デジモンアドベンチャー IB   作:煮干し銀

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敗走とデジモン強化計画

 デビモンをたった一撃で瀕死に追いやったエテモン。その力は完全に俺の想像を超えていた。

 

 ファイル島で見たあの巨大なデビモンの力は確かに俺たちを上回っていた。だが、その後の訓練で自力をつけ、今ならあのデビモンにも負けない程に成長したはずだった。なのに新たな敵であるエテモンとここまで力の差があるとは……相手が完全体とはいえ、同じ属性を持ち、レベルも最も高いデビモンがこうまで追い詰められるのなら、俺たちが束になっても勝てないかもしれない。やはり聖なる力がないからなのか……。

 

「んふ。さぁて、あんたを守ってくれるデジモンは一匹もいなくなったわねぇ。それじゃあ一思いに殺してあげようかしら」

 

「……」

 

 どうする。どうしたらこの状況を打開できる。

 

 息をすることさえ苦しいこの状況に、それでも諦めず俺は考えを巡らせた。

 

 デビモンを薬で回復させるか? いや、そうしたところでまた同じことの繰り返しになるだけだ。パワーが足りない。数も足りない。

 

 直接その手で嬲り殺そうと、こちらに近づいてくるエテモン。完全体の中では比較的小さいその体も、近くで見ると見上げるほどにデカい。圧倒的存在感がそう見せているのか。その殺気に膝が震える。

 

「……ッ! クソっ! 震えるな!」

 

 俺は自分の太ももを強く叩いて、ズボンのポケットからスマホを取り出した。

 

 せめて体力を回復させてデビモンだけでも逃したい。そう思っての行動だった。俺を見捨てればあいつだけなら逃げ切れる。

 

 自分のことを諦めて咄嗟に行う最後の足掻き。覚悟して覗いたスマホの画面には、思いがけずわずかな希望のメッセージが表示されていた。

 

『ブラストしますか? YES NO』

 

 そのメッセージを見た瞬間、俺は何も考えず反射でYESを押した。すると後方でこれまでの進化では見たことがない強い光が発生する。

 

「なっ、なに!? なんなの!?」

 

 動揺して歩みを止めるエテモン。

 

「デビモン、ブラスト進化! アスタモン!」

 

 デビモンが進化した。完全体、しかもアスタモンといえば図鑑説明では究極体にも迫る強さを持ったデジモンだ。ビジュアルが好きで調べた際に確かにそう書いてあったのをハッキリと覚えている。

 

 エテモンが止まっている隙に、俺はそのままスマホを操作してアスタモンの体力を回復させた。ついでにステータスを見ると、すべての能力が軒並み大幅にアップしていた。

 

 勝てる! これなら勝てるぞ!

 

「アスタモン! 体力は回復させた。これでエテモンを倒し――ッ!」

 

 そこまで言ったところでアスタモンが凄まじいスピードで真横に現れる。そして、アスタモンはエテモンに向かって銃を構えた。

 

「ヘルファイア!」

 

「ギャーッ!?」

 

 紫色の銃弾が乱射され、エテモンを含むその周辺に着弾。衝撃と土煙。エテモンとその手下のデジモンたちの悲鳴があがる。

 

 土煙で敵の姿が見えない。どうなったんだ。

 

 俺よりも目も感覚も優れているであろうアスタモンに状況を聞こうとすると、何か言う前にアスタモンが口を開いた。

 

「逃げるわよ!」

 

「えっ? な、なんで!?」

 

 有無を言わせず抱きかかえられる俺。あっという間にブリンプモンの近くに移動したアスタモンは続けて俺に指示を出す。

 

「ブリンプモンとブイドラモンを退化させなさい! このままじゃ運べないわ!」

 

 その声には明確な焦りが含まれていた。見上げたアスタモンの顔は少し表情が歪んでいる。それを見て、俺はすぐさまブリンプモンをトイアグモンに、ブイドラモンをブイモンに退化させた。

 

「なに? ちょっとこれどうなってるの!? あんたたち、さっさとこの土煙をどうにかしなさい!」

 

 後ろでエテモンが喚いている。その声色はアスタモンの技を受けたにしては軽すぎた。

 

「チッ、やっぱり効いてないわね。さっさとここを離れるわよ。できるだけ早く、遠くに」

 

 アスタモンは銃を捨ててブイモンとトイアグモンを右手でつかみ左腕で俺を抱えると、正面に見えている森の中に入っていく。高速で木々の間を縫いながらひたすらに進んでいくアスタモンは、十分にエテモンから離れたと思っても力を使い果たしてその場に倒れるまで進むのを止めなかった。

 

 ブラスト進化が終わり、アスタモンからデビモンに戻る。そのタイミングでブイモンとトイアグモンもラブ・セレナーデの影響から解放され、いつもの状態へと戻った。

 

「デビモン。大丈夫か?」

 

「……はあ、はあ……こ、これが大丈夫に見える?」

 

 デビモンは地面に仰向けに寝転び、肩で息をしている。

 

「いや。見えないな。ごめん」

 

「そんなことより、今後について考えなさい。このまま同じことをしていても、あいつに見つかれば今度は逃げられないわよ」

 

「分かってる。だけど今は安全確保が優先だ。今後のことはそれから考えよう」

 

