雅が本当の兄の様に慕っていた分家の兄が、雅の母親を介錯した話。 作:ザワザワする人
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「………はぁ……生きてるかしら?」
「ここまでやれとは言っていないのだけれど」
流雅の脈、呼吸は弱々しいがまだ在る。
「あなたに死んでもらったら、困るのはこっちなの」
サラは手際良く
それをそのまま、流雅の首へと刺した。
「どうなるかはあなた次第。けれど、これで死にはしないでしょう」
「私も殺される訳にはいかないから、これでサヨナラね」
「また、会いましょう?きっとその時、あなたは」
「………いや」
「やめておきましょうか。盗聴機が何処に在るか分かったものじゃない」
ホロウにカツンカツンと、ハイヒールの音響く。
音は小さくなっていき、完全に聞こえなくなった。
その瞬間。静かに、だが激しく。
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「兄……上……?」
「何故お前がここにいる!?」
星見雅の微かな声は、ブリンガーに遮られる。
この場にいる誰もが、ソレを確認している。視認している。
それでも誰も、動けない。
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい」
先程よりも明確な悪意を持って、ソレはこの場の中央に位置している。
「構わん!もう一度だ!!」
それは恐怖かそれとも蛮勇か。
真っ先に動いたのはただ唯一、星見流雅に敵対していたブリンガーのみ。
先程ソレに砕かれた大太刀を、再び顕現させる。
「死ね!!」
振り下ろされた大太刀は今までの物とは違う。
大きさ。エーテル。速度。星見流雅が死力を尽くして止めた一太刀とは、どれもが一線を画している。
常人の瞬きの間に、ソレの目前へと迫る。
ソレは、自らの頭を両手で抑えている。反撃は、本来不可能。
「だまれ」
だがソレは異常の速度で抜刀、及び納刀を済ませた。
辺りに散らばるは、やはり大太刀の破片のみ。
それらもやがて
無論、ソレに切り傷一つもない。
「え……いや…………は…?」
その動作は、H.A.N.D随一の弓手である浅羽悠真ですら観測不可能。
観測を可能としたのは、
「…柳、撤退しろ」
「……了解」
対ホロウ六課の課長として、星見雅は命令を下す。
対ホロウ六課の副課長として、月城柳は隊員を守護する義務がある。
柳は、異を唱えない。何より柳自身が、自らの無力を最も認識していた。
「っ…逃すか!!!」
ブリンガーは、意識を保ったまま知性を失わずエーテリアス化している。
目の前のソレを星見雅にぶつけ、自らは六課を狙う。
上場の作戦だ。
だが無論、雅はその画策を読んでいる。追尾を阻止しようと思案する。
両者は全くの同時に移動の決断を下し、前頭葉から信号を送った。
視界にソレを捉えつつ移動するルート。
その前に。
雅の一歩目が、地に着く前に。
ブリンガーが、空から降下を始める前に。
ソレは、忽然と両者の視界から消える。
「しね」
淡白にソレが言い放つ声より早く。
余りにも容易く。
「待っ」
ソレは、ブリンガーを斬り刻み、消滅させた。
残ったのは、ポリゴン模様の残骸のみ。
「っ………」
雅は息を呑む。
先程よりソレの速度が上がっている。自分ですら残像しか見えない速度に、緊張が奔る。
本来は、声など出せなかっただろう。
だが、雅にとってはたった一人なのだ。
この世に、たった一人しか居ない。
とてもとても大切で、愛おしくて、かけがえのない。
そんな存在なのだ。
だから、雅は大きく大きく、息を吸って
「兄上!!!」
その意を汲むことなく、ソレはただ振り向く。
まるで次の獲物を見つけたかの様に、ただ呟く。
「…うるさい」
□
足を一歩。また一歩。
進めるだけだと言うのに。
こんなにも。
(怖い……)
ソレはまだ動かない。
双刀を腰に携えたまま、腕を脱力しブラリブラリと左右に揺れる。
雅が、三歩進んだ瞬間。ソレは、ほんの僅かに自重を前に傾けた。
(来るっ!)
雅は、全神経を視覚に集中させる。
「………っ……」
「………」
天性の刀術の才とその身体能力により雅は、ソレとの鍔迫り合いを可能にした。
「っっっ……クソっ…」
雅が全身全霊で刀に力を込めたとしても、ソレの持つ刀には震えすらない。
「かるい」
ソレが声を発すると同時に、雅は大きく弾かれる。
先程のブリンガーの大規模攻撃により辺りは更地に化している。
雅は無尾を地へと突き刺し、なんとか踏みとどまった。
ここで、雅に二つの違和感が起こる。
(来ない……?)
