負けず嫌いのオレっ娘獣人少女が天才聖女に敗ける話   作:とろろろもち

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ステラ対策をかんがえる

 

 

 朝の光がカーテン越しに部屋を満たし、チチチチチ…と小鳥がさえずる。起床時間を告げる学院の鐘はとっくの前に鳴り終わっている。

 

 にも関わらず

 

「フェル〜…いい加減起きないと不味いよ」

 

「………」

 

 フェルはベッドに潜り沈黙していた。うつ伏せで布団を頭までに被っており、耳は伏せ、尻尾は腹の下に回した完全な防御形態。

 

ノルンはベッドの脇にしゃがみこんで、丸まっているフェルを布団ごと揺する。

 

「フェル、朝だよ」

 

「…………夜だ……」

 

「夜じゃない」

 

 ノルンはこの粕猫を如何せん、と途方に暮れた。

 

 助けを求めるようにステラの方を見る。

 ステラは朝の準備を終えたようで白金の髪は整えられ、制服もきっちり着用済みでかばんの中身を確認していた。

 

 こちらを見るノルンの目線に気づいたステラは、その視線を丸まったフェルの方に一瞬だけ向けた。

 

「怠惰な猫…」

 

布団がぴくんと跳ねた。

 

「……っ」

 

 モゾッと布団の中で身じろぎが起きる。

 

「今のはだれだ…」

 

「ステラだよ」

 

「……」

 

 次の瞬間、フェルは勢いよく布団を跳ね飛ばして起き上がった。

 

起きてる!!オレ起きてる!!

 

「ついさっきまで寝てたよ…」

 

 寝癖だらけで寝ぼけた姿だが、ステラの視線を意識してか、耳はぴんと立っている。

 ステラは特に反応を示さず鞄を閉め、淡々と時計を見る。

 

 ここ数日の朝の様子だった。

 

 

 

 この学院の特待生はそこそこの特権をもっている。学費と学院付きの寮が無料で利用可能なこと、一部設備の優先的利用権、そして受講する授業を自由に決めることが出来るというものだ。(当然ステラもこれにあたる)

 

 その分何か成果を出さなければ権利が剥奪されるというリスクもあるが、一般生に比べて特待生は柔軟に何を学ぶか、学ばないかを選択できるのだ。

 

 そんなわけでオレは決闘までの1週間、興味のあった授業に出つつ学院の修練場に入り浸る生活をしていた。

 

 

「――であるから、この湧水器(アクア・フォンス)しかり、魔道具の本質は魔法を“再現性のある形”に落とし込んだものだ。」

 

 オレは机に頬杖をついてメガネ教員の講義を聞いていた。

 

 魔道具は嫌いじゃない。自らの生まれ持ったスペックにあまり関与されず、外付けで手札を増やすことのできる良いアプローチだ。

 オレはこれまで自らの技能を磨くことに注力していたため、この分野はとても新鮮だ。

 

 他の教室よりも少し雑然としている講義室で、オレは魔道具学の講義をノルンと受けていた。

 

 

 

「フェルのノートってすごく見やすくまとめられてるね。」

 

 休み時間、ステラ対策のための考えをノートにまとめていると、突然ノルンが言った。

 

「別にフツーだろ。」

 

「そんなことないよ、魔道具学の時だってボクは難しくて前で言っていることそのままに書いちゃってたのにフェルはほら、ちゃんと処理工程の流れに沿って書いてる。」

 

「でもステラはノートすら開いてなかったぞ、聞いてみたら紙媒体が無くても全部記憶して整理できるからいらないとか言ってたし…」

 

 自分の考えを他人に共有するときにしかそういう物は使わないらしい、ちょっと引いた。

 

「あはは……、ところでどう?何か対策とかは思いついた?」

 

「何個か考えたがあんまり順調じゃないな…、多分オレが身体強化と纏雷を使ったら機動力と瞬間火力はどうにかなると思うんだが、アレ持続可能時間が短いんだよ、強化が切れた瞬間ハチの巣にされる気がする……」

 

「ああ…あのビリビリしてものすごいスピードになるやつだね…」

 

