デジモンアドベンチャー IB   作:煮干し銀

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いつのまにかファイル島

 俺がデジモンというコンテンツに触れたのは最近のことだ。

 

 2025年に発売された新作ゲーム『デジモンストーリータイムストレンジャー』がSNS上で話題になり、セクシーな美女デジモンの存在に引き寄せられるようにプレイした。

 

 その結果、さまざまなデジモンとの冒険と魅力的なストーリーにデジモン好きになった俺は、正月休みを利用してデジモンコンテンツを漁ることを計画。まずは一番有名な最初のアニメを観ようと、そう決めていた。

 

「なのに、なんで俺は森の中にいるんだよ」

 

 29日に最後の仕事を終え、さてこれから観るぞと言うところまでは覚えている。しかし、ベッドに寝転がってノートパソコンの画面に映る再生ボタンを押したところで急に眠気が襲ってきて、気がついたらいつのまにか森の中で寝ていた。

 

 俺は混乱する頭で周囲を見渡す。見たところ自分以外に人の姿はない。

 

 とにかくここでじっとしていても仕方がないので、地面に寝ていたせいで少しばかり痛む体を引きずりながら森の中を歩き始めた。

 

 何か人工物や人が居ないかと目を凝らす。しかし見えるのは森の景色ばかりで、それどころか次第に植物園でしか見たことがないような熱帯の植物らしきものが見えてきた。

 

 本当に一体ここはどこなんだ。まさか寝ている間に植物園に連れてこられた? いやいや、そんなことしてなんの意味があるんだよ。

 

 分からないことをぐるぐると考えつつも更にあてもなくさまよっていると、やがて目の前に2台の自販機が現れた。

 

「良かった。こんな自販機でも森の中だと安心するもんだな」

 

 自販機があると言うことは、ここは少なくとも森の奥深くではないだろう。いまだに状況はわからないが、熊と遭遇する可能性が少しでも下がるのはありがたい。

 

 知らない場所を歩き回ってなんだか疲れてしまった。喉が渇いてきたところだし、ちょうどいいので何か飲み物を買おう。

 

 そう思ってスマホを取り出してみると、そこでようやく俺はスマホという便利な道具のことを思い出した。そうだ、最初からこれで位置情報を調べれば良かったんじゃないか。

 

 まるで思いつきもしなかった自分に呆れながら、慣れた手つきでスマホのロックを解除。お馴染みのマップアプリくと通信環境が悪いと表示された。

 

「なんだ? うわ、圏外じゃん。マジかよ」

 

 俺のスマホは最新機種ではないが、日本中どこでも繋がることを謳っているような会社の機種を使っている。それが圏外となると、この場所がどこなのかいよいよ判断できなくなってきて不安が募ってきた。

 

「いや、ここは森の中だから電波が悪いんだ。高い場所に出れば繋がるさ」

 

 とりあえずスマホが圏外ならスマホで決済は使えない。ならばと財布を取り出すと、100円玉を2枚取り出す。最近の自販機の飲み物はどれも高いから、今じゃ350ミリのジュースでも150円じゃ飲めないんだよな。

 

 ところが自販機のラインナップを見ると、そこには150円以下のものしか無かった。自宅近くで見る同じサイズのコーラのペットボトルが120円だ。

 

 こんな森の中にあるならむしろ値段が上がりそうなものなのに。頭を捻りながらも、安いならそれにこしたことはない。10円玉はあいにく切らしているのでそのまま自販機に200円を投入。見慣れたコーラのペットボトルを選択する。

 

 しかし、自販機はピッとかガコンとか当たり前に聞こえてくるはず音を奏でることもなく沈黙していた。返却の小窓を確認しても、そこに小銭はない。

 

「最悪だ。やっぱ古いボロ自販機だったのか。クソッ、返せ俺の200円!」

 

 返却ノズルを何度も引きお金が返却されないかと試す。だが、金が返ってくることはなく。それどころか次の瞬間、飲み物の取り出し口から何かが飛び出してきた。

 

