雅が本当の兄の様に慕っていた分家の兄が、雅の母親を介錯した話。   作:ザワザワする人

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人の意義

 

「課長、今週の調査記録です。特に重要な点については、最後にまとめてあります」

 

「うん、ありがと。今日はもう休んでいいよ。おつかれさま」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 

 

(ん…?零号ホロウ……)

 

ふと、ある一文が目に止まる。

零号ホロウは、実際に僕達が最もよく通うホロウだ。その巨大さから、今も防衛軍は調査を続けている。

 

 

【ある区域に於いて、防衛軍の活発化が見られる。

しかし彼らが装備だけが防衛軍のものである、反乱軍の可能性あり。識別は現在出来ていない。

防衛軍のある兵士にコンタクトを取ったところ、数日前から一名の失踪者あり。

その兵士に仕掛けた盗聴機によって得られた情報を下記に記す】

 

(…………なんで盗聴機なんて仕掛けちゃうかな〜………)

 

最近になって分かった事だけど、部隊の皆が、謎にちょっと過激になってる気がする……。

後で問いただすとして、次の書類に目を向ける。

 

【失踪者のコードネーム:11号

盗聴機を仕掛けた兵士のコードネーム:トリガーの言動より11号、トリガーはオボルス小隊に所属。

仲間との連絡を取っており、トリガーは協力者をインターノットで要請。

この失踪者を軍においては、単独で解決しようと考えている。

インターノットでの要請キーワード:「シルバーの復活」

H.A.N.D内での私の権限では、この単語は確認不可】

 

(すごい優秀なんだけどな〜……盗聴機はな〜………)

 

はっきり言って特別執行課は、いまだにその地位を確立出来ている訳ではない。

そんな時に軍に盗聴機を仕掛けたなど言われたら、特別執行課の地位や信頼が墜落してしまう。

 

(盗聴機の回収は最優先事項。シルバーの復活………鎌掛けてみよっかな)

 

備え付けの電話機を操作して、電話を掛ける。

 

『もしもし、防衛軍に繋いでくれますか?』

 

『星見流雅様ですね。承知いたしました。少しばかりこのままお待ちください』

 

特別執行課が、特権を与えられていると言ってもその特権にももちろん制限はある。

情報を様々な部隊の人に要求出来る代わりに、その得た情報を市長へ共有が義務付けられている。

そこで、情報要求の手段はこの僕の指紋認証式の電話機だけ。

なんか色々凄い技術を使っているらしく、ハッキング、妨害電波、また外部受信の心配がないのだとか。

 

『星見流雅殿?初めまして。私の名前はお伝えする事は出来ませんが、立場上防衛軍の全情報を統括しております。以後、お見知り置きを』

 

「え、えと……初めまして。……因みになんとお呼びしたら……」

 

『ふむ……コードネームですか。そうですね………メモリーとでもお呼びください』

 

「じゃあメモリーさんで…」

 

『承知しました。話を本題へと戻しますが、私も自らの地位は理解しています。貴方に対する情報提供、又は情報受信。今回は何方のご用で?』

 

「ある情報を耳にしたので、それをお聞きしたく。……シルバーの復活についての情報を」

 

『………』

 

電話口から響くのは、無言の帷と浅い呼吸。

 

『…誠に申し訳ございません。私は軍部のほぼ全ての情報を統括しています。が、()()()()()()()情報について私は知る由がありません』

 

「メモリーさんは、既に破棄されたと言う事はご存知なんですか?」

 

『軍内部でシルバー小隊と言う幻の精鋭部隊がかつてあった、と言う噂があるだけです。本当にそれが存在するとしたのならば』

 

「軍にとって不都合な部隊になった。反乱軍になった可能性もありますね。もしくは……」

 

 

『「その小隊自体が、軍が()()()()()作った部隊か」』

 

 

「……貴方は防衛軍の味方ではないんですか?」

 

『私の任務はあくまでも情報提供。それをどうお使いになるかは、貴方次第です』

 

「……ありがとうございました。また次の機会があれば」

 

ガチャリと、電話が切れたのと同時に大きく息を吹き出す。

 

(思いの他ヤバそうかな………)

 

十中八九、軍はシルバー小隊についての情報を隠している。

でも、メモリーさんはおそらく嘘を付いてない。本当に情報が保存されていないのだろう。

僕が現地に行って…………。

 

『ちゃんと、兄上は人を頼ってくれ』

 

…………確か今、零号ホロウの調査に向かっている部隊があった。

連絡をとって、報告書に書かれてた近辺の情報を探らせよう。

 

『もしもし、課長。どうされました』

 

「零号ホロウの調査部隊だよね?調べて欲しい場所がある。データを送るから、防衛軍の皆さんに協力してもらって」

 

