負けず嫌いのオレっ娘獣人少女が天才聖女に敗ける話 作:とろろろもち
合格発表の日になり、オレの泊まる宿の窓から1枚の手紙が羽ばたいて飛んできた。
なかなかにオシャレかつ高度な魔法を使っている。オレはこういうの結構好きだぞ
自身の合格は疑っていないが万が一ということもある。
オレはドキドキとしながら手紙を開けると、特待生枠での合格と書かれていた。
「っしゃオラー!!!やったーー!!」
今までの頑張りが結果として出てくるのは非常に嬉しい。
興奮しすぎてシャドーボクシングをシュシュシュッとしてしまった。我ながら良いキレだ、世界獲れるなこれは。
オレは筆記500、実技495の計995点だった。手紙には実技で担当の教員が煽ったことを謝罪する言葉と、その出来事を差し引いてなおオレが実技でブチギレたことを窘める旨が書かれていた。この5点はその事項で引かれたようだ。
あのときオレはあくまで冷静に試験内容に従ったのみであったと思うので、この内容は正真正銘お門違いと言うやつだろう。
まぁこの点数であれば首席合格は堅いのではないだろうか?
手紙には合格者と順位が書かれた表が載っていた。それを見てオレは愕然とした。
首席 ステラ・ルミナリス 筆記500 実技600 計1100点
100%あの実技でヤバいことをしてた女だ。
オレは次席だった。
家族に絶対に主席で合格すると息巻いていたにも関わらずこんな結果になってしまったことに不甲斐なさを感じる。
だいたい何だ実技600点って、その100点の加点はどこから湧いてきたんだ。キレそう
この世に新しく生を受けてから、オレはずっと負けても最後には勝ってきた。昔はボコボコにしてきたくそガキを返り討ちにするために魔力と筋力を鍛えて勝ち、学力でマウント取ってきた教会のカス野郎にも歴史書の読み込み勝負で勝ってきた。
ここ数年負けなしだったにも関わらずこの俺に黒星をつけてくるとは予想外だ。もう正直めちゃめちゃに悔しい、耳がぺたーんとなるのを自覚しながら涙目で宿の枕をボフボフ殴る。
おのれステラ・ルミナリス、次は絶対に勝つ!
枕を殴る手に勢い余って身体強化を発動させてしまい、枕が爆散する。宿屋のおかみさんにさんざん怒られてしまった。ちくしょー
枕を爆殺してから数日。入学式の日になった。
「………よし」
鏡の前で服を整える。
新品の学院指定の制服は、少しデカかったが問題なく着ることができた。オレの身長はこれから伸びる予定なのでこれでいいのだ。※伸びません
制服には獣人用でスカートに穴が空いているので快適だ。
アルセリア都立魔法学院の無駄にデカく仰々しい正門は、朝早くだというのに多くの人で賑わっていた。
オレは身体強化をフル活用し、大量の荷物と書類を抱えながら人をかき分け、寮に向かっていた。
宿にずっと住むより、学園の中にありなおかつ特待生のスーパーパワーによって無料となった寮の方がやはり魅力的なのである。
学院の寮はとにかくデカい、これは世界のあちこちの地方のおえらいさんが子供に箔をつけるために通わせるというパターンが多い為である。
レンガで組まれた外壁は角が削れており、所々にツタが這い、いくつか花を咲かせている。
大きな木製の扉を押し開けると、内側からふわりと温かい空気が流れてきた。
「ここか」
302号室/三人部屋
寮母さんに書類を渡し、指定された扉の前に立つと、すでに中から物音がしていた。
どうやらルームメイトは先に来ているらしい。
――どんなやつだ?
イキり貴族様とかだったらめんどくせぇな…
そんなことを考えながら、ノックする。
コンコン。
「はーい、どうぞ」
少し高めで、柔らかい声。
ドアを開けると、そこには荷解きをしていたボーイッシュな少女がいた。
淡い金髪に落ち着いた雰囲気で、学院の制服をきっちり着ている。真面目そー(小並感)
「わ、可愛い。キミもこの部屋?」
「ああ、オレはフェルだ。これからルームメイトとしてよろしくな。」
「ボクはノルン。こちらこそよろしくね、フェル」
そう言ってノルンはにこっと微笑んだ。眩しい
「えっと、ボクも今来たところでさ。ルームメイトがいる生活って初めてだから今ちょっと緊張してるんだ」
「安心しろ、オレも一緒だよ。」
「あと…フェルって、フェリックス・ノルシアさんであってる?次席で筆記満点の。」
荷物を置いていると、ノルンが何気なく聞いてきた。
「正門に得点表が張り付けられてたから見たよ。点数、目立ってたから」
「あー…まぁ、そうだな。」
もにょもにょと言いよどむオレに、ノルンは少しだけ言いづらそうに続ける。
「実技もすごかったって噂になってたよ?試験官を一瞬で半殺しにして脅した獣人の子がいるって。」
「盛られすぎだろ…オレのことをバカにしたから分からせただけだ。」
「はは……やっぱり」
なぜか納得したように笑われた。
その反応が少しだけ癪だ。
「ノルンは?」
「ボク? えっと……筆記は平均ぐらい、実技はフェルと比べるとアレだけど7割5分でボク的には良い方、かな」
雰囲気的に嘘は言ってなさそうだ。
何より魔力の流れがとても安定している。多分魔力操作が得意なんだろうなコイツ。
「ま、何はともあれこれからよろしくな、ノルン。」
「うん。フェル、仲良くしよう」
