エテモンの襲撃から敗走したあの日より数日。俺たちが拠点にすると決めた山の地下には、ドリモゲモンによって広げられ、トイアグモンの生み出したトイブロックによって補強された巨大な地下施設ができ上がっていた。
ドリモゲモンとトイアグモンが地下施設を作っている間に、俺とデビモンは周囲を捜索。食料の確保と並行してデジモンの勧誘を行い、当初の予定通り力の提供を約束したことによって多くのデジモンをこちらに引き込むことに成功した。
協力関係を結んだデジモンは幼年期から成長期が10匹、成熟期が1体という内訳だ。
幼年期から成長期のデジモンたちの目的は、強くなって脅威に対処できるようになることだが、成熟期のデジモンに関しては単なる戦闘狂である。まあ、戦闘狂を相手にする方が特訓での成長率が高いので、そういうのはむしろ歓迎だ。特訓スケジュールを無視しようとするのは問題だが。
特訓用のサンドバッグ等のアイテムを施設内に設置し、1匹ずつデジファームの余っている枠を使って進化させていく。ステータスが足りない場合は進化先を選択してもらった上で必要なステータスアップの訓練を行ってもらうように指示することで時間を節約。その結果、たったの一日で幼年期は全員成長期へと進化させることができた。
しかし、エテモンも組織立っている上に、奴の暗黒の力のことも考えると、この程度の戦力では話にならない。せめて全員を成熟期以上にまで引き上げないと。その上で主要メンバーは完全体になっていて欲しい。
ここにいるデジモンたちは、ほとんどがエテモンの被害にあっている。力で押さえつけられ、奴隷のように働かされている仲間を見捨てるしかなかったというデジモンもいた。なので、あの戦闘狂以外の今いるデジモンたちはエテモンとの戦いに協力してくれることは確実だ。彼らによると、同じような境遇のデジモンはまだ多くいるらしく、そのデジモンたちもいずれは自分たちと同じように強くしてほしいと懇願された。
「君たちのようなデジモンってそんなにいるの?」
「はい。エテモンは気まぐれで極めて暴力的なんです。なので、少し前まではたくさんあった村も奴らに滅ぼされて、生き残ったデジモンたちは隠れ住んでいます。僕が知っているだけでも100匹はいますよ」
「そんなにか。それは、仲間にできたらエテモンの対抗勢力になれそうな数だね」
「そうなんです! だから僕は考えました。シンイチさんの組織を正式にエテモンへの対抗組織として設立するのはどうかなって!」
「対抗組織を設立か……」
目の前のアグモンからそう言われて俺はその組織を作った場合今後どうなるかを考える。もし対抗組織を作れば、知名度を広めやすくなるし、そのおかげで仲間集めがよりはかどるだろう。だが、その代わりエテモンには見つかりやすくなる。エテモンがどうやってこちらを見つけているのか未だによくわかっていないからな。
先日エテモンと遭遇した際は、俺たちが来る方向まであらかじめわかっているようだった。あいつらのあの態度からして、自分から向かうのが面倒だったからおびき寄せたって感じだろう。つまり、俺たちはどこかのタイミングで奴に位置を探られたわけだ。それが分からないうちにこれ以上数を増やすのはリスクが大きいな。
「組織を作るにしてもまずはエテモンがどうやって俺たちを見つけているのかを探らないとな」
そう呟いたところで、近くにいたシャコモンが元気よく言った。
「私、あいつがどうやって私たちを見てるのか知ってますよ!」
「えっ、マジで!?」
「はい! あいつは地面の下に黒いケーブルみたいなのを張り巡らせてサーバ大陸の各地を監視しているんです。私は海に隣接した村に住んでいて、時々海に入って魚を取っていたのですが、あいつのケーブルが陸地から海の方に出ているのを何度も見ました。少なくとも海岸線数キロは途切れることなくケーブルがありましたから、その先もたぶん続いていると思います!」
「なるほど。でも、そのケーブルがエテモンの仕掛けたものだってよくわかったね」
