負けず嫌いのオレっ娘獣人少女が天才聖女に敗ける話 作:とろろろもち
——昏い、昏い海の中で揺蕩うように、沈んでいる。ぼんやりとあかくて宝石のような、いのちとも言うべきナニカが、オレという器からこぼれ落ちていくという感覚だけが冷たく感じられた。
熱も重さも色も失って、水に溶け出すように体の輪郭が曖昧になっていく——
ふっと、沈んでいく中でふわふわの毛布を掛けられたかのような感じがした。
どこか懐かしさも感じられる、ぽかぽかとしたそれに包まれて、オレはもう沈まなくなっていた。
(………、あったかい……)
冷たい闇の中で、その感覚だけが色を持ったようだった。
優しい熱を持つそれに身を委ね、オレはゆっくりと水面へと引き戻されていった——
……ぼんやりと、意識が戻る。
最初に感じたのは、酒精に似た
「……」
見知らぬ天井を見つめたまま、状況を理解できずに呆然とする。身体が妙に怠く、重い。なんだ?——
身体を起こそうとして、お腹がズキっと少し痛んだ。
「……っ!!」
その瞬間、記憶が一気に蘇る。
オレとは違う白く纏った雷、光の剣、切断、
「………」
——負けた。
その事実を認識すると、胸の奥がぎゅっと潰れるような感じがした。
「…くそぉ……」
声が、やたらと小さくなる。
悔しい。入念な準備をして、本気で、全力で挑んだのにも関わらず、届かなかった。 ——悔しい。
視界が、じわっと滲む。
「……っ」
その時、自分の中で何かが決壊した。鼻の奥がツンとして、喉が詰まる。
ダメだ泣くな、そう思って、必死にまばたきをして、歯を食いしばった。
「……グスっ…、うぅ……」
最悪だ。
オレは腕を目に押し付けて、息を殺すように泣いた。あふれて、止まらなくて、静かに泣き続けた。
——ふと、顔を覆う腕を見て、左腕があることに気付いた。
「……え?」
心臓が跳ねた
慌てて腕を持ち上げる。
焼いて止血をした部分が、うっすらと見える。肘が曲がる。 手首が回る。 感覚も、重さも、ある。
体を起こして、右足を見る。 膝も、足首も、つま先も――ある。
「……え、ぇ……?」
(…全部治ってる……)
その時、視界の端に、何かが映った。
「……?」
視線をずらす。
ベッドのすぐ横、椅子に腰掛けるようにして——
ステラが、寝ていた。
「……は?」
思わず、間の抜けた声が出る。
長い白金の髪が肩に流れ落ちている。
無防備のくせして綺麗な寝顔で、少し横向きでうつむくように、ただすぅすぅと静かに呼吸をしていた。
——あ。
そうか。
治療、してくれたんだ。
この学院で、四肢の切断を治すことのできる人物はそうそう居ない。
「…………」
なんだか胸の奥がさっきと違う感じで、ぎゅっとなった。
こいつ、オレに勝ったくせに。それなのに、なんでオレを治した挙句こんなとこで寝落ちしてんだ。
オレしばらく、少しモヤモヤしながらその寝顔をぼーっと見ていた。
すると。
「……、ん…」
小さく声を出して、ステラのまぶたがゆっくりと持ち上がる。
あたりを眺め、その目線がオレに止まり——
——気づいたときには、オレはベッドの上で押し倒されるように抱きしめられていた。
「!?!?!?」
スラッとした白い腕が背中にぎゅっと回され、思ったよりも強い力で引き寄せられる。小柄なオレと比較して発育が良く、頭一つ分ほどの差があるステラの体が押し付けられた。
「……よかったぁ…」
耳元で、日だまりをすくって注いだような声がした。
「」
心臓が跳ね上がった。
その声と様子がいつもの無関心な雰囲気とかけ離れていて、安心がそのまま滲み出たみたいな声で、
あまりにも予想外すぎて、オレは完全に思考停止した。
ステラはそのまま、しばらく離れなかった。
オレはひと言も発せず、自分の顔が熱くなるのを感じながら、ただ固まったまま抱きしめられる。
