雅が本当の兄の様に慕っていた分家の兄が、雅の母親を介錯した話。   作:ザワザワする人

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ここらで過去編をぶち込んでいく。流雅が、治安官の頃の話です。
まぁちょっと待て。皆がラブコメを待っているのは分かっている。過去編終わったら書くから。


最初の一節だけ現在です。


幕間の余韻
狐と蛾


「ふわぁ〜………暇だな〜……」

 

僕は今、自宅謹慎中です。

結局すぐに翌日、退院は出来たのですが仕事は厳重禁止を受けました。

やる事もなくなった僕は、朝からゴロゴロしていました。

 

ピロピロン♫

 

「ん?」

 

滅多に鳴らない僕のスマホのDM音。

 

(誰だろう……総一郎様かな?)

 

ポケットから取り出すとそこに写っていた名前は僕にとって懐かしい人でした。

 

『イヴリン・シェヴァリエ』

 

(……連絡先って交換したっけ……?)

 

メールを開けようとした瞬間。

 

ピンポーン♫

 

これまた珍しく僕の家のドアベルが鳴りました。

 

「?はいは〜い」

 

返事をしながら玄関へと向かうと、またドアベルが鳴りました。

どうやら急ぎの用事の様子。

ドアを開けると、少し眩しい太陽が目を刺激しました。

 

「あれ……?イヴリンさん?」

 

「…………っっ………」

 

イヴリンさんは、ゆっくりと僕に倒れて来ました。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「………今は……このままにしてくれ」

 

「え……えと……分かりました……」

 

イヴリンさんの背中をポンッポンッと叩きながら、僕は初めてイヴリンさんと会った時の事をゆっくりと思い出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の依頼は?」

 

「最近じゃありふれた奴らだ。ホロウを通してエーテル素材の密輸を行ってる連中。いい加減、連中も別のやり方を考えれば良いってものを」

 

「そうか、それを受けよう」

 

「オーケーだ。それじゃいつも通り名前を」

 

「……ベラ、これで行こう」

 

「もう使った」

 

「…レナ」

 

「使った」

 

「……レルナ」

 

「使って………ないな。よし今回はレルナだ」

 

「失礼する」

 

慣れ親しんでしまった仲介役に吐き捨て、金髪の女性は店を出た。

 

 

 

 

 

 

治安官達に休みはない。

今日も彼らは、新エリー都の表面上の平和を守ろうと奮起していた。

それは無論、彼も例外でない。

 

「うん?どうした流雅?」

 

「先日起こった、共生ホロウでの暴行の容疑者を探さないのですか」

 

「あ〜……あれか。…他の事件もあるからな。ホロウだと証拠も消えやすい。ホロウ外での事件に調査の重きを置いてるってだけだ」

 

「先輩、容疑者が使っているナイフが一致している事件はここ数年で十数件に上ります。このまま犯人を逃せば、いつか一般人すらも」

 

「…そうだな。分かった。上に掛け合おう」

 

そうして、先輩は立ち去った。

後日、先輩が持って帰って来たのは上からの直々な命令書。

中身は、シンプルだ。

 

此度の事件の一切の捜査を打ち切る。

 

ただそれを書くためだけに。誰でも分かる説明を長たらしく書いているだけの紙。

怒りのままに、紙を丸めてゴミ箱へと放り投げる。

被害者が全て犯罪者だからか。

 

(関係、無い)

 

何の為に治安官になったのか、彼はその意義を再び自分に説いた。

 

「よしっ」

 

彼は自分のデスクに向かいあう。

視界に映った大量の書類の処理は彼の仕事だ。

憂鬱さを少し感じながら、彼はそれの処理を始める。

 

 

 

「終わった………行くか」

 

 

 

書類の山を終わらせた彼の瞳はまだ燃えている。

電車を二駅。タクシーに数分乗り、徒歩で約三十分。

聳え立つのは一つのホロウ。

躊躇なくその中に入り、迷いなく歩みを進める。

 

「ここか……」

 

彼が辿り着いたのは、上が捜査を断ち切った事件の現場である。

本来ならば、一介の治安官である彼が行ってはならない場。

 

(鑑識はおそらく何も調査していないし、調べててもそんな簡単に教えてくれる筈がない)

(でも、エーテルの微細な変化で分かる。犯人はやはり小型のナイフを使ってる)

(ここはコンクリートが切れている…だいぶ固いナイフ。もしや輝磁?)

(……短い黄髪……被害者に黄髪は居なかった)

(犯人は黄髪…)

 

着々と、ゆっくりと、彼は真相に近づく。

 

 

 

 

 

「コードネーム、ムササビ」

「了解した」

 

 

(ナイフ一つじゃこれだけの速さで複数人を制圧できない)

(ナイフ以外の補助具かそれとも複数の投げナイフ?…投げたナイフをわざわざ回収するか…?)

 

 

「アンナ、仕事よ」

「…了解」

 

(被害者は一名。違法ギリギリの詐欺で大金を騙し取っていた)

(…ここまで犯人が強いのならそもそも騙し取られた後に取り返しに来たって言うのは納得がいかない。そのまま実力行使すれば良い)

(となると犯人は実行犯なだけ……?依頼を受けているのか?)