「そりゃわかりますよ。私の村が襲われた時、あいつがその口でそう言っていましたから。私は運よくその時海に出ていたので助かりましたが、仲間は皆奴隷にされました。あんなの、忘れたくても忘れられません……」
「そうか……とにかくありがとう。君のおかげで今後どう行動していくかの指針が見えてきたよ」
「いえ! 一緒にあいつを倒しましょうね! それじゃあ私は訓練に戻ります!」
戻っていくシャコモンを見送って、俺は今聞いた情報から考えを巡らせる。地面の下に張り巡らせた黒いケーブル。十中八九この前ドリモゲモンがドリルで切っていたあれだろうな。しかし、切ったのにこちらがまだ襲われていないということは、常時監視しているわけではないのだろう。流石に切断された位置と俺たちがやったことはばれているかもしれないが、穴は埋めてきたしそれ以降は黒いケーブルがない地下深くを移動したから、おそらく俺たちの位置を特定できなかったのだと推察する。
となると地上を移動するのはあまりにも危険だ。空を飛んでいてもこちらの位置が割れていたことから、低空での飛行もやめた方が良いだろう。なら後は、海を行くしかない。
シャコモンの話から、海にまでケーブルが進出している事はなさそうだ。万が一海にもケーブルを伸ばしていても、海ならばこちらから視認しやすい。いつの間にか攻撃を受けるより、身構えられる方が随分マシだ。
「まずは海を移動できるデジモンを仲間にしないとな。シャコモンに頼んでみるか」
地下施設に集まったデジモンたちで、レジスタンスを結成した。組織名は『レジスタンス』。そのままだ。名前は別になんでもいいかなって。
組織結成に伴って、仲間の皆に今後の方針を話した。
まずは誰かに海を移動できるデジモンに進化してもらって、沖合から選ばれし子供たちを探す。その後、地中か索敵されない高高度から物資を送り込めればよし。もし直接渡すのが無理なら、現在位置から次の行き先に当たりをつけて進行ルートのどこかに手紙を添付して置いておけば最低限助けにはなるだろう。
俺の方針に反対するものはいなかった。どうやら選ばれし子供たちの噂はサーバ大陸のデジモンたちに広まり始めているらしく、一部では暗黒の力を使うデジモンを倒してくれる救世主とまで呼ばれているらしい。そんな噂を耳にしている彼らは、救世主とまでば呼んでいないものの、選ばれし子供たちのサポートができるなら大賛成と言った様子だった。
まず海の移動に関しては、期待していた通りシャコモンが受け持ってくれることになった。進化先はシェルモンだ。シェルモンはあまり泳ぎが得意なデジモンではなさそうだが、体の大きさから考えるとシャコモンの進化先では一番良かったので、シェルモンになってもらった。
お次は輸送だが、こちらはムーチョモンがエアドラモンに進化して担当してくれる。エアドラモンなら俺が背中に乗って飛ぶことも出来るし、サーバ大陸の空を飛んでいても不自然じゃないデジモンらしいので適任だろう。
尚、海も空もどちらもサブ要員は育成するつもりだが、今回は時間が足りないのでシャコモンとムーチョモンに集中させてもらった。
十分なレベルとステータスになった二匹を、成長期の状態でドリモゲモンに海岸まで送ってもらう。海岸に出たらシャコモンをシェルモンに進化させ、陸地から十分に離れたところでムーチョモンをエアドラモンに進化させる。
その後、そのまま俺とシェルモンで海岸線を北上しながらスマホに子供達の反応が出ないかを確認し、エアドラモンには飛行能力の確認のため、海上を飛び回ってもらった。
エアドラモンの飛行能力についての主な確認事項は、飛行継続時間と最大高度だ。特に高度は重要になってくる。持ち運びできる重量については今回は確認は見送った。そこまでの準備は出来なかった。
「と、ここまでは順調だったけど、子供たちの反応はそう簡単には見つからないか」
今は黒いケーブルに見つからないように海岸から離れた場所を移動している。その関係上、捜索範囲は海岸から数キロ範囲になってしまうので、彼らが内陸の方に足を向けているならば、このままだと見つける事はできない。
