イカダが完成し、いよいよサーバ大陸へ出発する日がやってきた。波は穏やか、風も強すぎず、天気も良い。航海日和だ。
全ての荷物チェックが終わり、積み込んだらあとはイカダを海に出して帆を張れば海の旅が始まる。ただ、その前に俺から皆に話しておきたいことがあったので、出発前に一度機会をもらった。
「まずは時間をくれてありがとう。これから話す内容はちょっと荒唐無稽に思えるかもしれないけど、本当のことだ。そのつもりで聞いてほしい」
そう言うと、皆はそれぞれ何を話すつもりなのかと少し身がまえる。
「これを見てほしい。これはスマートフォンと言って、携帯電話の一種だ。だけどこのスマートフォンには電話だけでなく、メール、写真撮影、ゲーム、地図、動画撮影、インターネット検索など様々なことが出来る。昨日の夜、光子郎君に見てもらったけど、パソコンやネットに詳しい光子郎君もこのスマートフォンを見たことがないという話だった。そこで俺は一つの仮説を立てた」
興味深そうにスマホを見ている子どもたち。だがそこまで驚いている様子はない。ガラケーはあるようだし、そんなのもあるのかぐらいの認識なのだろう。まあ、触らないとスマホがどんな物なのかなんて分からないよな。
「俺の立てた仮説、それは、皆の住んでいる地球と俺の住んでいる地球は違う世界なのではないかということだ。それがパラレルワールドなのか、単に時代が違うのかは分からないけどね」
「ちょっと待ってくれ。パラレルワールドってなんだ?」
そう言って太一が頭を捻ってる。そうか、パラレルワールドという言葉に馴染みがないのか。2025年じゃ割と当たり前にアニメとかで使われるから知ってるけど、俺も小学生の頃は周りでそういうのが流行ってなかったし、知らなかったからな。
パラレルワールドについて説明しようとすると、先に光子郎君が口を開く。
「パラレルワールドとは似ているようでどこかが違っている別世界のことです。例えば僕らの地球では太一さんはサッカー部に所属していますが、パラレルワールドの地球では野球部に所属している太一さんがいる世界もあるかもしれない。つまりシンイチさんは僕らの世界と似ているけれど、全く別の地球からこのデジタルワールドに来たという事をおっしゃっているんです」
「別の世界? なんだかわかんねぇけど、それがどうしたってんだよシンイチさん」
「まあ、つまりはこういうことさ。君たちが元の世界へと帰る方法と、俺が元の世界に帰る方法は全く違う可能性がある」
「それってつまり、私たちと一緒に暗黒の力を使うデジモンたちを倒しても、シンイチさんには意味がないかもしれないってことですか?」
「うん、空さんの言うとおりだよ」
と言うか、ほぼ間違いなく子どもたちが暗黒の力を使うデジモンたちを倒しても俺は元の世界に戻れないだろう。この世界がデジモンアドベンチャーの世界であるならば彼らが戦うべき相手は彼らだけでなんとかできる。ここに俺がいる必要は全くない。
また別に俺にしなければならないことがあって、それを達成しなければ元の世界に戻れないと考えた方が自然だろう。まあ、本当に偶然の事故でなんの意味もなくここに来てしまったので、帰るための方法は特にありませんと言う場合もあるかもだけど。
しかし、このデジモンアドベンチャーって時代背景はどうなっているんだろうか。確か1999年だか2000年だかの作品だと言うことだったけど、作品によっては近未来設定とかも普通にある。俺は2000年生まれだから、もし子どもたちが生きている時代が1999年なら、変な話だが2025年だと俺の方が年下だ。一応聞いておくか。
「なあヤマト君、今って西暦何年?」
「今は1999年の8月だけど……」
やっぱりか。
1999年で小学五年生ということは現在ヤマト君は10歳か11歳。なら2025年には35歳にはなっていることになる。
うーん、でもまあこれを言ったところで俺とため口で話してくれはしないだろうし、言ったら余計話がしづらくなるかな……。
悩んだ末、結局俺は未来から来たということを言うだけにとどめることにした。これから子供たちとは長いこと一緒に過ごすような気がするし、たぶんその方が良いだろう。
「未来ですか。確かにスマートフォンはすごい機能ばかりでしたし、未来から来たというのなら納得です」