 

 

「グレン」

「……わか、った」

 

 

(やっぱりおかしい。武器は、ナイフとか凶器そのものだけじゃ無い)

(被害者の首にあった締め跡。今までの事件じゃ無かった。多分、犯人も余裕がない)

(……恐ろしい程に細くて頑丈な糸)

(犯人の凶器は、ナイフと糸)

 

 

 

(あと、少し)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ〜………」

 

彼の夜飯は遅い。

夜に勝手に行っている独断調査に加えて、昼は治安官の業務が積み重なっている。

疲れも小さくなく、歩みも遅い。

 

(あの事件どうしよう……。これ以上は上が動かないと厳しい)

 

現行犯でない限り、逮捕には治安官上層部が出す令状がいる。

犯人の特徴は突き止めつつあるとはいえ、彼は独断で調査を行っている。

逮捕するには、現行犯しかない。

が、これらの事件の犯人は彼の予想ではただの依頼引受人。

そこに規則性も、思考もない。

 

(ダメだ……眠い)

 

パァァァァン!!!

 

彼が思考を放棄しようとした時。

偶然にも銃声が微かに彼の耳に届いた。

 

(銃声!?)

 

驚きながらも、彼は優秀な治安官。

銃声の位置、距離を推測し地を駆ける。

 

(全力で走っても数分かかる…!)

 

先の事件のことは頭から消え、一重に市民の為に彼は思い、行動する。

 

 

彼が辿り着いた時に最初に見えたのは地に伏している男性。

 

「大丈夫ですか!?っ……絞首跡……()()()……」

 

既に命を失っていた男を置き上げて確認すると、見えたのはあの事件と同じ絞首跡。

 

(まだ、近くにいるかもしれない!)

 

「なっ……」

 

彼が行動しようと顔を上げた瞬間に、彼の目に映ったのは数多の死体。

だが、そこに一人。他の死体とは異なる様子の人が居た。

横たわっているのではなく、壁に寄りかかっている。

彼の目は、彼女の呼吸を捉える。

 

「大丈夫ですか!?」

 

彼が声を掛けても、彼女は目覚めない。

今一度、呼吸を確かめ、寝ているだけだと安心した彼は、すぐに考える。

 

(初めての生きた被害者……!彼女から更に情報を)ぐ〜〜(……私じゃ無い…よな?)

 

確かに彼の最後に取った食事は、昼の携行食だけだがお腹が鳴るほど彼のお腹は減っていない。

 

 

ぐ〜〜〜〜〜

 

 

目の前の女性から鳴っていると、気づくのにそう時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(うん……?暖かい……)

 

体を動かせばガサガサと、何かが擦れる音がする。

 

(まぁ……いいか)

 

朧げな意識で、彼女は二度寝を決行する。

 

(いや待て、私は任務の途中で……)

 

だが彼女もプロだ。決して暖かい布団にくるまっているからと言って任務を放棄はしない。

パチリと目を見開くと、見えたのは普通の室内の景色。

 

(私は……外に居たはず。まさか…誘拐されたのか!?)

 

上半身を恐る恐る起こすと、自分の額から何かが落ちて来た。

 

(タオル……?何故だ?誘拐ならばこんな物は必要な「あ、起きましたか」っっ!?)

 

目の前に新しく現れたのは狐のシリオン。

警戒を最大まで引き上げ、ポケットのナイフに手をかける。

 

「あ、ごめんなさい!!誘拐じゃ無いです!!急でびっくりしましたね」

 

「え…あ、あぁ……」

 

「事件現場で貴方が寝ていたので、連れて帰らせていただきました。女性をあのままにする訳にはいかないので」

 

「私は……寝ていたのか」

 

「はい、それはまぁぐっすりと」

 

(何たる不覚……!)

 

彼女は唇を噛み締める。

 

「ごめんなさい。安心してください。変なところは触ってません。断じて。決して。命に誓って」

 

どうやら彼は、彼女が唇を噛み締めたを勘違いしたらしい。

視界から彼女を外す事を何とも思わず、土下座する。

 

「あ、いや…そう言う訳じゃない」

 

「そ……そうですか」

 

気まずい沈黙が流れる。

先に沈黙を破ったのは彼女の方だった。

 

「……すまない。知人に連絡しなければいけないから失礼する。この恩は必ず」

 

「動いたらダメですよ」

 

彼女が立ち上がろうとしたのを、彼は彼女の肩を掴みベットに押し付けた。

 

(強っ…!?)