ただ、この行為は別に無駄というわけでもない。地図の作成と、黒いケーブルがどのあたりまで伸ばされているかの確認も出来るからだ。
「シンイチさん、私の海上を進む速度は決して速いとは言えませんが、それでも徒歩で移動するよりは幾分か速いです。数日間が空いていたと考えても、これだけ反応がないならば選ばれし子供の皆さんは海岸から数キロの範囲には居ないと見た方がよいのではないでしょうか」
「だよなぁ。となると、やっぱり空から探すしかないか」
そんな話をしていると、ちょうど飛行能力を確認中だったエアドラモンが戻ってきた。
「シンイチのアニキ! 飛行能力確認があらかた終わりましたぜ!」
「おっ、ナイスタイミング。それでどうだった?」
「高度は雲の上まで出れます。飛行継続時間はあっしが慣れてないからかもしれませんが、あまり高度が高いとすぐに疲れちまって、大体20分ぐらいしかもちやせんでした。高度を落とせば数時間は大丈夫だと思いやすが……」
「それだと黒いケーブルに見つかる可能性が高くなるか」
エアドラモンだけなら問題ないだろう。しかし、選ばれし子供たちの位置を特定するために俺がエアドラモンに乗っていればやはり目立ってしまう。ブリンプモンで空を飛んでいたということを向こうが知っているので、空に警戒している状態にある。わずかな違和感でばれる可能性は高い。
かと言って高高度を飛ぶ場合、地上までの距離の関係上捜索範囲が狭くなってしまう。しかも、制限時間は帰りのことを考えると10分だ。そんな程度ではいつまでかかるかわからない。
「うーん、厳しいな」
「すいやせん。もうちょい練習すれば時間を延ばせると思うんですが」
「その練習する時間が取れないんだよなぁ」
エアドラモンのサイズがもう少し大きければ俺の姿をある程度隠せるんだけど。もしくは俺がもう少し小さければ……。
「それなら、別の誰かに任せたらいいのではないですか?」
「えっ? 別の誰かって……そうか! その手があったか!」
俺が無理でも、俺以外の誰かがスマホをもっていれば場所は特定できる。体が小さくて頭も良く、しっかりしていて信頼できるデジモンといえば、頭に浮かぶのは一体しかいない。
レジスタンスの拠点に戻って目的のデジモンを探すと、そのデジモンは戦闘狂のデジモンと激しいバトルを繰り広げていた。俺はそこに遠慮なしに近づいて、戦闘狂のデジモンに断りを入れる。
「ごめんグリズモン。ちょっとデビモン借りるよ!」
「む? 人間! 俺の戦いの邪魔をするとは、貴様死にたいのか!」
「なわけないでしょ。代わりにたったいま進化したばかりのこのスティングモンと戦ってやってくれ。まだバトルになれてないけど、こいつは強くなるぞ」
「おお! そうかそうか。強いものは大歓迎だ! さあ、スティングモンとやら、存分に戦おう!」
「は、はい!」
グリズモンの怒りを受け流し、デビモンを連れ出すと。当のデビモンもなんだか不機嫌だった。
「それで、私に何か用なの? 私もあのエテモンに勝つために特訓で忙しいんだけど」
「ああ。実は……」
俺はデビモンに一度退化してエアドラモンとともに子供たちの捜索をしてくれないかとお願いした。最初は退化することに渋っていたデビモンだったが、その後の進化ルートと退化後の能力上昇について説明すると、二つ返事でOKを貰うことができた。
こうして、エアドラモンとスマホを持ったインプモンによる子供たちの捜索が行われた結果。たったの一日で子供たちを見つけ出すことができた。できたのだが……
「な、なんだって!? 子供たちが闘技場でスカルグレイモンに襲われてた!?」
さっそくヤバい状況じゃないか。しかもエテモンじゃなくてスカルグレイモンだって!?
いったい何がどうなってるんだ。まさか、敵はエテモンだけじゃななかったのか!?
訳も分からないまま、とはいえ今のレジスタンスの戦力ではエテモンもスカルグレイモンも相手にできない。助けに行きたい気持ちを抑えて、俺は現状確認のメールと物資の準備を急ピッチで進めるのだった。