負けず嫌いのオレっ娘獣人少女が天才聖女に敗ける話   作:とろろろもち

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いつもよりちょっと多めです




撫でるなァ!

 

 

 決闘から数日、オレはステラとノルンと一緒に食堂でご飯を食べながらだべりつつ、壊れてしまったチョーカーを指先でいじりつつ眺めていた。

 

 作り直さないとだよなぁ…

 

 正直、補助演算装置なしでステラに戦闘面で勝つのは厳しいものがある。このチョーカーは決闘で限界を超えて稼働させてしまったため、熱暴走を起こしてダメになっていた。

 

 

 

 というわけで、魔具研。

 

「なんで付いてきたんだ…?」

 

「フェルを狙う悪い女の匂いがしたから」

 

 意味がわからん

 横に並んで歩いているステラは、いつも通り涼しい顔だ。ここで付いてくるなと言っても効果がないことは分かりきっているので、放置して歩く。ノルンは魔法戦技部へ向かったようだ。

 

 魔具研三年のロスカ先輩は机のうえで魔法回路を刻んでいた。

 オレをみるなり手を振ってくる。

 

「フェルちゃんとー、聖女さんじゃん、こんにちは。フェルちゃんチョーカーの性能どうだった?」

 

「あ〜その件の話なんですけど、決闘で壊れてしまって…申し訳ないんですがもう一度作り直してもらえませんかね? 使用感はめちゃめちゃ良かったです。」

 

「あーなるほどね、どんだけ負荷かけたんだって話だけどあの戦闘なら仕方ないか…素材は──」

 

といいかけた所で

 

「私が作る」

 

 空気がぴしりと固まった。

 

 気づけばステラはオレの一歩前に踏み出て、ロスカ先輩をじっと睨んでいた。ほんの少し眉が寄っている

 

「…ん?」

 

「いや、オレは別に──」

 

「だめ」

 

 即答だった。

 

 ロスカ先輩は数秒黙り、俺とステラを見て興味深そうに目を細めた。

 

「へぇ、ステラちゃんが?まぁそれはそれで面白そうだけど…作れるの?」

 

「資料貸して」

 

「いや、貸すっていってもこれ下手したら都市を挙げての機密情報──」

 

 ステラは恐ろしい速度で棚からチョーカーの設計資料と文献、数冊の分厚い魔法理論書を抜き取った。

 

「ちょっ!?何してんのさ!」 

 

「借りる」

 

「いや今の完全に強奪だよね!?」

 

 ロスカ先輩の叫びを無視し、ステラは急にオレの腕を引いた。

 

「フェル、帰るよ」

「え、ちょ、え?」

 

 引きずられる俺の背後で「ちゃんと返してよ〜!」という哀れなロスカ先輩の声が聞こえた。

 

 

 

 それから数日後、ステラは「ちょっと出かけてくる」と言ったきり丸三日戻ってきていない。心配だ

 

…それに、少し寂しい

 

 オレはこの期間中に入部した魔具研の机の上で、ひたすらに魔道具をいじりまくる。今ノルンは魔法戦技部で天下を取るために邁進しているので、この時間中は一人で暇だ。

 

 ノックの音がした。

 

「フェル」

 

「うわっ、びっくりした……ステラおかえり」

 

 扉を開けると、そこにはステラが立っていた。

 

 だが、その手にあるものを見た瞬間、言葉を失った。

 純白の素材で作られたチョーカーで、中央には金色に輝く魔結晶が埋め込まれている。以前のチョーカーと比較しても、圧倒的な存在感と異質さを感じる。

 

 目を凝らして見てみれば、魔結晶の中には魔力の流れが三次元的で、空間そのものに絡みつくような構造をしているのが感覚的に伝わってきた。

 

「なに、これ…」

 

「完成した」

 

「完成って…これ構造どうなってるの?」

 

 言葉を失っていると、背後から声が飛んできた。

 

「ちょっと待って!?それ、ちょっと見せて!!」

 

 振り返ると、あいも変わらずだらしない格好をしたロスカ先輩が、こちらへドタドタやって来るのが見えた。食い入るようにチョーカーを覗き込み、次の瞬間目が見開かれる。

 

