ブイドラモンはなおもタケルに襲い掛かろうとしているレオモンに飛びかかった。進化したことで体格はレオモンとブイドラモンで差は無くなっている。そのおかげでただの体当たりでもレオモンを下がらせることができた。
俺はタケルとパタモンに駆け寄る。
「大丈夫か、タケル君!」
「うん、なんとか。あのデジモンは?」
「あれはブイモンが進化したデジモン、名前はブイドラモンだ。レオモンはブイドラモンに任せて大丈夫、タケル君はコクワモンたちとオーガモンをなんとかして欲しい。できるかい?」
「やってみる。パタモン、みんなまずは避けることに集中して!」
「「「おっけー!」」」
うんうん、タケル君もみんなも特訓の成果が出てるね! オーガモンについてはタケル君たちに任せても大丈夫だろう。何より数が多い、撹乱すれば時間稼ぎはできる。あとはブイドラモンが早めにレオモンを倒して応援に向かえば良いだけだ。
ところが、レオモンは思ったよりずっと強かった。操られているからか動きは単調でただ真っ直ぐ攻撃してくるだけなのだが、パワーとタフネスがこちらの想定を大きく上回っていたのだ。特にタフネス、何度攻撃を受けても立ち上がってくるのは、まるで痛みを感じないゾンビのようだった。
どうする。このままじゃタケル君たちの方に応援に行くことができない。避け続けるにも限界がある。早く助けに行きたいのに……!
「フォックスファイアー!」
レオモンとの戦いの合間に見ていたオーガモンとタケル君たちの戦い。焦りを覚えていたところで、不意にオーガモンに向かって青い炎が襲いかかった。あれは確かガルルモンの技だ。
「タケルーっ!」
「お兄ちゃん!」
お兄ちゃんってことは、そうかあのガルルモンに乗った少年がヤマトくんなのか。とにかくこれでオーガモンについては任せても大丈夫そうだ。
「なら、あとは全力でレオモンを倒すだけだ。ブイドラモン、遠距離攻撃主体で攻めるぞ! 距離を取ってブイブレスアローだ!」
「わかった! オラァ!」
ブイドラモンが距離を取るために思い切りレオモンを殴りつける。レオモンは剣で受けるが、ブイドラモンのパワーも伊達じゃない。威力を殺しきれずにバックステップで下がるレオモンに合わせて、ブイドラモンも後ろに下がる。すると直後に今までブイドラモンがいた場所に、レオモンの獣王拳が飛んできた。
地面に当たった獣王拳が土埃を舞い上がらせる。そのせいで、こちらからレオモンの姿が見えなくなる。ブイドラモンはすかさずレオモンに向かってブイプレスアローを撃つが、レオモンに当たった感じがしない。
これは良くない。
「ブイドラモン、動き続けるんだ。レオモンに狙われるぞ!」
しかし、俺の指示は少し遅かった。すでに目の前まで姿勢を低くして移動してきたレオモンが迫っていたのだ。
レオモンは砂煙を吹き飛ばさんばかりに剣を振り上げ、最大級の攻撃を仕掛けてくる。これにブイドラモンは動けない。レオモンの考えなしの攻撃方法が逆にこちらにとって不利に働いた瞬間だった。
やられる……! 進化したばかりでステータスの低いブイドラモンに、この全力攻撃が耐えられるだろうか。
「メガフレイム!」
身構えていた俺たちの目の前で、レオモンが巨大な火球によって吹き飛ばされた。
「大丈夫か!」
そう言って走ってくるのは活発そうな頭にゴーグルをつけた少年とグレイモン。あれ、この少年どこかで見たことがあるような……?