 エテモンを一時的に撒くことはできたものの、追ってきている可能性は高い。このまま地上を行くのは得策では無いだろう。

 

 とは言えまた空を飛べば俺たちの位置を奴らに知らせるだけだ。エテモンのラブ・セレナーデは音系の攻撃、効果範囲はかなり広いと思われる。十分な高度に到達する前に接近されたらひとたまりもない。

 

 地上も空も駄目となれば、あとは……地下か。となると穴を掘るのが得意なデジモンが欲しいな。

 

 デジモンの進化ルートは流石に覚えていないが、タイムストレンジャーのサブミッションを逃さずクリアしたおかげでどのデジモンが穴掘りに最適かはわかっている。となると、ここはブイモンに頼むしかないか。

 

「ブイモン、悪いんだけど一回退化して別のデジモンに進化してもらいたい。いいかな?」

 

「もちろん。だけど、できたらまたブイモンに戻りたいな」

 

「わかった。安全が確保できたらブイモンに戻すよ。約束する」

 

 ブイモンに許可をもらって一旦ツノモンに退化してもらうと、その後すぐに今度はガブモンに進化させた。成長期までならステータスで進化できるので、もう退化時のステータス低下込みでも即座に進化させることができる。

 

 次はガブモンをドリモゲモンに進化させる為にレベルを12まで上げなくてはならない。これに関しては移動しながら特訓するしかないだろう。仲間内の戦闘訓練だとレベルの上がりは悪いけど、それでも上がらないわけじゃない。レベル12くらいなら何とかなる。

 

 デビモンが動けるようになると、俺たちは周囲を警戒しながら森の中を進んでいった。地上を移動している以上いつまた奴に襲われるかわからないのでかなり神経をすり減らしたが、デビモンとトイアグモンに手伝ってもらったおかげで無事にガブモンのレベルは目標に到達した。

 

「これで敵に怯える生活とはおさらばだな。ガブモン、進化だ」

 

「おう! ガブモン進化! ドリモゲモン! それじゃあ早速行くぜ!」

 

 ドリモゲモンは森の木々が張っている根をもろともせずに、その鼻先と手のドリルで簡単に穴を掘っていく。

 

 しかし、その穴掘りはすぐに中断されることになった。

 

「ん? なぁシンイチ、掘ったら下から黒い線が出てきたんだけど、これって壊していいやつ?」

 

「黒い線? 電線かな? いやでも、デジタルワールドで電線なんているか? んーまあ、とりあえず邪魔なら壊していいんじゃないか。どうせその辺の自販機みたいに意味のないものだろうし」

 

「オッケー」

 

 こうして時々出てくる黒い線をドリルで破壊しながら掘り進んでいくと、俺たちはパグモンの村に向かう前の地点まで戻っていた。偶然だが方向があっていたらしい。その証拠に地図上に見たことのある山が見切れている。

 

 山、山か。たしかあの山は上の方は木が少なかったな。木が少ないってことは根っこに邪魔される心配もないし、あの山なら周囲の警戒もしやすいか。

 

「ドリモゲモン、この山に向かってもらえる?」

 

「わかった。でもそろそろ疲れてきたし、山に着いたら休憩させて」

 

「うん、山まで行ったら休憩しよう」

 

 数十分してようやく山に到着したころには、外は夕日で赤く染まっていた。

 

 休憩できるだけの地下空間を作って、皆おもいおもいに休憩している中、俺はスマホの地図アプリで選ばれし子供たちの反応がないか見てみる。しかし、やはり距離が遠いせいか彼らの居場所を示す赤い点はどこにもない。

 

 最後に反応があった位置はパグモンの村からさらに遠い場所だった。まだ地図に地形情報が載っていないまっさらな場所だ。これから子供たちを追うならこの位置から推測するしかないだろう。

 

「とはいえ、ブリンプモンで飛べない以上、現状では追うのは無理だ。まずはエテモンに対抗できるようにしないと話にならない」

 

 エテモンはおそらく子供たちの方にも襲撃をかけているだろう。心配だが、彼らには聖なる力がある。俺たちよりは対抗することは出来ると信じるしかない。

 

「となると、まずはうちのデジモンたちの強化のために頭数を揃えないとな」

 

 エテモンに対抗するためにはステータスの強化は急務。そのためにはレベル上げの効率的な環境を整える必要がある。そのためには仲間以外の野生デジモンたちの協力は必要だ。ただファイル島でのことを見てわかる通り、野生のデジモンたちは中々頭を縦に振らない。そこで俺は考えた野生デジモンたちが望むものを提示して協力を促せばいいと。

 

 ここまでの旅でデジタルワールドは弱肉強食の世界であるということは嫌というほどわかっている。皆、自分たちが生き残ることに必死だった。そのために強くなることに対して強い欲求がある。それは隠れ住んでいるデジモンたちも同じだ。強くなれば何物にも脅かされることはないのだから。

 

 俺が野生デジモンたちに提供するのは力。それもただの力ではない。自由で圧倒的に早い『進化』の力だ。

 

 現在俺のデジファームは枠が一枠空いている。この枠に野生デジモンたちをあてはめ、ローテーションで進化させていく。するとあっという間に強い特訓相手が大勢誕生するというわけだ。

 

「エテモン。次に会ったときはお前を恐怖させてやるぞ」

 

 こうして、俺によるデジモン強化計画が始まったのだった。

 

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