タケルとパタモンの活躍によりどうにか誤解を解くことができた俺たちは、エレキモンにこのはじまりの町について詳しいことを聞いた。
ここははじまりの町、デジモンたちがデジタマから生まれやがて旅立っていく町。
なるほど分かりやすいネーミングだ。そして、同時にこの町には現実世界へと帰るためのゲートのようなものは存在していないことも確信できた。
なにせこの町にはメルクリモンのように力のある長のデジモンはいないし、それどころか完全体すらいないというのだ。ゲームで開いたゲートはそれが開くだけのそれなりの理由がある場所だったし、この町はデジモンの赤ちゃんが住む町でしかない。上位存在がここにゲートを開くなんてありえないだろう。
「そういうわけでごめんタケル君。俺たちも帰りかたは分からないんだ。ここに来たのももしかしたらこの町になら帰る手段があるかもしれないと思ってのことだったから」
「ううん、仕方ないよ。お兄さんも突然この世界に来ちゃったんでしょ? 僕たちも同じだから」
「優しいな。ありがとうタケル君。しかしそうと分かればここにいても仕方ないな。とはいえこの先の予定もないし……」
「それなら僕たちと一緒に他の皆をさがしてもらえませんか?」
「ま、それが一番良いかな。ただむやみに動くのはあまり良くない、ここでしばらく待ってみてもいいだろう。けれど、ただ待つのはもったいない。タケル君どうだろう、みんなで特訓しないか?」
「特訓?」
「そう、いつ怖いデジモンが襲ってきても戦えるように特訓して強くなっておくんだ」
俺はこの町に来るまでの道中でブイモンを成熟期に進化させるつもりでいた。だが地殻変動のせいでデジモンたちが慎重になってしまって戦いを挑んでくるようなことがなかったので、現状まだステータスが足りていない。
だからこの機会に特訓という形で強くなっておこうと思ってタケル君にも提案してみたのだが、タケル君はあまり乗り気ではなさそうだった。
理由を聞いてみると、タケル君たちは地殻変動が起こる前にデビモンと対峙して数では勝っていたにもかかわらず一蹴されてしまったのだそうだ。デビモンはこの島のデジモンたちに黒い歯車というものを埋め込んで操る力があるらしく、そのせいで仲間だったレオモンも敵の操り人形になってしまったのだとか。
デビモンが他のデジモンを操ったり黒い歯車を使うなんて聞いたこともない俺からすればなんじゃそりゃという話だが、タケル君が嘘を言う理由もない。俺はタケル君の言うことを全面的に信じ、それならばむしろなぜ特訓に乗り気ではないのかと聞いてみる。
「僕、戦うのは嫌なんだ。デビモンとだって……何かほかに方法があるはずだよ。シンイチお兄さんとエレキモンが話し合いで仲直りできたみたいに」
「そうか、戦うのは嫌か。でもねタケル君、君とパタモンが戦いたくなくても襲って来るデジモンはそうじゃないかもしれない。うちのコクワモンは今じゃ俺のことをご主人様と言って慕ってくれているけど、少し前は戦うことしか考えられないような凶暴なクワガーモンというデジモンだったんだ。コクワモンは見てわかる通り凶暴な性格じゃない。けれど、進化した先のデジモンがそういう凶暴になってしまうような性質を持っていれば、凶暴になってしまうかもしれない」
「そうなの?」
「そうです。そしてそんな私をコクワモンに退化させて、元の私に戻してくださったご主人様は偉大なお方なのです!」
「ゴホンゴホン、あー、つまり俺が言いたいのは。戦いたくなくてもいいけど、どうしても戦わなくちゃならないことがあるかもしれないから、それに備えることぐらいはしておいた方が良いってことさ。どうかな、一緒に特訓しないかいタケル君」
「ボク、やりたい。タケルを守れるように特訓したい!」
「パタモン……じゃあ、僕もやる!」
「よし! それじゃあタケル君の仲間が来るまでみんなで特訓だ!」
特訓は二匹一組のペアで行った。ブイモンとコクワモン、パタモンとロップモン組み合わせだ。バクモンに関しては本格的な特訓はしないものの、時折攻撃をしてもらう事で状況対応能力向上の手助けをしてもらう。
ブイモン、パタモン、コクワモン、ロップモンの中で重点的に鍛えるのはブイモンとパタモンだ。
