雅が本当の兄の様に慕っていた分家の兄が、雅の母親を介錯した話。 作:ザワザワする人
それから数日後。
次の日曜日を迎えるよりも先に、流雅は特別執行課の執務室で、ツイッギーから渡された資料に目を通していた。
ポーセルメックスが管理する物流記録。
衛非地区へ搬入された建築資材。
閉鎖済みとされる施設へ運ばれた補修部品。
帳簿上の用途と、実際の重量が噛み合わない荷物。
一つだけなら、単なる記載ミスで片づけられる。
けれど、同じような不一致が何度も続いているとなれば話は別だった。
「……泗瓏囲」
流雅は、資料に記された地名を小さく読み上げた。
柚葉の暮らす場所。
学校で再会した時、彼女は今の家族や友人について、楽しそうに話していた。
泗瓏囲に暮らす人々のことも。
奇々解々のことも。
宝栄さんのことも。
あの頃のように黙って話を聞くだけではなく、今度は自分の大切なものを、流雅へ教えようとしてくれた。
「そこから先は推測よ」
向かいの席で、ツイッギーが左手のペンを動かしている。
「正規の工業港を使わず、古い搬入口や下層区域を経由している可能性がある。それ以上は、現地を確認しないと分からないわ」
「十分だよ。ありがとう」
「礼は嫌い」
「助かった」
「それも嫌い」
流雅は少しだけ笑い、資料を閉じた。
「今日、見に行ってくる」
ツイッギーのペンが止まる。
「特別執行課として?」
「まだ証拠が弱いから、表立っては動かないよ。見つかっても、僕は調査の一環だって押し通せるとは思うけどね」
「それで、少し確認するだけ?」
「うん。夕方までには戻るよ」
「そういう意味じゃない」
義手の指先が、机を軽く叩いた。
「昔の知り合いがいたんでしょう」
「いたというか、もう会ったよ」
「知ってるわ。学校で再会したんでしょう?」
ツイッギーは呆れたように息を吐く。
「それから毎日、端末を見ては気持ち悪いくらい笑ってるもの」
「そんなに?」
「腹が立つくらい」
流雅は自分の頬へ手を触れた。
「普通にしてたつもりなんだけどなぁ」
「あなたの普通ほど信用できないものはないわ」
ツイッギーは流雅の鞄を見る。
「会ったばかりで浮かれて、余計なことをしないで」
「浮かれてないよ」
「浮かれてる」
「そっか」
「その顔で納得しないで」
流雅はもう一度笑い、資料を鞄へ収めた。
学校で柚葉と再会してから、まだ数日しか経っていない。
それでも、二人の間では何度も連絡が行き交っていた。
学校で質問攻めにされたこと。
真斗が余計なことを言い、さらに騒ぎが大きくなったこと。
次に会った時は、教室で頭を撫でた責任を取らせるつもりでいること。
何年もの空白を埋めようとするように、柚葉はたくさん話した。
流雅も、今度はその言葉を途切れさせないよう、一つ一つ返していた。
次の日曜日には、柚葉が料理を作ることになっている。
何を作るのかは秘密らしい。
失敗しても残さず食べるよう、既に何度も念を押されていた。
だからこそ。
柚葉が暮らしてきた場所の下に沈む不自然な記録を、見過ごす気にはなれなかった。
「約束があるから、無茶はしないよ」
流雅がそう言うと、ツイッギーは疑うように目を細めた。
「相手の子も、同じことを考えているといいわね」
「どういう意味?」
「別に」
ツイッギーは再び資料へ視線を落とした。
「行ってらっしゃい。帰ったら報告して」
「分かった。ただいまも言った方がいい?」
「いらない」
「でも言うよ」
「本当に嫌な人」
いつもの言葉に見送られ、流雅は執務室を出た。
□
その日の午後。
柚葉たちは、澄輝坪から泗瓏囲へ続く山道を進んでいた。
先頭を歩くのは真斗。
