デジモンアドベンチャー IB   作:煮干し銀

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ちょっと長いです。


闇のデビモン、光のエンジェモン

 味方の成熟期デジモンが続々と揃っていく中、これならば闇の力で強化されたレオモンも倒せるだろうと思っていると、カブテリモンに乗ってきた少年少女の話を聞いたグレイモン使いの少年が何かを手に持って単身レオモンに突っ込んでいった。

 

 いったい何をやっているんだと焦る俺をしり目に、レオモンはグレイモン使いの少年の持つ何かかから発せられた光にもだえ苦しむ。それを見ていたヤマトも何かを察したのか同じように手に何かをもってレオモンに向かって行き、二倍になった光によってレオモンは完全にその場から動けなくなっていた。

 

 光は輝きを増し、レオモンの影はそれによってぐんと後ろに伸びている。するとそのうちレオモンの背中から空に向かって黒い何かが飛び出してきた。それは紛れもなく黒い歯車、一瞬身構える俺だったが飛び出してきた黒い歯車はそのまま空気に溶けるように砕けて消えていった。

 

 何が何やら訳が分からない。しかし、とにかく状況は一件落着したとみていいだろう。いつのまにかオーガモンもいなくなっていたしな。

 

 子供たちがレオモンのもとに集まっていくのに合わせて、俺とブイドラモンもレオモンのもとへと向かう。

 

 すると、レオモンはくぐもった声を出しながらもしっかりと正気を取り戻した声でお礼を告げた。

 

「君たちのおかげで助かった。感謝する」

 

 どうやらこの中でレオモンと初対面なのは俺たちだけみたいだな。

 

 戦いの熱も冷めやらぬ中、レオモンはその傷ついた体を癒すよりも先に子供たちに話したいことがあると、みんなを海岸崖沿いの一本の木の下に集めた。そこでレオモンが語ったのは、単なるうわさ話のようでいてどこか確信めいているような話だった。

 

「選ばれし子供たち、か」

 

 そんなの俺は聞いたこともない。このデジタルワールドに来て、いろいろと見て聞いてここがタイムストレンジャーのデジタルワールドとはかけ離れた全く別の世界だということは分かったが、となるとここがいったいどんな世界なのかという想像をするのも難しい。ゲームやアニメ、漫画とは全く関係ない独自のストーリーが展開されているデジタルワールドということも考えられるし、もはやこのことについて推測すのは意味のないことに思える。

 

 選ばれし子供たちの話が出て、ここまで流れで話を聞いていた子供たちの視線が一斉にこちらに向いた。タイミングを逃していたが、ここでようやく自己紹介が出来そうだな。

 

「あー、自己紹介が遅くなって申し訳ない。俺の名前は泉堂真一(せんどう しんいち)。見ての通り選ばれし子供じゃない。迷い込んだ大人だよ。そしてこっちはここまで案内してくれたデジモンたち。左からブイドラモン、コクワモン、バクモン、ロップモンだ。よろしく」

 

 俺の自己紹介を聞いてわずかに期待した目で見ていたピンクハットの女の子が落胆している。ごめんね、俺も迷い込んだだけなんだ。

 

「俺は八神太一。お台場小学校5年生、こっちは同級生のヤマト、それから四年で後輩の光子郎にミミちゃん。デジモンたちはそれぞれ、アグモン、ガブモン、テントモン、パルモンです。たしか、タケルとパタモンのことはもう知ってるんでしたよね?」

 

「ああ、タケル君とパタモンとは君たちと出会う少し前に知り合ってね。一緒に特訓した中なんだ。ね、タケル君、パタモン」

 

「うん! あのねお兄ちゃん、僕たちシンイチさんと特訓したおかげでちょっとだけ強くなれたんだよ!」

 

「そうなのか。ありがとうございます。シンイチさん」

 

「いやいや、俺の方こそタケル君には助けられたからね。タケル君とパタモンがいなかったら今ごろ俺たちはたまごドロボーにされてるところだったし」

 

 それぞれの自己紹介を終えてレオモンが再び話し出す。

 

 選ばれし子供たちはこの世界の闇を払うために呼ばれたという噂から考えると、デビモンを倒すことが元の世界に帰るためのカギなのではないか。レオモンが聞いているのがあくまでも噂程度のことだとしても、今のところ他に思い付く方法もない。

