俺の脳内選択肢が、呪術師としての尊厳を全力で破壊してくる 作:シモケンサンバ
京都校との交流会当日。都立呪術高専の集合場所には、伏黒恵、釘崎野薔薇、そして二年生の真希、パンダ、棘の面々が揃っていた。
「……いつまでお通夜モードなんだよ、お前ら」 真希が呆れたように、未だに「死んだ仲間」を引きずって暗い顔をしている一年生コンビを見下ろす。
「別に……お通夜じゃねーし。……ただ、あのバカたちの顔を思い出してただけ」 釘崎が遠い目をしてそっぽを向いた、その時だった。
「おっまたせぇぇぇー! 皆、元気してたかな!?」 空気を切り裂くハイテンションと共に、最強の呪術師・五条悟が巨大な台車を引いて現れた。
その上には、仰々しくリボンで飾られた「成人男性二人がぎりぎり収まるサイズの巨大な箱」が載っている。
一方、その箱の内部。 有沢は、ゼロ距離で密着している虎杖の「うお、外の空気の振動が伝わってくる! ワクワクするな有沢!」という無邪気な熱気を浴びながら、自身の運命を呪っていた。
(もう嫌だ……。サプライズで登場? 虎杖は『うぇーい!』の一言でクラスの人気者に戻れるだろうけど、『社会的ストレスで死んだ』という診断書が公的に出された俺の立場はどうなるんだよ。ゾンビ枠か? 特級呪物(恥)としての再雇用か?)
「さぁ、死んだと思ってた皆に、最高のプレゼントだ! せーの……!」 五条が箱の蓋に手をかける。
パッカーーン!!
「うぇーい! 故人・虎杖悠仁でーす!!」 「……と、そのついでに蘇生した有沢です……」
元気よく飛び出した虎杖と、箱の隅で膝を抱えていた有沢。
しかし、感動の再会を味わう間もなく、正面から楽巌寺学長率いる、京都校の面々がやってきた。
「……なんだ、宿儺の器が生きていたのか」 冷徹な楽巌寺の言葉を合図に、京都校の生徒たちが冷ややかな視線を向ける。
その中には、美形だが毒気のある禪院真依、どこか抜けている三輪霞、そして小柄な西宮桃の姿もあった。
(やばい、初対面なのに空気が氷点下だ。ここで粗相をしたら、京都と東京の合同勢力に消される……!)
有沢が本能的に身を震わせた、その瞬間。脳髄を直接ボイルされるような衝撃と共に、逃れられぬ呪いが発動した。
【選べ】
① 禪院真依に向かって跪き、「その冷たい蔑みの目で、僕をブタと呼んで踏んでください!」と衆人環視の中で懇願する。
② 三輪霞の手を握りしめ、「君の使っているシャンプーの銘柄を教えてくれ。できればその残り香を500円(ワンコイン)で売ってくれないか?」とガチのトーンで交渉する。
(待て待て待て!! ①はダメだ、死ぬ! 目が笑ってないし、絶対にスカートの下に何かを隠してる!)
(……それに比べて②だ。あの青い髪の子……三輪さん……! 彼女はさっきから困惑してるだけで、殺気が一切ない。見るからに『押しに弱い善人』だ! 彼女なら、どれだけキモいことを言っても『えっ、あ、ええ……?』って戸惑うだけで、即死攻撃は飛んでこないはず……!!)
脳内に響く無慈悲なカウントダウン。 『選択終了まで残り5秒……4……3……』
(あああああ! もういい、死ぬなら三輪さんの優しさに抱かれて死ぬ!!……三輪さん、ごめん。君の優しさに甘えさせてもらうよ)
有沢は、「優しい三輪なら、これくらいの変態発言なら許してくれるよね」という最低の打算に基づき、②を選択した。
「……三輪さん」
三輪が困惑した表情を浮かべた瞬間、有沢の体が勝手に動いた。彼は雷鳴のような踏み込みで三輪の眼前に詰め寄ると、その両手をがっしりとホールドした。
「三輪さん……! 頼む、君の髪の匂いを……その芳醇な残り香を、500円(ワンコイン)で譲ってくれないか!? 毎日嗅がないと夜も眠れないんだ!!」
静寂。 先ほどまでの殺伐とした空気が、「純粋な恐怖」へと塗り替えられた。
(えっ、待って、私? 初対面でシャンプーの銘柄? しかもワンコインって絶妙に安いしリアル! お釣りが出ないように配慮されてる!? えっ、東京校の人って全員こうなの!?)
「えっ……あっ、えええ……!? 警察……誰か警察を……!!」 三輪は顔を真っ青にして後ずさりし、あまりの恐怖に抜刀しかける。
「ちょっとアンタ、何してんのよ!? 汚らわしいわね!!」 西宮が箒にまたがって上空へ避難し、真依はゴミを見るような目でリボルバーの引き金を絞りかけた。
「……すまない、俺が今ここでこいつを祓う。それが呪術師としての正解な気がする」 伏黒が十種影法術の構えを取り、釘崎は「生き返った瞬間にこれ? 控えめに言って処刑ね」と釘を構えた
狗巻が、即座に口元を隠して呟く。
「ツナマヨ(通報しよう)」
「ハハハ! 初対面から京都校のガードを完璧に崩したね!」 五条だけが腹を抱えて笑っている。
「五条先生、これマジで俺の意思じゃないんです……信じて……」
有沢は鼻血を出しながら、早くも二度目の死(精神的)を迎えようとしていた。
*
*
その後、釘崎の「呪いよりよっぽど不浄よ!」という罵声と共に放たれた蹴りと、真希の「不審者には教育だ」という一撃、そして京都校女子の合同掃討作戦により、有沢は文字通りズタボロにされた。
両校から徹底的な「物理的制裁」を受けた有沢は、全身に包帯を巻かれたミイラのような姿で東京校の作戦会議に参加していた。
「いいか。京都校の学長は保守派の老害だ。必ず悠仁を殺しに来る」 五条の言葉に、部屋の空気が一変する。
「……だろうな。……あと、さっきの件で京都校側の計画が少し変わったかもしれない」真希が額を押さえながらため息をつく。
「……どういうことだよ、真希さん」 「あいつら、悠仁を殺す前に『そこの変態(有沢)を視界から消す』ことを最優先事項にしたみたいだ。特に女子連中の殺意が尋常じゃない」
パンダが頷く。 「有沢、お前はある意味最強のデコイ(囮)だ。お前が近づくだけで、京都校の陣形は恐怖で崩壊する」
五条も賛同する。「というわけで、悠仁のボディガードは有沢に一任しまーす!」
「……は?」 有沢の口から、乾いた声が漏れた。
有沢の問いに、五条は親指を立てて爽やかに答えた。
「題して『社会的尊厳を犠牲にした絶対防御』だ! 京都校のエリート女子たちが、君という変態に触れたくない一心で術式を乱す……これ以上の策はないよ!」
「俺の人生、交流会が終わる頃には更地になってませんか……?」
こうして、虎杖悠仁の生存を賭けた交流会は、有沢という名の「歩く性犯罪予備軍」を最前線に配置したまま、最悪の幕を開けることとなったのである。