雅が本当の兄の様に慕っていた分家の兄が、雅の母親を介錯した話。 作:ザワザワする人
めちゃくちゃ嬉しいです!
特に感想とかエグいです。モチベの上がりようが。
(……あれか)
少し離れた場所にある裂け目が眩しい光を放っている。
「リンさん!しっかり!」
私の腕に抱えられているリンさんは意識が無く、足がだらんと垂れている。
私は雅と裂け目に飛び込んだ。
裂け目の光が私達の五感を遮り、ホロウのえも言えぬ重々しさと不吉な雰囲気が突然消えた。
周りの状況を確認すると、ここが確かにホロウの外だと分かる。
「課長、連絡は!」
「電波が届いた。柳に連絡しよう」
リンさんを地面に横たわらせ、状況を確認する。
(脈が弱くなってる……呼吸も浅い……)
遠方から、銃の発砲音が響く。
私は、それに負けぬよう、声をかけ続けることしか出来なかった。
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『ホロウ脱出後も、拒絶反応が進行し合併症を引き起こし、深刻な心肺停止状態に陥る可能性があります』
柳達や邪兎屋と共に来た、スカーフがついたポンプが機械的な音声で明確な状況を把握する。
「分かった。何をすればいい」
「ちょっと!プロキシ!早く起きなさいよ!」
涙ぐんでいるニコの声が聞こえる。
『専門的な蘇生措置を今すぐ行うべきです』
「分かった」
「プロキシ!プロキシってば!」
半ば錯乱状態のニコを落ち着かせる。
「ニコ!今あなたに出来る最善をして下さい」
「……!分かってるっての!ごめんね、プロキシ」
ニコは大きく息を吸い、そのままリンさんの口に空気を送り込む。
私はそれを確認し、心臓マッサージを始める。
「1、2、3、4………」
(死なせてたまるか……)
「お、おい店長は大丈夫か?」
後ろから、邪兎屋の機械人が聞いてくる。
それに応じれるほど、ニコにも私にも余裕はなかった。
「リンさん!お兄さんがいるんでしょ!?心配してますよ!」
大丈夫ですからね!絶対助けますから!」
「あんた……」
「集中しろ!」
「ご、ごめん!」
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「……………………う〜ん」
「お、おい!店長が目覚ましたぜ!」
「「はぁ……はぁ……はぁ……」」
「……あれ?ニコ?流雅さん?」
「ようやくのお目覚めね……死ぬほど疲れたわ……アンビー、あんた達は大丈夫?」
「私は大丈夫。問題ないわ」
呼吸を正そうとしていると、ボンプから声が聞こえてきた。
『リン!やっと起きてくれた!気分はどうだ?目はまだ痛むかい?体の他の場所は?』
「あれ……?目の機能が全部回復してる?まだ頭痛と目眩がするけど……これ夢?私、ホロウから出られたの?」
「夢じゃないっての。あんたはとっくにホロウの外よ」
「そっか……ていうかニコ、六課の人達と仲直りしたんだね
ところで、雅さんは?あの人は無事?」
後ろから、凛とした声が響いた。
「私は無事だ、今度こそな」
「いやぁ〜流石ですね、課長と流雅さん!
侵蝕でぶっ倒れた人を抱えて大立ち回り。自分には侵蝕のしの字もないんですから」
「浅羽隊員、情報は引き出せましたか?」
「吐くには吐きましたけど……大した情報はなかったですね」
「?みんな何言ってるの?」
「あたしが説明するわ」
そう言い、ニコがリンさんに状況を話しだした。
自分は邪魔かと思い、少し離れた位置に移動した。
隣に悠真が来たので粗方の情報を聞く。
「バレエツインズ……か」
「どう思います?流雅さん?」
「デットエンドホロウの近くで、今日ブリンガー長官が演説をするらしい」
「流雅さんは、ブリンガーが黒幕じゃないと?」
「そういう訳じゃないさ。私達が持つ情報ではまだ無数の可能性が散りばめられてる。私達がニコに協力する以上、私達はブリンガー長官を疑い続けるわけだし。悠真は?」
「僕的には、ブリンガーがほぼ黒な気がしますけどね〜。ていうか、流雅さん、大丈夫ですか?」
「何が?」
「……いや、何となく」
「何となくって何」
「何となくは何となくですよ」
(いきなり、どうしたんだろ?)