 

 結局子供たちは最終的にリーダー的存在である太一の戦うしかないという一言に同意し、結果全員でデビモンがいるとされるムゲンマウンテンへと海を渡って向かうことになった。

 

 俺はこの話を聞いている最中、ずっと自分はどうするべきかを考えていた。というのも、かすかな記憶の中で一つだけ思い出したことがあったからだ。

 

 八神太一とアグモン、この名前と組み合わせはデジモンのアニメを見ていなかった自分すら知っていたかなり有名な二人だったからだ。つまり、この世界はおそらくデジモンアドベンチャーというアニメの世界である可能性が高いということになる。

 

 正直、アニメの世界にいるかもしれないという考えは頭がどうかしていると思うが、目の前にデジモンがいる現状がある時点でどうかしているので、そんな普通では考えられないようなことが起こっていても不思議じゃないし今更だ。

 

 となるとだ。太一たちが帰りたがっている人間世界と、俺が帰りたい世界は全く別の世界ということになる。ここで俺がデビモンとの戦いに参戦したとして、おそらく俺にとってはそこまでうま味はないだろう。

 

「あの、シンイチさんとお呼びしてもいいでしょうか」

 

「もちろん。俺も光子郎君と呼んでもいいかい?」

 

「はい。もちろんです。それで、デビモンとの戦いの話なのですが、シンイチさんは参加されますか?」

 

 光子郎のその問いかけにこの子はよく考えているなと思っていると、ミミが困惑したように光子郎に聞いてくる。

 

「どういうこと? 元の世界に帰るためなんだから、シンイチさんたちも参加するに決まってるじゃない」

 

「もちろん、シンイチさんも元の世界に帰りたいと思っていらっしゃるとは思うのですが、シンイチさんは僕らと違って選ばれし子供じゃありません。この聖なるデバイスも持っていないようですし、デビモンが先ほどのレオモンとの戦いよりも強力な暗黒の力を使うのなら、シンイチさんだけかなり危ない状況に足を踏み入れることになってしまいます」

 

 その光子郎の言葉を聞いて、ここにいる全員が渋い顔をする。そりゃそうだろう。防弾チョッキも無しに銃撃戦の中に飛び込んでくれなんてそんなこと頼めるわけがない。みんな心優しい子供たちだからな。

 

 俺はこの中で唯一の大人だ。本音を言えばみんなついてきてほしいと思っているに違いない。だけど、一人だけ光の加護のない状態で来てもらって万が一が起こったら……そう思うと、誰も俺についてきてほしいとは口にできなかった。

 

 まあ、それでも俺は行くんだけどね。

 

「心配しなくていい。俺もデビモンとの戦いに参戦させてもらうからね。ブイドラモンが良ければだけど」

 

「僕はもちろん良いよ。このファイル島の平和を取り戻すためだったら戦うさ!」

 

「サンキュー、ブイドラモン。ということで、俺たちも君たちと一緒に戦わせてくれ」

 

 そう言うと、太一が心配そうに聞いてくる。

 

「本当にいいのかよ。死ぬかもしれないんだぞ……あっ、ですよ」

 

「無理に敬語を使おうとしなくていいよ。太一君。皆もね。それでその答えだけど、もちろんいいさ。だって大人の俺が子供たちが戦っているっていうのに後ろに下がってたんじゃ格好がつかないでしょ」

 

「そうは言ってもな」

 

「心配しないでヤマト君。俺もちゃんと立ち回りについては考えてるから。そんなことより、今はどうやって海を渡ってムゲンマウンテンに行くかを考えないと。あんまり時間はないんじゃない?」

 

 ムゲンマウンテン。はじまりの町を目指すにあたってずっと目印にしてきたのに、いまじゃすっかり町とも切り離された海の向こうに見えている。まさかムゲンマウンテンも切り離されていたとはね。

 

 その後、ムゲンマウンテンに向かうためにレオモンがボートを出してくれることになったのだが、何と定員オーバーで俺とブイドラモンは乗れず。どうしようもないので俺たちは簡易的なイカダを作ってあとから追いかけることになった。

 