その後ろに柚葉とアリスが続き、最後尾をリンが周囲の様子を確かめながら歩いている。
ポーセルメックスは、泗瓏囲へ通じる正規のエレベーターを停止させていた。
表向きの理由は安全確保。
けれど、調査監督チームを現地へ近づけたくないのではないか。
柚葉たちは、その可能性を疑っていた。
「真斗、もうちょっと静かに歩けないの?さっきから地面が揺れてるんだけど」
「俺の歩き方の問題じゃねぇ。道が悪ぃんだよ」
「柚葉は同じ道を歩いてるけど、こんな音してないよ?」
「体格が違ぇだろ」
「繊細さの違いじゃない?」
「お前にだけは言われたくねぇ」
真斗が振り返る。
柚葉は涼しい顔で笑っていた。
普段どおりに見える。
けれど、真斗には分かっていた。
学校で流雅と再会してから、柚葉は明らかに浮かれている。
授業中に端末を確認する回数が増えた。
放課後になると、誰かから届いた連絡を見て笑っている。
名前を尋ねても、最初は知らないと言い張っていたくせに、今では平然と流の話をする。
「そういえば」
柚葉が端末を取り出した。
「流から連絡、来てないなぁ」
「今からやべぇ場所に行くって、言ってねぇんだろ」
「言ったら止めるじゃん」
「じゃあ来なくて当然だろ」
「でも、昔の流なら何となく気づいて来そうなんだよね~」
「勝手なことばっかり言ってんな、お前」
「流は、そういう人だもん」
柚葉は端末を持ったまま、少しだけ頬を膨らませた。
流には、今日のことを話していない。
次の日曜日まで危ないことはしないと、約束したわけではない。
それでも、知られたら心配されることは分かっていた。
だから黙っている。
それは少しだけ、流が昔したことと似ている気がした。
けれど、柚葉はすぐにその考えを追い出した。
自分は黙っていなくなるわけではない。
調査を終えたら戻る。
それから全部話す。
流の時とは違う。
「以前、学校に来られたという流雅さんのことかしら?」
アリスが首を傾げる。
「うん。昔の知り合い」
「特別執行課の課長と昔からのお知り合いなんて、柚葉は本当に顔が広いのだわ」
「昔は課長なんかじゃなかったけどね。名前だって流だけだったし」
「別人だった可能性はないの?」
「ないよ」
柚葉は迷わず答えた。
「流は流だもん」
名前が増えても。
立場が変わっても。
二本の尾が生えても。
頭へ置かれた手の温度は、昔と同じだった。
リンが微笑ましそうに柚葉を見る。
「本当に嬉しかったんだね。再会できて」
「まあね~。柚葉みたいな美少女との約束を破って、何年も放置した件はまだ許してないけど」
「そこは許してないんだ……」
「流も、これから次第だって分かってるから大丈夫」
柚葉は端末をしまった。
この調査が終われば、また流へ話せることが増える。
泗瓏囲で起きたこと。
アリスやリンと調べたこと。
オブスキュラの欠片に隠されていた秘密。
危ないことをしたと知れば、流は心配するだろう。
けれど、柚葉はもう昔の自分ではない。
流の話を黙って聞き、次の日曜日を待つだけだった子供ではない。
今は、自分の意思で誰かのために動ける。
それを流にも知ってほしかった。
「待て」
先頭にいた真斗が、突然足を止めた。
柚葉がその背中へぶつかりそうになる。
「もう、急に止まらないでよ」
「誰かいる」
真斗の声から軽さが消えていた。
全員が足を止め、身構える。
木々の向こうに、人影が見えた。
こちらへ向かって歩いてくる。
黒い髪。
狐の耳。
背後で揺れる二本の尾。
柚葉は思わず目を見開いた。
「……流?」
流雅も足を止めた。
その表情を見る限り、ここで柚葉たちに会うことまでは予想していなかったらしい。