妙に心配性になっている悠真に疑問を抱いていると、柳が声を掛けてきた。
「浅羽隊員、流雅さん、私達はバレエツインズに向かいます。そこにパールマンがいるとの情報が」
「………帰りはあのトラックじゃないですよね」
「安心してください。ちゃんと六課の車ですよ」
「良かった〜〜」
私も、車に乗ろうと思いついて行こうとすると後ろから声を掛けられた。
「ちょっ、ちょっといいかしら!」
「ニコ?どうしたんですか?」
「あ、あんたに用があるんだけど」
「…………副課長、悠真、先乗っといてください。すぐ戻ります」
なんの用かは分からなかったが、応じることにした。
それほどに、彼女は真っ直ぐな目をしていた。
「それで用とはなんですか?」
「ごめん!」
唐突に彼女は頭を深々と下げた。
(どういう風の吹き回しですかね……)
「あ、あたしあんたのこと勘違いしてたから……」
「何がです?」
「いや、もっと冷たい奴かと思ってて……」
(そんな事で謝りに来たのか……)
「別に謝るようなことじゃないでしょう……」
「い、いやでも!あたしはあんたのこと馬鹿にしたし……」
「課長の刀の話の時ですか?」
「え、えぇ」
「別にあれは真実でしょう。あの時の私が、ひどい顔をしていた自覚はあります」
(あの時は……必死だった。兎に角、強くなろうとしていた)
(別に、今の強さに満足している訳ではないですが)
ただ、私は本能で分かってしまった。
どれだけ修行を重ねても、絶対に。
決して、雅の強さに辿り着くことなど出来ない。
努力の量の話ではない。
雅のあれは天賦の才だ。
所謂、天才と呼ばれる存在。
私に、そのような才能はなかった。
ただ、それだけの事。
「今の顔も酷いわよ……」
ニコがポツリと何かをつぶやいた。
「何か言いましたか?」
「…ううん、なんでもないわ。じゃあ、あたしに何かして欲しいことある?このあたしが!なんでもしたげるわよ!」
「う〜ん、そうですね〜〜」
「ほらほらー、なんでもいいわよ?」
ニコが体の前で腕を組み、わざわざ胸を強調するポーズをとる。
「………ぶっ飛ばしますよ?」
「じょ、冗談だってば!?」
「ふふ、では貸一つ。という事で」
「貸を作るのは慣れてるわ!」
「………最低ですね」
「何よ!あたしだって作りたくて作ってるわけじゃ!」
「流雅さ〜〜ん。置いてきますよ!」
後ろから、悠真が呼ぶ声が聞こえた。
「すぐ行く!じゃあね、ニコ」
「ええ、じゃあね」
互いの無事を祈る事はしなかった。
この大事件に巻き込まれていながら、尚、互いが互いを信じていた。
あいつは無事だと。
故に、どちらかがその判断を酷く後悔することになった。
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六課の車は何事もなく、バレエツインズへと辿り着いた。
(私達への襲撃が意味がないと思った、もしくは私達をここに呼ぶ事が目的……)
でなければ、私達がパールマンを救出しに来たことを見過ごしはしないだろう。
私達が、わざわざ郊外のトラックを使って郊外に行ったというのに、相手は私達を追うことが出来ていた。
六課の車を使えば、襲撃は容易だったはず。
(ただの戦力不足が1番ありがたいですけどね……)
「プロキシ様が、ホロウ内での案内をしてくれます。このボンプが活動するまで、休憩ですね」
(一応、電話入れときましょうか)
プルルル
電話をかけると、ワンコールで出た。
『こちらは、星見宗一郎様のお電話です』
「もしもし、執事さんですか?」
『その声は……流雅様でございますね』
「様なんてやめてください。私は貴方と大して立場は変わりませんよ」
『いえいえ、ご謙遜を。何か宗一郎様にご用でしょうか?現在、宗一郎様は市長様との会談中でおります故、すぐにはお伝えできませぬが』
「雅の刀が暴走したと伝えてください。現在は収まっていますが、いつ再発してもおかしくないと」
『なんと…あの無尾がですか……。承知しました。しかとその旨を伝えてまいります』
「よろしくお願いします」
「終わったか」
電話を切ると、雅が近づいてきた。
「……一応、無尾の事を言いました。けれど、すぐには対処できないと」
「父上も多忙の身だからな、仕方ないさ」
「………それで、何か用ですか?課長」
「立ち話もなんだ。何処かに座らないか?」
