デジモンアドベンチャー IB   作:煮干し銀

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別行動とエテモンキー

 サーバ大陸に到着した俺たちは、子供たちと合流して束の間のお食事パーティに興じていた。

 

 なるべく栄養バランスを考えて野菜も持ち込んだのだが、丈と空とヤマト以外は肉に夢中なようだ。タケルがヤマトに言われて野菜を食べている。お兄ちゃんの言うことをちゃんと聞いていて偉いな。

 

 子供たちが食事を楽しんでいる間、俺はブリンプモンの船内で仲間のデジモンたちと打ち合わせをする。今後について子供たちに話すことと、新しい仲間を紹介するための事前の話し合いだ。たったそれだけのことなど即興でやってしまえと思うかもしれないが、一つ、子供たちの反応がキツくなるであろうことがあるので、この打ち合わせは必要だった。

 

「さて、このあと新しい仲間の紹介をするわけだけど、子供たちは絶対に驚くし、たぶん反発すると思う。だから新人にはしっかりとアイツとは違うし、今後彼らが偏見を持たないような自己紹介をしてもらわないといけないんだ。その点大丈夫?」

 

「ええ、ええ、大丈夫ですとも。私だってあんな可愛い子供たちに邪険にされたくないもの。でもね、それもこれも私をこうしたアンタが悪いってこと、分かってんでしょうね!? わたし言ったわよね、美しい女性型デジモンになりたいって。なのに、なのに……なんでデビモンなのよ!?」

 

 そう、ファイル島で新しく仲間にしたピコデビモンは、現在進化してデビモンになっているのである。

 

 デビモンと言えば記憶に新しいファイル島での戦い。子供たちは当然うちのデビモンを見れば倒そうとしてくるだろう。だからこそ、俺はあえてピコデビモンをデビモンに進化させた。確かにデビモンといえば闇のデジモンだ。だけど人間でも同じなようにその中には良いデビモンも悪いデビモンもいる。俺は子供たちにデビモンだから悪いのだと決めつけて欲しくなかった。

 

 ただ、デビモンにしたのはピコデビモンの要望を全く聞いていないと言うことでもない。むしろデビモンの言う美しい女性型デジモンになるための第一歩としてデビモンになる必要があったのだ。俺だって本当は女口調の高い声で迫って来るデビモンなんて見たくなかったよ。

 

「ブイドラモンはデビモンと一緒に出てきてくれ。あの時一緒に戦ってた仲間の印象が強いし、多少は緊張感が和らぐと思うから」

 

「わかった!」

 

 ご覧の通り、ブイモンはもう一度ブイドラモンになってもらった。これはデビモンの件の為もあるが、一番は新大陸は慣れた身体の方が都合がいいと思ったからだ。

 

 このサーバ大陸はファイル島に比べてデジモンは強く、そして種類も多いと聞く。慣れない身体で戦うよりは慣れたブイドラモンの方が勝率が高いのではと思って、ブイドラモンに進化してもらったわけだ。

 

「よし、話し合い終わり。そろそろ子供たちもご飯を食べ終えるだろうから、俺が呼んだら出てきてくれな。それじゃよろしく」

 

 そう言って、俺は一人ブリンプモンから皆が食事しているテーブルまで戻る。

 

 ワイワイガヤガヤと満足げな表情をして話をしている子供たち。俺は彼らが集まっている場所まで行くと、皆に自分に注目するように促した。

 

「いや~、助かったぜシンイチさん!」

 

「ほんと、まともな食事なんてどれくらいぶりかしら」

 

「ミミはもうちょっとお料理の種類が多かったらよかったんだけど。でも美味しかったからいいわ!」

 

 次々に賞賛してくれる子供たち。俺はそれにちょっとだけ照れくさくなりつつも、この後の展開にこの顔がどうなって行くのか想像してちょっとだけ申し訳なくなっていた。

 

「ありがとう皆。じゃあ食事も終わったことだし、さっそくだけど仲間の紹介をさせてくれ」

 

「そうそう、僕気になってたんだ。シンイチさんが乗ってたあのでっかい乗り物ってデジモンなんでしょ!」

 

