デジモンアドベンチャー IB   作:煮干し銀

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今回は少し文字数が多いです。


拠点への帰還。太一の行方

 ディノビーモンの攻撃は苛烈だった。

 

 進化中にも拘らず移動を開始し、進化が完了したと同時にメガドラモンの片翼を切り落とす。落下中のメガドラモンからもう片方の翼を引きちぎり、背後から必殺技の『ヘルマスカレード』で切り刻む。

 

 この戦い方は誰がどう見ても『正義』ではなく『悪』寄りの戦い方だった。けれど4枚の羽から聞こえる恐ろしい虫の羽音も、あの圧倒的で暴力的な力も、今の俺たちにとっては『正義』でしかなかった。

 

 撃墜したメガドラモンが消滅するのではなく幼年期に退化したことも、俺がディノビーモンに悪印象を抱かなかった要因だろう。

 

 メガドラモンが倒れると、次は俺を追ってきたギガドラモンだ。ギガドラモンの強さはメガドラモンとそう変わらないが、体の機械化はメガドラモンよりも多少進んでいる。特に翼が機械化していることで、メガドラモンの時のように先に翼を落とすということは出来ない。

 

 しかし、その程度で怯むディノビーモンではなかった。エクスブイモンとスティングモンが合体したうえ、ヤマトのデジヴァイスを経由したことによって聖なる力も加えられたディノビーモンのパワーは尋常ではない。翼が落とせないとわかったディノビーモンは、正面からギガドラモンの両腕のアームを殴りつけ、隙をついて左腕の生身の部分を蹴り、骨を折ったのだ。

 

 そこからはもう一方的だった。ギガドラモンは残った右腕だけではディノビーモンのスピードに対応できず、攻撃も当たらなければ防御もできない。最終的には右腕も折られて、後ろ髪を掴んでからそのまま地面へ叩きつけられた。折りたたまれていた金属製の翼も地面に叩きつけられたあまりの衝撃に背中の肉ごと千切れて分離し、許容を超えたダメージによって幼年期へと退化することとなった。

 

「す、すげぇ……」

 

 ヤマトくんが小さくそう漏らす中、ディノビーモンは数回上空を旋回したのち俺たちの元へと戻ってくる。ただ、その様子はどこかおかしかった。体が激しく震えていたのだ。

 

「どうしたんだ、ディノビーモン」

 

「シ……シン、イチ……はや、く。はやく俺を……退化、させて……くれ。こ、これ以上……抑え、きれない……!」

 

 その時、俺の脳裏にタイムストレンジャーをプレイしていた当時の記憶が蘇る。

 

 エクスブイモンとスティングモンのジョグレス進化パターンは二つあって、一つはパイルドラモンというエクスブイモン主体の進化、もう一つはディノビーモンというスティングモン主体の進化となっている。ジョグレス進化をするデジモンは他にも登場するが、この進化が二パターンに分かれるというのは珍しく、双方のデジモンを軽く調べたことがあった。

 

 調べた結果わかったのは、パイルドラモンの方がアニメに登場した影響でよく知られていることと、ディノビーモンはパイルドラモンと違って凶暴な性格であるということだった。

 

 つまり今のディノビーモンは、僅かな理性を総動員させて俺たちを襲わないようにしている危うい状態だということになる。

 

 俺は慌ててスマホを操作してディノビーモンをエクスブイモンとスティングモンの二体に退化させた。

 

 退化した直後、パワーを使いすぎたのか、エクスブイモンはブイモンに、スティングモンはワームモンに退化してしまう。俺はそんな二体に走り寄ると、最大限の感謝を込めてお礼を言った。

 

 この二体の力がなければ、俺たちは絶対にやられていた。

 

 それからヤマトとガブモンにもお礼を言って、少し休んだ後、俺たちは選ばれし子供たちが隠れている場所へと戻った。

 

 ちなみにブイモンとワームモンは動かなかったので、軽そうなワームモンをヤマト、ブイモンを俺が運んだ。

 

 砂漠は景色が変わらない。けれど元々逆ピラミッドがあった辺りは、スフィンクスがあったりと目印になるものがいくつかあった。他の子供たちはどこにいるのかとヤマトに聞いてみると、ウィッチモンが少し先の岩場の影に結界を張って隠していると教えてくれた。

 

 結界に辿り着くと俺は真っ先に皆に問いかける。

 

「皆、無事かな?」

 