私は、六課のメンバーを一瞥する。
(……聞かれたくないと)
「分かりました。近くのベンチに行きましょうか」
私は、こちらを見ていた柳と視線を合わせ、少し皆から離れたところにあるベンチに腰掛けた。
「………近いです」
「近くない」
(肩と足がくっついてるんですが……)
「まずは謝罪したい」
「プロキシに、話の流れで私達と母上のことを告げた。お前に確認もせず」
「申し訳なかった」
「課長がそう判断したのなら、私に異議はありませんよ」
雅は、ゆっくり話しだした。
「………プロキシに、私達は立ち止まっているのだと言われた」
「立ち止まっている……ですか」
「私はそれに妙に納得してしまった。私があの日から鍛錬し続けてきたことを、否定しているのではないだろう」
「虚狩りではなく、あの瞬間はただ一人の人として、説教を受けたような気がした」
「……母上の事を思い出した」
「……………」
「私は、プロキシの言う通りだと思った」
「自分の甘えを自覚した」
「母上に、気付かぬうちに縋っていた」
「だから、私は歩むことにする」
雅は立ちあがる。
「私は進む。これは一生をかけて向き合い続ける物だと、私は思う」
「その隣に誰かが居るとしたら、私は」
「朱鳶でも、柳でも、父上でも、………
雅は振り返り手を私に差し伸べる。
「兄上が、良い」
手を、無性に伸ばしたくなる。
いっそ、このまま雅の手を握れば。
そうやって、想ってしまう。
なら。
この手を後ろから縛り付ける鎖は、何なのだろう。
理性とも、本能とも、言いきれない何かが。
錆びついた、何かが。
きっと、私は酷い顔をしているのだろう。
そんな私でさえも、雅は優しく抱きしめた。
黒髪が少しくすぐったい、でもそれが今は心地よかった。
耳元から、雅の澄んだ声が聞こえる。
「私はずっと、待っている」
「今でなくても、明日でも、来年でもいい」
「私はずっと……兄上を愛しているから」
雅は、私を離して、柳の方に向かっていった。
私は、もう何も、考えれなかった。
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「待たせたな、柳。プロキシはどうだ?」
「課長。未だにオフラインになっているようです」
「そうか」
「あの……課長?流雅さんどうなってるんです?なんか蹲ってるんですけど」
「りゅうにぃ、元気無さそう………。お菓子あげてこよっ!」
「蒼角、止まれ」
「うん?どうしたの、ボス?」
「……1人にしてやってくれ」
「?でも……元気無い時は、みんなでいる方が元気でるよ?」
「ならば、蒼角。私のメロン味の飴をやろう。それを食べ切るまで待っていろ」
「分かった!」
蒼角は、そのまま雅から差し出された飴を頬張る。
そのまま、蒼角は忽然と寝てしまった。
「かかか、課長!?何飲ませたんですか!?」
「少しの衝撃で起きれる程度の、睡眠剤だ」
「そういうのは先に言っといてくださいよ!?びっくりするじゃないですか!?」
「課長、流雅さんの話に戻りますが……大丈夫ですね?」
「あぁ、私も兄上も、任務になれば私情は挟まない」
((兄上………))
柳と悠真は同じ事を考えた。
「私達は、星見家だからな」
雅の目に、確かな覚悟と、ほんの僅かな不安が募っていることを、二人が見過ごす訳はなかった。
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一つ一つ、決められた手順で呼吸をする。
人が無意識にする行動を意識的に。
そうする事で、心は次第に寧安を取り戻す。
師匠が、最初に教えてくれたものだ。
目を閉じる。
口と鼻から流した空気が、肺を膨らませる。
体の隅々に、一つ一つの細胞に、酸素を。
余った酸素を流れるように肺に戻す。
体から、溢れるように空気を吐く。
体を流れるエーテル波の乱れを正す。
心拍数を抑える。
「………ふ〜………」
次第に、頭のキリが晴れていく。
「動けますか?流雅さん?」
頭上から、悠真の声が聞こえた。
「………問題ない。いつも通り」
「そうですか、プロキシが来たらしいんで行きましょ。さっさと、あのおっさん取り返さないと」
私は、悠真の手を借りて立ち上がり、皆が集まっている方に向かった。
「プロキシ様?朱鳶治安官の方は大丈夫だったでしょうか?」
