もしもサトシの精神性が無印1話からDP~XYだったら 作:夕虹▼Pokémon
『トキワシティの皆様。お仕事、ご苦労様でした。そろそろ、夕ご飯の時間です』
『尚、最近スリ、置き引き、ポケモン誘拐の被害が目立っておりますので、ご注意ください』
交番にて、ジュンサーはそう注意喚起の放送をしていた。
しかし窓越しに怪しげなポケモントレーナーを見つけ、放送をやめて外に出た。
「ふっ、ふっ」
サトシはピカチュウを抱えて走っていた。
この街にポケモンセンターがあるはず……急がなきゃ。
だが、彼が交番の横を走り過ぎようとした所、服の襟元が誰かに掴まれた。
「お待ちなさい。怪しい人は通しません」
サトシの服を掴んだ彼女は、きっぱりとそう伝える。
しかしこのサトシがそれだけで立ち止まる訳はない。
「怪しい人じゃないんですけど……とにかく、俺はポケモンセンターにこいつを連れていかなきゃいけないんです。だから通してください」
彼女——ジュンサーは、それを聞いてピカチュウの体を覗き込んだ。
「まあ、酷い怪我…確かに早く連れていかなきゃ。じゃあ身分証明を見せて」
サトシはそう言われて困ったような表情を見せた。
「身分証明って……? あの、俺マサラタウンのサトシです」サトシは口頭での身分証明を試みる。
「あら、今日マサラタウンから来たトレーナーは貴方で4人目ね」ジュンサーは少し驚いたように言った。
「4人目…シゲル達はもうここに……」
サトシが焦りと安心の混ざったような感情でいると、ジュンサーは諭すように言った。
「貴方、普通モンスターボールの中に入れておくポケモンをそんな風に抱いてる……。身分を証明するものが無ければ、あれに写ってる人たちみたいに貴方もポケモン泥棒だと思われてしまうのよ」
そう言いながらジュンサーはあるポスターを指差す。そこには、紫色で長い髪の女性と、青い長髪の男性が写っていた。目の辺りは陰になっていて見えない。そのせいか、“悪者”という印象が強くなっているように見えた。
「証明書と言われても、俺たちオニスズメにやられたばかりでボロボロで……」
サトシが狼狽えながらそう言っている間に、ジュンサーはサトシのポケットに突っ込まれた物をめざとく見つけた。
「その、ポケットに入ってるのって……?」
「ああ、これですか?」
サトシがポケットからソレを取り出すと、ジュンサーはソレをサトシの手から半ば奪うようにして取った。
「ポケモン図鑑ねっ!」
するとジュンサーは、ソレ――ポケモン図鑑を、「こうやって…」と呟きながら弄った。
それからサトシに図鑑を渡す。
「……?」サトシが何が起こっているのか分からずにいると、ポケモン図鑑が喋り始めた。
『このポケモン図鑑を、サトシ君に送る。目指せポケモントレーナー。尚、ポケモン図鑑盗難•紛失の際、再発行は出来ないので注意するように。マサラタウン、オーキド博士』
「へぇ、これで身分証明が出来るんだ……」
一方でピカチュウは、サトシの腕の中で大人しく眠っているようだ。
「これで良し。じゃ、急がなきゃね」ジュンサーは安心させるかのようにウインクした。
サトシはジュンサーが用意した白バイの、助手席のようなものに乗せてもらった。
「よーし、ぶっとばすわよー!」
そして白バイは、もうもうと煙を立てながら走って行く。
そんな中、その煙を吸い込んでむせている少女がいた。
「げほっごほっ……」
彼女は真っ黒焦げになった自転車を担いでいる。
そう、彼女は先程サトシを釣り上げたあの少女である。
なんなのよぉ今の、と少女は愚痴を漏らした。
