手当を受けたのび太は少しの間、入院する事となった。幸いにも大きな怪我はなく、すぐに退院する事となったが、しばらくボロボロになった心身の為に休学する事となった。
一方、のび太に対して過度な暴力を行った不良学生達を先生は後日、教育委員会に知らせた。事の大きさを知った委員会は直ちに問題の男子中学の不良学生、三人を退学処分として警察へ引き渡された。
また同じ日に今回の一件でジャイアンとスネ夫は自らのび太に対していじめをしていた事を全て先生に告白した。
「いいかね!どんな理由であったとしても他人をいじめていい理由にはならん!改めて今まで自分自身が行って来た事を深く反省しなさい!でないと、あの不良学生達と同じ様になってしまうぞ!」
空き教室で先生から厳しく説教と指導を受けるジャイアンとスネ夫はしょんぼりした表情で頭を深々と下げた。
「「はい、本当にごめんなさい」」
するとそんな二人に向かって先生は明るい笑顔で励ます。
「でも、こうやって自ら先生に言って来た事はとても素晴らしい事だ。偉いぞ。のびや教室の皆と必ず仲直りしなさい」
先生からの励ましにジャイアンとスネ夫は自信を取り戻し、笑顔となって頷いた。
「「はい!先生!」」
それから教室に戻ったジャイアンとスネ夫は出木杉やしずか、そしてクラスメート達に今まで事を謝罪し、仲直りをした。
その後の二人は心を改めて、今までのび太に丸投げしていたクラスの当番を自主的に行い、時には当番の人を手伝う様になった。
⬛︎
自宅休養をするのび太。怪我も治り、すっかりいつもの元気を取り戻していた。
「よし!これで明日の用意は大丈夫と」
そう言って笑顔ののび太は机の上に置いたランドセルの口を閉めて机の傍に下げる。
すると一階からママの呼び声が聞こえて来た。
「のびちゃん!ポストを見て来て!ママ今、掃除で手が離せないから!」
「はーーーい!」
返事をしたのび太は部屋を出て、階段を降りる。
(ジャイアンとスネ夫を守る為に僕はボロボロになっちゃった。強くなりたいけど、正直、僕は暴力が嫌いだ。何とか皆に心配を掛けない方法はないかなぁーっ)
心の中でのび太は自身の弱さと強い良心に悔しさを感じていた。
サンダルを履き、玄関から外へ出たのび太は家門の近くにあるポストを開けて、中身を取り出す。
様々なチラシや広告などがある中で一枚のチラシにのび太の目が止まった。
「何これ?」
じっくりと見ると赤色の太字で暴力を振るわないっと書かれた宣伝にのび太の頭の上に閃きが浮かんだ。
「これだ!」
喜ぶのび太は早速、家に戻ってママに例のチラシを見せて相談をした。
⬛︎
翌日の朝。いつも通り学校へ登校したのび太は教室で早速、ジャイアンとスネ夫からの謝罪を受けていた。
「のび太、今まで本当にごめんなさい」
「のび太、ボクちゃんからも本当にごめんなさい」
二人からの謝罪にのび太は笑顔で首を横に振った。
「いいんだよ。僕は大丈夫だから」
のび太がそう言うとジャイアンとスネ夫は感激の涙を流して抱き付いた。
「おおぉーーーーーーーーっ!心の友よぉーーーーーーーーーーーーっ!」
「ありがとうのび太!ありがとう!」
それから授業も終わり、皆が帰り始めるとのび太は忘れ物がないかランドセルをチェックする。
するとそこに笑顔でジャイアン達が現れ、のび太に声を掛けた。
「よっ!のび太。今日、空き地で遊ばねぇーか?」
「うん!ボクちゃんとサッカーをしようのび太」
「今日、レッスンがないから私も一緒よ」
「僕も。のび太君はどうかな?楽しいよ」
ジャイアン、スネ夫、しずか、出木杉からの誘いに対してのび太はランドセルを背負って笑顔で首を横に振った。
「うんうん、今日はごめんね。これから大事な用があってね。今度また誘ってよ、それじゃ」
皆に手を振って教室を出たのび太。ジャイアン達は不思議そうな表情をしていた。
「どうしたんだアイツ?」
「さぁーーーっ」
ジャイアンとスネ夫が呟く。一方でのび太は一人、駆け足である場所へと向かった。
その後ののび太は時にはジャイアン達と遊ぶ事があるが、日数は少なく殆どは皆と遊べない事が多くなった。
とある日の空き地でのび太なしで集まったジャイアン達はこの頃ののび太の行動を気にしていた。
「うんーーーーーっのび太の奴、なんか変だな」
コンクリの筒に腰を下ろし、腕組みをして考えるジャイアンと同じくスネ夫、しずか、出木杉も同じ事を思っていた。
「近頃ののび太、雰囲気が違うよね。なんか男前と言うより、落ち着いているって言うか」
「そうね。今までののび太さんとは明らかに違うわ。何事にも動じない姿をしているって感じ」
