俺のスマホがイカれてる。
ツノモン……もといブイモンの住処から旅立って数時間。俺たちはジャングルエリアを抜けて、ムゲンマウンテンの麓にあるというはじまりの街を目指して旅を続けていた。
ブイモンによるとさっきまでいた巣穴からはじまりの街まではツノモンの体で5日ほどかかるらしい。成長した今の姿ならかなり短縮できるだろうが、それでも2日はみておいた方がいいと言う事で、休み休み歩を進めている。
俺がスマホの異常に気がついたのは、その休憩中のことだった。なんの気なしに道中で見たデジモンのことを調べようとしたのだが、いつのまにかまた圏外表示になって検索不可能になっていたのである。
よくよく考えれば、最初に自販機で飲み物を買おうとした時は圏外だったのに、さっきはなぜか普通に検索できていた。むしろなぜさっきは検索できたのか、そっちの方が異常に感じるぐらいである。
だって、あの時は森の中でなおかつ偽物の木の中にいたのだ。今は遮蔽物も木も少ないのだから、今こそ検索できて然るべきではないだろうか。まあデジモンファームアプリは使えたので、まだ不満は少ないけども。
「ふぅ。しかし、ここのエリアは暑いなぁ」
「頑張れシンイチ。もうちょっとで水飲み場だぞ」
「うい〜頑張る」
遠くに見える特徴的な山『ムゲンマウンテン』。随分と厳つい名前のついたこの山は、ファイル島の中心に位置しているのだとブイモンは語った。
目的のはじまりの街はムゲンマウンテンの麓に広がる森の中にあり、森を切り開いて作られた場所なのだという。ブイモンによると、そこにはたくさんのデジモンがおり、多くは幼年期だが成長期や完全体も少しはいるらしい。
当然だが俺がゲームで見たあの街ではない。そもそも、あの街は空に浮いてたしな。
歩きながら前方の空を見てみる。そこには青い空が広がっているばかりだ。
道中、で見かけるデジモンは成長期が多かった。ピヨモンとホークモンに出会ってひとまず目指している水飲み場に上位のデジモンがいなかったか聞いたり、アグモンに勝負を仕掛けられたブイモンを応援したりした。ちなみにブイモンが勝ったよ。
そうしてようやく水飲み場に着いた俺たちは、まるで公園の水飲み場のような場所で、どこに繋がっているかもわからない水道の蛇口を捻り、喉を潤した。
「ぷはぁ! うめぇー!」
「水を飲んだら次はご飯だよ。はい、デジ肉」
「おお、これが畑で採れた肉か。骨付きの漫画肉じゃん。いただきます」
ブイモンははじまりの街に住んでいた当時からモノづくりに興味があって、機械の部品を集めたり、肉ばたけを作ったりするのが趣味らしい。おかげで道中の食料についてはなんの心配もない。栄養バランスを考えるとちょっと良くないかもだけど。
話し合いの結果、俺たちはこの水飲み場で一夜を過ごすことになった。これからまたサバンナエリアを同じだけ歩いてはじまりの街がある森に突入しなければならない。夜は動かないで暗算を確保した方が良いだろう。
テントなんて素晴らしいものは無いので、水飲み場から少し離れた場所にぽつんと立っている木の根元に腰を下ろし、ブイモンと交代で見張を行って朝まで過ごした。その際、夜の間に水を飲みに来たデジモンたちに、デジ肉をお裾分けして仲良くなったりして、何匹かは近くで見張りを手伝ってくれた。
「バクモン、ロップモン、見張り手伝ってくれてありがとうな。追加のデジ肉いる?」
「いや、俺っちはもう満腹だから要らないぜ。ロップはどうだ?」
「んー、私はもうちょっと欲しいかも」
「OK。はい、デジ肉」
「ありがとう」
俺からデジ肉を受け取ってむしゃむしゃ食べるロップモン。くぅ〜ッ! かわいい!