「なにこれ!?三次元的に刻印がされてる! えちょ、これどうやって刻んだの? いや、そもそもこの素材は何? こんな書き込みに崩壊しないってなにこの素材!魔結晶?」

 

 食い気味どころか、詰め寄る勢いで質問を捲し立てる。

 ステラは距離をとって少しだけ嫌そうな顔を見せ、淡々と言った。

 

「中央の魔結晶は“竜の心臓”っていう素材で、私の私物。」

 

「「は?」」

 

「構造は、教皇に頼んで(脅して)神代の秘宝(アーティファクト)、魔法都市を覆う結界の発生装置のコアを見せてもらった」

 

「「は??」」

 

「それを観察して、構造を再現した」

 

「「は???」」

 

「……で、この三次元の刻印は?」

 

「私の普段の光線をすっごく細くしたのを重ねて操作して刻んだ」

 

神代の技術(ロストテクノロジー)を天眼による魔法操作でゴリ押し再現したってこと!?」

 

「がんばった」

 

 ステラはどこか誇らしげな顔だった。いや、怖いわ

 

 ロスカ先輩は情報過多で沈黙したあと、しばらくしてから再起動し、俺を見てゆっくりと言った。

 

「……フェルちゃん、これどう考えてもヤバいよ」

 

「いや、もう意味が分からないんですけど」

 

「フェル、行こう」

 

「いや、行くってどこに──」

 

 オレはステラによって再び腕を掴まれ、引きずられながら魔具研を後にした。

 

 

 数分後。

 

 気づけばオレは寮のドアを開けられ、ほぼ放り込まれる形で中にいた。

 

「ちょ、待っ──」

 

 言い切る前に、背中を押されてベッドに座らされる。

 ばふ、と柔らかい感触。

 

「……え?」

 

 顔を上げると、ステラがすぐ目の前に、オレを見下ろすように立っていた。

 

「つける」

 

「え、」

 

 ステラはその手にチョーカーを持って、じりじりと寄ってきた。自然と視線が合う。

 

──あ。

 その瞬間、胸の奥が変なふうに跳ねた。

 宇宙を思わせる目、いつもは無機質な感じなのに今日はそれが熱を持ったように見えて、真剣で、綺麗で、目を逸らしたくなるのに、釘付けになったように逸らせない。

 

「ちょ、待ってよ」

 

「うごかないで」

 

 有無を言わせない声に固まる。

 

 ステラはオレの顎を軽く持ち上げた。その触れ方がやけに丁寧で、優しくて、ぞくっとする。

 喉が、少しだけひとりでに鳴った。

 

「フェル」

 

「な、なに?」

 

「逃げないで」

 

 低くて静かな声だった。

 なのに、その一言で、身体が不思議と縫い止められたみたいに動かなくなる。

 

 心臓の音が、やけにうるさい。

 

 チョーカーの冷たい感触が、首に触れた。その感触がステラによってもたらされているということに、不思議と顔が熱くなる。

 ステラは柔らかく笑みを浮かべたまま、オレの目をずっと見つめたまま動かさない。それを見ていると、なんだか熱に浮かされたようにぼーっとしてしまう…

 

「ふふ…フェル、真っ赤になってる、かわいい…」

 

 その柔らかい声に理性が溶かされるようで、羞恥心が止め処なく溢れてくる。ステラの指が首の後ろで留め具を探る間、距離はほとんどゼロだった。

 熱い吐息がかかる。

 視線が絡む。

 逃げ場が、完全にない。

 

 なのに、

──嫌じゃない。

 

 それどころか、変に安心しきっている自分がいて、余計に混乱して、訳がわからなくなってしまう。

 

 留め具が、かちり、と音を立てた。

 その瞬間何故かゾクっとした感覚が首から全身に走る。

 

 ステラは、手を離さず、オレの喉元に触れたままゆっくりと言う。

 

「これで、フェルは私のもの」

 

「……は?」

 

「冗談」

 

「いや、今ので冗談とか言われても信用できねぇよ!?」

 