「確かに。のび太君の顔立ちもいつも通りなんだけど、何処か只者じゃない所があるよ」
すると腰を下ろしていたジャイアンは飛び降りる様に筒から降りると決意した表情で皆に提案した。
「よーーーし!だったら後を付けてみようぜ」
突然のジャイアンからの尾行の提案に皆は驚く。
「ええぇっ⁉︎そんな事していいのジャイアン?」
スネ夫からの問い掛けにジャイアンは迷いなく答えた。
「だってこのまま気になっても仕方ないじゃん。だったら後を付けて確かめてみようぜぇ」
皆は少し悪い気もしたが、ジャイアンの言っている事も一理あった為、皆はジャイアンの提案に賛同した。
次の日、のび太はいつも通りに皆と別れ、ジャイアン達ものび太と別れた皆はその後に家に戻ってランドセルを置き、のび太に気付かれない様に尾行を始めた。
まずのび太は一旦、家に帰るとスポーツバックを肩に担いで再び家を出て駆け足で学校とは違う方向へと向かった。
「あんなバックを持って、のび太さん、これから何処行くのかしら?」
電柱の影で他の皆と一緒に見ているしずかが、そう言うと皆は同感する。
「さぁーーーっでも行ってみよう」
出木杉がそう言うと皆は頷き、のび太の後を付けた。そして徒歩で三分、のび太が行き着いたのは町の公民館であった。
「公民館?のび太のヤツ、一体ここに何の用があるんだ?」
不思議そうな表情で言うスネ夫。皆は早速、公民館へと入った。
土足からスリッパに履き替えたジャイアン達は公民館の廊下の奥へと向かった。
そして広い畳が敷かれた体育場へと着くと、そこでは白黒の道着服を着こなした小学生の男女達が気合の入った声と投げ合って体を畳に叩き付ける音が響き合っていた。
「体術⁉︎じゃあまさか、のび太さんは・・・っ‼︎」
しずかは驚きながら稽古をする男女の中で道着服を着こなしたのび太が真剣な表情と闘志溢れる眼差しで、明らかに自分より体格の大きい男子小学生を掴み、軽々と転ばして地面に捩じ伏せていた。
「嘘⁉︎だろぉ!」
「あれ!・・・のび太だよな?」
「信じられない!あののび太さんが⁉︎」
「嘘みたい⁉︎」
のび太の変わり様にジャイアン、スネ夫、しずか、出木杉が驚いているとのび太は皆が居る事に気付いて笑顔で駆け寄った。
「おぉーーーーーい!皆、どうしたの?こんな所で」
突然の事にジャイアン達は同様するが、ここは出木杉が落ち着いて訳を話した。
⬛︎
事情を知ったのび太は休憩時間にジャイアン達を稽古場に入れ、畳に座って訳を話した。
「ごめんね皆、黙っていて。実は僕、合気道を習っているんだ」
「どうして、習おうって思ったんだのび太?」
問い掛けるスネ夫にのび太は笑顔で答えた。
「うん、僕って喧嘩が弱いじゃん。弱いのは僕が暴力を嫌っているからなんだ。でもこの前の不良にコテンパンにされてパパやママ、それに皆を心配させちゃったから」
そしてのび太は自分の右の手の平を見て、ギュッと握って続けた。
「だからもう二度と心配させない為に暴力を振るわずに強くなろって決めて、青年合気道会に入ったんだ」
迷いのなく純粋に答えるのび太の満面の笑顔に思わずジャイアンは涙を流す。
「おぉほぉーーーーーーーーーっ‼︎俺は!もぉーーーーれつに感動した‼︎のび太!」
ジャイアンの左側に座るスネ夫も貰い泣きをする。
「僕も!何て男前な事をする姿に‼︎感動しちゃったよのび太!」
一方、ジャイアンとスネ夫と違って憧れる様な眼差しと笑顔でしずかと出木杉はのび太を褒めた。
「素敵だわのび太さん!私達の為に努力するなんて‼︎」
「うん!本当に心から尊敬するのび太君‼︎」
皆からの絶賛の言葉にのび太は後頭部を掻きながら頬を少し赤くして照れる。
「いやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っそうだ!ねぇ、せっかくだから皆も合気道を体験してみない」
笑顔で提案するのび太に対して皆は笑顔で頷く。
「おう!やってみようぜ」
「うんうん!ボクちゃんもやってみたぁーーーい」
「ええ、是非、やってみたいわ」
「僕も。凄く興味があるよ」
ジャイアン、スネ夫、しずか、出木杉からの前向きな返答にのび太は笑顔で頷き、立ち上がる。
「分かった。じゃちょっと待ってて」
そう言ってのび太は駆け足で道着服を着こなす男性師範の元に向かい、ジャイアン達の体験を相談した。
その後、渡された道着服に着替えたジャイアン達はのび太を相手に体験入会の模擬試合が始まった。
「それでは模擬試合を始める!体験者は誰かが一人、のび太五段から一本取ったら勝利とする!まずは誰から行くかね?」
試合場の真ん中で正座をする師範からの問い掛けに右端で正座をするスネ夫が自信満々に立ち上がる。