そういや3人部屋だからあと一人来るかもなのか、少し気になるな。
あらかた荷物を置き、ノルンと一緒に入学式へ向かう。
会場は学院中央広場だった。白い石畳が半円状に広がり、陽光が都市を覆う結界により屈折して薄く揺らめく虹のようになっていた。
この先の学園生活への期待に生徒たちが胸を膨らませるような空気の中、式は粛々と進んでいく。
やがて、司会役の教員が前に出る。
「――次に、首席入学者による挨拶」
その瞬間、周囲がわずかにざわめく。
壇上に上がったのは、宇宙を思わせる瞳を持つ白金の髪を持った女だった。
今代聖女 ステラ・ルミナリス
背筋を真っ直ぐに伸ばし、余計な動きは一切なく、表情は変わらない。
「私、ステラ・ルミナリスは、この魔法学院に入学できたことを光栄に思います——」
静かで澄んだ声だった
「……」
オレは腕を組み、無言で睨みつけていた。
(壁だ、コイツはオレが次に進むために乗り越えなければいけない壁だ)
「首席という肩書きは、誇示するためのものではありません。
私にとってそれは、最初に責任を負う立場である、という意味に過ぎません」
「私も、皆と同じ新入生です。共に学び、競い合い――」
淡々とステラは話を続けていく。
(競う、だと? 上等だ、ボコボコにしてやるよ…)
「……フェ、フェル……?」
隣から控えめな声が飛んでくる。ノルンだ。
横を見ると、彼女は完全にオロオロとしていた。
視線を忙しく俺とステラ交互に向けている。
「その……あの……」
「何だ?」
互いに小声で話す。
「い、いや…しっぽとか、全身の毛が逆立ってるし…殺気がすごいよ?」
「別に普通だ」
「でも…周りの人、ちょっと距離空けてるよ……」
「……」
壇上では、ステラが一礼し、スピーチを締めくくっていた。
「――以上です」
大きな拍手が湧き起こる。
入学式が終わり人がバラけていき、ステラが壇上から降りて歩いていく。
その隙をオレは逃さなかった。身体強化を使い障壁を足場に宙を走り、ステラの目の前に移動する。
「ステラ・ルミナリス」
ステラは表情を変えず、目線をこちらに向ける。
「…何?」
「決闘しろ」
周囲が一瞬で静まり返った。
ノルンが「えっ?」と声を出し、教員が数人天を仰ぐ。
「オレが勝ったら、オレが首席だ。負けたら何でも言うこと聞いてやるよ。時期は1週間後だ。」
オレは一歩も引かずに言い切った。
「まさか聖女サマともあろう方が逃げるわけねぇよな?」
オレの煽りに対して、周りの人間が戦々恐々としながらこちらの様子を見ていた。
数秒の沈黙。
「うーん…まぁ、いいよ。受けてあげる」
それだけ言って、彼女は去っていった。
周囲がいっそうざわめくと、急に袖をぐいっと引かれた。
「な…何してんのフェル!?」
見れば近くに来ていたノルンが青い顔でこちらを見ていた。
「宣戦布告は早いほうが良い、アイツをさっさと潰して学園生活を謳歌するのさ。」
「問題しかないよ……!死ぬほど目立っちゃってるよ!!」
オレは知らんぷりした。
そのままオレとノルンは寮へと歩く。
道中、ノルンは何度もため息をつき「喧嘩っ早すぎるでしょ…」などとブツブツ呟いていたが、オレはほとんど聞いていなかった。
合格発表を受けてから入学式までの数日、オレは今代聖女であるステラについて軽く情報収集をしていた。
聖女という称号は、医療に精通する者の多い教会組織でその代で最も優秀な人間に与えられる物で、名目上はトップの教皇に並ぶ力を持つようだ。
教会運営の孤児院出身であるステラは、10歳の時に欠損した四肢の再生と当時不治の病と言われていた病気の治療を成し遂げることで先代聖女の心を折り、最年少で聖女の称号を得たらしい。
何よりステラは天眼と呼ばれる特異体質を持っており、これは魔法の操作と演算に特化したものであるらしい。実技でのバカみたいな魔法お手玉の時もそれを使っていたのだろう。
パッと見では自己干渉型の魔法適性ではオレのほうが高そうだったので、この辺が狙い目か?
だが奴に勝つためには、魔法演算能力の差をどうするかという問題を解決することが必須だ。
どうしたものか…
どうやら考え事をしてるうちにいつの間にか寮の建物の前まで戻って来たようだ。
部屋の中からはごそごそと荷物を動かす音する。どうやら3人目も来ているらしい。
コンコンとノックを鳴らし、扉を開ける。
ベッドの前で、鞄を開き、淡々と荷解きをしている人物。制服の上着を丁寧に畳み、机の上に並べていく所作には無駄がない。
白金に近い髪
次の瞬間、その人物がこちらを振り向いた。声が出なかった。
「ええ!?あと一人のルームメイトってステラさんだったの!?」
相変わらず無表情なステラは、ぶすっとしたオレと狼狽するノルンを見て、ほんのわずかに眉を動かした。
「……あ、私に突っかかかって来た子だ。」
平然と言うと、ステラは目線を戻し荷解きを再開する。
ついさっき決闘を申し込んだ相手が目の前にいるとは思えない態度だ。気にもとめない振る舞いに妙に腹が立つ。
ノルンが恐る恐る名乗った。
「あ、あの……ボク、ノルンです。これからよろしくお願いします。」
「……ステラ・ルミナリス」
視線も向けず、名だけ返す。
「フェルだ」
「そう…よろしく」
こうして、奇妙な3人部屋での生活が始まった。
コイツはよ敗けへんかな…