「ねえ、本当に何年から来たのか教えてくれないの? シンイチさん」
「ごめんね、ミミちゃん」
「なーんだ、つまんないの」
さて、俺が異世界の未来から来た人間だということは皆に話した。次はある意味、今までの話より重要な話をしなければならない。
「皆に話すことはもう一つあるんだ。皆はこれからサーバ大陸に渡るわけだけど、俺と俺のデジモンたちは一緒に行かないことにした」
「ええっ!?」
「な、なんでなのシンイチさん!」
「もしかして、私たちと一緒に暗黒のデジモンを倒しても元の世界に戻れる保証が無いからですか? そんなの私たちだって同じです!」
案の定、大騒ぎになる子供たち。まあ、そうなるよな、唯一の大人が自分たちの危険なたびについてきてくれないというのだから。でも、これには仕方ない事情があるんだよ。
「落ち着いて皆、俺は何も皆と一緒に暗黒のデジモンを倒しに行かないと言っているわけじゃないんだ。ただ、俺たちと君たちではデジモンの特性が違っていることが今回ついて行かないことを決断した要因なんだ」
他のデジモンたちと違って、選ばれし子供たちのデジモンには特殊な要素がある。それはデジモンたちがパートナーの感情や精神によって進化しているという点だ。
対して俺の仲間のデジモンたちは、エンジェモンを助けるために生命エネルギーを使い過ぎて今は幼年期。彼らのように俺の感情が高ぶれば進化させられるなんてことは起きないし、地道に進化させていく必要がある。
つまり、俺はこのままついて行けば確実に足手まといになってしまうのだ。旅の途中にじっくり特訓なんてしている時間はないし、それならば数日でもここで修行してからの方が良いと判断した結果、今回子供たちと一緒に行かないということになったわけだ。
「なるほど、確かにシンイチさんのデジモン、ブイドラモンはあった時からずっと成熟期デジモンでした。進化の方法が違うからだったんですね」
「そう。だから、幼年期に戻ってしまったツノモンとカプリモンをせめて成長期、あわよくば成熟期ぐらいに進化させてからでないと、君たちの旅に同行するのは厳しいかなと思ったんだ」
そう言うと、タケル君が俺と仲間のデジモンたちを見て申し訳なさそうな顔をする。
「シンイチさん、僕……」
「そんなに落ち込んだ顔しないでよ、タケル君。ツノモンもカプリモンも、俺だってエンジェモンが助かって良かったと思ってるし、後悔なんてしてないんだ。だから……そうだな、タケル君とポヨモンも次に会ったときに強くなった姿を見せてくれ。そしたら俺たちもポヨモンを助けたかいがあるってもんさ」
「わかったよ、シンイチさん。僕たち頑張るね! ね、ポヨモン!」
「ぽよ!」
その時、ポヨモンの身体が光を放った。
「わあ! ポヨモンが進化した!」
「タケル! 僕またタケルとお話しできるようになったよ!」
「僕すっごくうれしいよ! 一緒に特訓しようね、トコモン!」
「うん! 次にシンイチと会ったときには、またエンジェモンに進化できるように頑張る!」
こうして、選ばれし子供たちは、シンイチやレオモンたちと別れ、水平線の彼方にあるというサーバ大陸へと旅立っていった。
俺は彼らの姿が見えなくなるまで見送り、その日のうちにデジモンたちの特訓を開始した。その際、レオモンをはじめとしたイカダづくりに協力してくれたデジモンたちが特訓の手伝いを申し出てくれたことは、とてもありがたかった。
特訓も順調に進み、ツノモンがブイモンへと進化した。ひとまず目標を達成した休憩中、レオモンが話しかけてくる。
「ところでシンイチはどうやって彼らを追いかけるつもりなのだ? またイカダが必要なら手伝うが」
「うーん、いやイカダはやめておくよ。それじゃあずっと皆に追いつけないだろうし」
「ではどうする」
「イカダで行かないなら方法は一つ。空を飛んでいくさ。そのために俺は特訓と並行してあることをする」
「あること?」
俺はスマホのデジファームアプリを起動する。すると、現在仲間になっているデジモンたちの次にある枠をタップした。ポップアップウィンドウにはNoDataと書かれている。この画面がでるということの意味は、俺にはもう分かっていた。
「新しいデジモンをスカウトするのさ!」