初めはブイモンとコクワモンの特訓にバクモンが合間合間に攻撃を加える。コクワモンは得意技のシザーアームズミニで攻撃を仕掛け、それに対してブイモンはひたすら避ける。
戦闘は敵の攻撃を受けないことが最優先だ。もちろん臨機応変に防御の選択を取ることも大事だが、現状格上と戦うことの方が多い。世代が上がれば一撃が致命的になりうる。
ブイモンはコクワモンの攻撃を避けながら、時折邪魔してくるバクモンにも注意を払い、状況判断能力も磨いていった。
ブイモンの訓練が終われば次はパタモンだ。パタモンは飛行能力があって、どちらかと言えば歩くより飛んでいる方が戦いやすい。
ただ、ロップモンも飛んでいる相手に対しての戦いはそれなりにできる。得意技のブレイジングアイスは飛んでいる相手を撃ち落とすにはうってつけの技だし、何より目が良い。
「エアーショット!」
「無駄だよ」
パタモンのエアーショットはその名の通り圧縮した空気を飛ばす技。ロップモンはその攻撃の軌道を読んで位置を調整すると、大きな耳を広げて寧ろその風を利用してパタモンから距離をとる。
すかさず飛んでからブレイジングアイスにパタモンはタジタジになってしまった。その隙は大きい。ロップモンはその耳の大きさからは予想もつかない速さでパタモンに近づいて、回転させて威力の上がった耳でパタモンを叩き落とした。
「パタモンっ!」
「だ、大丈夫。ボクまだやれるよ」
「パタモン、まずは避けることに集中するんだ。避けることはタケルを守れないということじゃない、むしろうまく目立って避けることで敵の注目をタケルから逸らすことができる。だから、まずは敵の攻撃を避けることに集中、攻撃は二の次だ」
「わ、わかったよ」
「パタモン……」
「タケル君、パタモンが戦っている間、タケル君もやることがある」
「え、ぼ、僕も?」
「そう。君も俺もデジモンが戦っている間はやれることは少ない。だからせめてブイモンやパタモンの負担にならないようにすることは大事だ。そのためには、例えば他に周りに危険がないかを確認したり、木とか岩とかの後ろに隠れたり。そういうことをするのが大事だ。もちろん応援も大事だけどね」
「そっか、そうだよね。僕にも出来ることはあるんだ」
「そうだ。そしたら、俺と一緒にパートナーデジモンが戦っている時の動きを訓練しよう」
「うん!」
その後の特訓は、俺たち人間側の訓練も含めて順調に進んだ。そして、ついにブイモンの進化先が一つ解放される。
「うーん、このデジモンか。出来れば移動に便利なライドラモンに進化したかったんだけど……あっ、し、しまった。そうか、ライドラモンは友情のデジメンタルが必要だったんだ! ちゃんと条件みとけばもっと早くに気づけたのに。何やってんだ俺」
と、とにかく進化は出来るようになったんだ。ブイモンに確認して良ければ進化してもらおう。タケル君の言うデビモンは相当やばそうだ。このまま成長期だとたぶん何もできない。
「ブイモン、ちょっと良いか」
「どうした、シンイチ」
「実は特訓したおかげでたった今ブイモンの次の進化先に進化出来るようになったんだ」
「ほんと!」
「うん。こんな感じのデジモンなんだけど、どうだろう、進化したい?」
俺はブイモンにスマホの画面に進化先なデジモンの一枚絵を写して見せる。すると、ブイモンは画面を見てないぐらいの速度で答えた。
「もちろん進化する!」
ブイモンは即決だった。ならこれ以上待たせる意味はない。すぐさま進化してもらおう。そう思っていたその時。
「あ、ああっ! タケル、あれ!」
みんなと一緒に少し離れた場所にいたパタモンが、夕陽に染まりかけている崖の上を見上げて言い放った。
「レオモンだ!」
白目を剥き、腰の剣を引き抜いているレオモンが立っていた。直後、レオモンは崖を飛び降りる。そして、そのままタケルたちのいる場所に攻撃を仕掛けてきた。
間一髪、避けることができたタケルたち。しかし、今度はレオモンが着地した場所の反対側にオーガモンが現れる。
成熟期がニ体。これはまずい!
俺は育成アプリに表示されている現状唯一の進化先を選択し、進化ボタンをタップする。進化確認メッセージはもちろんYESだ!
「ブイモン、進化だ!」
「おう!」
今度はブラスト進化じゃない。本当の成熟期への進化。白い光が溢れ出す。
「ブイモン進化ぁぁぁっ! ブイドラモン!」
今、長い長い闇との戦いが幕を開ける。