『朱鳶さんは、私達の情報を裏付けするために、治安局に向かったよ』
『けれど、僕たちは、朱鳶さんの上司でもあり恩人でもある人を告発すると言った。あんな反応になるのも無理ない事だ』
ボンプから男女の声が聞こえてくる。
リンさんとお兄さんだろう。
「……僕は、プロキシのことも朱鳶さんのこともあんま知らないけど、あの反応の訳が"上司の告発"ってことだけじゃ無いのは分かるよ」
『それは……すっごく反省してる』
どうやら、リンさんと朱鳶は元々、知り合いだったらしく、一悶着があったらしい。
「私は、朱鳶という人間の事をよく知っている。
彼女を宥めるのは決して難しくない。
手を握り、真っ直ぐ目を見て、思うことを伝えればいい」
「課長ったら……どこで、そんな事覚えたんです?」
「朱鳶の御母堂が教えてくれた。私も試したが、有効だったぞ」
そんな事を言う雅は何処か楽しそうだった。
(……私も、今度使いましょうか)
あの後の初めてのまともな思考はこれだった。
『さて、みんな。Fairyがパールマンのバイタル信号を見つけたよ!悪いおじさんを奪還しに行こ!』
リンさんの号令で、私達は行動を開始した。
□
『傭兵たちの連絡地点はこの先だよ』
『パールマンの情報があるかもね』
「付近に敵多数。慎重に行動してください」
「了解」
柳の指示はいつもの様に的確で、私の思考を晴らしていく。
「どこもかしこも、傭兵だらけですね〜。思ったり多いんじゃないですか、これ?」
「守りが固いのなら、パールマンがここに居ると言うことだ」
「課長の言う通りですね」
「確かに!お鍋がおっきいと、具材がたくさんはいるもんね!」
「うん、まぁ……そうだね……蒼角」
敵の前だというのに、少し気の抜けている会話。
いつも通りと言うほどでもないが、これが六課という感じがする。
「おっと……前方に伏兵ですね〜。……あれで隠れてるつもりか〜。僕ら舐められてる?」
「陣形を崩しましょう。私が突っ込みます」
「え、いやちょっ……あ、行っちゃいましたね」
『私、思ったんだけどさ。流雅さんって強いのに、なんで他の対ホロウ課の課長とかになってないの?』
『確かに、彼ならば、山のような書類もすぐに片付けてしまいそうだ』
「確かに、流雅さんは他の課からも引っ張りだこの存在です。課長が六課を作った時に、流雅さんもH.A.N.Dに入ったんですが………」
「私の父上に六課を作ると言った時に、とても心配してな」
「兄上が六課にいなければ、ダメ。と言われた」
「まぁ、はっきり言うなら、権力だな」
『……さ、流石、雅さんのお父さんだね』
「そう怖い人でもないさ。ただ、心配性な人なだけだ」
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敵は数でこちらを押そうとしている。
だが、明らかに統率が取れていない。
指揮官が、居ない。
「う、うわぁぁ!!ど、どこから現れた!」
「貴方たちに指示を与えたのは誰ですか、答えてください」
「い、言えない!」
「そうですか、では」
浅く切った兵士は、床に倒れ込んだ。
先程から、同じ質問をしているが、誰も彼もが同じ反応をする。
(……恐怖……というよりは金ですかね)
兵士たちは恐らく個人情報を握られている。
(黒幕の目的が未だに不明)
(私達が、後手に回っている)
(……嫌な、予感がします)
すると突然、誰かの大声で思考を乱された。
「た、助けてくれぇぇぇぇ!!!!」
(………パールマンですね)
『パールマンはここに閉じ込められてる!』
守衛を切り伏せ、扉をリンさんがハッキングした。
「のわぁぁぁ!い、いい所に来た。は、早く助けてくれぇ!」
「こ、ここは爆破されるぞ!!」
『パールマン、今からあんたを外に連れ出す!』
パールマンを抱えて、走る。
『近くで爆発が起こるかも!早くここを離れないと!』
「た、助けてくれぇぇぇ!!死にたくないぃぃぃ!!」
(うるさいな……この人)
『近くに空間の裂け目がある!それを使ってショートカットしちゃお!』
爆発音が響き渡っている中、裂け目を通り、階段を登り、また裂け目を通る。
「プロキシ様!出口はこちらの方向ですか?」
『うん、前方で合ってる!でも、Fairyが反応しなくなっちゃったんだよね……』
前方の少し離れた場所に裂け目が見える。
(出口が一つ………)
