デジモンアドベンチャー IB   作:煮干し銀

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サーバ大陸へ(前夜)

 みるみるうちに退化していくブイドラモンとコクワモン。俺のスマホから伸びた光の線は消えかけているエンジェモンへと向かい、画面上ではエンジェモンHPの減少速度が目に見えて遅くなっているのがわかる。

 

 しかし、それでも減少が止まったわけではない。ブイドラモンはブイモンに、コクワモンはカプリモンに退化している。まだ止まる気配はない。カプリモンに関してはもう限界だ。あとはブイモン次第になるだろう。

 

(止まれ、止まれ、止まれ、止まれ!)

 

 このままだとブイモンが幼年期に退化したとしても止まらないかもしれない。そうなったら、もうエンジェモンは……

 

「頼む。止まってくれッ!」

「エンジェモーン!!」

 

 タケルの叫びがあたりに響く。

 

 エンジェモンの体が光に溶けていく……しかし、その消滅の光はエンジェモンの頭の先が完全に消えてしまう前に止まった。

 

「と、止まった」

 

 そして、今度は消滅ではない温かな光に包まれ、やがて小さく萎んでタケルの目の前に降りてきて、光が収まるとそこには小さくて、それでもちゃんと生きている。ポヨモンが確かにそこにいた。

 

「エンジェモン、なの?」

「ぽよぉ」

 

 やった! やったぞ! エンジェモンは助かったんだ!

 

「タケル君!」

 

「シンイチさん! シンイチさんがエンジェモンを助けてくれたの?」

 

「いや、俺よりもツノモンとカプリモンのおかげかな。それにしても、良かったなぁポヨモン」

 

「ぽよぉ!」

 

 飛び跳ねるポヨモン。うん、元気だな!

 

「やったなシンイチ! カプリモン!」

 

「ツノモンとご主人様も」

 

「サンキューなツノモン、カプリモン」

 

 ポヨモンは助かった。エンジェモンはあの時、確実に自分を犠牲にしてデビモンを倒すつもりだった、それが助かったのだ。これは奇跡と言ってもいいかもしれない。

 

 あの時、デジファームのアプリになぜエンジェモンが登録されていたのか。俺なりに考えてみたが、あの時タケルとパタモンと一緒に訓練したから以外に理由を見つけられなかった。

 

 おそらく、しばらく一緒に訓練したことで、アプリが勝手にパタモンを俺の仲間のデジモンだと認識し、パーティメンバーに登録していたのだろう。

 

 だが、それも偶然にしては出来すぎている。なにか不思議な運命のようなものが、こうなるように導いたのかもしれない。

 

 もしかしたら、俺は彼らを助けるためにここに呼ばれたのかもな。

 

「それならなんの理由もないよりはずっと良いかな」

 

 その後、デビモンの攻撃によって散らばっていた子供達とそのパートナーデジモンたちがタケルのもとに集まってきた。

 

「タケル、大丈夫か!」

 

「うん。ポヨモンも大丈夫だよ」

 

「ポヨモン? エンジェモンが退化したのか」

 

 ヤマトの言葉に続いて、太一が疑問を話す。

 

「たしか、あの時エンジェモンは自分を犠牲にしてデビモンを倒すって言ってなかったか? それってこういう意味だったんだな」

 

 それに対して、今度は光子郎が返した。

 

「いえ。おそらく、あの時のエンジェモンは本当に自分の身を犠牲にしてデビモンを倒そうとしていたはずです。それが退化するに止まったのはおそらく、シンイチさんが何かしていたのが関係しているのかと」

 

「ああ、あれは……」

 

 俺は皆にことの経緯を説明しようとしたのだが、その時岩に隠れていたなんだかよくわからない機械が起動し、そこから謎のお爺さんが飛び出してきた。あれはまさか、立体映像と言うやつだろうか。おじいさんの姿が時折ブレている。

 

 おじいさんは出てくるなり、子供たちのことを『選ばれし子供たち』だと断言し、自身は人であり人でないこのデジタルワールドに初めから存在していた者だと語った。

 

 子供達はゲンナイと名乗ったおじいさんにいろいろ質問するも、結果分かったことはアグモンたちがさらに進化するための道具、『タグ』と『紋章』についてのことと、サーバ大陸にはデビモンよりも更に恐ろしい暗黒の力を操るデジモンがいると言うことだけだった。

 

 そんな中、俺もゲンナイさんに質問する。

 

「ゲンナイさん、俺は見ての通り選ばれし子供じゃない。俺がなぜこの世界に来てしまったのか、その原因は何かわかりますか?」

 

「う〜む。すまん、同じがなぜこの世界に来たのかについても何もわからんのだ。何せわしもお主の存在を今知ったばかりだからな」

 

「では、すみませんがゲンナイさんの方でも調べてもらえますか? もちろん、俺もこの世界を旅しながら原因究明をしていきますので」

 

「分かった。どちらにせよお主のことは選ばれし子供たちと同等以上に重要な問題だからな。お主のパソコンにも機能を追加しておく、メール機能じゃ。しばらくはわしからの一方的なメールを受信するしか出来んが、そこの子供が持っておるもう一つのパソコンとは常に連絡が取れるじゃろう。旅に役立てるがよい」

 