「遅かったわね。子供たちもデジモンたちも無事よ。もっとも、体は無事でも精神は相当まいってるみたいだけど」

 

「そうか……」

 

 子供たちは喋らず、代わりにウィッチモンが返事をしてくる時点で、彼らが受けたショックの大きさが窺えた。これは一度しっかり休んでリフレッシュしてもらった方が良いな。

 

「皆、ちょっと俺の話を聞いて欲しい」

 

 そう言うと、全員の視線がゆっくりと俺に集まる。見たところ、ミミとタケルが特に参っているようだ。

 

「さっきのデジモン、メガドラモンとギガドラモンは俺たちで倒した。この辺りはもう安全だ。ただ、ざっと見たところ太一くんとアグモンの姿は見つけられなかった」

 

 子供たちの顔に焦燥感が見える。

 

「もしかしたら太一くんたちは別の場所に飛ばされたのかもしれない。そこで一旦この辺りの捜索はレジスタンスのデジモンに任せて、君たちは一度休んでもらいたいと思ってる」

 

「でも、早く太一たちを探さないと」

 

「そうだね。空さんの言う通りだ。だけどそのためにはまず君たちが元気にならなきゃ。最低一日は休みを取った方が良い」

 

 それ以上の反論はなかった。

 

 俺はブリンプモンを呼び寄せて子供たちとデジモンたちを収容する。太一の捜索についてはもう一隻のブリンプモンと今回戦いに参加していない偵察部隊の面々に任せ、俺たちは一直線にレジスタンスの拠点へと帰った。

 

 拠点に着くと留守番していたデジモンたちが出迎えてくれた。彼らは拠点の整備を担当している整備班だ。ハグルモン等の機械系のデジモンが主なメンバーになっている。数は少ないが優秀だ。

 

 山をくり抜いて作られたこの拠点の内部は、ほとんどの場所が人工的な蛍光灯の白い光に照らされてコンクリートの冷たい灰色の景色になっている。トレーニングエリアから繋がる廊下を進み、ブイモンとワームモンをデジモンたちの宿泊エリアに預けると、さらに進んだ先に装飾された木製の扉が現れた。

 

「さあ、ここだ。タケルくん、扉を開けて中に入ってごらん」

 

「僕が?」

 

「ここは俺とデジモンたちが君たちのために作った場所だからね。一番驚いてくれそうなタケルくんにお願いしたいな」

 

 タケルくんはあまり乗り気ではなさそうだった。だが、この子は優しい子だ。頼まれたらよほどのことでなければ了承してくれる。

 

 目の前の扉を開けた先はできる限り子供たちが快適に過ごせるように用意した場所だ。使うタイミングがあるかどうかはわからなかったが、この世界にも彼らが帰ってこれる場所を作りたいと思ってこだわって作った。この部屋を見てタケルや子供たちの精神が少しでも回復すればいいんだけど……。

 

 タケルは俺の頼みを聞いて扉を押し開けた。扉が開いた瞬間、中から廊下の白色蛍光灯とは違う、温かみのあるオレンジの光が漏れてきた。

 

「わあー! すごい!」

 

「なんだこりゃ!」

 

 圧迫感のない高い天井。廊下の一面コンクリートから一転した木製の壁と床。全員が座っても余るように置かれたフカフカのソファと、彩り鮮やかな観葉植物。奥にはカウンターがあって、その裏には小さな冷蔵庫が置かれている。これぞ広さと快適さが整ったリラクゼーション空間だ。

 

「ホテルと旅館が混ざったみたい!」

 

 ここは休憩スペース。コンセプトはそれぞれの安心と安らぎ。決して向かい合わないようにずらして置かれているソファは、冒険の際の危険から常に一緒にいるしかなかった子供たちに、一人一人の安らぎの時間を提供する。

 

 ずっと一緒にいるのは安全ではあるが、多少のストレスを生む。しかし、離れている間に何か起こってしまうことを考えたら離れられない。ここは全員が一緒にいても個別で休めるような空間になっている。これなら彼らもストレスを溜めずに休めるはずだ。

 

 それぞれが思い思いにソファに座ったり飲み物を飲んだりした後、申し訳なく思いながらも施設の案内を再開する。

 

「このジュースうまいな。ちょっとだけ味が違うフルーツジュースって感じだ」

 

「お兄ちゃん、僕のはコーラみたいだよ! 色は紫っぽいけど」

 