少しばかりのプロキシとしての勘が警鐘を鳴らしている。
『「何かがおかしい」』
私とリンさんの声が重なった。
『出口が一つなんて有り得るのかな……』
「可能性としては有り得るでしょうね。けれど、今この状況では……」
「プロキシ様!速やかにここを突破しなければ!」
柳の言う通り、あたり一面に爆発の揺れが起きている。
「リンさん、罠じゃないことを祈りましょう」
『そうするしかないよね……分かった!』
私達は、ホロウの裂け目に飛び込んだ。
一瞬のうちに、ホロウの外には出ることが出来た。
だがしかし。
「これはこれは……本当に予想外の邂逅だ」
『え?』
「……ブリンガー」
私は小声でリンさんが入っているボンプに私の影に来るよう促す。
(やはり貴方が黒幕ですか……)
「パールマン!ヴィジョン・コーポレーションの黒幕め!選挙のデリケートな時期にこの街に戻って来るとは……余程、治安局に捕まりたいと見える!」
「それと……H.A.N.D所属の対ホロウ六課の皆さんか…。
重大な被疑者のパールマンと、共にいるということは、やつのホロウへの出入りを助長していた可能性もある……」
「正式に、星見雅課長。君は重要事件の犯人、パールマンと不正な取引をらしていた疑いがある」
「部下と共にご同行願えるかな?」
パールマンの合図に従い、後ろの部下が銃口をこちらに向ける。
「……殺気を抑えてくれ、兄上」
「お待ちください!ブリンガー長官、どうやらあなたは大きな勘違いをしているようです」
「対ホロウ六課の内部で、水面下での容疑者への接触を行ったのは確かです」
「ですが、それは課長の個人的な行動に過ぎません」
「…………」
「我々は、対ホロウ六課として上司の不適切な行動を止めにここに駆けつけただけです」
「……君は私をこけにしているのかね?」
「ただ、事実を述べているまでです。異議があるのでしたら、調査を要求することも出来ますよ」
(…………私と違って冷静ですね、柳は)
「人間万事、これに続くのは?」
雅が、後ろで声を上げる。
「は?わ、私に聞いているのか?」
パールマンが、おどけた声で答えた。
「不正解だ」
「な、何をする!?う、うわぁぁぁぁ!!」
雅が、パールマンをホロウに投げ捨てた。
「な、何をしている!!星見雅!」
「……柳の言う通り、私は独断専行型でな。
今のでわかっただろう。部下たちは何も知らぬ」
「捕まえたければ、捕まえるがいい」
「私だけを、な」
「貴様〜〜!!!」
ブリンガーの後ろにいた女性──サラがブリンガーに声をかける。
「もうすぐ、演説よ。キリのいいところで切り上げましょう」
「………いいだろう。ヤヌス区治安局の名に置いて、公共の安全を脅かした罪で、星見雅!貴様を逮捕する!」
雅の細い手首に手錠をかけられる。
雅が、私の方を見て、唇を動かした。
大丈夫
(………全く、雅には敵わない)
(この場で全員切り伏せようとしたのが、バレていたとは)
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その後、ひとまず私達は雅がホロウに投げ捨てたパールマンを回収し、ブリンガーの追跡を逃れる為、白祇重工に隠れ、そこでリンさんと連絡を取ることにした。
『もしもし?こちらは朱鳶です!至急確認して欲しいことがあります!』
『パールマンのうなじを見てください!耳の後ろ、生え際のあたりを!』
「な、なにをする?わ、私の髪がどうしたというのだ!?」
「確かに、2mmほどの小さな傷がありますね」
『治安局では、重大な事件の容疑者を収監する場合、小型チップを埋め込むことがあるんです』
『そして、一連の重大事件の容疑者のパールマンに使用されたチップのGPSは……まだ有効であることが分かりました』
「ちょっとちょっと!それじゃ、治安局はずっとこいつを追跡出来たってことになるんじゃないですか?」
『ええ……』
朱鳶は小さく肯定する。
これが、彼女にとってどれほど大きな事実なのだろうかは語るまでもないだろう。
(泳がしていた………)
「……我々のこれまでの行動は、黒幕の目的がパールマンの抹消により、証拠を隠滅し私達に真相を暴かれないようにするためという仮説に基づいていました」
(ブリンガーの権限があれば、私達六課の行先を調べる事は造作もない)
(邪兎屋が私達を頼ると分かっていたのか?)