『っ……!了解しました!!塵芥残さず報告して見せます!!』

 

「え?あ、あの…あくまで調査だからね?揉め事起こしたらダメだよ?」

 

『お前ら!!気合い入れろよ!流雅さんからの直々な任務だ!!失敗すれば、俺らの明日は無い!』

 

『おぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

電話を切っていない事に気づいていないのか、叫び声が耳を劈く。

 

(みんなやる気があって凄いね……良い事だけど……)

 

隊員の熱量は全て先日の、彼と雅の仕合によるものなのだが、彼はそれを全く知らないのだった。

 

 

 

 

 

 

「隊長、付近に怪しげな建築物を発見しました。足跡が新しく、人が頻繁に出入りしている可能性が高いかと」

 

「……その建築物の辺りを探る。決して中に入るな」

 

「了解」

 

課長の言う通りの区域を軽く調べると、すぐに怪しげな物が見つかった。

やはり課長は戦闘能力だけでなく、情報統括能力も優れている……。

 

(流石、星見家……)

 

高台に登ると、部下からの報告にあった建築物を視認できた。

部下に一度、集合命令を出し、近辺情報を共有する。

 

「建築物の大きさは?」

 

「縦10、横20の長方形でした。内部構造は窓が殆ど無く把握出来ません」

 

「侵入経路は?」

 

「ダウトから一名ずつなら気づかれず侵入出来るかもしれません。他に出入り口は一つだけ。おそらく監視カメラの類が設置されていました」

 

「あ、あの〜……」

 

「?どうした」

 

ゆっくりと手を挙げたのは、確か……俺らと違って新しくH.A.N.Dに入って来た奴。

 

「ダウトから人が入っていくのを…見ました」

 

「……本当か?」

 

「は、はい!白髪の……緑色の装備をしていました!」

 

「緑……どこの部隊だ?」

 

「そ、それはわ、分かりません……」

 

「……そう凹むな。おそらくホロウレンジャーだろう。最近は零号ホロウにも出ると聞く。

だが、そうなると次の策が難しくなるな」

 

「内部情報が判明していない以上、出て来たそいつを尋問しては?」

 

「そもそも出てくるかすら分からん。正面口から入らないって事はそいつも俺らと同じく調査しているか、それともただのバカかだ。今回の件には防衛軍も絡んでる。付近にも、防衛軍の使う薬莢が落ちていた」

 

「そいつが防衛軍の可能性は?」

 

「ますます面倒くさくなる。課長の指示で行動していると言っても、()()俺らに防衛軍を上回る権威は無い」

 

「…………」

 

「手詰まりって訳じゃ無い。課長の命令はこの区域の調査。その役は十分終わってる。このまま撤退する考えもパァァァァン!!!

 

訓練された彼らはすぐに射線を遮る為に頭を下げる。新人であろうと例外はない。

 

「銃声だな。方角は、件の建築物から」

 

「行きましょう隊長。更なる情報が手に入るかもしれません」

 

「ダメだ。行くのは俺と新人だけ」

 

「わ、わ、私ですか!?!?」

 

「ホロウレンジャーの装備、特徴を見たのはお前だけだ。お前の判断がいる」

 

「は……はい!!」

 

「残りの隊員は撤退。ホロウを出たらすぐに課長に連絡しろ」

「行動開始」

 

 

 

 

辺りには先ほどから銃声が響き渡っている。

だが段々とその間隔は狭まっている。戦闘している人数が減っているこれでもない証拠だ。

そして、銃声が完全に止んだ。

 

「新入り、止まれ」

 

後ろにしっかりと着いてきた新入りは意外にも優秀かもしれない。

 

「ここから、見えるか?」

 

少し離れているが、4名が直立し、1名が項垂れている集団が目に映る。

 

「あ、あれです!あの緑の人です!」

 

新入りが指刺したのは白髪に緑を基色にした装備の女性。

 

(いや待て、おかしい)

 

「顔がそっくり、と言うか一緒ですね……」

 

あの場にいる4名。目を覆い隠しスナイパーライフルを所持した女性以外が。

全員同じ顔をしていた。

 

(隻眼と口を隠している2名はおそらく建築物の所有者側。服が一緒だ)

 

「流石ね、隊長?こんな奴らあなたの刀の錆にしかならなかった」

 

「……なんか言ってますね」

 

「一言一句聞き逃すなよ。何を漏らしても不思議じゃない」

 

彼女らが話していた内容は恐らく自らの出自について。

顔が殆ど同じの時点で嫌な予感はしていたが、彼女らは素体を同じにするクローンだ。

 

(となると、後ろの研究所はその量産……?)

