できませんでした。おそらく、制御室が敵にやられてます。それに……」
ステージの端から、ぞろぞろと刺客が出てきた。
「あれか?」
「男と女どっちだ」
「どっちもだ。だが男の方が額がでけぇ」
(狙いは僕………って事で良いのかな)
「アストラ、ライブは続けます」
「当然!!」
ここでやっと暗闇からの光に慣れた人々が流雅の存在に気づき始める。
「ね、ねぇあれってもしかして………」
「たれ耳に、二つのシッポ……」
「そしてあの凛々しいお顔……」
「「「流雅様~~~~!!!!!!」」」
大声で人々が光に慣れたのが分かったアストラは、ここでマイクを入れる。
だがアストラを背後に庇っている流雅は、それを知らない。
「絶対、僕から離れないでくださいね」
「あら、おあつい告白ね!!」
そしてアストラが入れたマイクは、コンサート用の物。
当然、コンサート中にその声は響き渡る。
だが流雅は、数日にわたる睡眠ゼロから集中力を全て眼前の敵に注いでいる。
聞こえるはずもなく、この日から流アス、アス流というカプが新エリー都を席巻したことは、まぁ必然であった。
それに怒りを抱く若干名がいたこともまた、必然だった。
□
「それじゃあ、次の曲!!皆まだまだいけるわよね!」
眩い証明が再び一斉に灯り、歓声がスターループを揺さぶる。
アストラがマイクを掲げ、アップテンポの曲が始まった。
しかし既にステージ上、アストラの周囲では戦闘が始まっている。
「殺せ!!」
「男は強すぎる後回しだ!まずは、女ぁ!!」
流雅は、制限を背負っている。
(1、血は出せない)
観客達は、流雅と刺客との戦闘をあくまでパフォーマンスとしか捉えていない。
血を出したとしても、ある程度の観客は演出として考えるかもしれない。
が、今の流雅にそんな事を考える余裕はない。
(2、アストラの存在)
アストラは、マイクを持っている。
もし、刺客達の声がマイクに入ったのならば疑問に思う観客がいてもおかしくはない。
そしてそれが彼にとって最も大きな縛りであった。
基本的に流雅は、自分からの他者の邪魔を良しとしない。
ライブを楽しんでいる人々。その邪魔をするなど彼にとっては言語道断。
よって現在、流雅は刀を用いずに敵を気絶させている。
それがどれだけの緻密な力加減と集中力が必要なのかは言うまでもない。
(……遅い)
自らの脳内処理に体がワンテンポ遅れる感覚。
「死ね!!!」
故に一歩。
その速度が遅れる。
「アストラさん!!」
庇いきれぬ位置にまで、自らが動いた事すら流雅は分からなかった。
振り下ろされる刃。その軌道上に位置するアストラ。
彼の動くことすら危うい脳内が最悪を想像し、そしてそれが現実に。
「邪魔だ」
なる事はなかった。
「アストラ!!大丈夫か!」
「アストラさん!!」
刺客の後ろから縛りあげたのは、無論イヴリンの拘束術。
それと同時にアストラの曲が終了し、イヴリンによって制御室まで案内されたアキラとリンによって照明が落とされる。
「流雅………」
「流雅?大丈夫?顔が青白いけど………」
彼女らの心配は、流雅の耳には届かなかった。
再び、彼の術法は探知する。
ライブ前に感じた、あのエーテルを。あの邪悪そのものを凝縮したかのようなエーテルを。
彼女らを無視して、流雅はそちらに向かい始める。
今ここで止まれば、あの気配を見失うかもしれない。
それだけは避けなければならなかった。
彼が廊下へ向かおうとした、その瞬間。
「……待て」
イヴリンの低い声が、彼の背中に届いた。
「流雅」
二度目の呼びかけで、ようやく流雅は足を止めて、振り返る。
照明の残光に照らされた顔は、誰の目にも明らかなほど血の気が引いていた。
それでも彼は、いつものように少し困ったような笑みを浮かべる。
「……イヴリンさん」
流雅の声はわずかに掠れている。
「どうしました。今は――」
その瞬間。
パァンッ
乾いた音が、小さく廊下に響いた。
流雅の顔が横に弾かれる。
流雅はゆっくり瞬きをした。
「……え?」
呆然とした流雅の声が漏れる。
振り抜いたイヴリンの手はまだ下ろされていない。
その表情は怒っているはずなのに。
どこか、苦いものが混じっていた。
「………本当に」
「手のかかる男だな、君は」
流雅は頬に触れることもなく、ただ彼女を見る。
「……イヴリンさん?」
イヴリンはもう一歩近づき、流雅の胸倉を掴んだ。
「君は五日寝ていない」
流雅の視線がわずかに逸れる。
「私もアストラも止めた」
「それでも君は寝なかった」
イヴリンは小さく息を吐く。
少しだけ、覚悟を決めたように。
そして小さく付け足した。
「………君だけじゃない」
けれどもほんの一瞬だけ、彼女の声が弱くなる。
「……私だって、昨日寝ていない」
流雅は少し目を見開いた。
だがイヴリンはそれを見らずに、すぐに表情を戻す。
「それでも、君はやりすぎだ」
流雅は、いつものように少しだけ笑った。
「……大丈夫です」
バシンッ
二発目のビンタだった。
流雅の体がよろめき、千鳥足で危うく倒れかける。
「ふざけるな」
イヴリンの声が震える。
「自分で分かっているだろう」
「君は今、まともに立っているのも怪しい」
「そんな状態で一人で行くつもりか」