 ノルンがここではないどこか遠くを見つめて言う、ここ数日練習台がてら修練場やら何やらを連れ回したのがよほど楽しかったのだろう。※軽くトラウマです

 

 いやーここ魔法学院の修練場は非常〜に良い。

 設備が豊富なことはもちろん、修練場の利用権を明け渡せボケ!と迫ってくる者や、オレの次席という立場を利用して箔をつけようとする血気盛んな生徒たちが訓練相手としてポコポコ大量に湧いてくる。オレの地元じゃこうはいかないだろう。(ノルンは死んだ、必要な犠牲だったのだ… ついでに教員達の胃も死んだ)

 魔法戦技部とかいう二年を何人か含んだ12人ほどの奴らが徒党を組んでやってきた時は、本当に良い修行になった。

 

 ノルンは風と火属性の適性が強く、魔法操作のスジがよかったのでいくつかテキトーにアドバイスをした結果、風で相手の機動力を削いでからの両属性を合わせた爆破魔法で相手を爆散させるという恐怖の戦法を確立していた。まぁオレには効かんが。

 

 ノルンは話を聞いたあとオレのノートを覗き込みながらしばらく考え、首を傾げた。

 

「でもさ、フェルが魔力切れで倒れるとこボクほとんど見たことないよ?」

 

「ああ。魔力自体は余ってる」

 

 オレは即答した。

 

「問題は頭だ。身体強化、思考加速、纏雷、障壁それに戦闘判断も加わる……全部並列で回してるせいで長時間使うと脳疲労がヤバい。」

 

 実際、限界手前まで行くと脳が沸騰しそうな感覚になる。(なお限界手前で止めることで脳が鍛えられている感があるので、フェルは積極的にこれを行うようにしていた。これがこの世界流の脳トレであるとコイツは考えている)

 

「そんだけ並列できるって時点でフェルのスペックだいぶおかしいけど……あれ、ステラは実習授業の時も入試の時もその辺、平気そうだったよね。」

 

「天眼だ。あいつは演算能力そのものが体質由来で別格だ。」

 

 思い出すだけで腹が立つ。あいつは複数属性の魔法を同時展開しても、眉一つ動かさない。

 

「じゃあフェルの問題は……魔力でも、筋力でもなくて」

 

「脳の処理限界だ」

 

「うーん…だったらさ」

 

 ノルンが、ふと思いついたように顔を上げる。

 

「回復魔法で脳を回復させ続ければいいんじゃないの?フェルって自己治癒に適性あったよね?」

 

「まぁそうだが」

 

「フェルの脳が疲労で焼き切れないように、脳そのものを治し続ければいいんじゃない?」

 

「待て、それだと治癒魔法も並列発動になる。余計に負荷が増えるだろ」

 

「フェルが演算すれば、だけどね」

 

 欠けていたピースが嵌まるようだった。

 

「……肩代わり、か?」

 

「うん。魔道具ってさ、魔法を“再現性のある形”に固定するものなんでしょ?」

 

 ノルンはまだ消されていない魔道具たちの構造図を指差し、静かに言った。

 

「回復魔法の制御を、全部魔道具に任せればいい。フェルは魔力を流しっぱなしにするだけ。」

 

「……なるほど」

 

 並列発動による脳疲労を回復魔法で維持。

 その演算そのものは外付けし、オレ自身は戦闘判断とその他魔法発動に集中する。

 

「これならフェルの負担があんまり変わらずに強化可能時間を延ばせるんじゃない?まぁ魔力消費量は多くなるだろうけど。」

 

オレは椅子に深く座り直した。

 

「ステラは、元からその領域にいる。オレは……そこへ無理やり到達する。」

 

「言っといてなんだけど、多分割と危険だよ?」

 

「そのくらいのリスク飲まなきゃあいつ倒すのは無理だろ。ありがとな、ノルン」

 

ノートに大きく書き込む

 

今後の方針:演算負荷の外部化+脳治癒の常時化 それに使用する魔道具の入手あるいは開発。

 

 

 

 魔具研究同好会の部室は、平常運転だった。

 机の上には作成途中の魔道具、床には失敗作が雑然と置かれ、壁際には用途不明の試作品と材料。

 

 部長のエルディスは椅子に座り、設計図とにらめっこをしていた。

 