「うぅ~許せん! 待てえぇー!!」
彼女は、自転車を担ぎながら走り去る白バイを追っていった。
そして指名手配書にはある異変が起こっていた。
異変と言っても、大したことはない。小さなフックで器用に剥がされたというだけである。
その指名手配書を剥がした張本人たちは、気球の上で悪態をついた。
紫の髪の女が言う。「これがアタシ達の手配写真」
青い髪の男が言う。「ろくに顔も分からない、酷い写真だ」
「所詮田舎の警察には、美しさが理解出来ないのね」
「許せない」
「許しちゃいけない」
「トキワシティの奴らに、私達の力を見せつけてやる」
物騒な話をしだした2人に釘を刺すように、喋る猫のようなポケモンがこう言った。
「見せつけるのは結構ニャーが、ニャー達の目的は珍しいポケモン。それを忘れるニャ」
「忘れるワケ」女の方がそう言うと、
「ないでしょ」男が後を引き継いだ。
やろうとしていることは悪いことだが、2人の息はピッタリのようだ。
「猫に小判、ポケモンも小判」
「「バンバンやるさ!」」
「ニャーーーオ」
一方サトシ達。
ジュンサーはバイクに跨ったまま、目の前の建物に向かって叫ぶ。「緊急事態、ご意見無用! 行きます!!」
「うわーーーーあ!?」と、サトシが声を上げるのも無理はない。何故ならジュンサーが、白バイに乗ったままポケモンセンターの中に入ったからだ。
そして、ピンクの髪を2つに結んだ女性の手前で停止した。
サトシはただただ驚くばかりだ。少し息をついてから、サトシはその女性を見てふと思い出した。
確かこの女の人はジョーイさんだ。ポケモンセンターにいつも居て、ポケモンたちを治療してくれる……らしい。
「事態を手短に」ジョーイは冷静に告げた。
「大怪我ポケモン、宅配」ジュンサーも真剣な表情で答えた。
この2人の間柄は、ただ同じ町に住む者同士という訳ではない。ちゃんとポケモンとトレーナーを守ろうと、意思疎通は出来ているようだ。
サトシはそれを感じながら一言——「お願いします!」
ピカチュウを抱いてそう言う彼に、ジョーイはそのポケモンの種類を確認した。
そしてキーボードを叩き、ストレッチャーを呼び寄せる。するとラッキーというポケモンがそれを運んできた。
「らっきーぃ」
サトシがピカチュウをストレッチャーに寝かせる。
「大丈夫よ。さ、緊急治療室へ。速やかに」
そう言ってジョーイは治療室へ入ろうとするが、サトシがそれを止めた。
「何か俺に出来ることは――」
「反省することね」彼女はきっぱりとその問いに返した。「一人前のポケモントレーナーになりたいなら、あんなに傷つくまで戦わせちゃダメ!」
「っ――でも」
「貴方に今できるのは……ポケモンの無事を祈ること」
ジョーイは厳しく言い放ってから、穏やかな表情で続けた。「治療は私に任せなさい」
「…はい」
サトシは項垂れた。ジョーイの勘違いもあるにはあるが、自分にも非があるのは否めない。
「じゃ、あとは宜しく」
「いつもご苦労様」
「お勤めだもん! っいっけなーい、お勤めの交番開けっ放しで来ちゃったぁ!」
「閉めるところは閉めなきゃ」
ジュンサーは何故か不自然に笑いながら交番へと帰っていった。ジョーイは治療室に近づいてこう言う。
「…では、治療室の扉も閉めます」
「…っぁ、」
サトシが扉に近づいて何か言おうとするが、扉はただ機械的に閉まるだけだった。
「…ピカチュウ……」
サトシはポケモンセンターの椅子に座る。
丁度サトシの頭上にあったポッポ時計が8時を告げた。
彼は下を見ていた。
俺のせいでピカチュウがあんなことに——。