「おい、返事をしろ! それとも、もしかして怪我したのか?」
「あ、ああ、すまない。こっちは無事だ。君たちのおかげで怪我もない」
「そうか、よかった。それじゃあグレイモンとそっちのデジモンで早いとこレオモンをおとなしくさせようぜ」
「ああ。黒い歯車っていうのはある程度ダメージを与えれば体から抜けるものなのか?」
「そのはずだ」
「分かった。それじゃあうまい事協力してレオモンを助けよう」
しかし、あれだけ攻撃を受けたのにレオモンから黒い歯車が出ている様子は見当たらない。いったいどれだけダメージを与えれば黒い歯車が出ていくのやら。先行きは不安である。
その後、ブイドラモンは遠距離からの攻撃に専念して、接近戦及び中距離攻撃に関してはグレイモンが担当するように自然となっていった。流石ブイドラモンより早く成熟期になっていただけのことはある。動きが良い。
現在の戦況は割合こちらが有利だ。ガルルモンとオーガモンの戦いでは、オーガモンがベイビーたちを人質に取ろうとする場面はあったものの、タケルとパタモン、それからうちのメンバーの機転によってベイビーたちを助け出すことに成功し、また戦闘においてもガルルモンのサポートをうまくこなしている。
一方のグレイモン&ブイドラモンとレオモンの戦いでは、黒い歯車によって強化されているとはいえ成熟期二体を相手にするのは流石に厳しいようで、俺たちがかなりレオモンを追い詰めていた。それでも身体能力で致命的な攻撃をかわしているのは流石レオモンといったところか。
そんな風に、あとは時間の問題かと思われていたのだが、ここに来て事態は一変する。
「何か飛んでくる。あれが黒い歯車か?」
複数の黒い歯車が空からこちらに迫ってきていた。こちらのデジモンを操ろうというのかと警戒をするが、しかし黒い歯車は他のデジモンには目もくれず一直線にレオモンにダイブ。背中にいくつもの黒い歯車が入っていったレオモンは、次第にその体を巨大化させていく。体もよりくらい、灰色に、鬣はダークグレイに変化する。
そして気が付けばレオモンは、体格差のあったグレイモンに迫るまでに巨大化していた。
「こ、こんなのありかよ……」
デカいということは、強いということ。張り合っていたグレイモンが押し負けてそのまま投げ飛ばされ、背後の崖壁に激突した。
「ぶ、ブイドラモン! 奴に近づくな! ブイブレスアローで確実にダメージを与えていくんだ!」
育成アプリを起動していつでも回復薬を使えるようにしながら、ブイドラモンにそう指示を出す。この回復薬は道中の森で拾った材料からブイモンが作ってくれた物。数は少ない。できれば今のレオモンからの攻撃は受けたくない。
しかし、いくらこちらがそう望んでも、向こうからすれば知ったことではない。レオモンは巨大化した体によって増したスピードであっという間にブイドラモンに接近してくる。ブイドラモンはそんなレオモンに至近距離からブイブレスアローを放つが。その攻撃はレオモンにほとんどダメージを与えることができず、わずかに硬直させるにとどまった。
「ガハッ……!」
腹に強烈な一撃を受けたブイドラモンは、その巨体を宙に浮かせてグレイモン同様に弾き飛ばされた。
「ブイドラモン!」
ブイドラモンに即座に回復薬を使うが、体力ゲージはほぼつきかけている。あれでは回復してもすぐに復帰できないかもしれない。
目の前にレオモンがいる。逃げられない。
俺は死の恐怖にさらされていた。圧倒的な暴力による死が歩いてくる。
ギュッと目をつぶりそうになるのを必死にこらえる。それでも、怖くても目を閉じてしまえばわずかな希望もなくなるからだ。恐怖から涙が出そうになるのを必死にこらえ、レオモンをにらみつけた。
だが、レオモンは何を思ったのか俺を無視して歩いて行った。一瞬安堵する。が、振り返った先にいたタケル君を見て、俺は無我夢中で走り出していた。
「タケルーっ!!」
オーガモンの相手をしていたせいで気が付くのが遅れたのか、ヤマトの悲痛な叫びが聞こえる。俺はそんな彼の声を聴きながら、一直線にタケルのいる場所に走った。
パタモンがタケル君を守ろうとしてレオモンに攻撃する。しかしそんな攻撃が効くはずもなく捕まってしまった。今度はタケル君の番だ。
そして、タケルへ伸びていく手を前に俺は滑り込んだ。
「シンイチさん!」
「間に合った! タケル君、逃げろ!」
少なくとも俺が盾になれば少しは時間を稼げるはずだ。迫るレオモンの手は巨大だった。あれに本気でつかまれたら俺なんてあっという間にミンチだろう。
今度こそ死ぬ。
しかし、俺はまたも助けられることになった。
「チクチクバンバン!」
空からトゲモンが降ってきて、レオモンに攻撃したのだ。
空からトゲモンって何? あっけにとられる俺を前に、お次はカブテリモンが飛んできた。その背中には子供が二人乗っている。タケルたちの仲間か。
「シンイチ!」
「ブイドラモン! 回復したんだな!」
「ああ! 僕はまだやれるぜ!」
グレイモンも立ち上がっている、ブイドラモンも回復した。おまけに味方の成熟期が二体も。
これなら何とかなりそうだ。