俺の脳内選択肢が、呪術師としての尊厳を全力で破壊してくる   作:シモケンサンバ

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杉沢第三高校、始まりの百葉箱

月明かりすら届かない、杉沢第三高校の校舎内。 澱んだ空気には、吐き気を催すような呪いの残穢が充満していた。

 

「逃げろ! 虎杖!」

 

伏黒恵の悲痛な叫びが響く。彼の式神は善戦しているが、彼自身も含め満身創痍だった。目の前には、規格外の呪霊が肥大化した肉塊のような体を震わせ、圧倒的な質量で彼らに迫っていた。

 

その呪霊の手に握られているのは、特級呪物「両面宿儺の指」。

 

「こいつを食えば、呪力を得られるんだろ…!」

 

虎杖悠仁は、死地にありながらも一切の迷いがない、少年漫画の主人公すぎる熱い瞳で言い放った。彼は呪霊から奪い取った猛毒の指を、自身の口元へと運ぼうとする。

 

「自分が呪われれば、みんなを救える」――そんな自己犠牲の精神に満ちた、美しくも壮絶な決意の瞬間。

 

その時だった。

 

この絶望的な状況を、校舎の陰から息を潜めて見つめている、あまりに場違いな少年がいた。有沢だ。

 

彼は「現代最強の呪術師」五条悟によって、ピクニックにでも誘うかのような軽いノリでこの場に連れてこられた、ただの「見学者」である。

 

(やばい、やばいって! あいつ、あの見た目からして賞味期限が千年以上切れてそうなミイラの指を、本当に食う気か!? 腹壊すどころか、確実に死ぬぞ!? 誰か止めろよ、主に俺の隣にいたはずの白い目隠しの先生とかさぁ!!)

 

有沢は常識的な恐怖に震えていた。だが、彼の意思とは無関係に脳髄を直接大型トラックで轢き潰すような、凄まじい激痛が彼を襲った。

 

「ぐあっ……!?」

 

視界が歪む。現実の風景に、禍々しいフォントの文字列がオーバーレイされる。それは、彼にしか聞こえない、地獄の底から響くようなナレーションと共に現れた。

 

 

【選べ】

 

(今かよ!! よりによって、人が覚悟を決めて死の指を飲み込もうとしてる、このクソ熱いタイミングで出すのかよ!?)

 

① 虎杖悠仁の口に指を押し込み、優しく「あーん♡」と言わせる。

② 虎杖悠仁から指を奪い取り、全力で窓の外へ遠投(場外ホームラン)する。

 

 

(どっちも最悪だろバカ野郎!! ②を選んだら、指を失った呪霊がキレて俺を真っ先にミンチにするだろ! でも①は……①はもう、人としての、男としての何かが完全に終わるんだよ!!)

 

頭痛は秒単位で増していく。選ばなければ、脳が焼き切れて死ぬ。有沢に拒否権はない。 血の涙を流しながら、有沢は苦渋の決断を下した。

 

「く、くそっ……!」

 

有沢は血の涙を流しながら、①を脳内で選択した。 瞬間、彼の体はマリオネットのように何者かに操られ、常人離れした速度で飛び出した。

 

「え?」

 

虎杖が指を口に入れようとした、その刹那。 有沢は、特級呪霊すら反応できない超高速のステップで二人の間に割り込んだ。

 

彼は虎杖の腕をガシッと掴むと、そのまま奪い取った指を、驚きで開いたままの虎杖の口内と強引に押し込んだ。

 

そして、有沢の口が勝手に動く。

 

「――あーん♡」

 

静寂。

 

それは、凄まじい咆哮を上げていた特級呪霊すらも、「え、何これ、不審者?」と困惑して動きを止めてしまうほどの、絶対的な静寂だった。

 

伏黒は、重傷の痛みを忘れてポカンと口を開けた。虎杖は、口に異物を突っ込まれた驚きと、目前の男の奇行への困惑でフリーズした。

 

ゴクリ。

 

虎杖の喉が、反射的に指を嚥下した。

 

次の瞬間、虎杖の体に刻まれた紋様が浮かび上がり、爆発的な呪力が渦を巻いた。呪いの王、両面宿儺の受肉である。

 

「ケヒッ、アハハハハハ! 素晴らしい! 鏖殺(おうさつ)だ!」

 

月下に降り立った呪いの王は、自身の復活を祝うように高らかに笑い声を上げた。

 

最強の王としての威厳、恐怖、そして絶対的なカリスマ。……だが、その赤い瞳が、すぐ足元で賢者タイムのような虚無感に包まれながら項垂れている有沢を捉えた瞬間、王の顔がピキリと引き攣った。

 

「……おい。貴様、先ほど俺に何をした?」

 

宿儺の声音が、絶対零度まで冷え込んだ。千年の歴史の中で、これほど屈辱的な「食事」のさせられ方があっただろうか。「あーん」だと?

 

有沢は地面に額を擦り付け、もはや誰にも届かない叫びを心の中で爆発させていた。

 

(俺のせいじゃねええええええええ!! このバカみたいなシステムに文句を言ええええええ!!)

 

こうして、現代最強の呪いと、不運すぎる選択肢持ちの少年の、最悪な出会いの日が幕を開けた。

 

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