俺が弱かったせいで——。
ふとサトシが顔を上げると、視界に電話が入った。
「電話か…」
『RingRingRing! RingRingRing! オヨビダヨ! オヨビダヨ!』
「はい、サトシの母のハナコです」
『ぁ、ママ?』
「まーーーサトシ! サトシなの!?」
そう、サトシがふと思いついて電話をかけたのは、自身の母親だった。
☎︎~~~~~☎︎
『今どこにいるの?』
「トキワシティの、ポケモンセンター」
『もうポケモンセンターまで行ったのね! パパの時は丸4日もかかったのよ。親の心、子知らず』
「親知らずはもう無いよ」
『朝晩歯を磨いたものねえ』
どこかトンチンカンな受け答えをしながら、2人の会話は続いてゆく。
『全く、トンビが鷹を産んだと言うか、ポッポがオニスズメを産んだと言うか』
「オニスズメの話はもうやめて……」サトシはげんなりとした。
あぁピカチュウ、大丈夫かな……。
『こうなったら前進あるのみ。パパやグランパを超えるポケモントレーナーになるのよ!』
うん、とサトシは頷く。
『歯は朝晩磨くのよ』
「うん」
『OK。じゃあ、おやすみ~』
「うん、おやすみ」
サトシは母親との通話を終えた。彼は電話を見ながらしばし固まる。
親の元を離れたら……こんな感じなんだな。今まで流してたところもあったけど、今日はなんか身に染みるなぁ……。
そしてサトシは立ち上がる。
ふと、壁に掛けられている壁画的なものが目に入る。
「——!」彼はハッとした。
あの時、空に虹が架かってて、そこをポケモンが通り過ぎてたよな……。
すると、突然電話が鳴り出した。
『RingRingRing! RingRingRing! オヨビダヨ! オヨビダヨ! オヨビダヨ!』
サトシはどこから電話がかかってきているのかと辺りを見回す。しかし、自分が背を向けていたモニターから音が出ていることに気づき、電話に出た。「も、もしもし」
あれ? 画面に何も出ないな……。
『サトシ、こっちじゃよ』
サトシは先ほどの壁画的なものを見た。そこには今朝会った、オーキド博士が姿を現していた。
『…オホン』
『たった今、君のお母さんから電話が来てな。トキワシティまで行ったと言っていたが、本当か?』
ああ、と彼は苦笑しながら博士にこう問う。「博士、今ここに電話してるんですよね? トキワシティに」
『おー、そうか。確かに君がここまで来ていなかったら、トキワシティの電話には出れないな』
サトシは満足げに頷いた。
『いやぁ、それにしてもよくやった。これはポケモントレーナーとしては小さな一歩だが、君にとっては大きな一歩だ。あまり当てにはしとらんかったが、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』オーキド博士はうんうんと頷く。『マサラタウンからトレーナーが一人でも多く出れば、儂にとってもめでたいこっちゃ。協力するぞ』
「んん……」それを聞いて、彼が微妙な心境になるのは仕方がないだろう。
『時に、モンスターボールで何匹捕まえたかな?』
突然の追及に、サトシは体がびくっと反応した。「えぇと……まだ一匹も……」
苦笑いするサトシ。
するとオーキド博士は分かりやすく残念がった。
『期待した儂が、馬鹿じゃった……』
サトシは暫し言葉を失った。
「ぁっでも、あれに似たのは見ました。虹の向こうに飛んでいったんです」
サトシはそう言って誤魔化そうとする。
オーキド博士は、サトシが指差した先の壁画――つまり、自分が出ているモニターの上を見てから、サトシに説明した。