「……柚葉?」
流雅の視線が、柚葉から真斗へ移る。
続いて、リンとアリスへ。
四人の装備。
進んでいる方向。
周囲を警戒する立ち位置。
それだけで、遊びに来たのではないと察したのだろう。
流雅の顔から、再会の驚きが消えていく。
「どうして、ここにいるの?」
「わぁ、すごい偶然」
柚葉は明るく笑った。
「流も山歩き?健康的だね~」
「柚葉」
「何?」
「本当のことを話して」
声は穏やかだった。
けれど、学校で話していた時とは違う。
柚葉は笑顔を保ったまま、流雅を見つめた。
「流こそ、どうしてここにいるの?」
「ポーセルメックスの物流記録に、不自然な点があった。泗瓏囲周辺を確認しようと思っただけだよ」
「へぇ。それなら柚葉たちと同じだね」
「同じ?」
「ポーセルメックスが、衛非地区で何か隠してるかもしれないの。だから、柚葉たちも調べに来たんだよ」
流雅は何も言わなかった。
その反応に、柚葉は小さな違和感を覚える。
自分たちも同じことに気づいたのだと知れば、流は驚く。
どうやって見つけたのかと尋ね、話を聞いてくれる。
そう思っていた。
けれど、流雅の目に浮かんでいたのは、喜びでも驚きでもない。
明確な、心配だった。
「柚葉たちだけで?」
「だけじゃないよ。リンちゃんはプロキシ。真斗は戦えるし、アリスはエーテル工学に詳しい。柚葉も泗瓏囲のことなら知ってる」
「そういう意味じゃない」
流雅の声が硬くなる。
「正規の道が封鎖されているから、山道を抜けようとしてるんでしょ。警備もある。見つかれば、ただじゃ済まないかもしれない」
「だから見つからないように進んでるんだよ」
「柚葉」
「心配しなくても、無茶はしないから」
「もうしてるよ」
柚葉の笑みが僅かに止まった。
「今日は戻って」
流雅は一行を見渡す。
「調べる必要があるなら、僕がやる。柚葉たちはここから引き返して」
「……流が?」
「うん。分かったことは、全部伝えるから」
「柚葉たちは待ってろってこと?」
「違う。役割を分けようって言ってるんだけだよ」
「流が調べて、柚葉たちは帰る。それのどこが役割分担なの?」
「こういう事は、大人がやるべきだ」
その言葉に、柚葉の笑顔が消えた。
「大人?」
「柚葉たちが全部を背負うことじゃない。何かを見つけたなら、大人へ話せばいい。その先まで自分たちで踏み込む必要ないよ」
リンが遠慮がちに一歩出る。
「り、流雅さん。私たちにも、ここまで来た理由があるの。泗瓏囲で暮らしてる人たちから直接話を聞かないと――」
「リンさんが優秀なプロキシなのは分かっています」
流雅は静かに答える。
「でも、自分でホロウへ入れるようになったことと、こういう調査を少人数で続けていいことは別です」
アリスも流雅を見上げる。
「これは、私自身がお願いして同行させてもらっているのだわ。誰かに無理やり連れて来られたわけではなくてよ」
「アリスさんは調査監督チームの一員です。正規の手順で報告すれば……」
「正規の手順で報告すれば、ポーセルメックスにも話が伝わってしまうわ。もし彼らが何かを隠しているのなら、証拠を消す時間を与えることになるのだわ。それは流雅さんも分かっているからこうして私達と同じように調べているのだわ」
「それでも、秘密裏に封鎖を抜けるよりは――」
「流」
柚葉の声が、流雅の言葉を遮った。
「もういいよ」
流雅が柚葉を見る。
「柚葉?」
「流が何を言いたいか、分かったから」
柚葉は笑おうとした。
いつものように誤魔化して、軽く受け流そうとした。
けれど、うまく笑えなかった。
数日前。
奇々解々で料理を作り、たくさん話した。
次の日曜日にも会う。
今度は柚葉が料理を作る。
