選ばれし子供たちと別れてブリンプモンで物資の確保と地図の作成を行っている。サーバ大陸の上を飛んで分かったが、やっぱりここは大陸というだけあって陸地が広大だ。空を飛んでいて周辺を見回すと全方位が地平線になる景色なんて、ファイル島ではまず見られない。いやあ、壮観だ。
現在飛んでいる場所の周辺は森と平原が広がり、遠くには山が見えるがムゲンマウンテンよりはずっと低い山だ。一見するとあの山には何もなさそうに見えるし後回しでいいだろう。
地図埋めと物資確保なら、優先すべきは物資確保になる。物資の中でも食料集めが特に重要なので、定期的に地上に降りては食料集めを行っていた。
森では果物を集め、村があれば野菜を分けてもらえないかと交渉する。ただ、肉に関してはいつ何時でもまったく問題ない。なぜかというと、肉だけはデジファームアプリ内で育てているからだ。
ファームは本来デジモンを配置して育成する場所だが、現在は一匹も配置していない。そこでブイドラモンに頼んでファームの土地に肉畑を作ってもらった。これができることに気づけたのは、現状では腐ってしまっているファーム機能を有効活用できないかと皆で検証を続けたおかげだ。
「食料集めは順調、地図は埋める範囲狭めないと切りがなさそうだな。地図に関しては子供たちの現在位置とブリンプモンの移動速度から考えてどこまで埋めるか決めるか」
「あとはこの辺りのデジモンとのバトルももうちょっと増やしたいよね。特訓で強くなっても実際に戦って見ないと、どれだけ強くなったか実感しづらいし」
「確かにブイドラモンの言う通りだね。まあでも、こっちから襲い掛かるわけにもいかないから、襲われるか、協力してもらうしかバトルできないんだけど」
「どこかにバトルができる闘技場みたいな場所でもあれば良いのですが、今のところ私のレーダーにもそのようなデジモンが集まっている反応は映りませんね」
このデジタルワールドでは凶暴なモンスターも多く生息している。戦うことが好きなデジモンたちが集まる場所もありそうなものなんだけどな。
闘技場がなくてもバトルができる場所があればそれだけうちのデジモンたちのレベルを上げることができる。次の完全体進化にはステータスも重要だが、一定以上のレベルが必要になる。できればバトルができる場所を見つけておきたい。
成熟期への進化までなら特訓で少しずつ経験値をためてレベルを上げれば何とかなったのだが、次の進化はレベルが30前後必要になっている。タイムストレンジャーではエージェントランクによって進化可能になっていた条件が、こっちではレベルに置き換わったのだろう。エージェントランクとか無いし、何かしら別の条件に変わるのは仕方ない。
現在のレベルはブイドラモンが19、ブリンプモンが15、デビモンが25だ。意外にもデビモンが一番レベルが高い状態になっているのは、他の二体が一度退化していることを考えると当然だろう。
ただデビモンに関しては近々一度退化させる予定なので、もうあと少し特訓したらデビモンの姿ともお別れになる。
「はぁ~、それにしても暇ねえ。見える景色もムゲンマウンテンの上から見たのとそう変わらないし、意外とこっちのデジモンも襲ってこないじゃない。森にいるんだからクワガーモンぐらい襲ってきなさいよ」ズーズズ
フルーツジュースをストローで飲みながらデビモンが物騒なことを言う。君そんなに血の気多かったか?
「たぶん襲われないのはブリンプモンに乗って空飛んでるからなんだろうな。この辺りには空を飛ぶ系のデジモンが全然いないみたいだし。襲われたいならいっそ歩くか? デビモン」
「嫌よ。私の繊細な細い足は森を歩くようにはできていないのよ」
「じゃあその翼で低空飛行は?」
「無理ね。見なさいよこの翼。こんなに穴だらけで飛べるわけないでしょ」
「あのデビモンは飛んでたじゃないか。だったら飛べるだろ」
「よく思い出してみなさい。あいつは飛んでたんじゃないわ、浮いてたのよ。暗黒の力ってやつでしょ。たぶん」
「あー、確かに」
そんな風に無駄話をしながら探索をして早一日。光子郎からの連絡で子供たちは今パグモンの村にいるらしい。つまり今のところ子供たちは食事と寝床には苦労していないということだ。幸先が良いな。
しかしパグモンというのはちょっと引っかかるところ。パグモンはちょっといたずら小僧みを感じるところがあるし、子供たちはもしかしたら大変な思いをしているかもしれないな。
しばらく森の上を飛んで、そろそろこの辺りの地図はある程度埋まってきた。これ以上は子供たちの近くから離れすぎてしまうので、方向転換すべきだろう。
光子郎君のパソコンの反応は相変わらず一つ所にとどまっているように見える。特に連絡もないし、俺たちはこのまま、つかず離れずで地図埋めと物資の確保を続けようかと思っていたのだが……
「えっ……?」
「どうした、シンイチ」
「光子郎君のパソコンの反応が消えた!」
「なんだって!? それは不味いんじゃないか? メールは?」
「やってみる。……駄目だ、送れなくなってる。離れすぎたせいか!」
反応が検知できる距離とメールの送信距離は連動していたのか。厄介な。
とりあえず、最後に反応のあった場所に向かってみるしかない。確か子供たちはパグモンの村に滞在しているという連絡があって、そのあとからほぼ動いていなかったはずだ。
「ブリンプモン、座標を入力するからそこに進路を取ってくれ。目的地には村があるはず、目視できたら教えてほしい」
「わかりました」
ブリンプモンは最大速度で向かってくれている。これであと一時間もすればパグモンの村に到着するだろう。