 そう言いながらも、オレは目を逸らせなかった。

 

「……ステラ」

 

「なに」

 

「……近い」

 

「必要距離」

 

「なんだよそれぇ…」

 

 言い返したはずなのに、声が微妙に裏返って、自分でびっくりした。

 ステラはチョーカーをつけたオレを見て嬉しそうに、口角を上げる。

 

「……かわいい」

 

 そう言ってステラはオレの頭に手を回し、耳をくすぐるように優しく撫でた。

 

「っ!?」

 

 ビクッと肩が跳ねる。

 ステラはオレが逃げるのを許さず、耳の付け根をその少し冷たい手で撫で続ける。

 やばい、ヘンな気分になってきた。ぞわっと背中に熱が走って、尻尾が勝手に揺れそうになるのを必死で抑える。

 

「なぁっ、なにして──」

 

「確認」

 

「なんのだよ!」

 

 耳の縁をなぞり、付け根を押さえ、指先で毛並みを整えるみたいに撫でてくる。

 耳をステラに撫でられるたび、撫でられたところから熱が伝播するようで、安心感と多幸感で頭の奥がじんわり熱くなって、思考が鈍る。

 

「ふぁ……」

 

 勝手に声が出た。

 ステラはスリスリとオレの耳を優しく撫で回す。

 次の瞬間、ステラのもう片方の手が、顎に触れた。

 

「……ふぇ?」

 

 顎の下をすくい上げられて、強制的に顔が上がる。

 耳を撫でる手がゆっくりになり、代わりに顎の下を手で優しく撫で続けられ、喉が勝手にゴロゴロと音を鳴らす。

 その目で見つめられながら撫でられると、ぞわっと背骨に電気みたいなのが走ってしまう。

 

 必死で顔を背けようとするけど、顎を支えられて逃げられない。耳まで真っ赤になってるのが自分でも分かる。

 

「……いい子」

 

 この日、オレはステラが満足するまで体を撫で回された。

 そして後日、ステラからもらったチョーカーが一生外れないものであると知り、オレは絶望した。

 

 

 

side:Stella

 

 私の故郷は魔物に滅ぼされた。

 

と聞かされている。

 

 その時の私はあまりにも幼すぎた。

 干上がった井戸の底で泣いているのを発見され生き残った私は、助けられたことも、その狼種の大群によって引き起こされた惨劇も、血の匂いも、両親の顔も死に様も何一つ覚えていない。

 

 だから私は「失う」ことを知らない。

 

 私には何もなかった。

 

 教会の孤児院に引き取られた私は、よく「おとなしい子」だと言われた。泣きもしなければ笑いもせず、何もすることなく生きていたからだと思う。欲しいものが、よく分からなかった

 

「おまえの目は不気味だ」

 

 孤児院の子どもたちはそう言った。深い闇のようで気味が悪い、覗かれているようで——怖い、そう言われて避けられた。当時は何故か分からなかったが、今思えば理解の及ばないものを恐れるのは当然だった。

 

 そして、私は天才だった。

 

 読み書きも、癒しも、浄化も、何の苦労をすることもなく習得した。

 

 私は「できない」ことがよくわからなかった。

 

 しばらくして、私の才能は教会の上層部に知られ、孤児院から引き離されるように神官になるための修行施設に移された。特に思うことは無かった

 

 孤児院も施設も、同じだった。どこに行っても私に並ぶ人はおらず、向けられる視線は恐ればかりで私は変わらず一人だった。

 

 教皇は私をよく気に掛けてくれた。

 彼は私を重用し、能力を評価し、期待をかけてくれた。

 食事は足りているか、寝床は寒くないか、修行が過度になっていないかなど、たくさんの気遣いをしてくれていた。

 

 けれど、彼は私を(ステラ)として見ていなかった。

 

 私は教会にとっての切り札であり、労働力であり、駒だった。

 

──まあ、そういうものだろう。

 

 私はそれを、特段つらいとは思わなかった。

 ただ機械的に与えられた課題をこなし、力を伸ばした。

 一年も経たずに、同年代どころか年上の神官たちさえも、私と渡り合える者は居なくなった。

 