「まずは!ボクちゃんから‼︎」
立ち上がったスネ夫に対して左端で正座をするのび太も立ち上がって真ん中へと向かった。
そして二人は向かい合って一礼をし、お互いに構える。
「始め‼︎」
師範が大声で試合開始を告げるとスネ夫が先に仕掛けた。
「ボクちゃん!こう見えても少年ボクシングクラブのエースだもん!のび太!覚悟ぉーーーーーーーーーっ!」
自信満々の笑顔でスネ夫は一気に距離を詰めて、のび太に向かってストレートを放つ。
だがのび太は微動だにせず、素早い動きで向かって来るスネ夫の拳を掴むと綺麗なフォームで背負い投げをした。
投げられたスネ夫は突然の事に動揺しながら背中から畳に叩き付けられてしまった。それを見た師範は左を上げた。
「それまで!第一試合、勝者!野比 のび太。決め手、背負い投げ!」
見物する同じ会の小学生達は歓喜の声を上げた。続く第二試合はジャイアンが相手となった。
「ぐぬゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅっ‼何で投げる事が出来ねぇーんだ!」
青年柔道団に通うジャイアンですら顔を赤くして力一杯、のび太の胸元を掴み投げ様とするが、のび太は微動だにしなかった。
するとのび太はジャイアンの両手を掴み、自身の右足をジャイアンの左足に引っ掛け、素早く動かすとまるで氷で滑った様にジャイアンは大きく態勢を崩して畳に倒れた。
「それまで!第二試合、勝者!野比 のび太。決め手、足払い!」
続く第三試合も少年レスリングチームに通う出木杉からのタックルを腰に食らってものび太は微動だにしなかった。
「ふぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ‼︎だっ駄目だ!全然、動かない‼︎」
力一杯、のび太の後方に向かって押す出木杉であったが、のび太は出木杉の左手を掴むとグルッと彼の体を回転させ倒した。
⬛︎
ラスト、第四試合はしずかでのび太と中央で互いに一礼をするとしずかは空手の構えをし、のび太は合気道の構えをする。
負けたジャイアン、スネ夫、出木杉は少し驚きながら二人に試合を見守っていた。
「のび太の奴、本当に強くなってやがる。投げ様としても、まるで大きな岩を持ち上げ様とする感じだったぜ」
「ボクちゃんも。のび太はそんなに力を入れていないのに、まるで腕に錘が付いた様な感じがしたよ」
「僕も同じだよ。のび太君を力一杯、押したのにまるで太く根の張った大きな木を押している様だったよ」
三人がそう言っている一方で、のび太としずかは勝負師の様な笑顔で言い合っていた。
「しずかちゃんとは言え、手は抜かないよ!」
「私もよ、のび太さん。負けないから!」
そして師範は試合開始の合図を言った。
「始め!」
「やあぁーーーーーーーーっ!」
先に仕掛けたのはしずかであった。女子空手教室に通う彼女はのび太に向かって正拳突きを繰り出す。だがのび太は華麗なステップで後ろへと素早く下がった。
続いてしずかは回し蹴り、足払い、二段突き、踵落とし、膝蹴り、鎧通しを連続で繰り出すが、のび太はまるで微風に吹かれる草の様にヒラリヒラリと彼女の繰り出す技を避けた。
そしてのび太は一瞬の隙を見逃ず、素早くしずかの胸を掴み体全体で回して投げ倒した。
「よし!しずかちゃんにも勝った!・・・ん?」
のび太は不思議そうな表情で師範を含めたジャイアン達や門下生達が顔を赤くして驚く様な表情をしている一方で女子の門下生達は顔を赤くしながら軽蔑する様な眼差しをしていた。
「ねぇ、一体どうしたの・・・⁉︎‼︎!⁉︎⁈!」
のび太は皆の目線の先に目を運んで理解して顔を赤くして驚く。
何とのび太の投げ技で倒れ込んだしずかは着ていた上の道着が
「あ“あ“あ“あ“あ“ぁ“ぁ“ぁ“ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!⁉︎⁈‼︎!」
悲鳴を上げ、顔を真っ赤にしながら両手で胸を隠して勢いよく立ち上がったしずかはすかさず、のび太に向かって強烈なビンタをした。
思わぬハプニングに動揺していたのび太はしずかの強烈なビンタを受けて、倒れ込んでしまった。
「もぉーーーーーーーーーーっ‼︎のび太さんのエッチ!」
「「「偉いぞ!のび太‼︎」」」
「偉くない‼︎」
のび太に対して男として称賛するジャイアン、スネ夫、出木杉に対してしずかはツッコミをした。
とんだハプニングに幕を閉じた模擬試合であったが、それでもジャイアン、スネ夫、出木杉、しずかは確かに大きく成長しているのび太を感じる事が出来たのであった。