取り敢えず、そこから見えるのはおかしくないかという疑問は掻き消そう。
『あれは、誰も見たことがない伝説のポケモン。君が会うには千年早い』
サトシはそれを聞いてムッとした。「でも、似てましたよ!」
『何が“似てた”じゃ!あっ、煮えすぎ、ラーメンが。では、またの連絡を待っておるぞ~』
そう言い添えて、オーキド博士は通話を切ってしまった。
「あっ…」
俺、ホントに見たんだけどなぁ……まあ良いか、
突然、そんな彼の耳に、誰かの声が聞こえてきた。
「…ん?」
「ゼェ、ゼェ……」
その声のした先では、自転車を担いだ彼女が息を切らしていた。
彼女は、前にも見たことがある人だった――そう、あの時サトシを釣り上げた女性だ。
「やっっぱりここにいたのね!」
やっぱりここにいたも何も、君に教えてもらったから来たんだ――いや、そんなことよりも他に言うべきことがある。そう思いながらサトシは叫んだ。
「――どうしたんだ、その自転車!」
そう、その担がれている自転車は、何故か真っ黒焦げだった。
何故か、と言っても分かっていないのはこの場ではサトシのみである。
「自転車ですって、貴方、これ自転車って言えるの!? まるで食べ残しの焼き魚みたいよ、焦げ焦げの骨だけじゃない!」少女は甲高い声で叫ぶ。「魚だったら化けて出るわよ!!」
「そ、そうか……ごめん」
サトシは、心当たりが無いが取り敢えず謝った。しかしその後でふと思い出した——あの時乗り捨てた場所でピカチュウが電撃放ってたよな……まさかそれで……。
サトシが記憶を呼び覚ましている間に、彼女は遂にバランスを崩し、転んでしまった。
「いたたた……」
「っ、大丈夫か……?」サトシは手を差し伸べる。
「触らないでよ!」しかしその手はパチンと払われてしまう。
いてぇ……。
「私の自転車、このままじゃあ済まさないんだから!!」
そりゃあ当然の発想である。
「な、なんとかするさ……弁償でも、何でも」
そう言って、サトシは目を逸らして別の方を見た。
「でも、今は……そんな時じゃないんだ」
しかし、“そんな時じゃない”状況を理解していない少女はキレた。
「自転車をボロボロにされて、こんな時に“そんな時”があるって言うのぉ!?」
だが、サトシは俯いて続ける。「俺のピカチュウが、…俺のピカチュウがさ……」
「っ……」
流石の少女も、ただならぬ雰囲気を感じた。「……」
サトシは治療室の方を心配そうに見やる。
「…そんなに悪いの?」
「…多分。俺、どうしたらいいのか……」
追い詰められた風にそう告げるサトシを見て、少女も眉を八の字にして心配そうにする。
その時。
[ウィーン]
治療室の扉が開いた。
2人はハッとして、出てきたジョーイさんと、ストレッチャーに寝かされたピカチュウの元に駆け寄った。
「ピカチュウ、大丈夫か!」
「危機は脱したわ。尤も、ポケモンセンターの医者看護婦に救えないポケモンがいてはならないけどね」そう言うジョーイはとても頼もしく見える。
ピカチュウの頭に電球が繋がっている。付けないといけない物なのだろうか。どちらにせよ医療には詳しくないので、サトシには分からない。
「さっすがポケモンセンター!」
「ありがとうございます、ジョーイさん」
「あとは、病室の方で回復を待つだけ。……そばについていてあげなさい」
はい、とサトシは返事をした。
それから彼は、申し訳なさそうに少女にこう言った。「悪い、こんな場合だから自転車のことはもう少し後で……」
「何言ってんのよそんな場合!?」
「…え?」