「この構造、絶対もっと効率よくできるんだろけど、思いつかないなぁ…」

 

「先輩それ昨日も言ってたよ」

 

 一年の部員が気の抜けた返事を返す。何かと倫理観が無くなりがちな部員たちを制御するため部長に任命されたエルディスは、平和な午後を満喫していた。

 

 その日、魔具研究同好会の部室に現れた依頼人は、やけに行儀がよかった。

 

「失礼します。」

 

 扉を開けて入ってきたのは、黒い獣人の子だった。

 小柄で可愛らしい容姿をしているが、しっかりとした雰囲気で声の調子も落ち着いている。

 

「魔導具作成の依頼をお願いしたいのですが」

 

「依頼、っていうと?」

 

「個人用の魔導具です。材料費と工賃は払います。その他手伝える事があればそれも」

 

 その子はノートを開いて説明を始めた。

 

「現在、自分は戦闘時に4種の魔法の発動と、戦闘判断を並列で行っています。」

 

 ん??聞き間違いか?そんな量の並列発動は基本できないし、できたとしても死ぬ。それこそ噂に聞く天眼持ちの聖女なら可能かもしれないが…

 

「その量の並列発動は脳にかかる負荷が尋常でないと思うのだが」

 

「ええ。だから困っています」

 

 その子は真面目な顔で続けた。

 

「魔力は余っています。筋肉も問題ない。でも脳が先に焼き切れてしまう。」

 

「なので、脳を半自動で回復させ続ける魔導具が欲しいんです。」

 

「半自動?」

 

「回復魔法の演算と発動を魔導具側に任せて、自分は魔力を流すだけ、という形で」

 

 嫌な予感がした。

 

「…失礼、名前を伺ってもいいか?」

 

「?、1年のフェリックス・ノルシアです。」

 

(((こいつ、1年次席の雷獣だァ!)))

 魔具研の全員が気づいた

 曰く雷を纏って戦う獣人の女子生徒で、入試で試験官を半殺しにしたとか、修練場で数多の生徒を屠ったとか、聖女に喧嘩を売ったとかで手が付けられない。

 ついた異名が雷獣、入学してからほんの少ししか経っていないにも関わらず大量の噂が耳に入っている。

 

「……一応聞くが、用途は?」

 

 なるべく声を平静に保って尋ねる。

 

「ステラとの決闘ですね。」

 

 誰かが椅子から崩れ落ちた

 

「あの、それ失敗すると脳が壊れる可能性があるのだが…」

 

「一応思考加速の魔法を作った時に得た脳みそについてのノウハウはあります。神経伝達と処理速度を身体強化の派生で強引に引き上げるやつですね。」

 

 その瞬間、数日前の記憶が全員の脳裏に蘇った。学院から参考資料として回ってきた筆記試験の答案。

『思考加速魔法

 神経伝達速度の増幅および情報処理の効率化』

 

「……」

「……」

 誰も、すぐには言葉を発せなかった。

 

「……その、それはどうやって実証したんだ?」

 

 フェルは悪びれた様子もなく答える。

 

「最初は動物で安全域を確認しました」

(((まだセーフ)))

 

「次に自分で実装して、制御限界を測って」

(((ギリアウト)))

 

「最後に、そこら辺のくそガキで個人差を見ました」

(((アウトよりのアウトォ!)))

 

 倫理観ゆるキャラの三年が、好奇に目を輝かせ身を乗り出した。

 

「……ちなみに、その時のログって残ってる?」

 

「あります」

 

「マジで!?ちょっと後で見せて!!」

 

「見るな!!」

 

 常識人が即座に怒鳴る

 

 エルディスは悟った。

(コイツ断ったらたぶん自作する。しかも倫理をぶち抜いて…自由にさせたら確実に終わる)

 

「……条件付きだ。」

 

「?」

 

「監修はこちらがする。安全機構は必ず付ける。実験ログは全取得。そして暴走時は強制終了後、作成研究を凍結する。」

 

 フェルの耳が、ぴくりと動いた。

 

「それでいいです」

 

 こうして魔具研はフェルの襲来を収め、新しい依頼と心労を得た。

 

 

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