そう約束した。
流は今度こそ約束を守ると言ってくれた。
それなのに。
「流は、柚葉たちには無理だって言いたいんだよね」
「無理だとは言ってない」
「同じだよ。子供は大人に話して帰れって、さっきからそれしか言ってないじゃん」
「危険だからだよ」
「危険なのは知ってる」
「分かってない」
その一言が、柚葉の胸を強く刺した。
「……何が?」
「本当に分かっていたら、こんな人数で封鎖された山道へは来ない」
「流は、自分一人で来てるけどね」
「僕は訓練を受けてる。子供じゃない」
「柚葉たちは何もできないって?」
「そんなことは言ってないよ」
「でも、そう思ってる」
「柚葉」
流雅は一歩近づいた。
「柚葉が昔より強くなったことも、たくさんの人と関われるようになったことも分かってる。それでも、これは子供がすることじゃない」
柚葉の中で、何かが切れた。
「子供、子供って……さっきから何なの?」
「………柚葉」
「柚葉はもう、何も分からずに隅で座ってた頃の柚葉じゃないよ」
「分かってる」
「分かってないでしょ!!」
柚葉の声が山道に響く。
木々に止まっていた鳥が、一斉に飛び立った。
真斗が一歩動きかける。
けれど、柚葉の表情を見て止まった。
これは真斗が割って入る話ではない。
「泗瓏囲で暮らしてる人たちは、今もポーセルメックスのせいで困ってる。道まで封鎖されて、何が起きてるのかも教えてもらえない。柚葉はそれを知ってるから来たの」
「だからって、柚葉が危険を冒す必要はない」
「あるよ!」
柚葉は流雅を睨んだ。
「ここは柚葉の家なの。柚葉を拾ってくれた人や、一緒に学校へ通ってる子や、大切な人たちが暮らしてる場所なの!」
流雅は言葉を失った。
「流がいなかった間も、柚葉はここで生きてきた。家族ができて、友達ができて、大事なものがいっぱいできた。だから守りたいって思うのは、おかしい?」
「おかしくないよ」
「なら、帰れなんて言わないで」
「それとこれとは別の話」
「何が別なの?」
「大切だからこそ、自分の命まで危険に晒すべきじゃない」
「じゃあ誰がやるの?」
「僕がやる」
流雅は即答した。
その答えに、柚葉の顔が歪む。
「……またそれじゃん」
「……何が?」
「何でも一人で決めるところ」
流雅の表情が止まった。
「柚葉がどう思うかを勝手に決めて、会いに来なかった。今度は柚葉には危ないからって、勝手に代わりにやろうとしてる」
「それとこれは違う」
「同じだよ」
「違う。今回は、柚葉の命に関わる」
「柚葉の命だから、柚葉が決める」
「子供が言うことじゃない!!」
流雅の声が強くなった。
その瞬間。
山道から、全ての音が消えたように思えた。
柚葉は流雅を見たまま動かなかった。
流雅自身も、言葉にしてから気づいたように目を見開く。
「柚葉。今のは――」
「そっか」
柚葉は小さく言った。
今度は、笑おうともしなかった。
「流にとって、柚葉はまだ何も決められない子供なんだ」
「そういう意味じゃない」
「じゃあ、どういう意味?」
「柚葉が心配なんだよ」
「心配なら、柚葉の話を聞いて」
「聞いてる」
「聞いてないよ!」
柚葉は拳を強く握った。
「流は最初から、柚葉たちを帰らせることしか考えてない。どうしてここへ来たのかも、この先で何を確かめたいのかも聞いてない」
「……」
「昔の流は、柚葉が話すまでずっと待ってくれた。柚葉が何も言わなくても、勝手に気持ちを決めたりしなかった」
流雅は何も答えられない。
「今の流は、柚葉が子供だからって、それだけで全部決めてる」
「そんなつもりない」
「流にそのつもりがなくても、柚葉にはそう見えるよ」