「とりあえず、ブリンガーの目的がパールマンでないことは確定しましたね。それに、結果論ですけど目的は課長ですかね……。けど、わざわざ虚狩りに手を出すなんて、自殺未遂みたいなもんですけどね?」
悠真が状況を整理する。
「ワルモノのちょーかんがボスを逮捕したのって私たちを弱っちくするためじゃないの?」
……恐らくこれしかもう可能性が残ってない。
「目的は、恐らく雅の刀です」
「刀?」
「郊外で私とリンさんと課長で活動している時、課長の刀が暴走しました。あれが、故意的に起こされたものだとしたら……」
「理由はどうあれ、雅はもう連れ去られてしまいました……」
『みんな落ち着いて。とりあえず、雅さんの居場所を特定しないと……』
『雅を護送している車両は治安局のものですから、追跡する手段はあります。ブリンガー長官の方は……』
「デッドエンドホロウの外周ですね。そこで、ブリンガーの演説が行われると、ニュースにありました」
(一気にいったら、時間がかかりすぎるよね……)
『みんな!手分けして行動しよ!』
「分かりました!私達は雅を追います!直ちにホロウから出ますので、ガイドをお願いできますか!」
珍しく、柳が声を荒げる。
「………僕達は、課長を追うべきじゃないと思いますよ」
悠真が、冷静な声で抑えようとする。
「なぜです?雅が心配ではないのですか!?もし彼女に万が一のことがあれば、私は!」
「月城さん。落ち着いてくださいってば。僕たちの位置はどっちかって言うと、ブリンガーの近くですよ。それに僕達はパールマンも連れてるんですから」
「……ですが」
「ですがもよすがもないですよ。僕の言う通りだって、本当は分かってるくせに」
「………っ!」
『雅の方は私達で追います。私は治安局の人間なので、そう簡単に疑われはしないでしょう』
『朱鳶さん!私も行くよ!』
「……………」
パンパンと柳が自分の頬を叩く。
「すみません、皆さん。先程は失礼しました。ここは、手分けして行動するが
(…………
「プロキシ様、朱鳶治安官、課長を頼みます」
『任せてよ!新エリー都最強のプロキシが、必ず雅さんを連れ戻してみせるから!』
そのまま、通話は切れた。
「では、私達はブリンガーを追いましょう」
柳が指揮を執る。
六課の最善は、このままブリンガーを追うことだ。
分かっている。
自分が、それに従うべきだと。
でも。
私の、最善は。
「副課長」
「どうしました?流雅さん」
「今から言うことがどうしようもないほど馬鹿なことだって自分でも分かってます」
「?」
「課長を、追わせてください」
深々と頭を下げる。
下げても意味なんて無いだろうに。
「………いきなり何を……」
「………いきなりどうしたんです?流雅さん」
「これが、私にとっての最善だと思ったから」
「…どうするんです?副課長?」
「……そうですね……」
「必要ならば、私を六課から除籍してもらっても構いません」
「ちょ、ちょっと、流雅さん。何言ってるですか」
「浅羽隊員。黙っててください」
「…………はいはい」
「私は、六課でこのままブリンガーを追うのが最善だと思い、先程の自分の未熟さを自覚したばかりです」
「そして課長が居ない今、私の判断は六課の判断と同義です」
「あなたは、六課の意思に背くという事で構いませんか?」
柳が柄に手をかける。
「…………はい」
私は両手を後ろに組んでいる。
この状態から抜刀して、間に合うかは厳しい。
冷や汗が、私の頬を垂れる。
「ならば、さっさと行ってきてください」
「………え?」
「絶対そう言うって思いましたよ……」
遠くで、悠真の声が聞こえる。
「な、なんでですか?」
「理由は特にありません。何となくです」
合理的な柳らしくなかった。
「で、でも……」