「うわっ!?」

 

 しめった緑色のシバ犬サイズの何か。そいつは自販機から出てくるなり、俺の姿を見て一目散に逃げていく。

 

 俺はその生物を見ていることしかできなかった。何故なら、それは現実に存在するはずのない架空の生物だったからだ。

 

「ぬ、ヌメモンが、自販機からって……え?」

 

 訳がわからないこと続きで頭がおかしくなりそうだ。だけど今見たあれは間違いなく、俺が数日前までプレイしていたデジモンストーリーに登場していたデジモンの一体である「ヌメモン」に間違いない。あんな特徴的な化け物、見間違えようがないし。

 

「げ、現実世界にデジモンが? まさか、いやいや、あり得ないでしょ」

 

「現実世界ってなぁに?」

 

「はえ?」

 

 突然後ろから声をかけられて、変な声を出しながら咄嗟に振り返る。

 

 そこにはツノモンがキラキラした好奇心むき出しの目でこちらを見ていた。

 

「つ、ツノモンだ」

 

「うん、ぼくツノモンだよ。ねぇねぇ、それより現実世界ってなんなの?」

 

「え、ああ、現実世界っていうのは、俺たち人間が住んでいる世界のことで……」

 

「ふーん、よくわからないけど凄いんだねえ」

 

 そう言って体全体を震わせることで納得しているようなしぐさをするツノモン。俺はそんなツノモンを見て一つの結論を出そうとしていた。

 

 そうだ。これは夢だ。だってそれ以外にデジモンと出会うなんてことが起こるはずがない。

 

 夢か。夢ならば古典的だが自分の頬をつねってみたりして痛みを感じれば起きれるかも。そう考えて、右の頬をつねってみる。

 

「痛い」

 

 でもまだ目の前にはツノモンがいる。

 

 ならばと左の頬もつねった。

 

「痛い」

 

 しかし、ツノモンはまだいるし、そこらの景色も森そのものだ。

 

「何してるの? 病気になったの?」

 

「そうかも」

 

「大変だ! じゃあ僕が持ってる薬を分けてあげる。こっちに巣穴があるからついてきて!」

 

 ツノモンはぴょんぴょんと跳ねながら、森の奥へと向かって行く。俺はそのままツノモンの後について行くしかなかった。

 

 頬をつねっても目が覚めないなら。現状俺の助けになるのはツノモンだけだ。

 

 何もかもが分からないまま鬱蒼と生い茂る木々の隙間を縫ってツノモンについていく。ツノモンの体は小さくて見失いそうになることもあったが、その度にツノモンは声をかけて誘導してくれた。

 

 そうして少し歩いた先に見えたのは、周囲の木々よりもかなり大きな木。ツノモンはそのまま木に向かっていくと、吸い込まれるように木の中に入っていった。

 

「き、消えた!?」

 

 近づいてもどう見たってそこに穴なんてない。木の前で立ち尽くしていると、その樹皮からツノモンのツノがひょこっと現れた。

 

「何してるの? こっちだよー」

 

 まるで何もないかのようにスルッと木の中に消えていくツノモンのツノ。恐る恐る手で気に触れようとしてみると、手は見事に樹皮を貫通した。

 

「見せかけだけの木なのか?」

 

 そのまま全身木の中に入れば、そこにはガラクタが散らばっていた。ボルトやナット、何かの機械のパーツ、空き缶、お菓子の袋、そんな中でツノモンは工具箱に顔を突っ込んでいる。

 

「あった! これ使って」

 

「あ、ああ、ありがとう」

 

 絆創膏を渡してくるツノモン。俺はそれを苦笑いで受け取って、頬に貼った。

 

「ところでさ、ちょっと聞きたいんだけど、ここってどこなの?」

 

「ここはファイル島だよ」

 

 うーん。わからん。

 

 

 

 

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