 そして聖女になった。

 

 それは孤独というより、空虚だった。

 

 苦労の末に報われる。

 ぶつかれば壁があり、乗り越えれば景色が変わる。

──そういう物語は、私の人生には存在しなかった。

 

 私にとって人は、背景だった。

 景色の一部で、多少の個体差はあっても、特別視する理由がなかった。

 人の顔を覚えるのが苦手だった。

 

 最初から、ほとんどのものが手を伸ばす前に掌に落ちてきた。

 だから私は、世界に期待しなくなった。

 

 そのまま、私は魔法学院に送られた。

 目的は魔法学院卒業という実績と、貴族とのコネ、研鑽のため。教皇には出会いを大切にしろと言われたけど、よく分からなかった。

 

 

 入学試験では自分の試験官が倒れたりしていたが、特に何事もなく首席になった。新入生代表スピーチをしてほしいと言われたから、寮に荷物を動かすのを後回しにして適当にこなした。

 

 生徒からの視線は変わらずに畏怖の割合が多かったが、施設で向けられるものに比べれば、対抗心というものを少しは感じることができて少し新鮮だったと同時に、ここでも私は本当の意味でひとりぼっちなのだと感じた。

 

 傷ついたことも、なかった。

 だから私は、自分と並ぶものが、この世に存在しないという認識を、いつの間にか持つようになっていた。

 

 

決闘しろ

 

 スピーチを終え会場を去ろうとする私に、その獣人の子はまっすぐこちらを見て、そう言った。

 

 燃えるような、対抗心を漲らせた金色の目で、体毛は黒く、小柄で可愛らしい容姿だった。イカ耳というのだろうか、耳が横にピンと張っていた。

 

──珍しい

 

 それはこの人物に対しての感想ではなく、私が人に対して感想を抱いたという事実に対しての驚きだった。

 結果は分かりきっているのだから、ただただ面倒くさいだけだという考えももちろんあった。

 

 ただ、どうせ何も変わらないなら暇つぶしにでも受けてみようと思った。

 

 だから私は、軽く頷いた。

 その程度の出来事だった。

 

 その子と同じ寮に住むことになった。もう一人金髪の子がいたが、あまり印象に残らなかった。

 フェルというその獣人の子は、生活習慣があまり良くないらしく寝相が悪い上によく寝坊していた。

 このルームメイト達は他人を害するという思考を持たない人達のようで、少し騒がしかったけれど、寮での生活は概ね平和だった。

 

 

 

 遠巻きに眺める生徒たちのざわめきが風に流れる中、私はフェルと向かい合っていた。

 

 フェルは軽装で、蒼い双剣を装備していた。耳と尻尾が静かに揺れている。

 

(……早く終わらせよう)

 

 致命打は無効化される──つまり、安全な公開処刑になる。長く苦しませるよりは、すぐに決着を付けてあげる方が良いと思った。

 

 風が吹く。

 

 適当に障壁を展開しておき、使い慣れた光線で、絵を描くように空間を塗りつぶす。

 回避も、防御も許さない速度と密度で先制する。

──なのに。

 

 ギギィン!!

 

「……?」

 

 フェルは、とてつもない速度で障壁に切りかかっていた。

 

(今のを……抜けた?)

 

 見れば、障壁が半分程度まで貫通されている。

 あり得ない。

 

 天眼を一部解放し、観察する。フェルはその身に雷を纏い、光雨の中を駆けていた。障壁を局所展開して光線を防ぎ、あるいは流し、正面のものを双剣で切り裂き、隙間を縫うように進んでくる。

 障壁を足場にして加速を維持しながら、次々と弾幕を抜けてくる。

 

──不思議だ。

 そう思った私は、出力を上げた。

 光線の速度を上げ、サイズを拡張し、密度を倍増させる。これで終わりだろう、そう思ったのも束の間、フェルはさらに加速した。

 

 避ける。

 斬る。

 流す。

 踏み込む。

 その過程で、脇腹をかすめる一撃が入ったが、フェルは何の反応もせずに回避行動を続けた。

 

 私は、さらに弾幕を強化した。

 彼女はそれでも突破してきた。

 飛び回り、音を置き去りにして距離を詰めてくる。あまりの速さに視認が追いつかない!

