デジモンアドベンチャー IB   作:煮干し銀

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はじまりの町と緑の少年

 はじまりの街を目指して旅をしてきた俺たちは、その道中でとんでもない事態に見舞われた。突如として地震が発生し、その影響か大地が裂けてそれぞれのエリアが分断されてしまったのだ。

 

 間一髪でサバンナエリアからはじまりの街があるという森のエリアに移ることができたが、もう少しで危うくバクモンとロップモンと離れ離れになるところだった。

 

 どんな想定外が起こるかわからない今、慎重な行動を心がけなければならない。俺たちは全員が今一度気を引き締めてはじまり街への旅路を行くことを心に決めた。

 

「しかし鬱蒼とした森だな。本当にこの先に街なんかあるのか?」

 

「あるよ。この景色も見覚えあるし、道もあってる」

 

「ならいいんだけど」

 

 こんなにも深い森だ、もはやジャングルと言った方がいいのではという具合なのに、この先に街があるとは想像もつかない。

 

 これまでの旅で、デジタルワールドには唐突に様相の異なる場所が現れることがあるのは知っているが、それでも疑ってしまうのは俺が大人になってしまったということなのだろう。

 

 四匹と一人という結構な数で動いているせいか、それともさっきの地震の影響か、デジモンたちの姿はこれまでよりも見ることは少なかった。せいぜい空を飛んでいる鳥型のデジモンか、移動の遅い幼年期2のデジモンが、隠れようとしていたぐらいで、成長期や成熟期の姿はなかった。

 

 道なき道を進むこと小一時間。俺たちはようやく開けた場所に出た。草原が広がっていて、何か籠のようなものがたくさん置かれている。

 

「なんだこれ、たまご?」

 

 籠にたまご……もしかして、デジタマか?

 

 俺のデジモン知識はタイムストレンジャーで見たものしか無い。デジタマといえばゲーム序盤のアイギオモンのデジタマぐらいしか見ていないが、これが一般的なデジタマの育成方法なのだろうか。

 

「何やってんのシンイチ! だめだよ、管理してるデジモンに黙って勝手にデジタマに近づいちゃ!」

 

「へ? 管理してるデジモン? あ、ああ、そりゃそうか。誰かが面倒見てやらなきゃいけないもんな、そりゃいるわな」

 

 ブイモンに言われてデジタマが入った籠から離れようとしたその時、電撃が俺たちに向かって放たれた。間一髪ブイモンに手を引かれて避ける。一体なんなんだと電撃が来た方向を見れば、そこにはエレキモンが全身を帯電させてこちらを睨んでいた。

 

「お前ら、たまご泥棒か!」

 

 どうやらたまごから離れるのが遅かったらしい。管理してるデジモンに見つかってしまったってことか。

 

「ま、待ってくれ。俺たちは別に怪しいものじゃない。ただ珍しくてちょっと見てただけで……」

 

「泥棒の言うことなんて信じないぞ。スパークリングサンダー!」

 

「うわっ」

 

 駄目だ。頭に血が上ってるのか、全く聞く耳を持ってくれない。とはいえこれに反撃するわけにもいかないし、仕方ない。

 

「いったん逃げよう」

 

「賛成!」

 

 エレキモンの攻撃から逃れるように、俺たちはたくさん置かれている籠の間を縫って走っていく。その間、ちらりと見えた籠の中にはデジタマではなく幼年期2のデジモンが入っているのが見えた。なるほど、これはゆりかごだったわけだ。

 

 エレキモンは俺たちは逃げる俺たちを追って来る。相当頭に来たのか、それとも逃げている方向のせいだろうか。俺たちは今、元きた森の方ではなくおそらく街があると思われる方向に向かっている。

 

「この先に話の分かるデジモンがいれば説得してくれるかと思ったけど、失敗したか」

 

「あ、見てくださいご主人様。デジタマです」

 

「デジタマがこんなに。そりゃ追いかけてくるわけだ」

 

 デジタマは幼年期よりも繊細だ。なにせ自分で動くこともできないのだから、特に俺たちは今たまご泥棒などと言われて追われている最中。血眼になって追って来るのは当然の結果だった。

 

 本当に逃げる方向をミスったわけだ。しかし、ここで引き返せばエレキモンとかち合うことになる。もはや後の祭りだ。このままデジタマがある場所の先まで逃げ切るしかない。

 

 俺たちがデジタマに一切触れなければエレキモンだって少しは話を聞いてくれるかもしれないしな。

 

 デジタマが無造作に置かれているまるでクッションのように反発する地面を走って進むと、やがて高い建物が見えてきた。

 

「いや、建物じゃない。あれは積木か? それにデカいぬいぐるみ……はじまりの街ってもしかして、おもちゃの街だったのか?」

 

 それはとても期待していた街とは違っていた。それに街というにはデジモンたちの姿も見えないし、楽しそうな見た目に反してなんだか寂しい印象を受ける。

 