流雅が手を伸ばす。
柚葉は反射的に一歩下がった。
その手が、空中で止まる。
学校では、あれほど嬉しかった手。
奇々解々でも、約束を交わしながら頭を撫でてくれた手。
けれど今は、その手で触れられたくなかった。
撫でられてしまえば、また何もできなかった子供へ戻される気がした。
「柚葉……」
「触らないで」
流雅の指先が僅かに揺れた。
それから、ゆっくりと下ろされる。
「また会えて、本当に嬉しかった」
柚葉の声は震えていた。
「流が覚えてくれてて、また話せるって思って。これからは、柚葉の話をいっぱい聞いてもらえるって思ってた」
「聞くよ。これからも」
「今、聞いてないじゃん」
その言葉に、流雅は黙った。
柚葉は目元が熱くなるのを感じた。
再会してから、何度も泣きそうになった。
嬉しくて。
寂しくて。
流が戻ってきたことが信じられなくて。
それでも今は、泣きたくなかった。
「こんなことなら」
一瞬だけ、言葉を止める。
本当は言いたくなかった。
数日前。
また話そうと笑った。
次の日曜日には料理を作ると約束した。
流が来るのを、もう一度楽しみにできるようになった。
それらを全部、自分の言葉で壊したくはなかった。
けれど、怒りに押されて声が零れた。
「……会わない方がよかった」
流雅の顔が、目に見えて傷ついた。
それを見た瞬間、柚葉の胸も強く痛んだ。
取り消そうと思えば、まだ間に合う。
今のは違う。
本当は会えて嬉しかった。
そう言えばよかった。
けれど、柚葉は何も言わなかった。
「行こう、真斗」
柚葉は流雅の横を通り過ぎる。
流雅は咄嗟に腕を掴もうとした。
けれど、指先が柚葉へ触れる前に止まった。
「柚葉」
柚葉は振り返らない。
呼び止められるのを待っていた自分が、どこかにいた。
けれど、もしまた帰れと言われたら、今度こそ本当に嫌いになってしまいそうだった。
だから、そのまま歩いた。
リンとアリスも、流雅を見ながらも何も言えないまま柚葉の後に続く。
真斗だけが、その場へ少し残った。
「……流さん」
流雅は、柚葉が消えていく方を見たまま答える。
「何?」
「柚葉が無茶してるってのは、俺も分かってる」
「なら………」
「止められてたら、とっくに止めてる」
真斗は頭を掻いた。
「でも、あいつが何で行くのかも分かる。泗瓏囲は、あいつにとって他人に任せて帰れる場所じゃねぇんだ」
「それでも危険なことには変わらない」
「そうだな」
「真斗君まで、危ない目に遭うかもしれない」
「それも分かってる」
真斗は流雅を真っ直ぐに見る。
「だから俺も来てる」
「……」
「柚葉は一人じゃねぇ。リンちゃんも、アリスもいる。俺もいる」
その言葉に、流雅は僅かに目を伏せた。
学校で再会した時にも分かっていたはずだった。
柚葉には友人がいる。
家族がいる。
もう、何も言えずに一人で座っていた子供ではない。
それなのに流雅は、また自分一人で柚葉を守ろうとした。
昔の柚葉を、今の柚葉へ重ねて。
「……頼める?」
「言われなくても」
真斗は短く答える。
「けど、流さんも悪い人じゃねぇんだろ」
「どうかな」
「柚葉があれだけ嬉しそうにしてたんだ。悪い人だったら、あいつが馬鹿みてぇじゃねぇか」
流雅は苦く笑った。
「だったら、次はちゃんと話を聞いてやってくれ」
「……うん」
「うんじゃねぇって、今の柚葉なら言うぞ」
流雅は一瞬だけ目を丸くした。
それから、小さく笑う。
「そうだね」
真斗は柚葉たちの後を追った。
山道に、流雅だけが残される。
木々の間へ、一行の姿が消えていく。
柚葉は最後まで振り返らなかった。
流雅は伸ばしかけた手を見つめ、ゆっくりと下ろした。