「僕のは乳酸菌飲料かと思ったけど、サイダーみたいだ」

 

「丈先輩のサイダーだったの!? あーん、私もそっちにしとけばよかった!」

 

 皆久しぶりの甘い飲み物に多少明るくなってきている。いいぞ、その調子だ。

 

「ジュースについては改良中なんだ。色の方も君たちのイメージに近づけられるように頑張るよ。さて、次はダイニングだ」

 

 リビングから繋がる扉を開ければ、お次は先ほどよりは狭いものの十分な広さのある大きなテーブルと人数分の椅子が置かれた場所に出た。そして、奥の扉からはどこか良い匂いが漂っている。

 

 誰かの喉がゴクリと鳴った。

 

「美味しそうな匂い……」

 

「そう言えば、僕らしばらく何も食べてませんね」

 

 空から漏れた一言に続いて、光子郎が思い出したようにお腹が空いたと言う。そう言われれば仕方がないので、案内は一時中断してご飯を食べることにした。

 

 厨房に入ってここを任せているディノヒューモンに人数を伝えると、すぐに作ると言って料理に取り掛かり始めた。ちなみにディノヒューモンは戦闘部隊に配属するはずだったんだけど、本人の強い希望でコックになっている。見た目はトカゲの人型戦士って感じだけど、まあデジモンにもそれぞれ個性があるってことだな。

 

 来た時点で作りかけだったオニオンスープをひとまず子供たちに出して待ってもらい、しばらくすると配膳のゴツモンたちが料理を運んできてくれた。

 

 デジトマトを使ったナポリタン。デジ肉の唐揚げ。デジ魚は鯛っぽいお刺身。カレーまで用意されてる。それぞれコンセプトはバラバラだが、どれもこれも美味しそうで、子供たちは飛びつくように食べ始めた。

 

 食事が終われば子供たちの顔は以前のように戻っていた。少なくとも追い詰められたような焦燥感はもう見えない。

 

 その後はそれぞれの個室のベッドルームと、備え付けのお風呂を紹介し、早く入りたいとミミが騒ぐ中、一度最初のリビングに戻った。

 

「これで一通り案内はすんだね。どうだったかな? 快適に過ごせそう?」

 

「最高だった!」

 

「私、もうここに住みたーい!」

 

 タケルとミミ以外の皆も口々に褒めてくれる。どうやら全員から好評を得られたようだ。住みつかれるのは困るけど。

 

「そっか、なら良かった。じゃあ皆は一旦ソファに座って。デジモンたちも一緒にね」

 

 子供たちとデジモンたちがソファに座ると、今度はソファの手元にある操作パネルの赤いボタンを押すように指示する。すると全員のソファがカウンターの方を向くように動いた。

 

 子供たちが驚いている。この仕掛けはハグルモンが組み込んでたからな、後で驚いてたって言っておこう。

 

「よし、それじゃあ状況の整理と今後のことについて少しだけ話そうか。まずエテモンについて。奴は太一くんとメタルグレイモンの活躍によって倒れた。少なくともあの周辺では存在を確認できていない」

 

 子供たちは真剣な表情で黙って耳を傾けている。

 

「次に太一くんとアグモンだけど、彼らはエテモンを倒したと同時に行方不明になった。彼らもあの周辺では今のところ見つかっていない」

 

「太一……」

 

 空が短くつぶやく。

 

 全員の顔が再び俯きかける中、俺は次に俺の考えを述べる。

 

「まず前提として、俺は太一くんとアグモンは死んではいないと思っている。というよりそう確信している」

 

「なぜそう思うんです?」

 

「それはこれまでデジタルワールドの各地を見てきた中で『選ばれし子供』と言う存在がどう言うものかがわかってきたからさ。選ばれし子供はそれぞれに意味がある。君たちは過去の子供よりも人数が多いけれど、それは一人欠けても問題ないということじゃない。もし誰かが欠けてしまったのだとしたら、君たちをこの世界に送った存在から何かしらの干渉があるはずだ」

 

「ゲンナイさんですか?」

 

「あるいは、ゲンナイさんより上の存在かな」

 

 それを聞いたヤマトが質問してくる。

 

「じゃあ太一たちはどこに行ったって言うんです?」

 

「そうだなぁ。このデジタルワールドのどこかか、あるいは……『別世界』かもね」

 

 話し合いは続いていく。

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