(あったかい…)
ステラが腕を解き、少しだけ体を離して、オレの顔を見た。
「……泣いてたの?」
「は!? な、泣いてねぇし!!」
耳をピンとさせて、即座に否定した。 声が裏返っていた気がするが気の所為だ。
「そう…?」
ステラはじっと俺の顔を、疑いの目線で見つめた。
その宇宙色の宝石のような目に、思わずふいっと顔を背ける。なんだかこの目で見られると、ヘンな感じがする…
オレはなんだかもう、悔しさと悲しさと温かさとかゴチャゴチャしたものが全部混ざって、頭がおかしくなりそうだった。
…でも、これだけは言わなくちゃダメだ
「……あのさ」
「?」
負けた相手に言うのはやっぱり抵抗があるが、我慢してできるだけ目をそらさずに、ぼそっと伝える。
「…治してくれて、ありがとな」
「……当然」
むふー、という感じのどこか自慢げな顔でそう言われた。やっぱりむかつく
「次は勝つからな!」
オレはふと我に返って言った。
「てか、お前勝ったのにこんなことしてていいのかよ、勝った方は堂々としてろって言うか…その…なんで抱きしめてんだよ」
もにょもにょと言い淀みながら言うと、少しして、ステラがポツリと言った。
「……決闘ルール覚えてる?」
「ん?」
「私が勝ったら何でも言うことを聞くって」
「…あ」
思わず固まる。
正直自分が勝つことを疑っていなかったので、忘れていた。
ステラがその双眸でオレを捕らえるようにして、言った。
「だから…もう一回抱きしめるね」
脳が、完全にフリーズした。その、どこか倒錯的なまでの美しさを孕んだ瞳から、目が離せない
「な……な、なにを言って…」
言葉が、うまく出てこない。心臓が暴れるのを感じる
ステラは、オレの背中に再び手を回し、さっきより優しくオレを抱きしめ直した。
「勝者の…命令だよ…」
明らかに決闘前と雰囲気の変わったステラに、オレは完全に思考停止したまま、ノルンが泣きながら部屋に乱入してくるまで抱きしめられ続けられた。
オレが寝ていたのは、ステラが聖女として働いている場所でもある、学院併設の治療院だったらしい。
目が覚めるまで約18時間ほど経っていたらしく、治療院の職員さん曰くステラの理外の回復魔法と、オレの肉体の類まれなる自然治癒能力による結果だそうで、常人なら死んでいるもしくは一生目が覚めない可能性も十分にあったらしい。四肢切断から一瞬で回復したことに、職員さんはちょっと引いていた
何はともあれ診療の結果、異常が何もないことを確認されたオレは、無事に退院することができた。はぴー
ちなみにオレのお気にの双剣は左手用のものは無事だったが(腕が無事でない為)、右手用のものは見事真っ二つに焼き切れており、チョーカーは熱暴走を起こして、作成して間もないにも関わらず逝ってしまっていた。
愛着のあった武器と、努力と金と時間の結晶ともいえるチョーカーを失った心の痛みにより、ちょっぴり泣いてしまった。
決闘の翌日、学院の空気が明らかに変わったように感じる。
正確に言うと、オレを見る目線に好奇と畏怖が混じっていた。
廊下を普通に歩いているだけで、ひそひそ声が周りから聞こえる。
「あれが雷獣…」「ちっちゃくてかわいい…」「てか手と足1個ずつ切られてなかったっけ?」「昨日すごかったな…」「なんで生きてんだ?」
ちっさい言うな、決闘は致死変換器あるから死ぬことないし…(死にかけてたくせによく言うなコイツ)
やり辛さを感じつつ思考する。ノルンが別の授業を受けに行っていることに考えが至り、ため息をつく。
そんな中。
「あ、あの…」
背後から控えめに話しかけられた。
「ん?」
振り返ると、上級生らしき見知らぬ獣人の男子生徒が立っていた。背が高く筋肉質で、いかにも戦闘科って感じの人だ。
…なんか緊張してる?