「ならば、ここの3人で流雅さんにして欲しいことを決めましょうか。そのお返しという事で。蒼角はどうします?」
「お耳触りたい!」
「浅羽隊員は?」
「僕の代わりの書類仕事三日分………いや、五日分ですね」
トントン拍子に決まっていくことに頭が追いつかない。
「では、私は………」
柳は少しも考えずに即答した。
「今度、あんぱんを買ってきてください」
「ブレませんね〜副課長は」
「べ、別にいいでしょう」
「え〜!蒼角もあんぱん食べたくなっちゃった!」
「なら流雅さんに沢山買ってきてもらいましょうか。一緒に食べましょう、蒼角」
「やった〜〜!」
「さ、流雅さん。早く行ってください。もうお返し決めちゃいましたので」
「………はは」
思わず、笑みがこぼれ落ちる。
「何笑ってるんです?」
「いや、六課だな〜って」
「?」
「ありがとうございます。副課長。この御恩はあんぱんで」
「えぇ、課長を頼みました」
私は、確かな勇気とほんの少しの微笑を抱えて足を踏み出した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「朱鳶?リンさん?聞こえます?」
『りゅ、流雅先輩!?』
「ん?なんか声上ずってない?大丈夫?」
『あ、し、車内がちょっとあ、暑くてですね』
『流雅さん、どうしたの?』
「私も、課長の方を追うことにしました。何処かで落ち合いましょう。位置は?」
『実は雅さんの護送車がブリンガーの演説場の方に向かってて、私達今デッドエンドホロウの列車にいるの!』
「デッドエンドホロウですね。分かりました」
プー、プー、プー
私は電話を切り、人目のつかない場所に向かった。
(ここら辺でいいしょう……)
私は月影を抜き、それを思い切り上に投げる。
星彩にそれを追わせ、月影まで追いつく。
月影を手に取り、落下が始まる前に、また月影を投げる。
そして星彩でまた追いつく。
慣性力により、数百メートルは飛ぶことが出来る。
ホロウ内でしか使ったことがないが、今はそんな事言ってる場合ではない。
風を突き破る音が、耳のそばを流れていく。
(私は……何をしているんでしょう)
風が私の頭を冷やして、冷静な判断を仰ぐ。
私は今、雅のために何かが出来るのだろうか。
本当は、柳の方に行くべきだったのではないだろうか。
(しっかりしろ……後悔はするだけ無駄……)
自分の意志で、決めた事だ。
数分でホロウに辿り着くと、通信機からリンさんの声が聞こえてきた。
『もしもし?流雅さん聞こえる?』
「リンさんですね。聞こえます。こちらも、デッドエンドホロウに入ったところで」
話を遮られ、リンさんの勢いのある声が聞こえる。
『案内するから、ちょっと急いで!』
「リンさん?どうしました?」
『ちょっ、ちょっと今すぐ流雅さんに来て欲しいっていうか』
「?エーテリアスですか?なら、朱鳶に頼めば……」
『エーテリアスじゃないんだけど、と、とにかく急いで!』
「わ、分かりました」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
案外、近くにリンさんと朱鳶は近くに居たようで、三分と経たずに合流できた。
「リンさん、どうしました?」
「流雅さん!」
スカーフを巻いたボンプがてくてくと、小さな足を動かして走ってくる。
「とりあえず!このスマホに声出して!」
「え?あ、あ〜〜〜」
唐突にそんな事を言ってくるリンさんに戸惑いながらも指示通り声を出した。
『流雅か!?』
「そ、宗一郎様?」
スマホから、聞き馴染んだ声が聞こえてきた。
「しゅ、朱鳶。どうゆう状況?」
「私達は、敵が雅の刀を狙う理由を知ろうと宗一郎おじ様に電話したんです。おじ様は、最初、市長との話し合いで出れないと言われたんですが……店長さんの知り合いのお陰で今、連絡を取れたんです」
