雅が本当の兄の様に慕っていた分家の兄が、雅の母親を介錯した話。   作:ザワザワする人

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今回めっちゃ短いです。ごめんなさい。
それと書き置きしてた分がもう少しでなくなりそうなのでこれから短い話が増えると思います。
投稿も不定期になるかもしれませんが、よろしくお願いします。




私の英雄

 

「はぁっ…はぁ……はぁっ」

 

動けない。

 

「クソっ…体が……」

 

見えない。

 

()()()!契約しただろう!早く、私の体を返せ!!」

 

契約。此奴らが憎む悪を、私が穿つ代わりに私を解放するという契約。

先程から頭で響く声の主に、加えて命令する。

 

「早く…しろ!」

 

「黙って寝ておけ」

 

「何…?くっ……」

 

頸椎に与えられた刺激によって、すり減らされた私の集中力はガラスの様に砕け散った。

 

 

 

 

目を覚ますと、そこには見知った顔。

久しぶりに正面から見た。

けれど、ここに居るはずがない。

そもそも、今はこんなに()()()()

 

「大丈夫?」

 

「え……?」

 

自分が出した声が、酷く高い事に気がつく。

慌てて自らの手を見ると、そこには普通の幼子の手が。

 

「兄上……?」

 

「うん、兄上だよ。雅の、お兄ちゃん」

 

そう言って、幼い兄上はそっと優しく私の片手を両手で包む。

兄上はほんの少ししゃがんで私と同じ目線になる。

声は小さい、けれど確かにその声が私を包み込む。

 

「雅は、将来何になりたい?」

 

何と答えるべきか、頭の中をいくら巡っても出てきた解は一つだけ。

 

「英雄に、なりたい」

 

そうだ。ずっとずっと、私は英雄になりたかった。

でも、この夢は。

 

()()()、英雄になりたい」

 

ずっとずっと、隠したかったものだった。小さい頃は、はずかしくて言えなかった。

でも大人になってもやっぱりこれは変わらない。

だって、私は守りたかった。

夜が怖かったのか、ずっと布団の中で震えていた兄上を。

母上が頭を撫でようとしたら、びくりと体を強張らせる兄上を。

私がいつも食べていたご飯を、泣きながら、本当に美味しそうに食べる兄上を。

 

「……雅は優しいね」

 

兄上は手を一つ離して、私の頭を撫でる。

 

(あ……)

 

子供の頃の記憶は、存外にも脳の中枢に残るものだ。

だから、私は一つずつ思い出す。

 

 

「いてっ…」

「雅!大丈夫!?」

私が転けた時に、従者よりも母上よりも早く駆け寄って来てくれたこと。

 

 

「………出来た!」

「雅すごい!美味しいよ!」

私が剥いた形がガタガタのリンゴを、美味しそうに頬張ってくれたこと。

 

 

「………ぐすっ…」

「大丈夫……大丈夫……」

母上に叱咤された時に拗ねた私に、ずっと寄り添ってくれたこと。

 

 

「兄上…?母上…?どこ?」

「雅!やっと見つけた!」

私がどこで迷っても、すぐに見つけ出してくれたこと。

 

 

「ごほっ……ごほっ……」

「………」

私が風邪をひいたとき、ずっと手を握っていてくれたこと。

 

今となって、やっとこんな当たり前に気づいた。

兄上はずっと、私を案じてくれた。

ずっと、私を見ていてくれた。

ずっと、私を包んでくれた。

ずっと、私を守ってくれた。

 

挙げればきっとキリがない。

 

だってずっとずっと、兄上は。

 

「私の……英雄だった……」

 

「雅」

 

この澄んだ声で、名前を呼ばれるのも好きだった。

 

「僕を、お願い出来る?」

 

こんなの、考えるまでもない。

即断即決だ。

 

「うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雅!雅!」

 

私は声を荒らげて、雅を呼んだ。

 

雅の呼吸は未だに荒いままだった。

 

「はぁ……はぁ……あ、あぁ……」

 

『雅さん?雅さん!私の声がわかる?ねぇ、聞こえる?』

 

「プロキシ……?」

 

何とか、雅は目覚めた。

 

『そうだよ、わたし!雅さん、やっと目を覚ましてくれた!気分はどう?』

 

「……私は……私は……誰かを傷つけてしまったか…?」

 

思わず鳥肌が立つ。

 

雅の言動も流雅先輩は予期して、私に指示を出した。

 

雅は今、精神的にも肉体的にも弱まっている。

 

もし、流雅先輩を刺した事を伝えれば雅がどうなるかは私にも分からない。

 

私は先輩の指示に従うしかなかった。

 

「……安心して!雅、あなたは誰も傷つけていないわ!あなたの目と刀に奇妙な炎が現れた時、流雅先輩があなたをデッドエンドホロウに押しこんだの!」

 

「兄上が………」

 

「流雅先輩の刀には不思議な力があって、あなたの刀の暴走を抑えれたの。先輩のおかげであなたの暴走は収まって、私達は近づけた」

 

「兄上は……どこに……」

 

「先輩はブリンガーを追って、ホロウに向かったわ」

 

「そうか……ありがとう。私はもう少しで……大きな過ちを犯すところだった」

 

「…怖かった。もし、私の力が親しい人や……罪なき人を……愛する人を傷つけていたとしたら……」

 

雅の表情は大病を経験したような、虚脱したものだった。

 

強張っていた眉が揺らぐと、一筋の涙が流れる。

 

天下無双の最年少の虚狩りもこの瞬間は、一人の少女だった。

 

静かに、嗚咽を漏らしていた。

 

『雅さん……』

 

「店長さん!雅は私に任せてください!一番近い医療拠点に連れていきます!ブリンガーを追ってください!」

 

店長さんは、私と雅を置いてホロウへと向かった。

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