「…早く看病してあげて。早くったら、早く!」
「…ああ」サトシは頷いた。
その時だった。
[ウゥーウゥー]
突然サイレンが鳴り、スピーカーからジュンサーさんの声が流れてきた。『警報です、警報です。トキワシティに何者かが侵入した模様。ポケモン誘拐団の可能性があります』
「!?」
一方その頃、ポケモンセンターの真上では、ニャース型気球が姿を現していた。
紫の髪の女は不敵に呟いた。「ふっふっふ……警報はもう手遅れ」
青の髪の男は口を歪める。「しかし、ポケモン誘拐団とは失礼な。我らの名前はロケット団だ」
「その恐ろしさ、思い知らせてやるわ」
「にゃーお、上手くいったらボスは喜び庭駆け回り、猫はこたつで小判だニャ!」
「「言われなくても了解だ!!」」
そう言って2人は、建物に向かってモンスターボールを投げる。
「突撃ぃ、ドガース!」
「アーボ!」
そのボールは窓を割り、ポケモンセンターの中へと侵入する――。
「どがあぁ~」
「しゃー」
モンスターボールから出てきた内の一匹、ドガースは、早速そのごつい体から煙を吹き出す。
それを見て、サトシは思わずこう言った――「何なんだこれは!」
すると、いつの間にか室内に入ってきていた“二人”が喋り出す――。
「なんだかんだと聞かれたら」
「答えてあげるが世の情け」
「世界の破壊を防ぐため」
「世界の平和を守るため」
「愛と真実の悪を貫く」
「ラブリーチャーミーな敵役」
そして女はこう名乗る――「ムサシ!」
続いて男はこう名乗る――「コジロウ!」
「銀河を駆ける、ロケット団の2人には」
「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ」
「にゃーんてニャ!」それを猫のようなポケモンが締めた。
そんな彼らの口上にも怯まず、サトシはこう言い返した。
「それがどうしたって言うんだ!」
紫の髪の女、即ちムサシはただ呟く。「分かりの悪い奴だね」
聞かなきゃ分かんないだろっ、と反論するサトシに、答える人がいた。
「我らの狙いはポケモン」
クールにそう言い放つ青の髪の男、即ちコジロウだ。
サトシは彼を睨む。「…何が言いたいんだ。ピカチュウを狙ってるのか?」
「ピカチュウ?」ムサシはあくまでも余裕のポーズである。「我らの狙いはそんじょそこらの電気ネズミではない」
「とびっきり底抜けに珍しいポケモンだけだ」
そんな珍しいポケモンがここに居るっていうのか——彼がそう思うと同時に、ジョーイが割と久し振りにこう喋った。
「待って! そんなポケモン、このセンターには居ないわ」
だがムサシは、そんなこと関係ないとばかりに続ける。
「ここには病気や怪我をしたポケモンがいっぱい。それを根こそぎ頂いていけば、珍しいポケモンも居るかもしれない」
「…なんだって!」
サトシは歯を食いしばった。
その“賭け”に、関係のないポケモン達が巻き込まれなきゃいけないのかよ!「そんなことさせるか!」
「そうよ、そんなの理不尽だわ!」少女もサトシに賛同する。
「何が来ようと」
「怖くはない」
「ニャーも、猫に小判!」
「こっちの出番だ、ドガース!」コジロウは指を差した。
「どがー」ドガースが彼の指示で体から煙を出す。
サトシ達3人は、ピカチュウが横になったストレッチャーを押しながら走る。
アーボが、その後を追っていく。そしてモニターのコードを噛みちぎった。
ドガースも設備を破壊する――。
そしてサトシ、少女、ジョーイの3人とピカチュウは、モンスターボールが何十個も置いてある部屋に入り込む。