 

多少なりとも自分の力に自信があった彼女は驚きを禁じ得ない。

 

「貴方は熱があるんです。昨日の時点で38.9度。今は……38.4度」

 

「そう…なのか?」

 

「はい。私が連れ帰って来た時と、今、計りました。頬も赤いですし、今日は安静にしてください」

 

「だが、それでは貴方に迷惑が…」

 

「もう、今は昼です。溜まってた有給を出しましたし大丈夫ですよ」

 

(クライアントが何と言うか……)

 

それを彼女は口に出せない。

無論それは、誰にも話せる訳がないのだが。

 

「自己紹介でもしましょうか。私の名前は流雅です。好きなふうに呼んでください」

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヴリン……イヴリン・シェヴァリエだ」

 

 

 

特別な理由などは無かった。

何となく。

彼女は久しく、本名を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

「あ!ちょっと待っててくださいね」

 

そう言って彼——流雅は、私のいる寝室から立ち去った。

 

(私は……何を……)

 

後から自分の行動を鑑みると、荒唐無稽と言う他ない。

 

(なぜ本名を……)

 

いくら考えても答えは出ない。

思考をどこかに逸らすように、耳元の無線機から連絡を取る。

あくまで小声で。

 

「依頼は完了した。昨日は……そのまま帰ってしまっただけだ」

 

『……そうか、了解した。次も頼む』

 

考えをはぐらかそうとしたのに、すぐに報告は終わってしまった。

依頼を終わらせた後、眠りこけ、知らぬ男に家に運び込まれたなどと説明の仕様が無かったし何より彼女は。

 

(ここは、異性のベットなのか……)

 

熱のせいか、ほんの少し頬が熱くて恥ずかしいと思ってしまった。

別に彼女にそういった経験が無い訳ではない。しかし、どれも本番に至るまでには相手を殺めている。

仕事の報告が終了し、今受けている依頼はゼロ。

何人も何十人も殺めてきた、冷酷なエージェントでは無く。

一人の女性として、いる事が。いられる事が少しだけ。

ほんの少しだけ、嬉しいと彼女は思った。

 

「イヴリンさんは何のお仕事をされてるんですか?モデルとか?」

 

いつの間にか戻って来ていた彼に質問される。

 

「何でも屋といったところだ。…何故モデルと?」

 

「…?綺麗な人だな〜と思ったので。はい、これお粥です。熱いので気をつけてください」

 

「あ、ありがとう……」

 

「…また頬が赤くなりましたね。やっぱりもう寝ますか?」

 

「い、いや。頂こう」

 

添えられた掬いを掴み、お粥を掬って口へ運ぶ。

口に広がる暖かさが、また彼女の頬を赤める。

 

(美味しい…)

 

だが彼女は一度、掬いを置いた。

 

「……無礼は承知なのだが、少し…一人にしてくれないか」

 

「分かりました。何か用があったら呼んでください。お薬もそこに置いておくので食べ終わったら飲んでくださいね」

 

「あぁ……ありがとう」

 

パタンと扉が閉まると同時に。

 

私は、止めていた食事をまた始める。

 

今度はゆっくりと一口づつ、何かを確かめる様に。

 

任務の片手間に食べる、ただ腹を満たすだけの食事をずっと続けてきた。

 

食事中だったとしても、名を呼ばれれば私の仕事は始まる。

 

その時の食事の味なんて、すぐに忘れる様になった。

 

忘れても構わないしそれが少しでも任務に支障を来たすならさっさと忘れろと、思い込んだ。

 

それに対して特段、困るような事も無かった。

 

お粥の湯気が、私の頬に少し触れる。

 

彼に部屋から出て行ってもらったのは、驚いたからだ。

 

あまりにも、()()()()()()

 

味が口の中に広がるのが、やけにゆっくりで。自分が飲み込むのに、こんなに時間がかかった事が。

 

料理を、ちゃんと時間をかけて味わう。

 

そんな当たり前が出来た事が、させてくれた事が、とても嬉しかった。

 

風邪のせいだろうか、胸の奥がとても熱い。

 

疲れているだろうから。

胃に負担をかけないように。

ちゃんと、休めるように。

 

言葉にしなかった彼の気遣いが、お粥にはたくさん込もっていた。

 

ちゃんと味わった料理から、それが滲み出てくる。

 

気付けば、また掬いを置いていた。

 

視界が滲んで、前がよく見えなくなった。

 

湯気は、ずっと立っていた。

 

湯気をかき分けていくように、涙が一滴落ちる。

 

どうして泣いているのかは、自分が一番分かっている。

 

決めつけていたからだ。

 

勝手に自分で。

 

自分はもう、こんな大事にされる様な存在じゃないと。

 

私は体に溜まった何かを小さな呼吸と一緒に吐きだして、もう一度掬いを取って口に運ぶ。

 

今度は、逃げずにもっと味わうために。

 

(あ……)

 

気付けば、食べきっていた。

 

久しぶりに、容器の底というのを見た。

 

彼が用意してくれた薬と、温かい水を一緒に飲み込む。

 

手持ち無沙汰になった私は、ベットに(くる)む。

 

きっと勘違いだっただろう。

 

風邪を引いて、暖かい料理を食べて、ベットに包まれて。

 

体が暖かくなっただけだったろう。

 

でもその暖かさが。

 

彼の優しさみたいで。

 

私はすぐに眠りについた。

 

 




疲れ切ってるキャリアウーマンには、暖かい料理。はっきり分かんだね。

もうちょい過去話続きます。

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