流雅は少し目を伏せる。
「……でも、アストラさんもイヴリンさんも狙われています」
流雅は続ける。
「だから僕が、片付けてきます」
イヴリンは目を閉じ、小さく息を吐いた。
本当は――流雅の事は行かせたくない。
だがイヴリンは、分かっている。
彼は止まらない。
この世におそらく一人の、
そんなことは、最初から分かっている。
自分がそれに慣れない事も。
「……やはり、私はどこまで行っても私だな……」
そう言い放って、イヴリンは胸倉から手を離した。
「役割分担だ」
「……え?」
「君は行け」
イヴリンは、廊下の奥を顎で示す。
「私はアストラの所へ戻る」
流雅は数秒黙り、それから静かに頷いた。
「……そうですね」
彼はいつものように苦笑した。
「今の僕だと、アストラさんの近くで戦う方が危ない」
イヴリンの口元がわずかに緩む。
「自覚はあるらしいな」
「流雅」
「………はい」
「絶対に倒れるな」
流雅は、少し目を丸くする。
「努力します」
イヴリンは、ため息をつく。
「努力では困る」
「善処します」
「それも、信用できないな」
そう言って、イヴリンは背を向ける。
「私はアストラの所へ行く」
数歩進んでから言う。
「もし倒れたら、三発目だ」
流雅は苦笑した。
「……それは勘弁してほしいです」
イヴリンは答えず、そのまま走り去った。
ステージへ。
アストラの元へ。
自らが向かうべき相手の元へ。
残された流雅は、静かに息を吐く。
彼の視界が、わずかに揺れる。
(……本当に限界だな)
それでも彼は顔を上げた。
自分がいる廊下の先から感じる気配に、一歩一歩近づいていく。
「あなたが」
一つ深呼吸を置いて。
「黒幕って事でいいですか?」
体全体を、顔を、頭すらも覆い隠すローブを被った人物に声をかけた。
□
「返事してもらえると助かるんですけど」
流雅が声をかけても、目の前の人物は反応を露わにしなかった。
少し喉の付近を、片手でいじり出す。
(ボイスチェンジャー………か?)
「あなたのエーテルで、あの人数を隠してたんですよね」
「僕が術法を敷く前にあの人達をエーテルで覆い隠しておけば、侵入の際の術法に引っかからずに奇襲出来る」
「二重にかけておいて正解でしーーーー」
流雅は二回の大規模な術法から残った限りあるエーテルで目の前の人物を倒す必要がある。
流雅は片足にエーテルを全てまとめ、爆発的な速さで接近した。
「たっ!!」
「ふふっ」
一撃で接近するはずだった流雅は、突然跳躍した相手を掴む事は出来なかった。
(……?殺しに来ないのか……?)
流雅はすぐさま反転し、いまだ空中に浮いている人物に突撃する。
「ざ~んねん」
フードの人物は、後ろから両手を取り出した。
その両手に握られていたのは。
(手榴弾!!)
流雅も頭では、理解している。
それの危険性、それへの対処法、そして今何をすべきか。
だが、体は決して動かない。
彼自身、もう限界を超越し動いている。
体が言う事を聞かなくなるのも、時間の問題だった。
パァァァァァァァン!!!!
爆発的な衝撃音と共に、辺りに展開されたのは爆発ではない。
閃光でも、煙幕でも、催涙ガスでもない。
ただの、
人体に有害でもなんともない。ただの塗料。
それ自体は、脅威でもなんともない。ただ流雅は動かぬ体を動かそうと努力していた。
故に、閃光弾である可能性を思考できずそれを直視し続けた。
彼の頭上からは、大量の塗料が降り注いだ。
(くっ………見えない)
流雅の視界は今奪われた。
咄嗟の体の反射すら、今の流雅には稼働しない。
瞼をぎりぎりで閉じたとはいえ、少しは塗料が目に入り込む。
そして彼の顔には、いまだに大量の塗料が付着している。
眼を開ける事は、できない。
「はい、見えなくなっちゃった~~。じゃあ、あとはあなたに任せるね~」
「ま、待て!!」
「そんな怒んないでも、私はあの女の方にはいかないよ~」
そういってフードの人物は立ち去り、そして選手交代かのようにもう一人の人物が来る。
チェーンソーをうならせながら、その男は近づいてくる。
(音は反響しすぎて分からない。ならエーテルで……!!)
五感を使わずとも、彼にはエーテルの探知がある。
幾分かは戦える。
そう、流雅は思い込む。師匠から教えられた術に対しての自身は、彼にはあった。
が、それもまた彼の思い込み。
「殺す殺す殺すぅ!!」
「くそっ………」
流雅は、今自分がどこにいるのか分からない。
自分が、どんな体勢かも分からない。
相手の位置が分かろうとも、反撃の余裕が彼にはない。
グラリ
(まず………)
そして目を瞑るという行為。
人間が、睡眠の大前提として行う行為。
視覚情報の遮断。
彼のここ数日の無茶が、荒波のように押し寄せる。
そしてそれは、目の前のチェーンソーの男も例外でない。
ドサッ
(いてっ………)
流雅は、ついに横転した。
そして既にチェーンソーの男は接近し、その武器を振りかざしている。
(たたないと………)
もう、立ち上がる余裕も彼にはない。
チェーンソーのうねりが響く。
「ぶったぎれろぉおおおおお!!!!!!!!」
男の怒声が響くと同時に、
更新が遅すぎる!!大概にsayよ!!
ほんまお待たせして申し訳ないです。