 パソコン? ああ、スマホのことか。と、ポケットからスマホを取り出してロックを解除する。すると一つ見慣れないアプリがインストールされていた。そのアプリをひらけば、それはゲンナイさんの言うとおりメールアプリで、現在は一件のみメールが届いていた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 どうやって俺のスマホにアプリを仕込んだのかわからないが、これは助かる。見たところ今も圏外の状態だが、使えるのだろうか? あとで光子郎君と確認してみよう。

 

その後、子供たちの質問が続いたが、電波の状態が悪くなったのか途中でゲンナイさんとの通信は途切れた。

 

 通信が強制終了し、改めて全員で今後どうするかという話をしていく。皆デビモンの強さを見ていたこともあって、サーバ大陸にいるというデビモン以上に強力な暗黒の力を使うデジモンと戦うということに対して消極的だった。

 

 だが、そんな中でも太一は元の世界に帰るためにはそれしか方法がないと、サーバ大陸に行くことを提案、それに続くようにタケルも皆が一緒ならきっと何とかなると太一に賛成した。

 

「俺も太一君に賛成かな。デビモン以上の暗黒の力を使うデジモンと戦うにせよ戦わないにせよ、サーバ大陸に渡った方が良いと思う」

 

「どうしてです? 僕たちはこのファイル島を全部回った。水のありかも食料が見つかる場所も把握している。ここは安全ですよ」

 

「丈君の言うことは分かるんだが、ファイル島を全部回ったならなおさらだよ。この島には元の世界に帰るためのヒントも何もないってことになる。帰りたいのならサーバ大陸に渡った方がまだ可能性があるだろう? それに、あのゲンナイさんもサーバ大陸の方に居るっぽいしね」

 

 タケルの言葉に続いて俺の話を聞いた皆は、改めて自分たちの目的、元の世界に帰るためにはサーバ大陸に行かなくてはならないと納得してくれた。

 

 そうと決まれば、今度はどうやってサーバ大陸に渡るのかという話になってくる。この島には立派な船なんてないし、海を渡れそうな仲間のデジモンもイッカクモンとバードラモン、カブテリモンといるが、どれだけ遠いかわからない現状ではデジモンたちに乗っていくというのも憚られる。それに、この人数を三体で運ぶのは結構厳しそうだし。

 

 話し合いの結果、皆で大きなイカダを作って海に出ることに決まった。サーバ大陸がある方向をレオモンに聞いて、海岸沿いでキャンプをしながら木を切る係と加工する係に分かれて作業を行う。その際、太一たちが出会ってきたファイル島のデジモンたちが集まってきて、いかだを作るのを手伝ってくれた。おかげで大幅な時間短縮ができて大いに助かった。

 

 明日はいよいよ船が完成する。その前夜、俺と光子郎は焚火の前に座ってメールのやり取りチェックをしていた。

 

「あっ、メール届きました」

 

「よし、ちゃんとメールの送受信は出来たね」

 

「はい。……あの、シンイチさん。ずっと気になっていたのですが、シンイチさんが持っているその機械は何なのでしょうか? デジヴァイス、というには僕らのと形が違いますし、気になってしまって」

 

「うん? これ? これはただのスマホだけど、光子郎君は持ってないのかい?」

 

「えっと、はい。スマホというんですね、僕は見たことも聞いたこともなかったです」

 

 スマホを見たことがないっていうのは現代人ではありえないだろう。ということは、このデジモンアドベンチャー世界は『デジモンアドベンチャー:』ではなく、『デジモンアドベンチャー』の世界ということか。

 

 デジモンアドベンチャーには2020年代にリメイクされたデジモンアドベンチャー:という作品があった。俺はどちらも見ていないので内容は知らないが、メインの登場人物が同じなのと、リメイクの方は現代の日本が舞台になっているというのは知っている。流石に2020年ともなればスマホを見たことがないということはないだろう。

 

 興味津々の光子郎にスマホを渡して使い方や機能を説明すると、彼はあっという間にそれを吸収して色々と操作しながら目を輝かせていた。この子はパソコンとかネットとかそっち系が好きなんだろう。

 

「これ凄いですよ! たくさんの機能が入っていて、まるでパソコンみたいです! しかも、僕の知っているどんなパソコンよりもずっと高性能だ!」

 

「すごいよね。こんな多機能で手のひらに収まるパソコンを作れるなんて。世の中には超天才っているもんだなって、改めて実感するよ」

 

「あの、シンイチさん。僕やっぱり信じられません。こんなものがあれば話題になっていないはずないのに、僕が今まで知らなかったなんて。もしかしてシンイチさんは僕たちとは別の世界から来たんじゃないですか?」

 

「うーん、まあその話は明日の出発の時にしようかな。今日はもう遅いし、ね?」

 

「気になりますが、仕方ないですね。分かりました。おやすみなさい」

 

「おやすみ光子郎君」

 

 光子郎君は今すぐ教えてもらえないことを少しだけ不満そうにしていたが、すぐに明日には教えてもらえるのだからと納得して皆のところに帰って行った。俺は光子郎君がさったあと、さて明日皆にどう説明しようかと考えながら、焚火の灯を消してその場に寝転ぶ。満天の星空は、今までに見たことがないほどに美しい。

 

 俺は2025年の人間だ。光子郎君がスマホを見たことがないとすると、果たして彼らの時代は西暦何年なのだろうか……

 

「ま、考えても仕方ないか」

 

 目をつぶれば疲れからかすぐに睡魔が襲ってくる。まどろみの中、ふと左右にひんやりと冷たさとふわふわの暖かさを感じたが、再び目を開けることはなかった。

 

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