ドガースとアーボは、その部屋の自動ドアが閉まったので、中に人がいることに気づかず通り過ぎた。
安堵する3人だが、突然部屋の明かりが消えてしまったので驚く。
なにっ、と少女が怯えたように言った。
「電気をやられたのね」
ジョーイは真剣な表情でそう言い、しかし微笑んでこう続けた。「でも大丈夫よ。自家発電があるから」
その言葉の通り、明かりは再び室内を照らし始めた。
サトシと少女は、ガラス張りの部屋で走っているピカチュウを見ていた。
走ると言っても、ただ真っ直ぐに走っているのではない。
ピカチュウ達は、円くなっているベルトコンベアのような物の上を、円く走っていた。
「「「ぴかぴかちゅうちゅうぴかぴかちゅうちゅう」」」
その円の中心から細い柱のような棒が突き出していて、そこに彼らの頬から出た電気が集まる。と同時に、そこから電気がバチバチと音を立てながら上の円盤に吸い込まれていく。
「うわー、ピカチュウがいっぱーい」
その傍らで、疲れないのかな、と思うサトシだった。
「「「ぴかぴかちゅうちゅうぴかぴかちゅうちゅう」」」
一方で、ジョーイはモニターと向き合っていた。
『緊急事態発生。モンスターボール継承システムを、強制起動しました』
「今のうちに、モンスターボールを!」
ジョーイが何をしたのかは分からないが、室内のアームが動き、モンスターボールを掴む。そのアームは、漏斗のような形をした機械に、次々とボールを入れていく。
「こちらトキワシティポケモンセンター、緊急事態発生。モンスターボールを転送します!」
『こちらニビシティポケモンセンター。了解しました、モンスターボールを回収します!』
――しかし、扉の反対側から不穏な気配。
「――どがあぁ!」
煙が入ってきたかと思えば、直ぐにドガースが扉を割って突入してきた。
その衝動で、モンスターボールが棚から落下する。
「モンスターボールを!」
はい、と反射的に答えたサトシがしゃがみ込んでボールを拾う。
少女は彼にアドバイスをする。「それを投げて戦うのよ! 早く!」
「っよーし。いけっ、モンスターボール!!」彼はモンスターボールを投げた。
そのボールの中から、出てきたのは!?
「ぽぽー」
それはポッポだった。しかし、
「しゃーー」
「ぽぽぉ~」
睨みつけられて撤退した。
「んなもので勝てるか!」ムサシはニヤリと口角を上げた。
「っ……次行くぜ、いけぇっモンスターボール」
めげずにボールを投げるサトシ。だが、その中からポケモンが出てくることは無かった。
「あれれっ……」
「空っぽ投げてどうすんのよぉ!」
「空のモンスターボールも混ざってるわ」
「んなのありかよぉ……」気合いがからぶって肩を落とす彼だが、そのようなことをしている暇は無い。すぐにボールを拾う。「次っ、いけっモンスターボールッ」
そして出てきたのは――
「こらったー!」
やはりと言うべきか小さめの、鼠のようなポケモン――コラッタ、である。
これって、と呟くムサシの隣で、コジロウはズバリとそれを口にした。「雑魚だな」
猫ポケモンは頷いた。「だニャ!」
流石悪役と言うべきか、辛辣にそう吐く二人と一匹。
その言葉の通り、コラッタは睨みつけられて撤退した。
「あぁ……」
そして、落胆の色を隠せないサトシの前に、橙色の髪の少女が出てきた。
「もう、私が時間を稼ぐわ。その間にピカチュウと逃げて!」
正直女性を格好良く庇いたいところだったが、このままボール運の無い俺がモンスターボールを投げていても仕方がないか。だけど、本当にこの強気な少女に任せても良いのだろうか?