それから約40分後、地図アプリ上に光子郎のパソコンの反応が復活した。しかし、その反応はどう考えても一日で移動できる距離ではない場所にあった。
まだ地図に登録できていない、灰色のテクスチャの上で光る赤い点。どうやって移動したのか。そもそも、パグモンの村でいったい何があったのか。メールを送ってみたが、確認する暇がないのか返事はなかった。
そうしているうちに、やがて子供たちが元いたパグモンの村が見えてくる。そしてそれは、俺たちに最大のピンチをもたらすことになってしまった。
「ラブ・セレナーデ」
突如あたりに流れ始めるロック調の音楽。それと同時に聞こえてくるのはデジモンの技名。
ラブ・セレナーデ。俺はその技を知っていた。その技を使うデジモンの進化先のデジモンにはタイムストレンジャーで終盤世話になったからだ。
「エテモンだ!」
この技は相手の戦意を喪失させる技だとされている。だが、その効力は当然タイムストレンジャーで知っているものとは比べ物にならないものだった。
「ご、ご主人様。すみません、力が抜けてしまって、これ以上飛んでいられない」
そう言って高度を落としていくブリンプモン。ブイドラモンとデビモンも床に伏せるようにぐったりしている。
「大丈夫か。ブイドラモン! デビモン!」
「ご、ごめんシンイチ。動けない」
「私は何とかまだ動けるけど、かなりキツイわ。もう、いったい何なのよ」
最大戦力のブイドラモンが動けず、ブリンプモンもこの技のせいで飛べない。デジモンに襲ってきて欲しいなんて言っていたが、相手が完全体のエテモンであることと、実力を発揮できないこの状況を考えると、戦いになりたくはない。
幸いエテモンは話の通じるデジモンだ。降りて対面するようなら交渉してみるしかない。食料や物資をわけて見逃してもらえればいいのだけど。
やがてブリンプモンは村の近くの森の中にある開けた場所に着地した。俺は唯一動けるデビモンを連れて外に出ると、そこには予想通りそこにはエテモンが待ち構えていた。ガジモンも数匹いるな。エテモンの仲間なのだろうか。
俺たちの姿を見てニヤリと笑うエテモン。俺はエテモンが何か言う前に、こちらから話しかけた。
「待ってくれ。俺たちに敵意はない。今は少々急いでいて、すぐにも向かわないといけない場所がある。見逃してくれるなら、俺たちが持っている物資の一部を譲ろうと思うが、どうだろうか?」
「へ~、物資ねえ。なるほど、あなたたちは選ばれし子供たちに物資を届ける役目ってわけ?」
「……もしかして、彼らを襲ったのか?」
「ええそうよ。だって、選ばれし子供たちはアチキにとって『敵』なんですもの」
前言撤回。こいつはあのデビモンと同じタイプのデジモンだ。言動から考えてこちらのことも知っていた様子。これは交渉なんてできる相手じゃない。
「しかし、こうも上手くいくなんて傑作ね。やっぱりアチキってば天才だわ!」
「どういう意味だ」
「それは、アチキとあんたたちがこうして対面している時点で分かっているんじゃない?」
「……なるほど。俺たちは誘い出されたってわけか」
「ビンゴーっ! アチキたちははなからここで子供たちを倒そうと思ってはいなかった。あの子たちは移動がてんで遅い。その点あんたたちは空を飛んでいて厄介だわ。アチキの縄張りでちょろちょろと飛んでいられると目障りなのよ」
エテモンの話を聞きながら、俺は内心で怒っていた。俺自身の考えの甘さに。
デビモンは知能があって狡猾なデジモンだった。そして選ばれし子供の存在を恐れてもいた。あのデビモンを知っていたのに、このサーバ大陸では同じように知能の高いデジモンが敵でないなんてどうして言いきれる。
その油断のせいで俺たちはこうして罠にはめられたんだ。馬鹿過ぎだ。俺は。
「シンイチ。怒ったり後悔したりなんて今はしている暇はないわ。この状況をどう切り抜けるかだけを考えなさい」
「ッ……! そうだな。わるい、デビモン」
そうだ。今は余計なことを考えている暇はない。エテモンは完全体だ。しかも強大な暗黒の力を使うはず。動けると言っても万全ではないデビモンだけでどうやって切り抜ける。
「アチキのラブ・セレナーデで退化していないあたり、選ばれし子供たちと一緒にいたデジモンとアンタのデジモンたちは違うみたいねぇ。でも問題ないわ。だって、そんなにヘロヘロなんだもの」
「馬鹿にしてんじゃないわよ。あんたみたいなサルなんて私一人で十分。叩き潰してあげるわ!」
「へえ、言うじゃない。じゃあこれを受けてもそんな口が利けるか試してみましょうか。ダークスピリッツ!」
デビモンの挑発に対してエテモンが手から黒い球のようなものを投げつける技、ダークスピリッツで攻撃してきた。いきなりの攻撃に俺は一瞬硬直する。しかし、デビモンが俺を押しのけて前に出ると真正面からその球を受け止めた。
ダークスピリッツはおそらく名前の通り闇系統の技だ。そしてデビモンは闇に属するデジモン。多少はダメージが軽減されるはず。
「デビモン! 後ろにブリンプモンがいるから受け流すのはまずい! 上に打ち上げて……なっ」
俺は言葉をつづけられなかった。何故なら俺の真横をデビモンの身体が通過していったからだ。そしてデビモンは後ろにあったブリンプモンの巨体にめり込むように体を押し付けられ、そのまま爆発した。
「で、デビモンが」
スマホからアラートが鳴り響く。画面を見ればデビモンの満タンだったHPは残り数ミリにまで減少していた。
たった一撃。それだけで耐性があるはずのデビモンが瀕死。
強すぎる……。