「ブイモン、これ街じゃないじゃん!」

 

「これがはじまりの町なんだよ。どんな町を想像してたの?」

 

「ええ? 街って規模感が……そうか、デジモンたちが集まってる街じゃなくて、町だったのか」

 

 完全に俺の先走りだった。タイムスとレンジャーで見たあのデジモンたちの街を想像して、勝手に活気のある雰囲気を想像していたのだ。

 

「ねえ、もうエレキモン追ってきてないみたいだよ」

 

 ロップモンの声に後ろを振り返ると、そこにはエレキモンの姿はなかった。それを確認すると、俺はその場に寝転んだ。運動不足でいきなりこんなに走るのはキツいわ。

 

 

 はあ、はあと目をつぶって息を整える。デジモンたちは皆ぜんぜん疲れていなさそうだ。ケロッとして周囲を警戒してくれている。

 

 そんなさなか、ようやく息が少しだけ整ってきたところで一匹だけ近くを見てくると飛び立っていったバクモンが、遠くからこちらを呼んでいる声が聞こえてきた。

 

 なんだなんだと身体を起き上がらせてみると、バクモンと一緒に誰かがいるのが見えた。

 

 あれはパタモンと、人間の子供? なるほどそりゃあ大声で呼ぶわけだ。はじまりの町については少々期待外れだったが、俺以外の人間と出会うことができたのならここまで来た甲斐があるってもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 高石タケルはデビモンの力により分断されたファイル島で兄であるヤマトや他のみんなと逸れてしまい、パタモンと二人きりになってしまっていた。

 

 見覚えのない土地を当てもなくさまよい、電車の来ない踏切を抜けて歩き続ける。そうしてたどり着いたのは積木で作られたような建物が並ぶはじまりの町だった。

 

「パタモン、誰もいないね。このまま僕たちだけだったらどうしよう……」

 

「大丈夫だよタケル! ヤマトたちもタケルを探してる。きっとまた会えるって」

 

 パタモンに励まされながらカラフルな街並みを歩く。そうしているうちに、やがて彼らは沢山のゆりかごが置かれている場所に来ていた。

 

 ゆりかごの中には小さな赤ちゃんデジモンがいる。さらに近くにはデジモンのたまご、デジタマもあった。タケルはデジタマの近くに置かれていた紙に従ってデジタマを孵化させていった。

 

 そこに現れたのはデジタマやベイビーデジモンたちを世話しているエレキモン。多少いざこざはあったものの、最終的に相撲で決着をつけて和解することができたタケルは、エレキモンからタケルに似た姿のたまご泥棒が町の奥の方に逃げたと聞いた。

 

 もしかしたら仲間の誰かが来ているのかもしれない。

 

 急いで建物が密集している方に向かったタケルとパタモンは途中でバクモンというデジモンと出会い、バクモンの案内で自分以外の人間がいるという場所に向かうのだった。

 

 大きな積木の家の近くにデジモンが数匹集まっている。どのデジモンもタケルが見たことのないデジモンばかりだったが、そんなことは今のタケルにはどうでもよかった。そのデジモンたちに囲まれるように座り込んでいる男の人はタケルが会いたいと思っていた誰でもない、知らない大人のお兄さんだったからだ。

 

 タケルは予想もしていなかった事態に少し混乱してしまう。そうして最初に出た言葉はとっても失礼な言葉だった。

 

「お兄さんがたまご泥棒なの?」

 

「だあっ!? ち、違うよ。俺はたまご泥棒なんかじゃない! この町を目指してやってきたらたまたまデジタマを見つけて、エレキモンに誤解されたんだ」

 

「そうなんだ。でもよかった、僕たち以外にも人がいたんだね。それも大人のお兄さんが! 僕、高石タケルです。こっちはパタモン」

 

「お兄さん? タケル君、君はとってもいい子だな。俺は今年で25歳、君からすればおじさんと言ってもいいぐらいの歳なのに……くぅ! このデジタルワールドで最初に出会えた人間が君でよかった!」

 

 お兄さんは自分がおじさんだというが、タケルにはとてもそんな年齢には見えなかった。でも、そんなことよりも今は聞きたいことがある。

 

「お兄さんは、このデジタルワールドのこと何か知ってるの? どうやったらここから元の世界に帰れるかとか」

 

「うん? あー、そうだな。その話はあとにしようか。お客さんが来た」

 

 タケルはお兄さんがそう言って見ている自分の後ろに振り返る。そうすると、そこにはさっき別れたばかりのエレキモンがいた。

 

「タケル、パタモン、たまご泥棒を捕まえたのか!」

 

「タケル君、すまないが俺たちの誤解を解くの手伝ってくれない?」

 

 タケルとパタモンはそう言って手を合わせてお願いしてくるお兄さんの姿に少しだけ情けなさを感じながら、エレキモンとお兄さんの和解のために奔走するのだった。

 

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