今日出会った人だから、分からない。そうサトシが判断しかねていると、少女は言葉を続けた。「悪役さん、私が相手をするわ」
対するムサシは、「ほぅら、なんだか訳わからないのが出てきたわ」と言った。やはり余裕そうだ。
そんな彼女らに、対する少女も余裕たっぷりにこう言い放った。
「私は世界の美少女、名はカスミ」
カスミ、とサトシは脳内で繰り返した。
そう言えば彼女の名前を知らなかったな。
「美少女、カスミ…」
「霞か雲か。やっぱり訳が分からない、自分で“美少女”なんて」
「ふっ…分からせてあげるわ」彼女、カスミはそう叫んでモンスターボールを投げた。「いけっ、マイ・ステディ!」
そして飛び出してきたのは、
「とさきーん」
魚の形をしたそのポケモンは、水ではなく地面の上でぴちぴちと跳ねる。「とさきーん、とさきんととさきんとさきーん」
「「「………」」」
ロケット団は思わず絶句した。
あのポケモンは…トサキント! なんで魚の形したポケモンをここで出すんだよ、とサトシは歯を食いしばる。
沈黙が訪れる。突然、カスミがトサキントをボールに戻した。
「戻れ、トサキント」
「とさきーんとさき……」トサキントは吸い込まれていく。
「…なんだ今のは」
「本当の雑魚だ」
呆れる彼らに対し、カスミは尚も余裕そうだ。
「ほんの見本よ。第一、魚が水のない所で戦えるわけないでしょ」
サトシはふとこんなことを思いついて、遊び心で口にしてみる。
「まっさか な」
「ボヤボヤしないで、早く逃げて!」
「だっ、だよな…」
残念、一蹴された。まあ仕方がないだろう。何しろこれは緊急事態なのだ。
サトシは走る。
ピカチュウを寝かせたストレッチャーを押しながら。
その後を追ってくるのはドガースとアーボだ。
しかし彼らがサトシの後を追うなら、カスミの相手は誰なのだろうか?
そんな中、サトシの押すストレッチャーが真っ黒焦げの自転車に引っかかってしまう。
サトシはバランスを崩し、尻餅をついた。
また、その衝撃でピカチュウが目を覚ました。「ぴかぴかぁ」
その彼の視線の先では――
「「「ぴかぴかちゅうちゅうぴかぴかちゅうちゅうぴかぴかちゅうちゅう……」」」
衝立のような壁を、ベルトコンベアの上を走っていたピカチュウ達が飛び越えてきていた。
その間にロケット団の3人組も集まる。呆けている彼らだが、そんな暇などなかった――
「「「ぴーかーちゅううううう」」」
ストレッチャーに可愛らしく積み重なったピカチュウ達が、ロケット団に電撃を放ったからだ。
「「「ぎゃあああああ」」」
割とすぐにその電撃は終わり、そしてサトシのピカチュウも沢山のピカチュウの中から姿を現した。「ぴかちゅう」
「ピカチュウ!」
ムサシとコジロウ、そしてアーボとドガースは痺れが体中を走っているので動けない。猫のようなポケモンは何故か躱していたようで、こう言い放った。
「どいつもこいつも、ならばニャーの出番だニャ。ネズミはニャーの好物ニャ!」
サトシはそれを聞いて思わず後ずさりする。しかしそんな彼に、ピカチュウが話しかけた。「ぴっか、ぴかぴか、ぴかぁ?」ただし、ピカチュウ語で。
「ぴかぴか…?」
けれどもサトシは何とか会話を成立させようと、ピカチュウの言葉を反復する。
「ぴっか」
「ぴか……もっとぴか?」
「ぴっか!」
「…もっとぴか……っそうだ!ピカチュウっと」
サトシは なにか おもいついたようだ… ▼
猫ポケモンは目を見開いた。「にゃ…にゃんだ?」
その視線の先で、サトシは――
何故か、黒焦げの自転車に跨っていた。
「ピカチュウがネズミだからって舐めるなよ! 俺とピカチュウのホントの力、見せてやる!」
いや、跨ると言うには語弊があるかもしれない。サトシは自転車を逆さまにして、前輪を握って腰を浮かせてペダルを漕いでいた。
これはかなり凄いバランス力ではないだろうか。
そしてヘッドライトは生きていたようで、それは光っている。
「…え」
「あら」
「にゃーす…」
ロケット団の彼らは顔を引き攣らせている。この後起こることがある程度予想できるのだろう。