「そして、おじ様に雅の刀のことを聞いたのですが、どこの馬の骨とも知らない店長さんに機密が漏れるのはよくないと言って……」
(そう言う事か……)
「宗一郎様。この方は私と課長の危機を救ってくれた人物です。無論、私と課長、どちらも全幅の信頼を置いています。大丈夫です」
『むぅ……流雅がそう言うなら……』
「聞いてください、宗一郎さん。雅さんの刀が暴走したんです!大きな狐火が湧いて出てきて、私と流雅さんがやっとの思いで閉じ込めたんです!」
『なんだと!?………君たちにこれから極めて大事なことを伝える。誰にも!絶対に!口外してはならない!』
宗一郎様の、話す雰囲気が一気に変わる。
それは星見家当主としての厳格たる声だ。
『………もし、星見家によからぬものを企んでいる悪党がいるとしたら、間違いなくあの刀を狙ったものだ』
『あの刀は、星見の家に代々伝わる家宝だ。歴代当主達が、星見の地位をあげた最も大きな一因と言って差し支えないだろう』
『だが、あれに封じられた力はある種の……そう、禁忌!
その継承には、極めて危険な過程が伴う』
(………まさか)
あの日の光景が鮮明に頭の中に浮かんでくる。
吐き気を催す、悪夢が。
『だが、雅は唯一の例外だ!己の力だけで、刀の力を使わず強くなった。あの子は星見家が授かった、真の天才!』
『あの鞘が機能していない状態で、娘が刀身に触れるようなことがあっては、絶対にならない!』
「……今すぐ雅の護送車を止めに行かなければ行けませんね」
「よし、じゃあ朱鳶さん、流雅さん。急いで案内するよ!」
『待ってくれ』
「宗一郎様、まだなにか?」
「あぁ……想像したくもないが、もし万が一、雅が刀身に触れた場合の話だ」
「また、鞘に封じればいいんですか?」
下からボンプの声が聞こえる。
『いや、連中が刀を狙っている以上、鞘はもう完全に破壊されているだろう。壊れた鞘に納刀しても意味はない』
「今から新しい鞘を作ることはできないんでしょうか?」
『それも無理だ。あれは星見家の技術の圧縮。そう易易と何本も作れるものではない』
「ならどうやって……」
『そこで、お前だ。流雅』
「………私が?」
『詳しく言うと、流雅の持つ二本の刀だ』
腰に付いた双刀の重みが増した気がした。
「月影と、星彩……」
『荒れ狂う"尾"が顕現せし時、夜深を照らす"明光"が狂炎を飲み込むだろう。
星見家に最も重要な掟として、言い伝えられてきたものだ』
『いつかこのような時が来る可能性に備えて、流雅に渡しておいて正解だった』
「……どうすればいいのでしょうか」
『それらは、普遍的な状態では無尾を抑えることは出来ない。詠唱によって、その力は覚醒する』
「ならば、早くやりましょう」
宗一郎様の言う通りにして、私は胡座で座り込む。
私の右に星彩を、左に月影を置く。
少し離れた場所から、朱鳶とリンさんが心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫です。必ず、無事でいるので」
深く息を吸い、体を満たす。
体から自然と空気が抜けてくように息を吐き、目を閉じる。
教えられた詠唱をゆっくりと、行う。
天秤の意義は無く、
闇は形を成し、遍く全てをただ食す
此処に降りるは揺るがぬ大光
此処に注ぐは無限の幽光
刀に、それぞれ青い光が灯った。
其れは契約。調和。大義。
汝が解を得るならば、我は血潮で答えよう
汝は古を手繰り、呼び起こす
その輪廻を、
最後に、一呼吸置く。この最後の詠唱が、一番大事な気がした。
紡げ
詠唱を命令形の動詞で締めるっていうの、滅茶苦茶カッコよくて真似したかったことの一つです。
元々は『異修羅』と言う作品の詠唱方法です。