 

「もう二度と私の前で隊長面して説教垂れないで!!」

 

……ここらでタイムリミットだ。

彼女らの交渉が終われば、隻眼がこちらに気付く可能性がある。

 

「新入り、撤退するぞ。来た道をそのまま戻れ」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

「それで?ネズミが入り込むなんて何事かしら?」

 

 

 

空気が、一斉に冷え込んだ。

隻眼の女は、おそらくこちらを見て発言している。

俺の、H.A.N.Dで培った長年の勘が告げている。

 

あいつはこちらを見ている。

複数の壁を隔てているにも関わらず、こちらの場所に気づいている。

 

(監視カメラだな、だがここら一帯はゴミが多すぎて特定できん)

 

「所属を言ってくれるかしら?」

 

徐々に徒歩で近づいてきている。

そしてそれは周りも同じ。

周囲から足音が響き始めた。すでに包囲されている可能性が高い。

 

「せ、せんぱいぃぃ…………」

 

新入りが俺の袖を引っぱってくる。

 

「別に殺す気はないわ。変に騒ぎを起こしたくはないから。ここ一日の記憶を消すくらいかしら?」

 

「ひ、ひえぇぇぇぇぇ…………」

 

「新入り、先に行け」

 

「む、無理ですぅぅぅ!!」

 

「お前の観察眼を信じる。さっさと行け。脅威は出来る限り俺が引き付ける」

 

「う、うぅ…………」

 

「お前は何でH.A.N.Dに入った?」

 

「え、な、なんで今」

 

「いいから言え」

 

「え、えと…私が高校生の時に…流雅課長が治安官の頃に助けられたんです。それで……私も誰かの助けになりたくって、それで特別執行課の選考を………」

 

「じゃあまず課長を助けろ。それで、恩返ししてこい」

 

「…………はい!」

 

「あら?出てくるのね」

 

俺は逃げていった新入りを見届けて、物陰から出た。

目の前には既に隻眼の女が、そして周辺には同じ顔をした女が複数体。

 

「あぁ…………()()()()()()()()()

 

「あいつって誰の事だ」

 

「あなた達の課長の事よ、彼には気づかれたくはなかったのだけど」

 

「なぜだ」

 

「シンプルに嫌いだから」

 

「逆恨みだろ」

 

「…………あなたにも、彼にも、絶対にそれは分からない」

「私にしか、これは分からない」

 

「そういうお前は昔の課長に似てるんだな」

 

「…………もういいわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

通信が繋がったのは、新人が建築物から約二百メートル以上離れた地点まで走り切ったあとだった。

 

ホロウから出た疲労感をものともせずに、息が整わないまま、それでも彼女は端末を耳に当てた。

 

発信先は特別執行課の内線――課長直通。

 

呼びだし音は二回で止んだ。

 

「星見流雅です」

 

静かであって優しさが隠せない声はいつもと変わらない。

それが逆に、新人の呼吸を少しだけ落ち着かせた。

 

「……っ、第三小隊、山野です。隊長の指示で、遅れて先行撤退しました!」

 

「撤退部隊からある程度の情報は聞いたよ。新しい情報があった?」

 

「零号ホロウ内、例の建築物周辺で銃声を確認しました。交戦相手は――」

 

言葉が詰まる。どう説明すればいい。どう言えば、信じてもらえる。

 

「同じ顔の、女性が複数います」

 

一秒か、二秒か。流雅が何かを打ち込むような微かなキー音がした

 

「もう少し詳しく話せる?」

 

「五人……いや、それ以上だと思います。確認できた範囲で、全員、外見が一致していました。白髪で、白を基調とした服でした」

 

「……建築物の用途について、推定でいいから。山野さん自身が感じたことを」

 

命令ではなく、問いかけの形だった。それが、言いやすくした。

 

「……量産、だと思います」

 

新人は続けた。声が少し震えていたが、止めなかった。

 

「…………同じ個体を複数生産する施設、としか考えられない。研究所のような構造でした。隊長もそう判断していました」

 

「隊長は?」

 

「引きつけ役として、残っています」

 

また沈黙。今度は長かった。

流雅が何かを考えているのか、それとも別の何かを確認しているのか、彼女には判断できなかった。ただ、電話が切れていないことだけは分かった。

 

「……もうひとつ」

 

山野は迷ったが、言うことにした。隊長に、全部伝えろと言われた気がしたから。言葉にはしていなかったけれど。

 

「女性のうちの一人━━━隻眼の人が、『課長には気づかれたくなかった』と言っていました。嫌いだから、と」

 

「………分かった。お疲れ様。ちゃんと休んでね」

 

「あ、あの!」

 

流雅が通話を切ろうとした瞬間、新人は声を張り上げた。

 

「隊長を………助けてください…………」

 

端末を持っていない手を固く握りしめて、強く言葉を口に出した。

 

「もちろん」

 

軽く、友達同士の約束をするように流雅は声にした。

 

 

 

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