「その…昨日の決闘、すごかったです! 身体強化の強度も、そのほか魔法の応用発動も…なので、その…」
「もしよろしければ、今度、自主訓練に付き合ってもらえませんか!」
予想外すぎて固まった。
「まぁ、時間が合えば」
適当にそう返すと相手は喜色満面といった感じで
「あ、ありがとうございます!」
と頭を下げて、足早に去っていった。
「…なんだったんだ?」
ボソッとつぶやいたその時
「…フェル」
背後からいつもより低めで静かな声がした。振り返ってみると、案の定ステラだった。
「さっきの人だれ?」
なぜか知らんが、少し不機嫌に見える。
「知らない人だよ、なんか訓練を見てほしいとか言われたな。」
「断ったの?」
「いや、適当に時間が合えば〜って言ったな。」
「…断ればよかったのに」
なんだそれ、そう思いつつも適当な会話をしながら歩く。
どうやらお互い次の魔法薬学の授業を取っているようなので、空いている講義室に先に入って自習しておこうという運びになった。(真面目かい)
そのとき
「あの、すみません」
また別の生徒がおそるおそる近づいてきた。今度は同級生らしい女子生徒だ。
「なんだ?」
「フェルさん、その…決闘すごかったです。」
「……ありがと」
素直に返すと、彼女はほっとしたように笑った。
「それで、もし良ければ魔法の組み立て方と応用、今度教えてもらえませんか?」
「……まあ、いいけど」
その瞬間。ぐい、とオレの袖がステラに引かれた。
「?」
「…ダメ」
「ん?」
女子生徒が固まる。
「フェルは、忙しい」
「いや、そんなこと」
「ある」
「ねぇよ!」
「…今日の午後、一緒に戦闘訓練をする」
「いや、そんな予定——」
「これは勝者の命令」
「それ乱用するな!」
意味不明な言い合いを目の当たりにし、固まる女子生徒に向かって、ステラは言う。
「フェルは、私の——」
「!?」
「…対戦相手、だから」
「なんだよその言い方!」
すると女子生徒は一瞬驚いたような顔をして、
「あ…そ、そうなんですね!」
なぜか納得したように頷いたあと、ぺこっと礼儀正しく頭を下げ、少し興奮したような様子で離れて行った。なんだあれ
そして午後の戦闘訓練では、以前よりも圧倒的な魔法の引き出しの数を見せるステラにオレはボコボコにされ負けた。ノルンも参戦したが、そろってボコボコにされた。
魔法学院第二修練場には、新たな王が誕生した。
ちくしょーーー!!
ステラの戦闘能力紹介◀
全ての先天的形質を過去にする、魔力観測、操作に特化した特異形質、天眼を持つ。
人類最高峰の魔力量と、魔力の外部出力、全属性への適性を持つ。(実は自己干渉の適性はフェルのが上)
長距離と中距離での戦闘に非常に強い代わりに、近距離での戦闘と短期、長期戦双方に非常に強い。
メイン攻撃手段は光属性魔法の
制約と誓約(大嘘)によりアホみたいな弾速とホーミング性能を持つことの代償に、常軌を逸する強力な威力を持つ。本人曰く一番使い慣れているとのこと
搦手として地上戦の場合、土+水属性の泥魔法と闇属性魔法の引力による妨害をすることもある。地を歩く者は泥に倒れ、空を飛ぶ者は引力により同じく泥に倒れる。泥に触れると身動きが取れなくなり死ぬ。クソゲー化必至
火+風属性による火災旋風を発生させることができる。相手は死ぬ。ついでに身体強化とフェルの見様見真似纏雷ができる。
光+無属性の最難関派生属性である空間魔法を使える。座標指定の難易度がとんでもなく高いのが救い。立ち止まったらチョンパされて死ぬ。
総評:度し難