 

 そして。

 

 バギン!

 

 多層障壁が、割れた。

 

「……!!」

 

 私は、明確な驚愕を覚えた。

 今まで、一度たりとも、誰にも抜かれることはなかった。

 

 咄嗟に回避行動を取る、剣閃は肩を掠めた。一瞬安堵した

 

──雷が走り、全身が痺れる。硬直(スタン)

 次の瞬間、脇腹に深い一撃が入った。

 

 鮮血が、溢れた。

 ……あ。

 

 

 《危険》→《排除》

 

 生存本能に突き動かされ、私は天眼の権能を解放した。

 世界の認識が、拡張される。

 魔力の流れ、運動予測、行動分岐。

 彼女の次の行動、さらにその次の次、未来が視界に映る。

 

 即座に回復魔法を発動、傷の消失を確認。

 後ずさる(フェル)に対し座標を指定、天眼による演算と観測を用いて、転移斬撃を放つ。

 空間が歪む、彼女の左腕が根元から消失した。

 

 さらに攻撃を重ねる。

 その足を止めるため、石畳の床を泥に変換、引力を床に向かって付与、天眼による行動予測を元にした光線の弾幕を展開。逃げ場を潰す飽和攻撃

 

 (フェル)は片腕を失い、傷を焼き、回避を続ける。

 障壁を足場にし、衝撃魔法で自分を吹き飛ばし、無理矢理に軌道を変え、死線を縫って前に出る。

 

 ……なぜ?

 理解できなかった

 彼女は、まだ、こちらを見ている。

 

──恐ろしい

 

 生まれて初めてそう感じた。

 さらに出力を上げる。

 

 彼女が近づいた時、私に向かって雷が迸った。

 

 二度目の硬直(スタン)

 魔法制御が一瞬乱れる、そしてその隙間を敵は強引に突破してきた。

 

 障壁が破られる、距離が、詰まる。

 

 金色の細くなった瞳孔で、私を見ている。

 視界の中心に、フェル()がいた。

 

 その表情は、怒りでも恐怖でもなく、ただ、必死で、まっすぐで、どこか楽しそうですらあった。

 

 …綺麗だと思った

 

 

 気づけば私は薄く白く雷を纏い、剣を生成していた。

 超高密度に収束された光魔法による実体化した刃と、雷による動作加速と身体強化。

 

 雷刃と交錯し、火花が散り、空気が爆ぜ、衝撃が空間を満たし──白い閃光が、奔流となって走る。

 

 右足が、切断された。

 バランスを崩しながらも、尻尾で姿勢を立て直そうとし、まだ、こちらを見ていた。

 

 生存本能に突き動かされた私は、衝撃魔法を放った。

 (フェル)の胴体を貫き、致死変換器(コンバータ)が発動する。

 

 吹き飛ばされた彼女は、薄めた目でこちらを見ていた。

 その目線に恐れは無かった。

 

 天眼が解除され、世界が元に戻った。

 

 

 

 私は、自分が何をしたかを理解した。

 

「……え?」

 

 フェルは血だらけで、地面に横たわっている。

 片腕がなく、片脚がなく、内臓は衝撃で損傷しており、今すぐにでも死んでしまいそうだ。

 

 私は、心臓が早鐘を打つのを感じた。

 ……なぜ?

 

 胸の奥が、ざわつく

 息が苦しい

 頭が、うまく動かない

 

 私は駆け出していた。

 フェルのそばに膝をつき、回復魔法を編む。

 

 手が微かに震えていた。

 ……何を、私は恐れている?

 

 

 フェルは力尽きたように目を閉じた。

 

 その瞬間、自分の中に今まで存在しなかった感情が生まれたのを感じた。

 

──欲しい

 

 この子が欲しい。失いたくない。

 

 私の世界を覆う殻は、一人の獣人によって破壊された。

 

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