 子供たちが出発するのを見送り、残った俺、ブイドラモン、コクワモン、バクモン、ロップモンの総出でイカダを作る。材料はレオモンが用意してくれたのでロープなんかは問題ない。ただ木材だけは切らなければならないので、ブイドラモンが木を切り倒し、他のメンバーで組み立て作業を行うことになった。

 

 今回作るイカダは目の前に見えているムゲンマウンテンの島に渡れるだけでいい。なので、ある程度組みあがっていれば問題ない。

 

 ようやくイカダが完成し、ちょうど島と島の間にたどり着いたころ、遠くにイッカクモンとバードラモンを見た。どちらも子供が付属していたので、おそらく残りの選ばれし子供なのだろう。そんな彼らが島へと向かうのを見送って、俺たちも全力で木の板のオールをこぐ。

 

 しかし、事態は俺たちが思っていたよりも早く進行してしまった。

 

「ご主人様! あれを見てください!」

 

 同乗していたコクワモンが必死にオールをこいでいた俺にそう言い。顔を上げると、そこにはなんと山のように巨大なデビモンの姿があったのだ。

 

「な、なんだあれ。レオモンなんて比じゃない。でかすぎる」

 

 あの大きさ。しかも動きも鈍くなっていない。腕を振り回し、薙ぎ払っているあの動きは、おそらく皆と戦っているのだろう。

 

「あんな化け物のところに突っ込んでいっても、簡単に蹴散らされるだけなんじゃないのか……?」

 

 つい口から出てきた本音に、ブイドラモンは力強く返した。

 

「それでも、僕らは戦うんだ!」

 

「……そうだね。急ごう、間に合わなくなる」

 

 俺たちは間違いようのない目印を目指して走る、走る、走る。そしてついに皆の姿が見えたとき、パートナーデジモンたちは倒れ、デビモンの家程もある巨大な手は今まさにタケルに迫ろうとしていた。

 

 間に合わない。

 

 デビモンの手に握られて見えなくなるタケルとパタモン。皆の悲痛な叫びが聞こえる。

 

 しかし、次の瞬間デビモンの手から光があふれだした。それは紛れもなく進化の光だった。

 

「パタモン進化。エンジェモン!」

 

 闇の海に光る聖なる天使、エンジェモン。その姿を見た闇の堕天使は、強大な闇の力を持ちながらもそのまばゆい姿に苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「デビモン、お前の暗黒の力、消し去ってくれる。……我がもとに集まれ、聖なる力よ!」

 

 デジヴァイスから伸びる光が、エンジェモンのロッドに集まっていく。

 

「な、何をする気だ! そんなことをすればお前もただではすまんぞ!」

 

「たとえわが身がどうなろうとも。お前を消し去らねばならん!」

 

 そんなエンジェモンの姿に、俺たちは間に合わなかったのだと悟った。そのとき、俺のスマホが異常なほどに震えだす。取り出してみてみると、そこにはエンジェモンのステータスが表示されていた。

 

「こ、これは!」

 

 そこに映し出されていたのは異常な数値だった。HPもSPも一秒ごとに減り続け、代わりに攻撃力が爆発的に上がっていく。

 

「なにしてんだエンジェモン、このままじゃ本当に死んでしまうぞ!?」

 

 だが、そんな俺の叫びをよそに、エンジェモンは最後の技を放つべくそのロッドを光へと変えて拳に集めはじめた。そして……

 

「すまない、タケル。――ヘブンズナックル!!!」

 

 その拳から放たれた聖なる光は、デビモンの中心にぽっかり空いた穴を突き抜け、どこまでも続く一条の光の線となって伸びていく。

 

 デビモンの身体は崩れた。最後に恐ろしい言葉を残して朽ち果てていった。

 

 同時にエンジェモンの身体も光となり溶けていく。

 

 スマホの画面に映っているエンジェモンのHPは最早ゼロに近い。命は風前の灯火だった。

 

 泣き叫ぶタケル。

 

 『パーティメンバーの生命力が著しく低下しています。他のパーティメンバーの生命力を譲渡しますか?』

 

 ポップアップメッセージ!? これは!

 

「迷っている暇はない! ブイドラモン、コクワモン、エンジェモンを助けるためにお前たちの力を貸してくれ!」

 

「もちろん、いくらでも貸すよ!」

 

「私もです!」

 

「よし!」

 

 答えは、YESだ!!




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