「そうだよタケル君。あのデジモンはブリンプモン、飛行船のデジモンで皆も前に会ったことがあるカプリモンから進化したデジモンなんだ」

 

「そうなの!? カプリモン、すっごく大きくなったんだね! カッコいい!」

 

「ありがとうございます。タケル様」

 

 ブリンプモンについてはまあ心配はしてなかったし、好印象ですんでよかった。さて、問題は次だぞ。変なこと言わないといいけど。

 

「ブリンプモンについてはOKだね。それじゃあ次だ、実は皆と別れたあとファイル島で新しい仲間ができてね。出てきてくれ二人とも」

 

 船内に向かって大きな声で呼びかければ、影になっている船内の色に紛れるような黒い細腕が徐々に見えてきた。そして、完全に全身があらわになったとき、子供たちが予想通りの反応を見せる。

 

「で、デビモンだ! 生きていたのか!」

 

「しつこいデジモンですね。テントモン!」

 

「はいな! テントモン進化! カブテリモン!」

 

「僕たちも行くよゴマモン!」

 

「おう! ゴマモン進化! イッカクモン!」

 

 テントモンの進化を皮切りに、次々とデジモンを進化させていく子供たち。無理もないけどちょっと待ってほしい、俺さっき新しく仲間になったデジモンを紹介するって言ったじゃん。

 

「パタモン!」

 

「うん! パタモン進化! エンジェモン! 悪しきものよ、このエンジェモンが再び葬って……うん?」

 

「どうしたの、エンジェモン」

 

「あのデビモン、前のデビモンとは違う。それどころか、ほとんど邪気が感じられない」

 

 そういうエンジェモンに驚く子供たちとデジモンたち。ヤマトが確認のためにエンジェモンに聞き返す。

 

「本当なのか、エンジェモン」

 

「ああ、間違いない」

 

 混乱に固まる皆。そこでようやく件のデビモンが口を開いた。

 

「はい、静かになるのに一分かかりました。まったく、あんたたち今シンイチが言っていた言葉を聞いていなかったの? 新しい仲間の紹介って言っていたでしょうに」

 

 その高い声と女口調にさらに混乱する子供たちをよそに、デビモンは話をつづける。

 

「私はデビモン、ええデビモンですとも。不本意ではあるけれどもね! そこのシンイチのせいでこんな体になってしまって、私はね美しい女性型デジモンになりたかったのよ。それがふたを開けてみればこれ! 何の冗談かと思ったわ! でもね、あんたたちの反応を見てシンイチが私をデビモンにした理由もわかったわ。あんたたちはあたしたちのような闇に属するデジモンを全員悪いデジモンだと思い込んでいるでしょう?」

 

 あのデビモンからは想像もつかないような話し方をする目の前の存在に対して、返答できたのは太一だけだった。

 

「違うのか?」

 

「違うわよ。確かにあたしたち闇のデジモンは悪に染まりやすいのは認めるわ。だけどね他のデジモンと同じように良いものもいれば悪いものもいる。あんたたち人間もそうなんじゃないの?」

 

「それは、確かにそうだけど、でもなぁ……」

 

「わかるわ。簡単には割り切れないでしょうね。人間やデジモンに限らず知能のある生物は、一度危険な存在だと認識してしまえばその後に考えを変えるのは難しいものよ。でも、それでも変えられないわけじゃない。あんたたちに私のような善良な闇に属するデジモンの姿を見せて、少しでも偏見を変えてみせる。覚悟しておきなさい」

 

 デビモン、お前意外と熱いところもあるんだな……。俺の頭を乗り心地が悪いとか言って悪態ついてたこと許してやるよ。

 

 デビモンのまっすぐな言葉が効いたのか、その後は子供たちも警戒はしていても、あからさまに嫌な顔をすることはなかった。

 

 なんなら一番デビモンを嫌いそうなタケルが普通に話しかけていた。

 

 しばらく様子を見て、俺は次の話を始める。

 