そしてピカチュウが行動を起こす。
彼は、ヘッドライトの上(本来なら下)に乗った。
ヘッドライトの電気がピカチュウに吸い込まれていき――
「ぴかぴかぴか…ぴかちゅう!!」
電撃は放たれた。
「あー!」「にゃにゃにゃ」「たぁー」電撃は止まらない。
「あばばば」「にゃにゃ」「あ″ー」まだ止まらない。
「あー」「にゃー」「たー」
「あぁ」「にゃ」「たっ」
「あ」「に」「あ″」
「どがー」
「しゃー」
そして限界を超えて――
[――ドゴーーン]
ジュンサーがバイクに跨り走ってきたが、その時には既にポケモンセンターは爆発していた。
「あらー派手にやったわねぇ」呆れているのではなく、どちらかというと驚いていた。
彼女の視線の先では、その建物からもくもくと黒煙が上がっているので当然だ。しかしそれにしてはやけに冷静である。
「どうして猫がネズミに負けるのよ!」
今日は満月である。
だが、彼女らはそれを見る余裕がなさそうだ。
何故なら二人と一匹は、気球から垂らした紐に辛うじて掴まり、ぶら下がっていたからだ。
「あのピカチュウ、タダ者ではないニャ」彼はムサシの問いをスルーしてそう言った。
コジロウも、ボロボロの服に体を包みながら呟く。
「タダより高いものはない、もしかして」
ムサシが後を継ぐ。
「もしかすると」
猫ポケモンも続く。
「もしかするニャ」
――その時だった。
唐突に、気球の膨らんでいる部分――つまり球皮と呼ばれる部分――が、破れてしまったのだ。
「「「やなカンジー!!」」」
彼らがしがみついている気球は、風に乗ってどこかへ飛び去っていった。
どこかで鳥ポケモンがさえずっている。そう、この町に朝が訪れていた。
崩壊したポケモンセンターの元室内で、ジョーイはモニターを見ている。
そのモニターの中では、もう1人のジョーイがこんな報告をしていた。
『トキワシティのポケモンは、無事回収をしたわ』
「ありがとう、お姉さん」お礼をしてから、ジョーイは言葉を続ける。「二人とピカチュウは、ニビシティに向かったわ」
二人――きっと、サトシとカスミのことだろう。
そこまで微笑んでいたジョーイだが、突然顔色を曇らせた。
「でも、その手前にはトキワの森がある……」
トキワの森――危ない場所なのだろうか。いや、サトシは初心者トレーナーなので心配されるのは当たり前かもしれないが。
一方で、後ろにいたジュンサーは笑っている。
「大丈夫よ、あの子達ならトキワの森くらい」
楽勝だ、その言葉はそう後に続くようなニュアンスを秘めている。
ジョーイも元気付けられたようで、「そうね、きっとね!」と返した。
彼女らがそう言うのなら、きっと大丈夫なのだろう――
――そして、ここがトキワの森。
そこは木が鬱蒼と茂っていて、今は朝なのに暗い。この調子では夜も更に暗いだろう。
刹那、少女の悲鳴が森に響く。
「…どうしたんだ?」
カスミが後ろから肩に両手を置いてきたので、サトシはそう問う。
「そっ、そこに……」
カスミの足元にいるピカチュウが体を左に向けている。
サトシもつられて自身の左手側を見る。しかしそこにいたのは……
「なんだ、キャタピーかぁ」彼は安心したように言った。なにしろこんな雰囲気だ、カスミがお化けでも見たような態度を取るので少し不安になったのだろうが、サトシにとってむしポケモンは“怖い”と感じる対象にはならない。
「可愛いむしポケモンだぜ」
キャタピーは何も言わずサトシを見つめる。対するカスミは目をしっかりと瞑っている。
「ポケモンでも虫はイヤ、虫は無視、虫が好かないっ。あんたがなんとかしなさいよぉ」
そう言われてサトシは、しっかりとキャタピーと体を向き合わせた。カスミは目を開けながらゆっくりとその場を離れる。
「言われるまでもない」
ぴぃ、とピカチュウは呟く。
そして彼は空っぽのモンスターボールを手に持つ。「——俺がゲットしてやる!」
「いくぜキャタピー。ぇいっ!」
果たして、ゲット出来るのだろうか……?
次はサトシの初ポケモンゲット回ですね。