雅が弾かれた後に、ソレは追撃を行わなかった。
ブリンガーに示した行動から雅はソレの事を、無差別的に攻撃を行うと考えていた。
(それに……遅すぎる…)
雅が鍔迫り合いを行う事が出来たのは、雅の才だけが理由ではない。
先程よりもソレは遅くなっている。
ブリンガーを滅したあの速度には遠く及ばない。
(このままなら……この状況を維持出来る)
二つのソレの行動が雅に光明を刺した。
雅は、確たる勇気を持ってまた一歩を踏み出した。
□
雅はソレへの突撃を繰り返していた。
弾かれては踏みとどまり。そして常人の目に止まらぬ速度で再度突撃。
だが雅がいくら
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
限界は、近い。
『フェ、Fairy!!なんか解決方法ないの!?』
『星見雅と彼女に対する存在の戦闘データを集計。戦闘兼無効化における最適解を計算中…』
『い、急いで!!雅さんがもう』
ドォォォォォン!!!
リンが、言い切る前に衝突音が響き渡った。
「がはっ……!」
雅は弾かれた後、その速度を柔げる事が出来ずにそのままコンテナに衝突した。
『雅さん!!』
スカーフを巻いたボンプはその小さな足を動かし、項垂れたままの雅へと近づく。
「プロキシさん!危険です!!」
柳はイアスを止めようと、鍛えられた身体で一瞬でイアスへと近づきそれを抱える。
だがその速さ故に、柳とイアスは慣性により入り込んでしまった。
ソレが、迎撃する領域に。
「……きえろ」
瞬きよりも早く、ソレは迎え討つ。
横薙ぎの刀は、確かに目標を見据え振られた。
「っ………あれ……?」
だがそれが、一人と一ボンプの胴を両断する事は無かった。
ソレの刀は大きく空振り、虚空を切った。
「………」
「プロキシ、柳。もう大丈夫だ。私が、兄上を連れて帰る」
雅は、振るわれる刀よりも速く。ソレの反応よりも早く。
一名と一ボンプの重量を抱え、駆けた。
先刻とは天地の如く異なる速度に、そして明らかに変わった敵の雰囲気に、ソレも僅かな動揺を溢す。
雅を、無尾から溢れ出る狐火が
「兄上には
雅は分かっていた。
目の前のソレの中に、確かに兄がいる事を。
雅は理解していた。
流雅がもう、人の命という責に堪えられない事を。
「力を貸せ。無尾」
雅の声に呼応するかの様に、無尾の純光が煌めき、また一段とその狐火が肥大化する。
そして、雅は確信していた。
今の自分が、己の武の到達点である事を。
「今思えば、初めてだな。兄上」
ゆらりと刀を構え、雅は言い放つ。
「兄妹喧嘩といこう」
「………」
返事は無く、ただソレは雅へと斬りかかる。
双刀による、荒れ狂う雷の如き八連撃。
(臆さず、挑まず)
雅はそれら全てを回避した。
無尾の真なる解放は、使用者の五感すらも超越させる。
激流の中の木の葉は、決して沈まずに必ず浮き上がる。
それに呑まれる事は決してない。
「じゃ…ま」
ソレは、確かに焦っている。
その一分の隙を今の雅は見逃さない。
「すまない、兄上」
神速の回し蹴りが、ソレの片腕の防御を介さずにソレを吹き飛ばす。
ソレは成す術なく、壁へと激突する。
「じゃ……ま「遅いな」
雅に、ソレを無効化し兄へと意識を戻す明確な術はない。
(私は兄上ほど賢くない。だが、それでいい)
雅は明確な意図を持って、無尾を納刀した。
(きっと私にしか、出来ない)
無尾を覚醒させた雅は、ソレから溢れ出ていたエーテルについて知覚する事を可能にした。
そしてソレが活動する度に、ホロウからエーテルを吸収している事を理解した。
ホロウは、その恒常性により人をエーテリアスへと変貌させる。
このまま戦闘を繰り返そうとも、いずれ流雅は化け物へと変わるだけ。
ならば、どうするのか。
「もう大丈夫だ。兄上、私がいる」
少し照れながら、深い愛情を持って。
雅はソレを抱擁した。
彼らを包み込むは、無尾より生じる狐火。
(ホロウが兄上を壊しているのだとしたら、私がそれから守ればいい)
雅が取った一手はまさに力技。
だが故に正しく、一心一体。
侵蝕を全く受けていない雅と一心一体。
「あぁ……う……じゃ……」
ソレは、確かに行動を鈍らせる。発声すらままならない。
「いつも私を助けてくれてありがとう」
雅は、本当にただ何となく感謝を告げる。
「私の暴走を止めてくれてありがとう」
彼を抱きしめる力が強くなる。
「小さな頃、一緒に居てくれてありがとう」
「ずっとずっと、ありがとう」
狐火は絶える事なく燃え続ける。
その中に、美しい一粒の結晶が浮かび上がる。
それは徐々に大きくなり、雅の目から溢れてしまう。
「でも、私は我儘だ」
彼の命の危機に言う事では無いだろう。
「小さな頃から、それは変わらない」
しかし雅はだからこそ。今だからこそ。
「だから、兄上」
その言の葉を
「もう、離さない」
「えぇ……成功…いや大成功と言えるでしょう」
「
「ブリンガーも、実験体としては成功ね」
「そうだ、雲嶽山の方は?どうなっているのかしら?」
「……順調?嘘をついていないと良いけど」
「そうだ、
「……えぇ、失礼するわ。全ては始まりの主の為に」