「ブイドラモンは皆知っているから紹介はいらないね。それじゃあ自己紹介が終わったところでここからが本題だ。実はここに来るまでに色々と考えていたんだけど、このサーバ大陸の旅で俺は皆とは別行動を取ろうと思っている」

 

 そう話すと、当然のように皆から反発の声が上がった。

 

「皆の言うことはもっともだ。俺たちもそれなりの戦力はあるし、大人の俺が一緒の方が安心というのもあるだろう。ただ、俺が別行動を取ろうと思っているのにはちゃんとした理由があるんだ」

 

「理由ってどんな理由よ。ミミたちを置いていくぐらい立派な理由なんでしょうね!」

 

「まあそうだね。一つ目は空から観察してサーバ大陸の地図を作るため。二つ目は皆の冒険に役立つアイテムや物資を定期的に届けるため。三つめはブリンプモンの性能向上のため」

 

 俺が挙げた三つの理由を聞いて、ヤマトが質問してくる。

 

「二つ目の俺たちに定期的に物資を届けるって、どうやって俺たちに届けるつもりなんですか?」

 

「それについては光子郎君のパソコンがあれば特定できる。サーバ大陸に来る道中で気づいたんだけど、どうも俺のスマホの地図アプリで光子郎君のパソコンがある位置をある程度探知できるようなんだ。だから俺たちは君たちが上陸するであろう場所に先回りできたのさ」

 

 地図アプリという単語に今度は光子郎が反応する。

 

「地図アプリ? それって、この世界の地図も見れるんですか?」

 

「それがどうも移動した範囲しか表示されなくてね。他は全部真っ黒になってるんだ」

 

「なるほど、それなら確かに別行動をとった方が良いかもしれませんね。地図があるのとないのとじゃ全然違いますから。その地図は僕のパソコンにデータ送れたりしますか?」

 

「たぶんできると思う。ただデータ容量の関係で一気には送れないだろうから、ある程度の広さを定めてその範囲だけ小分けに送ることになると思うけどね」

 

「十分です。ありがとうございます!」

 

 光子郎との話が終わると、今度はミミが三つ目の理由に突っ込んできた。

 

「一つ目と二つ目についてはわかったわ。でもそれだけなら別行動なんてしなくても必要なときに離れればいいじゃない! 三つ目の理由のブリンプモンの性能向上っていったい何なのよ!?」

 

「ブリンプモンの性能向上の具体例としては、エアコンの取り付けとあとはシャワーなんかも取り付けられたらと思ってるよ」

 

「よし、行きなさいシンイチさん! そして絶対にシャワーを取り付けるのよ!」

 

 その後も子供たちとの話し合いは続いたが、このミミちゃんの言葉が決定打になって俺たちは別行動をすることを許された。

 

 ただし子供たちからの帰還要請があった場合は必ず戻ることと、暗黒の力を使うデジモンとの戦いの場には必ず参加することが条件だ。これに関しては元からそのつもりだったので何の問題もないな。

 

 ちなみに丈からブリンプモンに乗って全員で移動することを提案されたが、船内を見せて手狭なことと、全員が船内にいる場合に敵に襲われた際には中で進化できないため対処が遅れることを伝えて諦めてもらった。

 

 それからミミからは全員は無理でも数人とパートナーデジモンなら乗れると言われたが、選ばれし子供たちがバラバラで行動することで何か良からぬ事態を起こしかねないことを話して説得した。

 

 こうして俺たちは食事の後片付けをすると、それぞれの旅路に別れていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗がりの中、大きなモニターの光だけが空間を照らしている。黒いサングラスに反射したモニターには、巨大な飛行船型のデジモンが映し出されていた。

 

「どうやら選ばれし子供たちと一緒に面倒なお客さんも来てしまったようねぇ。アタシのダークネットワークにも空を飛んでちゃ引っかからないし、子供たちより先にあっちを始末しようかしら……」

 

 オレンジ色のサルスーツを着たデジモン『エテモン』は、自身の敵になるであろうその飛行船のデジモンを見ながら、言葉とは裏腹に口角を上げて笑っているのだった。

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