ロップモンが食べているのを眺めて幸せに浸っていると、バクモンが俺たちのことについて質問してきた。俺は自分のことを話し、ブイモンと出会って、現在ははじまりの街に案内してもらう途中なのだと言うと、バクモンはそうなのかと頷いて次に衝撃の一言を放った。
「人間って言うと、最近ファイル島に沢山来てる奴らの一匹があんたってことかい?」
「えっ、俺以外に人間が来てるのか?」
「俺っちも直接見たのはあんたが初めてだから、又聞きだけど。5匹以上はいたって話だぜ」
「5人もか。マジか、じゃあその人たちと合流できれば帰る手段が見つかるかもな」
俺は俺以外にデジタルワールドに来ている人がいると知って、少しばかり安堵していた。何もわからずいつのまにかここにいた俺と違って、その人たちは自分から来ているのかもしれない。そうじゃないとしても、少なくとも人が俺一人という不安は解消できる。
俺はそのままバクモンに色々と話を聞いて、はじまりの街を目指しているなら一緒に行こうかと提案してもらった。道中ではそこまで危険があるわけでもないという話だったが、数は多い方が心強いのでありがたく提案を受け入れた。
そうこうしているうちに、空が段々と明るくなってくる。そらそろブイモンを起こして準備をしたら出発しよう。
「ブイモン、朝だぞ起きろ」
「う、ぅーん。もう朝かぁ、ちょっと寝不足〜」
「はじまりの街に着いたら思う存分寝よう。だから今は準備するぞ」
「りょーかーい」
モゾモゾと動き出すブイモン。顔を洗うついでに水をがぶ飲みし、デジ肉を食べて腹を満たす。さて出発しようか、そう思っていた時のことだった。
「うわぁぁぁッ!」
「助けてー!」
こちらに近づいてくる悲鳴。当然のようにそちらに注目することになった俺たちは、逃げてくるデジモンたちの後ろに奴を見た。
「く、クワガーモンだ!」
硬い殻を打ちつけているような独特の音を鳴らしながら、薄い羽を高速で動かして飛んでくるクワガーモン。逃げるデジモンたちはギリギリで避けているが、スピードが違いすぎる点からクワガーモンがわざといたぶっているかのようだ。
「こ、こっちに気づく前に逃げようぜ」
「いや、もう遅いみたいだ」
ブイモンの言う通りだった。クワガーモンは水場で立ち尽くす俺たちを捕捉して、進路をこちらに向けていたのだ。
「来るぞ! シンイチ!」
「うあっ!」
ブイモンの声を聞いて咄嗟に地面に伏せた。すると直接に頭の上で猛烈な風が吹く。
声をかけられてから奴がこっちに来るまでわずか数秒。あ、危なかった。思っていたよりも速い。これは逃げられないか。
ここはサバンナエリア、隠れられる森はない。
「へへっ、こうなったら有言実行するしかないな。戦うぞ」
「それしかないか、だけどクワガーモンは飛んでる。かなり厳しいな」
ブイモンの使える技は『ブイモンヘッド』と『ブンブンパンチ』のみ。他の技は一つも習得していない。つまり、飛んでいる相手に直接攻撃しか攻撃手段がないと言うことだ。
幸い向こうも直接攻撃しか出来ないようなので、チャンスはあるけど、世代は下だしこっちは地上で向こうは空、状況は圧倒的に不利だ。
そんな中、俺ができることといえば、育成アプリを利用した遠隔での回復薬使用ぐらい。敵の出方次第では、一方的になぶられるだけで終わってしまうかもしれない。
「次の攻撃が来る。僕はなんとかやつに取り付けないか頑張ってみるから、シンイチは回復頼んだ」
「了解!」
クワガーモンが急降下からの突撃をしてくる。ブイモンは、なんとか奴の体に取り付こうとするも、風圧で振り落とされて地面に叩きつけられた。俺はそれを見てすかさず回復薬使用のボタンをタップ。回復したブイモンは立ち上がり、今度はすれ違いざまに攻撃しようと試みるも、硬い腕でガードされた挙句、そのまま体当たりで吹っ飛ばされた。
「くっそ、やっぱり強すぎる」
ブイモンはつい昨日進化したばかりで能力はまだ低い。当然成熟期に進化はできないし、成長期とのバトルだって接戦になる。
進化して早々、第二戦目がクワガーモンなんて。
「ぐあああっ!」
「ブイモン! 待ってろ、いま回復薬を!」
回復薬によって復活したブイモンは、立ち上がると少しも闘志を鈍らせていないようにまたクワガーモンに立ち向かっていく。
けれど、この繰り返しももう限界に近い。ブイモンが溜め込んでいた薬は俺のスマホにデータ化して入れられている。初めは25個もあったのに、気づけばもうあと3つだけになった。
俺は何か出来ないかと周囲を見渡す。しかし、追いかけられていたデジモンの姿もなければバクモンとロップモンの姿もない。逃げたのだろう。
「でも、あいつらを責めるのはお門違いだよな。みんなは逃げる選択肢をとっただけ、戦うと決めたのは俺たちだ」
何か他にないだろうか。このいつの間にかインストールされていた育成アプリに、この状況を乗り越えるための何か。
まだ未解明の部分が多いこのアプリを、必死に操作して打開策を探す。
そしてついに残り一つの薬を使い果たした俺たち。最後の攻撃を仕掛けてくるクワガーモンを前に、これまでかと思っていた時。デジモン育成アプリの新たなる機能が開放される。
『ブラストしますか?』
そのメッセージに俺は迷わずYESを押した。
直後、スマホが赤く発行し始める。そして……
「ぐっ! ぐぅぅぅああああッ! ブイモン、ブラスト進化! エクスブイモン!」
ブイモンが突如、次の世代へと進化した。
「エックスレイザーァァァッ!!!」
そして、エクスブイモンの胸元のXから強力なX状のレイザー光線がクワガーモンに向かう。
「グガガガガッ!?」
レイザー光線を受けて、炎上しながら落ちていくクワガーモン。
エクスブイモンはたったの一撃で、あのクワガーモンを地上に落とし、焼き焦がしたのだった。